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傍ら寂し日和続き
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三人(二人と一匹)は連れだってよく出掛ける。
毎日忙しく散歩や、遊びに行っては、くたくたになって帰ってくる。
そんな日常が嬉しいのか、このところパプワは機嫌がいい。
別に顔に出すわけでも、態度に出るわけでもないんだけど、雰囲気が違う。
何だかんだ言ってもあいつも子供なんだなとか思ったりして……。
そうやってみんなが出かけてる間、家事をするのは勿論俺。
別に文句がある訳ではないけれど(むしろ文句はつけられる側だけど)。
やっぱり少し寂しい。
いや、かなり寂しい。
今日も今日とて朝飯が終わり、パプワとチャッピーが元気良く立ち上がる。
いつの間にか、それが一人の時間の開始合図みたいなもんになった。
「遊びに行って来るぞー」
「わぅ」
「おぅ、いってらっしゃい」
家事を一通りってのも、慣れてしまえば結構早く終わるもので、(出来のほうは別として……いや、俺としては良く出来たつもりなんだけど)
今日はどうしようかと、余計なことを考えないよう、時間を埋めることだけ考える。
果物でも採ってきて瓶詰めとか作るか?
パプワとチャッピーはともかく、この人ジャムとか大丈夫かな……。
俺はそういうの結構甘くするほうだけど。
砂糖は……確かまだあったはず。
じゃあ後で材料採りに……。
「気ぃつけて行けよー」
……へ?
「……シンタローさん?」
「あぁ?」
いつもなら「少しは休ませろ」だの何だのと、文句をこぼしつつも一緒に立ち上がる人が、腰をすえて動く気配がない。
「行かないんっスか……?」
出かける二人を見送ると、かなりキツイ視線で睨まれた。
怖っ……!!
「悪ぃかよ」
「い、いえっ、すんませんっ」
たいして悪いとは思ってないけど、謝ってしまうのはもう条件反射のようなもの。
何も睨まなくても……。
でも何で今日に限って……俺なんかしたっけか。
記憶を辿ってみても、せいぜい昨日「味噌汁が濃い」と怒られたくらいだった。
……まさかそれなのか?
「あ、あの、味噌汁なら次からは塩分控えめにしますから……」
「はぁ?」
違ったみたいだ。
じゃあなんだよ。
何を言われるのか分からなくて、半分ビクビクしながら洗い物の皿を重ねる。
この人が島に来た当初みたいな、息の詰まる空気。
「…………」
「…………」
ひたすら沈黙。
皿を洗って、置く音だけがやたらに大きい。
か、神様っ……俺ホントになんかしました?
二人きりとはいえ、こういう状況は嬉しくないですってば!
「……リキッド」
「は、はいっ?!」
急に話し掛けられて、危なく皿を落としかけた。
ここでまたヘマって怒られたくなくて、どうにか持ち直す。
「…………」
いや、呼んどいて黙られても……!
「シンタロー、さん?」
どうしたんだろう。
それからすっかり黙り込んで、返事すら返ってこない。
……何かこれ、ちょっと前の俺みたい?
いや、そんな、自分で言っといてなんだけど、シンタローさんが俺みたいだなんて失礼な。
……自覚あるところが悲しいよな俺……じゃなくて!
そもそも相手を前にして竦むとか絶対ないよな。この人の場合。
「……止めた」
「え……?」
何を?
「止めだ止め! 面倒くせぇ!」
「あ、あの?」
盛大にため息をついて、またやたら鋭い眼で睨まれる。
だ、だからっ、何なんっすか!
「るせぇ、気付かないお前が悪い!」
気付けって……何を。
全くもって全容が見えてこない。
ここは……もう直接聞くしかないか? ……怖いけど。
「そのっ、俺っ……何かしましたかっ?」
精一杯に声を絞り出す。
何か嫌われるようなことでも?
「ああ? んなこと知るかよ」
は……?
「じゃ、じゃあっ……」
「……お前、何で俺が残ったと思ってんだ」
何でって……何で?
「……もういい」
不機嫌そうな声で、不機嫌そうな顔で、不機嫌そうなため息をついて、最後には背を向けて座り込んでしまった。
「あの……」
「うっせぇ」
「シン……」
「喋んな」
容赦ねぇよ。
何なんだよ。
訳分かんねぇ。
だから俺が何したってんだ!
「…………」
沈黙ばかりが支配する。
衣擦れの音すら、立てちゃいけないよう。
もう泣きそうになって、縋るように背を向けたその服の裾を握り締めた。
「…………」
何も言えなくて。
「…………」
何も、言ってくれなくて。
「…………」
――――止めてくれ。
「……シン、タローさん……」
こんな静けさは嫌だ。
「……シンタローさんっ」
取り残されるような沈黙は嫌だ。
「喋って……」
握る手に力をこめる。
なんでもいい。詰るでも貶すでも。
お願いだから――――。
「……お前、ほんとタチ悪ィ」
振り向かないままの、小さなため息と呆れたような台詞。
でも俺には充分な言葉で……、意味は、正直よく分からなかったけど。
「そうやって顔に出す自覚がないところがタチ悪いんだっての」
「何を」と聞こうとして、喉が震えて声が出ないことに気付いた。
……すげぇ情緒不安定みたいじゃんか。格好悪ィ。
「お前な……。寂しいと思ってんなら、ちゃんと言え」
……え。
「あ、の……?」
寂しいって……俺が?
「……違ぇの?」
「あ、いや……その……」
だからその射るような目で見るのは止めてください。
そりゃ、最近シンタローさんと一緒にいる時間短いし、寂しいとは思ってましたけど。
今日に限って残ってくれるなんて思わなかったから――――。
――――あ。
「あの……、もしかして」
まさかとは思うけど。
「俺の為に残ってくれたんっスか……?」
『気付かないお前が悪い』って、そういうことで……?
「……知るか馬鹿ヤンキー」
顔だけで振り返っていたのが、言葉と同時にまた逸らされる。
まあ肯定なんかしてくれないよな……。否定でもないけど。
相変わらず背を向けたままで、でもどこか優しく見えた。
自覚した途端に嬉しくなって、そんな見方になるだなんて、そうとう馬鹿だ。俺。
「シンタローさん」
握り締めていた服の裾を、ゆっくりと離して、そのまま背に顔を埋めるようにして寄りかかる。
本当は抱きしめるくらいしたいんだけど、多分「調子に乗るな」だとか、殴られるだろうから。
いい加減俺も学習しました。
「寂しかったです」
「……最初からそう言え」
自分だって何も言ってくれないくせに。
そんな言葉を言おうとして飲み込んだ。
素直じゃないこの人が、ここにいてくれただけで充分だ。
後日……
「シンタローさん。寂しいんで一緒に寝てください」
「いらん学習機能をつけるんじゃねぇ」
END
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後書き
シンタローさんはリキに自覚させようと言わなかったんですが、途中面倒になりました。(オイ)
まあ結局仕方ねぇなぁ……と。
そしてリキッドは自分で自覚してるつもりで、本当はさっぱり分かってなかった、と。
というか実はシンタローさんも寂しかったという話。
両想いですかこのバカップル…!! 馬鹿ヤンキー!(八つ当たり)
しかし甘い話だ…。甘やかしてはダメだと思います。
2005(November)
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PR
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ランナーズハイ
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ひたすら走った。
走る、走る走る――――。
乱立した木々の間をすり抜けるのに、かなり神経を使って、
日陰のぬかるんだ地面を行くのに、思いのほか体力が奪われて、
とっくに動きの限度を超えた手足は、ひどく反応が鈍くて、
ひゅーひゅーと必死で酸素を取り込もうとする音が大きくて、煩い。
大量の汗が額を流れて目に沁みた。
痛ぇな、ちくしょう。
状況も状態も、いいところなんて一つもない。
酸欠で頭はがんがん痛いし、
全身は熱いし、
息が出来ない。
空気……酸素を――――。
「かっ、ごほっ、かはっ……」
ゆっくり止まって、深く息を吸い込むと、急激に入ってきた濃い酸素に噎せた。
やばいって、息できねぇってコレ。
死ぬっつーの。
大きく上下する肩をそのままにして、近くの木にもたれかかる。
「……きっつー……」
マジで限界だ。
本当に、どうにかなりそうだ。
いっそこのまま倒れた方が楽なのに……。
ちらりとよぎったそんな考えを振り払う。
だめだ。とにかく今は走らないと――――。
重い身体を叱咤して、眩暈がするのを振り払うように立ち上がる。
早く逃げなければ。
追いつかれたらそれまでだ。
集中しろ。
神経を尖らせて、油断が命取りになる。
草木が風に揺れる音。
動物の声、虫の声。
――――足音。
視界の端に動くものが見えて、無理だと分かっているのにスピードを上げた。
走る走る。
気配は遅れることなく、ついてくる。
酸素を取り込む音が煩い。
走る走る。
だんだん苦しさが消えて、視界が明るくなって、音が聞こえなくなって――――。
何か……俺今時間とか超えられるかも。
走る走る。
足元に木の根を見たのと、体が傾くのはほぼ同時だった。
走って、躓いて、
あっと思った次の瞬間には、派手な音を立てて転んでいた。
顔を上げたときにはもう遅い。
逆光になった影が、上から落ちてくる。
――――もう、逃げられない。
「おら、タッチ」
言葉と同時に、軽く額を小突かれる。
ああ、捕まった。
「……少しくらい、待って、くださいよ……」
転倒した相手に対して容赦ないです……。
「んなこと知るか」
勝手に転んだのはお前だろうがと付け足される。
それはそうっすけど。
あんなに走ったってのに相手はすぐ息を整えて……正直悔しい。
「早く起きろよ」
うつ伏せの状態から転がって見上げると、黒髪の奥に同じ色の目がのぞいていた。
走っても走っても、この人から逃げられない。
――――というか、捕まりたかったのかもしれない。
……馬鹿か俺。
でも手なんか抜いてない。本気で走って逃げたのは事実だ。
「じゃ、昼までに捕まらなきゃ今日のメシ当番お前な」
にやりと子供のように笑って、走り出す準備なのか大きく伸びをする。
この人の本気って、どこまでのもんなんだろう。
考えたら少しゾクリとした。
見てみたいかもしれない。
「絶対捕まえますから」
逃げられないなら、追えばいい。
今も、これからも。
「できるもんならな」
ほら、今度は俺が追う番。
走る走る。
END
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後書き
走る、逃げる、追う、捕まえる。本気を見たい。
「あははー待てよー」 「うふふー捕まえてごらんなさーい」
という感じです。嘘です。運動しつつ、罰ゲーム。
以前日記に載せた小話をベースに、全部リキッド脳内なのでただの妄想です。(断言)
色んな意味で本気で相手をして欲しいのだと。
シンタローさんに向かって突っ走っております。止まれよ少しは。
2005(October)
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ずっとこのまま
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教えろ?
教えろって何を。
……シンタローさん?
そんなん聞いてどうすんの。
ああ、そりゃいやだよ。
どこで誰が聞きつけて、なにするかわかんねぇもん。
は?
何?
いや、そうだけどさ……。
というか、本人に聞かれるのが一番怖ぇ。
だってあの人何かっつーと、あれが悪いとか、これが駄目だとかさー……。
どれだけ駄目出しすりゃいいんだよ。
特に自分のこと言われるの嫌みたいだし。
あ? うん。そう。惚気で。
いや、可愛いとこもあるんだけど……って!
何メモってんだよ!!
報告……? 誰に?
いや、いやいや、止めてくださいマジで。
俺の命消えかけてるから!! むしろ消えちゃうから!!
…………。
……うん。わかったから。
言うからそのメモ貸しなさい。
あと他言無用! 特に青方面に!!
……全く、昨今のちみっこの怖いこと……ああ、はい。分かってるよ。
で、何が聞きたいの。
…………。
うん。それで?
…………。
そうだよ。
…………。
ああ。
…………。
…………。
…………。
…………それは。
……違う、だろうな。たぶん。
なんっつーかさ。
いや、そうじゃねぇよ。
……あのな。
そういうんじゃ、ないんだ。
俺は――――。
な?
もう、いいだろ。
早いとこ戻ってオヤツ作らねぇとな。
何がいい?
ああ、久しぶりだからな。
好きなもん作ってやるぜ?
…………うん。
……いや。
分かるよ。きっとお前にも。
*
うん?
どうしたんだ?
大丈夫だよ。お前のためなら時間なんて惜しくないんだから。
そんなとこ立ってないで座ろう、な?
ん? 聞きたいことでもあるのか?
うん。
…………リキッド?
……何でアイツのことなんか――――。
あ、違う違う! 別に嫌なわけじゃないって。
ちゃんと答えるから。
丁度良く本人もいないしな。
まあ、実力から言うと全然甘ちゃんだよな。
家事もろくすっぽできてやしねぇ。
大体、あいつの料理は味が濃い! 人を高血圧にする気かっての。
掃除やらせりゃ隅に埃は残すわ、洗濯やらせりゃ色物分けねぇし、
洗いもん……あ、ごめんな。
こういうことじゃないんだよな。
……そうだな。
心構えは、悪くないと思う。
結構、認めてはいるんだ。
あ! 間違っても本人に言うんじゃないぞ?!
態々調子に乗らせることないんだからな!
……何か、おかしいこと言ったか? お兄ちゃん。
ああ、いや、謝ることじゃないさ。
お前の笑う顔見てるのは、大好きだから――――。
……うん? 何?
…………。
……ああ。
…………。
そう、なんだろうな。
…………。
うん。
…………。
…………。
…………。
…………それは。
……どうかな。
いや、分からない……というかたぶん――――。
違うんだよ。
……なぁ。
本当は、どうなんだろうな。
俺は――――。
――――ああ、帰ってきたな。
そろそろ夕飯の準備始めなきゃな。
待ってろよ。
とびきりのを作ってやるから。
だから――――。
そんな顔しないでくれ。
な?
*
金髪の少年は、兄やその隣にいる青年に気付かれないよう、ゆっくりと息をついた。
卓袱台の前に座る少年と、流し台に立つ彼らの距離は大分離れているのだが、部屋が区切られているわけでもない室内では聞こえてしまってもおかしくない。
だからこそ、息一つつくにも注意が必要なのだ。
外は夕日が沈んでから随分経つ。
それでも月と星で明るい外は、日差しの強い昼と違って、散歩するのにも気持ちがいいかもしれない。
が、食事が終わってから彼の膝の上では茶色い犬が気持ち良さそうに眠っている。
それを無下に起こすわけにもいかず、少年は毛皮の心地よいその頭を撫でながら、やはり流し台の方に聞こえないように、隣に座った友人に話し掛けた。
「ねぇ、パプワくん」
「なんだ?」
目線は膝の上に固定したまま、それでも答えが返ってきたことを確認して続ける。
「僕はね。お兄ちゃんもリキッドも好きなんだ」
「僕も二人が好きだぞ」
当たり前だと言わんばかりに即答する友人に、もちろんパプワくんもチャッピーも、と付け足し、少年は少しだけ笑った。
友人は黙って続きを聞いてくれるようだ。
「だから、困らせたくなかったんだけどね」
ちらりと流し台の方を盗み見ると、また何かやらかしたらしい青年が、兄に怒鳴られていた。
珍しくもないその光景に、ちくりと胸が痛むのはなぜなのか。
「僕、二人に訊いたんだ」
今度は息を吸い込んで、決意をしたように、震えた声でそれを自分の外へと出した。
「『ずっとこのままじゃいられないのか』って」
二人は共にいられないのかと。
彼らは『無理だ』とも『できない』とも言わなかった。
ただ、『違う』と言った。
「違うんだって」
こんなに心地よい空気を、彼らは違うと言う。
「何が違うんだろう」
二人とも、大きな手で自分の頭を撫でながら、寂しそうな顔をするのに。
「コタローは、『ずっとこのまま』がいいのか?」
今まで無言で聞いていた友人から、ポツリとそう聞かれて考える。
いや、自分は確かに子供だけれど、それが分からない程子供じゃない。
「……ううん。本当は分かってるんだよ」
想いは同じはず。
「二人も。僕も」
分かっていて、それでも訊いたのだ。
「そうか」
「うん」
二人とも、相手の前では口にはしないけれど。
「ちょっと家政夫! お兄ちゃんも! いつまでもお皿洗いしてないで遊ぼう?」
だから今、この時間が愛しいのだ。
たまらなく。
「手がかかるったらないよね。ホント」
独り言のように呟いて、少年は精一杯に笑った。
END
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大好きな場所。大好きな人たち。
微妙な感じになってしまったです…。
書き上げたのは早かったのですが。
なんでコタちゃんがいるねん!という声は聞こえません。
(一体どの時間軸での話なんだ)
コタちゃんは結構ブラコンだったり、でもリキッドも大切だったり。
2005(August)
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雨が止むまで / Side S
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スコールなんてついてない。
出先ででくわして、立ち往生を強いられて、仕方なく雨が止む迄と入った飛空艦の残骸。
しかも今回ヤンキーと一緒かよ。
……状況的にため息をつきたくなるのは、仕方がないだろ。
ああ、洗濯物がやり直しだな……面倒くせぇ、とか。
ヤンキーの視線がウゼェ、とか。
いつまで降ってんだよ、とか。
降り止まない雨を見ながら、そんなことを考えていたら。
「……」
「……」
いつの間にか寝てしまったらしく……。
目が覚めると、随分とおかしな状況にあった。
「……」
正面に、顔がある。
やたらと幸福そうな顔。
「……起きたっすか?」
笑って話しかけるそれ……を。
ゴッ!
多少加減して(少なくとも俺はしたつもりだ)殴りつけた。
「何するんっすかー!」
「お前こそ何する気だっ! いや、まさかもうしたのか?!」
何で俺がお前に寄りかかって寝てんだよ!
道理で、この雨の中寝てたってのに寒くなかったはずだ。
殴られたことに抗議の声を上げる相手を、無視して睨みつける。
不覚だ……マジで。
何かしてやがったら殺す。
「な、何もしてませんっ……! ただ、鉄よりは、マシかなって……」
寄り掛かる前までもたれていたであろう外装は、確かに冷たく硬そうだったが……。
「余計な事すんな」
普段無下にしている人間にもたれて、全く気付くことなく眠っていたなんて。
誰が許しても俺自身は許さない。
「すんません。……良く寝てたから……」
起こしたくなくて……と言葉を続ける。
だから、無意識にそういう顔をするから嫌いなんだよ。お前は。
「どれくらい寝てた」
「まだ五分と経ってないっすよ。小降りになったけど、まだ雨降ってますし……疲れてるんっすよ」
「違ぇよ」
言われた言葉を即座に否定する。
そりゃ、気候に体が慣れないとか、生活リズムがずれてるとか、そういうのはあるんだろうが……。
そんな事で疲労する程やわな作りじゃねぇ。
そんなもんとっくに直した。
俺はただ眠かっただけだ。
「いいっすよ、寝てても。別に急いでるわけじゃないんだし」
「違ぇって」
「ちゃんと起こしますから」
「……」
人の話なんて聞いちゃいねぇ。おそらく俺を優先してくれているのだろうその好意に、素直に甘えることもできない自分……。
しかたねぇだろ? 俺はこいつみたいに馬鹿正直に生きちゃいねぇ。
……それでも。
「……シンタローさん」
厄介なことに相手は以外と頑固者で。
「……シン」
「あぁ! くそ! わかったよ!」
結局、最後で折れてしまう。
不服に思うがどうしようもない。
「……肩貸せ」
「へ……」
「お前のせいで壁じゃ寝心地悪ぃんだよっ」
一旦覚えた暖かな感覚は、なかなか忘れられるものでもなく。
「……はいっ」
悪態めいた呼び掛けにすら、笑って応えるその顔が、何だかやたらにイラついて。
だから、
「……おやすみ」
「はい」
心地良いなんて、絶対言ってやらない。
END
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後書き
まただいぶ短くなってしまいました。
ちょっと両想い的雰囲気で。
どうもシンタローさん目線が難しいのです。
やはりシンタローさんに恋するリキッドと同じ目線だからでしょうか(は?)
そんなこんなで結局シンタローさんが好き!なシンタロさん誕生日記念!
2005(May)
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雨が止むまで / Side L
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ジャングルに雨なんてのは、特別珍しいってわけじゃない。
すぐあがるような激しいスコールは、このクソ暑い中で木々に歓喜を与えてくれる。
それはまぁ、植物だけの話じゃなくて、動物や人間にだって言えるのだけれど……。
「っだー! 何で今降ってくんだよッ!!」
何も今……とは俺も思う。
「まぁ少しの間っすから……」
今回はちょうどタイミング悪く外に出ていたりして。
俺も、隣で機嫌をすこぶる悪くしている人も、その場から動けないまま大きく息をつく。
最初は頬にあたる程度だった雨が、激しく体に叩きつけるようになるまで、そう時間はかからなかった。
仕方無いと、入った飛空艦の残骸の下、鉄に叩きつける雨音がうるさい。
ああ、でも二人きりってのは、結構ラッキーなのかもしれない。
「……ぁんだよ」
「いえ、何も」
顔がにやけそうになるのを必死でこらえて、横顔を盗み見た。
少しだけ濡れた黒髪が、妙に艶やかで……ドキドキしてくる。
あー、俺重症。
雨音がバシバシうるさくて、そんな中で会話を続けるのも面倒だったんだろう、シンタローさんが黙りこんでしまったから、俺も黙るしかなかった。
息苦しくないと言えば嘘になるけど。
それでも何か用事とか、話すこととか、浮かんでくるわけでもなかったし、不用意に話し掛ければ「くだらないことで呼ぶな」とか言われるだけだし?
……前言撤回。あんまり幸運とは言えない。
悲しすぎる……。
どうせ自分は食物連鎖の最下層ですとも。
「……だから何々だよ」
視線に気付いたのか、やたらと鋭い目線が向けられた。
二回目なので流石に機嫌が悪いです。
いや、その、すんません。もう見ません。
「いえ、何でも……」
構って欲しいだけなのに。
仕方なしに大人しくしていようと、小さく息をついた。
すぐ隣にいるというのに、何も出来やしない。
特に何かしたいのかと言えば、そういうことじゃなくて……。
一方的なのが寂しい。
ひたすらぐるぐると考え込んで。
どうにもならないのは、分かっているんだけど。
悩みこむのはガラじゃない。
しかも他人から見ればものすごい馬鹿な悩みだと思う。
ただ、
こっちを見て欲しいとか、
もっと話したいとか、
「構ってくんないのかなぁ…」
呟いてしまってからハッとする。
聞こえたかもしれない……!
あのっ、今のはその……! ただちょっと遊びたい盛りの犬の気持ちというか……。
慌てて振り返る。と……。
「シンタローさん?」
てっきり怒られるものと思い込んでいたのに、反応は何もない。
「シンタローさん?」
「……」
覗きこむと、聞こえてきたのは小さな寝息。
「寝てる……」
なんて無防備な。
この人はこの島に来てから良く寝ている。
きっと、他のどこでそうするより安らかに。
こうして傍で眠ってくれるのは、信頼されているのだと思ってもいいのだろうか?
……あ、ヤバイ。
今。
すげぇ嬉しかった。
俯く横顔を見ながら、その向こうの雨が弱まってきているのに気付く。
どうやら今回は早々と止みそうだ。
雨が止めばいつも通りのからりとした日が射す。
掃除、洗濯、食事の支度、やることは充分過ぎる。
暇がない。
「……」
上手くバランスをとる体を、少し傾けさせて自分に寄り掛からせる。
「ん……」
起こしてしまったかと思ったが、身じろいだだけで、再び寝息が聞こえて来る。
肩の熱に愛おしさを感じながら、一人で苦笑する。
掃除、洗濯、食事の支度。
やることは充分にある。
それでも
何を置いても優先させたいなんて言ったら、怒られるんだろうか。
「でもまぁ…」
しばらくはこのままでもいいだろ?
これくらいの役得は許されてもいいはずだし。
雨が止むまで、あと少し。
「おやすみなさい、シンタローさん」
END
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後書き
私のリキシンに対する最初のイメージ。
シンタローさん良く寝てる。という妙な思い込み。
いや、島に帰ってきたばかりの頃はそうであって欲しいという、やはり思い込み。
総帥業の疲れを一気に寝だめ(笑)して回復してるシンタローさんの寝顔に、
胸キュンなリキッド。というのが最初に感じたリキシンだった気がする。
そんなこんなで初心(?)に戻ってみるリキッド誕生日記念!
2005(May)
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