忍者ブログ
* admin *
[1312]  [1311]  [1310]  [1309]  [1308]  [1307]  [1306]  [1305]  [1304]  [1303]  [1302
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

rr






--------------------------------------------------------------------------------



傍ら寂し日和続き



--------------------------------------------------------------------------------



 三人(二人と一匹)は連れだってよく出掛ける。
 毎日忙しく散歩や、遊びに行っては、くたくたになって帰ってくる。
 そんな日常が嬉しいのか、このところパプワは機嫌がいい。
 別に顔に出すわけでも、態度に出るわけでもないんだけど、雰囲気が違う。
 何だかんだ言ってもあいつも子供なんだなとか思ったりして……。
 そうやってみんなが出かけてる間、家事をするのは勿論俺。
 別に文句がある訳ではないけれど(むしろ文句はつけられる側だけど)。
 やっぱり少し寂しい。
 いや、かなり寂しい。
 今日も今日とて朝飯が終わり、パプワとチャッピーが元気良く立ち上がる。
 いつの間にか、それが一人の時間の開始合図みたいなもんになった。
「遊びに行って来るぞー」
「わぅ」
「おぅ、いってらっしゃい」
 家事を一通りってのも、慣れてしまえば結構早く終わるもので、(出来のほうは別として……いや、俺としては良く出来たつもりなんだけど)
 今日はどうしようかと、余計なことを考えないよう、時間を埋めることだけ考える。
 果物でも採ってきて瓶詰めとか作るか?
 パプワとチャッピーはともかく、この人ジャムとか大丈夫かな……。
 俺はそういうの結構甘くするほうだけど。
 砂糖は……確かまだあったはず。
 じゃあ後で材料採りに……。
「気ぃつけて行けよー」
 ……へ?
「……シンタローさん?」
「あぁ?」
 いつもなら「少しは休ませろ」だの何だのと、文句をこぼしつつも一緒に立ち上がる人が、腰をすえて動く気配がない。
「行かないんっスか……?」
 出かける二人を見送ると、かなりキツイ視線で睨まれた。
 怖っ……!!
「悪ぃかよ」
「い、いえっ、すんませんっ」
 たいして悪いとは思ってないけど、謝ってしまうのはもう条件反射のようなもの。
 何も睨まなくても……。
 でも何で今日に限って……俺なんかしたっけか。
 記憶を辿ってみても、せいぜい昨日「味噌汁が濃い」と怒られたくらいだった。
 ……まさかそれなのか?
「あ、あの、味噌汁なら次からは塩分控えめにしますから……」
「はぁ?」
 違ったみたいだ。
 じゃあなんだよ。
 何を言われるのか分からなくて、半分ビクビクしながら洗い物の皿を重ねる。
 この人が島に来た当初みたいな、息の詰まる空気。
「…………」
「…………」
 ひたすら沈黙。
 皿を洗って、置く音だけがやたらに大きい。
 か、神様っ……俺ホントになんかしました?
 二人きりとはいえ、こういう状況は嬉しくないですってば!
「……リキッド」
「は、はいっ?!」
 急に話し掛けられて、危なく皿を落としかけた。
 ここでまたヘマって怒られたくなくて、どうにか持ち直す。
「…………」
 いや、呼んどいて黙られても……!
「シンタロー、さん?」
 どうしたんだろう。
 それからすっかり黙り込んで、返事すら返ってこない。
 ……何かこれ、ちょっと前の俺みたい?
 いや、そんな、自分で言っといてなんだけど、シンタローさんが俺みたいだなんて失礼な。
 ……自覚あるところが悲しいよな俺……じゃなくて!
 そもそも相手を前にして竦むとか絶対ないよな。この人の場合。
「……止めた」
「え……?」
 何を?
「止めだ止め! 面倒くせぇ!」
「あ、あの?」
 盛大にため息をついて、またやたら鋭い眼で睨まれる。
 だ、だからっ、何なんっすか!
「るせぇ、気付かないお前が悪い!」
 気付けって……何を。
 全くもって全容が見えてこない。
 ここは……もう直接聞くしかないか? ……怖いけど。
「そのっ、俺っ……何かしましたかっ?」
 精一杯に声を絞り出す。
 何か嫌われるようなことでも?
「ああ? んなこと知るかよ」
 は……?
「じゃ、じゃあっ……」
「……お前、何で俺が残ったと思ってんだ」
 何でって……何で?
「……もういい」
 不機嫌そうな声で、不機嫌そうな顔で、不機嫌そうなため息をついて、最後には背を向けて座り込んでしまった。
「あの……」
「うっせぇ」
「シン……」
「喋んな」
 容赦ねぇよ。
 何なんだよ。
 訳分かんねぇ。
 だから俺が何したってんだ!
「…………」
 沈黙ばかりが支配する。
 衣擦れの音すら、立てちゃいけないよう。
 もう泣きそうになって、縋るように背を向けたその服の裾を握り締めた。
「…………」
 何も言えなくて。
「…………」
 何も、言ってくれなくて。
「…………」
 ――――止めてくれ。
「……シン、タローさん……」
 こんな静けさは嫌だ。
「……シンタローさんっ」
 取り残されるような沈黙は嫌だ。
「喋って……」
 握る手に力をこめる。
 なんでもいい。詰るでも貶すでも。
 お願いだから――――。
「……お前、ほんとタチ悪ィ」
 振り向かないままの、小さなため息と呆れたような台詞。
 でも俺には充分な言葉で……、意味は、正直よく分からなかったけど。
「そうやって顔に出す自覚がないところがタチ悪いんだっての」
「何を」と聞こうとして、喉が震えて声が出ないことに気付いた。
 ……すげぇ情緒不安定みたいじゃんか。格好悪ィ。
「お前な……。寂しいと思ってんなら、ちゃんと言え」
 ……え。
「あ、の……?」
 寂しいって……俺が?
「……違ぇの?」
「あ、いや……その……」
 だからその射るような目で見るのは止めてください。
 そりゃ、最近シンタローさんと一緒にいる時間短いし、寂しいとは思ってましたけど。
 今日に限って残ってくれるなんて思わなかったから――――。
 ――――あ。
「あの……、もしかして」
 まさかとは思うけど。
「俺の為に残ってくれたんっスか……?」
 『気付かないお前が悪い』って、そういうことで……?
「……知るか馬鹿ヤンキー」
 顔だけで振り返っていたのが、言葉と同時にまた逸らされる。
 まあ肯定なんかしてくれないよな……。否定でもないけど。
 相変わらず背を向けたままで、でもどこか優しく見えた。
 自覚した途端に嬉しくなって、そんな見方になるだなんて、そうとう馬鹿だ。俺。
「シンタローさん」
 握り締めていた服の裾を、ゆっくりと離して、そのまま背に顔を埋めるようにして寄りかかる。
 本当は抱きしめるくらいしたいんだけど、多分「調子に乗るな」だとか、殴られるだろうから。
 いい加減俺も学習しました。
「寂しかったです」
「……最初からそう言え」
 自分だって何も言ってくれないくせに。
 そんな言葉を言おうとして飲み込んだ。
 素直じゃないこの人が、ここにいてくれただけで充分だ。



 後日……

「シンタローさん。寂しいんで一緒に寝てください」
「いらん学習機能をつけるんじゃねぇ」







END





--------------------------------------------------------------------------------


後書き

シンタローさんはリキに自覚させようと言わなかったんですが、途中面倒になりました。(オイ)
まあ結局仕方ねぇなぁ……と。
そしてリキッドは自分で自覚してるつもりで、本当はさっぱり分かってなかった、と。
というか実はシンタローさんも寂しかったという話。
両想いですかこのバカップル…!! 馬鹿ヤンキー!(八つ当たり)
しかし甘い話だ…。甘やかしてはダメだと思います。

2005(November)



--------------------------------------------------------------------------------




PR
BACK HOME NEXT
カレンダー
04 2025/05 06
S M T W T F S
1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 31
最新記事
as
(06/27)
p
(02/26)
pp
(02/26)
mm
(02/26)
s2
(02/26)
ブログ内検索
忍者ブログ // [PR]

template ゆきぱんだ  //  Copyright: ふらいんぐ All Rights Reserved