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託される者
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なぜこんな事になったのか。
けれど今更、後には引けなくて、声を高らかに宣言する。
「アンタとタイマンはるっすよ!!」
何でこんな事になったんだっけ……。
いつの間にか、向かい合わせに立っていて。
いつの間にか、舞台まで準備万端で。
いつの間にか、ちみっこたちはチケットまで売りさばく始末。
俺はといえば、ただ、不条理に対する怒りが腹の中に溜まっていった。
もうすでに、最初のきっかけなんて忘れてしまった。
けど、いつまで経ってもガキ扱いで、いつまでも下っ端扱い。
俺のことなんかどうでもいいみたいな感じで、そんなのって、ないだろ?
悔しくて、腹立たしくて。
いつまでもそんな風に考えちまう自分も嫌で。
分かっているから、余計に苛立って。
隊長や、特戦の連中や、あなたもっ……。
認めて欲しいだなんてのは、それこそガキみてぇだけど。
俺はもう、嫌なんだ。
だから今度ばかりは、誰であろうと譲れねぇ。
シンタローさん、いいや、シンタロー。あんたが相手だろうと。
どんなに倒されて、息が上がって、体が痛くても……。
負けたくなんかねぇッ。
「俺だってっ……!」
ここで負けたら、俺は一生、認められない気がして、ただ、ぶつかるようにして向かった。
勝てる見込みなんて、殆どないのかもしれないけど、どうしても――――。
半ば意地になってそう叫ぶと……。
……何でか、目の前の人は笑ってた。
弱い俺を笑うとか、そういうんじゃなくて。
穏やかに、満足げに。
何で、今笑ったんだろう。
入ってくる拳にも、蹴りにも、力は込められているのに。
俺を倒そうなんて気は、ないような……。
受け止めながら、不審に思う。
この人は……何をしようとしているんだろう?
何で、今笑ったんですか?
「……どうして……」
言いかけて、突然の足元が安定しない感覚に、よろけた。
リングの端々がボロボロと崩れていく。
あの河童! 適当な工事しやがって……!
やっぱり皿は割っておこうと思いながら、走り出す。
だけど意外に受けたダメージが大きくて。
ああ、間に合わないかもしれない。
そう思った瞬間に、何かを言う間もなく、頭を掴まれて、思いっきりぶん投げられた。
俺はトシさんに受け止められて。
でも、
あんたは……?
ベキッ、とやけに大きな音がして、彼の足元が歪んだ。
梯子が切れて、どっかの馬鹿河童のせいで、下は鍋に油がたぎっていて、ゆっくりとスローがかった映像のようなその中。
体が悲鳴をあげているのも無視して、受け止められた手から抜け出して、
その手を取っていた。
ギシリと、骨が軋む音と、鈍い痛みが体に走る。
肩が痛い。
腕が痛い。
手が痛い。
全身が痛い。
それでも、
それでも諦めたくなんかない。
「放せっつてんだ!!」
「嫌っ、……す!」
誰に言われたって、あんたに言われたって。
ここで放したら、今度は助けられないんだ……!
また、あんたが一人で落ちていくところなんて、俺に見せないで。
まるで、いなくなる「いつか」がやけに現実味を帯びたようで、怖くなる。
分かっていたつもり、ってのは、あくまでつもりでしかなかったのだと、思い知らされる。
こんなにもはっきりと。強く。
だからこの人は……、俺に……。
それなら、せめて、彼が安心して託せるように。
俺が、笑ってそれを受け入られるように。
えらく不器用な優しさを持ったこの人の為に――――。
今は笑って返そう。
だから、
もう、
俺は、
あなたの言うことなんか聞きません。
この手はぜってぇ、放したりなんかしない。
END
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PR
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しゃっくりの止め方
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「――――っく!」
「え?」
突然、室内に響いた謎の音に、リキッドは振り向いた。
音のした方では、昼食準備の途中だったのか、シンタローが包丁を置いて口元を抑えている。
「――――っく」
気分でも悪いのかと近づくと、またあの音。
「……シンタローさん?」
「何だ、っく、よ?」
やはり……。
音の正体は彼の喉だ。
引きつったような音が繰り返すたび、肩が上下する。
「水、飲みます?」
「…………」
その状態で言葉を喋るのが面倒なのか、シンタローは、小さな子供のように黙って頷いた。
コップに水を注ぎながらそれを見て、可愛いと思ってしまうあたり、リキッドの目にはかなりのフィルターがかかっている。
(こういうの何て言うんだっけ……『恋は盲目』?)
あっているような、間違っているような……。
「――――っく」
「大丈夫っスか?」
軽く背中を摩りながら、コップを渡す。
少し掠れた声で返事があったような気がしたが、喉からの音にかき消された。
いつまでも声を出せないのはごめんだ、と彼は渡した水を、鼻をつまんで一気に飲み干す。
……が。
「――――っく」
止まっていない。
今回、この方法は効かなかったようだ。
「えーと、あ。味噌の原料……」
「大豆。――――っく」
……もともと彼が言ってくれた方法なのだから、当たり前なのだけれど。
考えるまもなく、即座に答えられてしまっては、意味はない。
「止まんないっすね……。どうしましょうか……?」
「ああ? 放っときゃ、っく、いいだろ?」
シンタローは、何故か真剣な面持ちで考え込むリキッドを無視し、再び包丁を手にして、中断していた料理をはじめようとするが……。
「だめっスよ!」
リキッドに即座にその手を掴まれ、結局何も出来ないまま、また包丁を置くはめになった。
邪魔されたことに苛立ちを覚えつつ、ため息をつく。
「ぁんだよ?」
「だって、しゃっくりが100回続くと死んじゃうんっすよ?!」
――――ぶち。
何か切れた。
「馬鹿かお前は?!」
そんなものを信じてるのか! と言わんばかりにシンタローの拳がリキッドの頭に炸裂した。
「な、何するんっすか!!」
目の前に星をちらつかせながら口を尖らせる。
心配したのに(いつものことだが)理不尽だ! と。
「横隔膜の痙攣ごときで死んでたまるか!」
「そうなんっすか?!」
「知らねぇのか、よ! ……っく! かはっ、ごほっ……!」
しゃっくりをする間もなく、怒鳴り続けたために噎せたのか、涙目になって咳こむ。
「シ、シンタローさん?!」
「ったく……っく」
これだけ咳こんでも、喉がおさまることはない。
「……とりあえず、聞ける人には止め方聞いてみません?」
これ以上方法を思いつかないリキッドは、「ちょっと待ってて下さいね」と言い残し、止めるまもなく外に出て行った。
「……別にいいって、っく、言ってんのに」
何も聞いて回るようなことじゃないだろう。
確かに少々面倒ではあるが、彼の言うように死ぬというわけじゃない。
「まぁ、いいか。――――っく」
放っておいてもそのうち止まるのだし。
今はこの作りかけの昼食をどうにかしなくてはと、今度こそ邪魔される事なく、料理を再開した。
十分としない内に、リキッドは戻ってきた。
よほど急いだのか、大きく肩で息をしながら。
まさかまだ、くだらない迷信を信じているのかと、シンタローは訝しげな視線を向けたが、リキッドは気付いていない。
以下は彼の聞きこみ成果である。
証言1:侍。
「しゃっくりの止め方? んなもん息止めてりゃいいんじゃねぇか?」
証言2:炎使い。
「へぇ……砂糖水やらお湯を飲ませはるとええて言いますなぁ」
証言3:ナマモノニ匹。
「そりゃ、驚かせるにこしたことないわよー!」
「そうねぇ、驚いた時の顔っていうのもイイワー!」
「……何で、どんどん、っく、アテにならねぇヤツの意見に、っく、なってくんだ?」
頭を抱えたくなる。
内容はともかく、聞く人間(一部人外)くらい選んで欲しい。
「とりあえず、試してみます?」
「息止めんのも、っく、水飲むのもやったろ……」
驚かすにしたって、そうと知っている人間をどう驚かせるというのか。
「他には……ピーナッツバターを上唇に塗って、舌先でそれを少しずつ舐める。……とか、『レモン』と三回唱える。……とか、片手を上げながら、水を飲む。……とかですけど」
「っく……、絶対やらねぇ……」
胡散臭すぎる。
実行して止まらなかったら、ただの笑いものではないか。
そもそも、一体誰にそんな怪しい方法を聞いたのか。
「……あ。じゃあいっそ全部一度にやってみますか?」
「はぁ?」
これは名案、と言わんばかりの顔で古典的にも手を打ったリキッドに、シンタローは呆れ顔で返す。
一体何を言い出すのだこの男は。
ピーナッツバターを上唇に塗って、『レモン』と三回唱えた後に、片手を上げながら息を止め、砂糖水を飲んで驚け。
とでも言うのか。
アホらしい。
「お前なぁ……」
言いかけて顔を上げたシンタローの目に映ったのは、相手の目の青だけ。
それくらい、近くにあった顔。
突然のその行動に、反応が遅れた。
「っ?!」
相手のそれにより、塞がれた口。
そこから流れ込んできた甘い何かに、眉を寄せる。
――――ゴクン。
その正体がわかったのは、解放されてから。
どうやら砂糖水だったらしい。
拭った手から、甘い匂いがした。
「止まりました?」
「…………」
確かに驚かされた。
息も止まっていたし、砂糖水も飲んだ……ということになるのだろう。
事実、先程まであんなにうるさかった喉は、今はとても落ち着いている。
全部一度に……こういうことだったらしい。
しかし……。
「シンタローさん?」
少々顔を赤くしつつも、全く悪びれることなく聞いてくるリキッドに、固まっていたシンタローはわなわなと震え出し…
「っ~!! 何すんだこの馬鹿ヤンキーっ!!」
眼魔砲を炸裂させたことは、言うまでもない。
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隠せないもの
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神様、これは試練でしょうか?
それとも一生一度ぐらいのチャンスですか?
「えっと……」
「ぁんだよ」
「いえ……」
いつもの鋭い目つきに睨まれて何も言えなくなる。
「笑いたきゃ笑え」
そんなことを言うもんだから必死で首を横に振った。
俺だってまだ死にたくないですもん。
「あの……大丈夫、っスか?」
「そう見えんならな」
一応聞いてみたものの、とても大丈夫そうには見えなかった。
いつも綺麗な髪はぼさぼさで、ところどころ葉がついているし、肌には細かい切り傷が多い。
おまけに全身ずぶ濡れだ。
崖の上から落ちてこれなのだから、充分助かったと言えるだろ。
下に泉があったのが救いになったんだろうな。
けど、まあ、痛そうは痛そう。
「とりあえず……帰ります?」
本当はいつものごとく食料調達だったのだけれど……それどころじゃない。
「ああ?別に大したことねぇよ、このくらい」
あんな所から落ちるなんて体鈍ったかなー、とか言いながら水から上がろうとするシンタローさんの手を取る。
それは自然なことだったんだけど……。
手に触れるってのはかなり心臓に悪い。
この人、手とかまでしっかりしてて綺麗なんだ。
そのまま力を入れて引き上げると、小さくうめくような声がした。
「え?」
「っ……」
一瞬なんだか分からなかった。
でも辛そうな顔を見てやっと理解する。
どこか痛めた……?!
「痛いんっスか?!」
「何でもねぇよ」
いや、そんな辛そうな顔(一瞬だったけど)した後に言われても……説得力ないし。
この人嘘が下手だ。
ゆっくり歩き出そうとするその足が、片方だけとても不自然。
ああ、足捻ったんだ。
「捻ったんですね?」
「大したことねぇつったろ」
多分今のが精一杯の譲歩だったんだと思う。
否定しないだけまだマシなんだろうか? この強情俺様人間っ!
「……」
それならそれで、こっちにだって考えがある。
「待ってください!」
「!!」
肩に置いた手でそのまま彼の体を引きずり倒した。
やっちまった……。
だっていい方法思い浮かばなかったし、多少強引じゃなきゃ止まってくれないだろうから。
背中とか頭とか打ったかもしれないけど、それは後で謝るとして。
「っぅ……ぁにすんだ! この元ヤン!!」
「手当てぐらいさせてください!」
こうなったらもう半ばヤケで、強気に出てみる。
眼魔砲がきませんように、眼魔砲がきませんように……!!
俺がそんな風に考えていると、シンタローさんはしばらく黙っていたけど、やがて諦めたようにため息をついた。
「……ったく……、わぁったよ。勝手にしろ」
神様! 俺生きてていいんですね?!(錯乱)
眼魔砲は逃れたみたいだ。
生命って素晴らしい!
良かった良か……ん?
「…………」
「…………」
……あの……今の体勢って……。
「おい……。」
かなり、ヤバイんじゃないでしょうか……?
今更になって気付いたけど、仰向けになった彼の上に乗ってる状態……。
「リキッド……?」
うわっ! 名前なんて呼ばないで下さいよ!!
多分あるはずの理性がギリギリと音を立てている。
ヤバイ。
崩壊しないで俺の理性!
早くどかなければと思う反面、体が動かない。
ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ!
心臓が痛いくらいに良く動く。
顔とかすげぇ熱くて、見られんのが嫌で下を向いた。
こんな事言えない。
「どうした?」
そんなこと知る由もない俺の下にいるこの人は、何でか、いつもより優しい感じの声で語りかける。
おまけに「熱でもあるのかと」額なんか触ってくるもんだから……!!
この人はこっちの気持ちなんか知らない。
そう思ったら急に憎たらしくなる。
こんなにも焦がれているのに、本当に気付いていないんですか?
「あのっ……!」
「ぁん?」
口の中で小さく「すんません」と呟いて(多分聞こえなかったと思う)、彼に何かを言う暇なんて与えずにその口を塞いだ。
きっともう、理性なんかどこかに飛んでしまっていて。
「っ……ふっ……!」
口端から漏れた声。
絡めるように動かす舌から、ぎこちなく逃げるそれを追いかける。
「っう……」
少し暴れる彼は、たぶん捻った足を動かしてしまったのだろう、ビクリと震えた。
一度放すと、肩で息をしながら睨み付けられた。
こ、怖っ!
「てめっ……!」
手当てはどうしたと目線が言っている。
俺自身、折角許してくれたのに卑怯だと思うけど……。
でも、俺だって引けない。
もう行動に移してしまったんだから。
「すんません、でもっ……」
あなたが好きなんです。
そう言って、もう一度……。
他に何も考えられなくて。
「んっ……」
深く深く、重ねる。
愛しいこの人。
心地良い髪を梳いていた手を、ゆっくりと下へと移動させる。
濡れた肌が冷たい。
いや、ホント、すんません。
俺、かなりアナタに甘えてます。
けど……。
ああ。俺もう、本当に、絶対。
隠したりなんか出来っこない。
END
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後書き
その腕、その手、その指、熱をもった全てが愛おしい。
脱兎。
「ギリギリだぞ!」と中国人師匠に言われそうな感じで。
えっと、『愛しき素直さ』の前の話のはずだったもの、です。
あまりの恥ずかしさに散々隠しページにしようかと思い悩みましたが……。
結局出したんですね……。(遠い目)
それにしてもヘタレじゃないリキッドなんて別人だ!!(酷!)
2004(May)
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0524
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「「シンタローさーんっ」」
「よぉ、エグチくん、ナカムラくん」
訪ねてきた胸キュンアニマル達に、穏やかに微笑むシンタローさんは、あんまり直視できない。
ものすごい俺の心臓に悪いから。
この組み合わせはヤバイ。ホントに。
「お誕生日だって聞いて、お祝いにきたのー」
「きたのー」
「そっか、ありがとな」
っ……! 可愛すぎるっ……! どっちがとは言わないけどっ……!
言わなくても分かるだろ?! この状況を前にすれば!
二匹を撫でながらお礼を言って、見送る姿。
ああ、和むよなぁ……。
って、そうじゃない!
和んでる場合じゃない!
俺だって祝いたい気持ちは同じ。
「おめでとう」の一言くらい、五秒足らずで済むのだろうけど、変に意識しちまって、言い出せない。
落ち着け俺。たった一言じゃないか!
……良し、言う。
言うぞー。
「シン……」
「シンタローさぁ~ん!」
「私たちの愛を受け止めてぇ~!!」
……いや、いつかはくると思ってたけどさ、 なんてタイミングの悪いナマモノ達なんでしょうねっ……?!
「眼魔砲」
さっきとは打って変わって、冷酷にナマモノどもを一蹴する。
うわ、黒焦げ……惨い。
まあでも、ゾンビの如く不死身に甦る生命力なのであんまり心配はしてない。
ったく、また言えなかった。
今日に限って……いや、今日だからこそ、この家には来客が多い。
「いっそどっかで大々的にやったほうが良かったんじゃねぇか? パプワ?」
俺がそう言うと、パプワはいつものように扇子を広げながら答えた。
「みんなそれほど暇じゃないんだぞ。状況を考えろ状況を」
確かに、今は島ごと空間移動したりとか、色々忙しいけどさ。
じゃあこの来客数はなんだよ……。
多すぎなんだよ。
……たぶん、パプワも彼と共に過ごしたいと思ってるんだろう。
素直じゃないよなー、ホント。
しかし、
「シンタローさん~」
この状況じゃ、
「シンタローさんっ!」
いつまで経っても言えそうにない。
流石、愛されてます。
「シンタローはぁ~んっ!」
「眼魔砲」
……余計なのにも愛されてます。
今日はまた一段とよく飛んだな……。
花、添えとくか。
「ったく、余計なもんまで来んなっての」
余計って、シンタローさんにまで……同情するぜ、祇園仮面。
けど、何にしろ後回し。今はそれどころじゃない。
「あ、あのっ……!」
「あん?」
やっと人口密度が減って、いつもの人数になったところで、やっと……。
今度こそ言う。言うんだ俺っ!
「よぉ、邪魔するぜ」
……今度はどなたデスカ?
何なんだこのタイミングの悪さ!
俺に恨みでもあるのか? えぇ?!
「何であんたたちまで来るんだよ……」
シンタローさんが訝しげな視線を向けたその先には、心戦組の面々。
……はっ?! ウマ子はっ……?!
……どうやらいないらしい。
よかった! 生きてるって素晴らしいっ!
「んなことぁ、こいつに聞いてくれ」
煙草をふかしながらしれっと言うトシさんは、近藤さんの方を指差した。
っていうかアンタら来るなら来るで、もっとタイミング見てくれませんか?
「いや、島では一応ご近所さんな訳ですし、何もないのもどうかと思いまして」
「……そう言うからには、手ぶらってこたぁないんだろうな?」
……俺様モード入ってます。
もともと組織自体が敵対してるようなもんだから、仕方ないのかもしれないけど。
でも、どっちかというと天然で。
「えぇ、今ウマ子が、祝いにと熊を獲りに……」
「「いりません。」」
そんな危険物は。
う……前に見たトラウマが……!
「ホント、祝う気持ちがあるならその分現ナマよこせよって感じですよね」
……こっちはこっちで怖いし。
「ソージ! お前はまたそういう……!」
「三段突きみね打ち」
……床、掃除しないとなぁ……。
「ったく、何しに来たんだよ」
「そりゃこっちのセリフだ」
熊は要らんからとっとと帰れと言わんばかりに、トシさんを睨みつける。
俺様継続中。
「俺は別に、商売敵の頭の生まれた日なんて祝う気ねぇよ」
トシさん、じゃあホント何しに来たんっスか……。
シンタローさんの機嫌損ねるくらいなら帰って欲しいんですけど。
「おいリキッド」
「え、はい?」
何でそこでいきなり俺に振る?!
とか思ってたら、何か投げてよこされた。
「どーせ飲まねぇからな。お前にやるぜ。 同居人とでも飲みな」
手の中のものを確認する。
言った言葉から大体予想は出来たけど。
……酒。
和風の。つまり日本酒ってやつ。
わざわざ俺使って関節的に渡さなくても……。
自分で渡せばいいのに、この人も大概素直じゃない。
「それじゃあな」
用向きもすんだからと言って、近藤さんを引きずって帰っていく。
……局長だよね? 一番偉いんだよね? あの人?
未だ流血したまま引きずられていく姿からは、全く想像できないけど。
「何がしたかったんだ、あいつ等は……」
大きく息をついて、シンタローさんがドアを閉める。
ちなみに熊は念を押してお断りした。
この大事な日にウマ子に構ってる暇はないんだっての。
つーか今度こそ言えるだろ?
もういい加減次があったら泣くぞ俺は?!
「シ……」
「だぁー、何か疲れたなー今日」
……今度は当人に言葉を遮られました……。
……もぉ泣いて、いいっスか?
って言うか実は故意ですか?!
まさかこの間頬にしたことを、まだ怒ってる……ってことはないと思うけど……。
たぶん……。
「贅沢者め。みんなお前に会いにきてたんだぞ」
俺が言うより先に、パプワが答えた。
その「みんな」のおかげで俺はまだ言えてないんっスけどね!
「ん……そっか」
あ……。
今、なんか……。
呟いたその声が、すげぇ嬉しそうだった。
「何っつーか……こういう風に会いに来られるのも、嬉しいもんだな」
本当に、少し照れくさそうに、ふわって感じで笑って。
その顔は、やっぱ心臓に悪い。
鼓動が痛いくらいに早く打つ。
「みんなシンタローが好きだからな」
「わぅ~!」
パプワが言った言葉。
確かに、みんな彼が大好きで、彼も嬉しそうにそれを受け止めている。
「おめでとうナ、シンタロー」
「わぅ!」
不意に、先を越された。
くっ……! 俺が言いたかったのにっ……!
「ああ、サンキューな」
けれど、
そう言って笑う顔を見ていると、嫉妬する自分を、馬鹿みたいだって思う。
やっぱ俺、相当この人のことが好きだ。
「シンタローさんっ、あの……」
そのたった一言に緊張して、震えてはいたけれど。
やっと言い出しかけたそれに対して、笑顔で……。
「てめぇ、一昨昨日の……今度やったら殺すぞ? 変態ヤンキー」
いや、笑顔だけど、目が笑ってない……。
やっぱまだ怒ってるんですね。
プレゼントだと思って許してくれたりとかしません?
……って、今はそのことじゃなくて!
「そ、そうじゃないっス! 俺はただっ……!」
「ただ?」
正面から見つめて(睨みつけて)くるのは反則だと思います……。
「その……一言、『おめでとう』を、言いたくて……」
ああ、もう、普通に言えば済むことなのに。
何でこんなことまで言ってんだ、俺は。
「ふぅん」
『ふぅん』って……それだけですか?!
俺はそんな一言で片付けられちゃうんですか?!
うわっ、すげぇショック……。
「……どうした。はやく言えよ」
「へ……」
てっきりそこで終わったと思った会話は、まだ続いていたらしく、シンタローさんは、まだ俺を見ていた。
「言ってくれんだろ?」
苦笑して、促すような言葉。
「祝ってくれんなら、受け取っとくぜ?」
沈んでいく気分を、その一言がすくい上げた。
自分のことながら、かなりの単純ぶりだよな、俺も。
こんな風に言ってくれるから、俺は――――。
あなたに――――。
「っおめでとうございますっ! シンタローさんっ!!」
精一杯の気持ちを込める。
デカイ声だすな、とどつかれたけど。
小さく「ありがとな」と言ったのも、確かに聞こえた。
『ありがとう』を言いたいのは、むしろ俺のほう。
島のみんなに好かれていて、
家事全般が上手かったり、
天然俺様体質だったり、
人をこき使ったり、
けれど、
色々言いながらも、人の誕生日を祝ったり、
向けられた言葉に、照れながらお礼を言ったりしてるあなたが――――。
今、ここに、いてくれる。
だから、
『おめでとう』と『ありがとう』を――――。
END
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後書き
す、すごい……人(ナマモノ含)がたくさん出ているっ……!
(いっつもリキシン(二人だけ)ばっかり書いてるから……。)
要するにシンタローさんはアイドルです。(何)
続きものにするはずだったのにほぼリンクしてません。(オイ)
というか互いに相手目線で祝おうとしただけなのに、
リキッドばかりが幸せそうってどういうことなんデスカ?!
2004(May)
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0521
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何やらヤンキ―が朝からそわそわしている。
理由は分かってる。
というか昨日知った。
だからって特別何かしてやるかって言えば、んなことない。
子供じゃねぇんだ。
そんぐらい聞き分けるだろ?
大の男がそれより年上の男に祝われて何が嬉しいよ?
まあ一応、いつもは分担してる家事を、今日くらいはってことで、俺がやってる。
その後ろで……。
さっきから……。
……だから止めろ。
「…………」
無言で嫌な圧力かけるのは止めろってんだ。
こいつ、自覚が在るのか無いのか、構って欲しいと訴える犬みたいな目で見てくることがある。
認めたくないが、そういうのに弱いんだ俺は。
下手な脅し文句や脅迫まがいの言葉より、ずっと効き目がある。
……ようは甘いってことなんだろうが……。
だから俺は認めたくねぇんだ!
こういう時に限ってパプワやチャッピーはいなかったりする。
というか、いないからこそか? このヤンキ―。
「シンタローさん」
うっせぇ、呼ぶな。
「あの、ホントありがたいんですけど、俺やっぱ手伝います」
「ああ? 何でだよ?」
人が折角代わってやるってのに、コイツは立ち上がって、隣にきた。
「いえ、その……やることなくって」
そう言ってへらりと笑う。
家事がすっかり体に染み付いているのか、どうも落ち着かないらしい。
「……ま、いいけどよ」
別に、どうしても断らなきゃいけないわけでもなく、俺にしてみてもそっちの方がありがたい。
何と言っても構って欲しいオーラを浴びずにすむ。
すむと……。
「…………」
思ってたんだが……。
「…………」
ったくよぉ……。
「…………」
沈黙。
もういい加減疲れてくる。
お前一体俺にどうして欲しいんだよ?
「……リキッド」
そうして数分……。
「はい?」
「お前水汲み行って来い」
耐えられなくなる。
もともと我慢強い方じゃないんだ。
仕方ない。
「へ? ……水ならそこに……」
「いいから行けってんだ」
何でもいいから理由をつけて、この状況から脱したい。
意識して睨みつけると大人しく外へ出かけていった。
こういう時だけあいつの下っ端根性には感謝する。
「…………馬鹿か俺は」
あいつが出て行ったのを確認して、額に手を当てて呟く。
こんなことがしたかったわけじゃないだろう?
だって、
あんな顔で、あんな目で見るから――――。
「っ……! あぁもう! 作りゃいいんだろ?! 作りゃ!!」
別に何にも特別ってことじゃない。
俺はただ『いつも通り』のオヤツを作ってやるだけだ。
それに一言足すだけなんだ。
何にも特別なんかじゃねぇ。
これは言い訳なんかじゃない。
事実だ。
懸命に自分に言い聞かせて、俺は台所に向き直った。
「すんません、遅くなりました……」
水汲みに行っただけのはずのヤツは、何故かボロボロで、心なし影を背負いながら、帰ってきた。
「遅い」
別に急ぎだったわけじゃないが、遅れたら遅れたで癇に障る。
こっちはとっくに終わってたってんだ。
「いや、その、途中でウマ子がですね?!」
必死で言い訳するその目の前に、皿を突き出した。
「……え?」
いきなりのそれに驚いたのか、目を丸くしたまま固まっている。
っだー、説明までさせんなっ。
「本日のオヤツだ。食うのか食わねぇのか?」
皿の上に乗った一切れのケーキ。
もちろんパプワたちのは同じのを別にして取ってある。
だからオヤツなんだよ。
他意はねぇ。
「へ、あ、あのっ……?」
まだ状況が読み込めないのかこの馬鹿。
「……食わねぇならいい」
「っ食べます! 食べさせていただきますっ!!」
とんでもないと言うようにして、強く首を横に振り、引っ込めようとしたその皿を、力を込めて引かれた。
さっきまで背負ってた影はどうしたんだか。
最初からそう言えっての。
「えっと、そのっ……。ありがとうございますっ! シンタローさんっ」
嬉しそうに笑うその顔。
素直に出てくる言葉。
何となく苦笑する。
ホント、こういうのに甘いよなぁ……、俺は。
今日一日、これだけ優しくしてやったんだ。
だから最後くらい……。
「Happy birth day Liquid」
ガラにもなく言ってやったその言葉に対して、了承もなしに人の頬に口付けをしてきた男を、眼魔砲でぶっ飛ばしたって、バチは当たらないだろう。
END
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後書き
何かシンリキっぽいんですけど…!!(そら大問題だ!!)
う、うちはリキシンサイトですよね?!
少なくともシン受けなハズよ!(リキシンだけしかない)
シンちゃんだってちゃんと思いやってるんだよと言いたかったのです!
(あまりにもリキッドが一方通行すぎなので)
でもやっぱり最後はリキ→シンオチ。
シンタロー誕生日へ続く…かもしれない。
2004(May)
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