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同族嫌悪・近親憎悪



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 ガンマ団新総帥は、その日すこぶる機嫌が悪かった。
 廊下にいるにも関わらず、部屋の中から伝わってくるこのオーラは只事ではない。
「……ティラミス、お前行け」
「馬鹿言うな。俺だってまだ死にたくない」
 部屋の前では書類の束を持ったままの秘書二名が、美しき譲り合い (押し付け合い)の精神を発揮した会話が繰り広げている。
 誰だって無駄に寿命を縮めたくはない。
『二人とも、くだらねぇ事やってねぇで、早く入って来やがれ』
「「!」」
 扉越しに聞こえたそれは、いつもより低く、明らかに機嫌が悪そうな声色。
 何にしろ、気付かれているのなら入らない訳にはいかない。
 顔はあくまでも冷静を装いつつ、二人は自動ドアの前に立った。
「「失礼します」」
 扉に背を向け、深々と椅子に座り込んだその人物。
 顔は見えなくとも、張り詰めている肌を刺すような空気が恐ろしい。
「今日の予定は昨日確認したものと変更ないな」
「はい」
 スケジュールを書き込んだメモを見ながら、返事をする。
 ここ最近はそんなに忙しいことはない。
 遠征が無いかわりに書類処理が多いだけだ。
「ならいい。下がってくれ」
 振り向かないままに確認を取ると、下がれと手で示す。
「……あの、総帥? ……何かお気に触ることでも?」
「あったように見えるのか?」
 あからさまに、「それ以上聞くな」と言う雰囲気を漂わせた低い声に、チョコレートロマンスは首を振るので精一杯だった。
「(こら、チョコレートロマンス! 聞くならちゃんと最後まで聞け!)」
「(馬鹿! あの状態で聞けるか!!)」
 秘書二人、目線で会話が出来る辺り付き合いの長さが窺える。
「「それでは、失礼します」」
 入室の時と同じように、声をそろえて二人は部屋を出た。
 扉が閉じた瞬間に、これまた同じようにため息をつき、互いの顔を見やる。
「……マジック様か?」
「……八割の確率でそうだと思うぞ俺は」
 やたら高い確信なのは、普段の行動を見れば仕方がない。
「仕事が進むなら良いけどな……俺たちの寿命が縮むくらいだ」
「秘書は耐えるお仕事です。か?」
「世知辛いな……」
「ああ」
 まさに秘書の鏡と言える会話をしながら、二人は元総帥のいるであろう部屋に向けて歩き出した。



 特戦部隊隊長は、その日とてつもなく機嫌が悪かった。
 廊下にいるにも関わらず、部屋の中から伝わってくるこのオーラは只事ではない。
「……ロッド、お前が行け。骨は拾ってやる」
「いやー、俺もまだ殉職する年齢じゃないしねー、ここは平等にじゃんけんで……」
「……」
 部屋の前では各部署への報告(主に損害報告)から帰ってきた部下三名が、醜い押し付け合いの精神を発揮した会話が繰り広げている。
 あの隊長のことだ。下手すれば眼魔砲は確実。
『おらてめぇら! くだらねぇ事やってねぇで、早く入ってこい』
「「「!」」」
 扉越しに聞こえたそれは、明らかに不機嫌が表面に表れていて、三人は即座に身を固くした。
 このまま入らなければ殺されるが、入っても殺される。
「「「……じゃんけん」」」
 …………。
 平等な勝負の結果、先頭で部屋に入ることになったロッドは、信じてもいない十字を切った。
「隊長ー、只今戻りました」
「遅ぇ」
 デスクに足を乗せ、あからさまに機嫌が悪いことを態度で示した男は、既に吸い殻が溢れんばかりのった灰皿に、更にタバコを押し付けた。
「報告に何時間かかってんだ」
 確かに、たかが書類提出にそれぞれずいぶん時間がかかっている。
 それもそのはず、それぞれが各部署で、書類の書き直しをしていたのだから当然だ。
 さすがに三行だけしかない書類を見た時は、全員頭を抱えたものだ。
 せめて一枚以上の厚さで報告書として提出して欲しい。
「それで? 次はどこに行ってこいって?」
「あぁ、いえ、しばらく待機だそうですよ?」
 珍しく空いた時間ができた、と笑いながら言ったロッドに、しかしハーレムは一層眉根を寄せた。
「あぁ? 待機だぁ?」
 足で強くデスクが強く蹴られ、置いてあった残りの書類が舞い上がって、床に降り注いだ。
 後々の片付けはやはり自分たちがするのだろうと思うと、頭痛がする。
「……あの、隊長? 何かあったんっすか?」
「あったように見えんのか? ぁあ?」
 聞いたロッドに向けて、射殺さんばかりの視線を向け、噛み付くような言葉で威嚇する。
 そうとうに機嫌が悪いらしいと読み取って、「いーえ」とあくまで平静を崩さずに返す。
「(だめだこりゃ、そーとー虫の居所悪いみたいよ?)」
「(いつも以上にな)」
「(…………)」
 部下三人、長年この上司の下についてきただけあってか、さすがに意思疎通が出来ている。
「それじゃ、俺らはこの辺で」
「失礼いたします」
「…………」
 こういう時は、巻き込まれないうちに姿を消すのが賢い部下というものだ。
 今のうちに部屋をでるにかぎる。
 リキッドがいれば八つ当たり相手ができて少しはマシなのだろうが……。
 ないものねだりをしても仕方がない。
「……やっぱ馬かねぇ?」
「いや、酒が切れたのかもしれん」
「タバコもありうる……」
 閉じた扉の前で、思い思いの原因を述べる。
 普段の生活ぶりを見れば仕方のないことだが……何と人望のないことか。
「まあ、とばっちりが来ないならいいんだけどね。俺は」
「同感だ」
「……」
 巻き込まれても何の徳もないことがわかっている。
 次の出撃までに上司の機嫌が直っていることを願いつつ、各自室に向け、長い廊下を歩き始めた。






 昨晩深夜、総帥自室の明かりは消えていなかった。
 未だ安定しない団内部を総括するため、全て把握しなければ気がすまないとでも言うように、現総帥が寝る間を削って資料を読み漁っていたからだ。
 しかし過去のファイルの何と多いことか……。
 自室は半分資料室と化し、ことにテーブル周りは酷いもの。
 本来デスクですべき作業だが、残念ながらそのデスクは部屋にない。
 彼を心配してか、従兄弟がそろって片付けてしまった。
 もっとも、その意を酌まずにいるわけだが……。
「んなことしたって何にもならねーぜ?」
「……るせぇ、いつ帰ってきたんだよ」
 バタンと他人の迷惑を考えない音がして、開け放たれたドアから不躾な声が響く。
 音からして、金具が駄目になったかもしれない。
 部屋の主は、全く気にも留めていないように、ファイルから顔を上げぬままに答えた。
「さっきだよ、隊長様自らご報告にきてやったってんだ。感謝しろよ?」
「知るかよ。だったらこんな時間に来るんじゃねぇ。……おい、硝煙臭ぇぞ。」
 戦場の匂いが染み付いている隊服に、酷く嫌そうな顔をする。
 シャワーくらい浴びてからこいと、追い払うように手を振った。
 嫌いなわけではない。
 今見たくはないだけ。
「……昔の事なんて持ち出したところで、兄貴にゃ勝てねぇって思うだけだろ」
「……黙れよ」
 少し眉を動かして、それでも顔は上げない。
 この男は何を言いたいのか。
「てめぇにゃ、無理なんだよ」
「黙れ」
「わかりきってたことだろ」
「黙れって言ってんだ!」
 ファイルを乱暴に閉じて吐き出す。
「何が言いたい、ハーレムっ……」
 初めて顔を上げ、そこに立つ人物を睨みつけた。
 相手もまた、負けず劣らずに凄んだ視線をぶつけてくる。
「……てめぇは『青』じゃねぇ」
「……そんなこと昔からだろ」
 何を今になって言い出すのだと、シンタローは眉を寄せた。
 髪色や眼で、今までだって充分言われ続けてきたことだ。
「わかってねぇよ糞餓鬼」
「何でだよ!」
 未だ子ども扱いなのが気に入らない。
 わかったふりをしてるのが気に入らない。
 互いに相手が癇に障る。
 胸倉を掴みあって、唾のかかる距離で怒鳴りあう。
「わかってんなら! ちまちまこんなことしてねぇで、てめぇの力で引っ張ってきゃいいだろーが!」
「足りねぇんだよ! まだ! 俺はっ……!」
 言いかけて、ようやく言葉を読み取る。
「俺は……」
『青』でなく『自分の力』で……?
「……それで駄目なら、とっとと辞めて俺に譲れ」
「誰がっ……」
 だとすれば、何と回りくどく、演技くさいことをするのかこの男は。
 それが気に食わず、シンタローはますます眉を寄せ、睨みつける。
 結局子ども扱いしてんじゃねぇか、と。
 そうやって視線だけでぶつかり合い、しばらく過ぎると、不意にハーレムが手を離した。
「……けっ……気分悪ィ」
 そう言って、自分の胸倉を掴んでいたシンタローの手を払い、さっさと開けたままのドアから出て行った。
 ご丁寧に今度はドアを閉めて。
 おかげで上部の金具が取れた。いい迷惑だ。
「……報告、してけよ」
 本来の目的を果たさなかった叔父に、シンタローは精一杯の悪態をついた。






「――――っあー、くそっ」
 書類にペンを走らせてはいるのに、全然集中できやしねぇ。
「あんのクソ獅子舞がっ……!」
 ったく、気に入らねぇな。あの叔父は。
 一々何かとつっかかって来る。親父とは違う、それでも苦手な部類。
 口調も、態度も。
 いい加減大人になれよオッサン。
 阿呆らしい。
 近親憎悪?
 違うね。一緒にすんなよ。
 あんなんただの酔っぱらいだ。
「言いたいことずけずけ言いやがって……」



「――――っだー、ムカツク」
 逃げやがったな、あいつら。
 発散する相手がいねぇじゃねぇか。
「糞餓鬼め……」
 あぁ、胸糞悪ィ。あの甥っ子は。
 顔以外はアイツと似ても似つかねぇってのに。
 言動も、行動も。
 まるで餓鬼の戯言じゃねぇか。
 馬鹿くせぇ。
 同属嫌悪?
 冗談じゃねぇな。
 あんなんただの糞餓鬼だ。
「『青』になんかなるもんじゃねぇんだよ」



 だから、絶対、


「アイツに諭されたなんて死んでも思いたくねぇ」
「餓鬼は餓鬼らしくしとくもんだ」







 『お前を認めてる』なんて、言ってやらねぇ。







END

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