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ずっとこのまま
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教えろ?
教えろって何を。
……シンタローさん?
そんなん聞いてどうすんの。
ああ、そりゃいやだよ。
どこで誰が聞きつけて、なにするかわかんねぇもん。
は?
何?
いや、そうだけどさ……。
というか、本人に聞かれるのが一番怖ぇ。
だってあの人何かっつーと、あれが悪いとか、これが駄目だとかさー……。
どれだけ駄目出しすりゃいいんだよ。
特に自分のこと言われるの嫌みたいだし。
あ? うん。そう。惚気で。
いや、可愛いとこもあるんだけど……って!
何メモってんだよ!!
報告……? 誰に?
いや、いやいや、止めてくださいマジで。
俺の命消えかけてるから!! むしろ消えちゃうから!!
…………。
……うん。わかったから。
言うからそのメモ貸しなさい。
あと他言無用! 特に青方面に!!
……全く、昨今のちみっこの怖いこと……ああ、はい。分かってるよ。
で、何が聞きたいの。
…………。
うん。それで?
…………。
そうだよ。
…………。
ああ。
…………。
…………。
…………。
…………それは。
……違う、だろうな。たぶん。
なんっつーかさ。
いや、そうじゃねぇよ。
……あのな。
そういうんじゃ、ないんだ。
俺は――――。
な?
もう、いいだろ。
早いとこ戻ってオヤツ作らねぇとな。
何がいい?
ああ、久しぶりだからな。
好きなもん作ってやるぜ?
…………うん。
……いや。
分かるよ。きっとお前にも。
*
うん?
どうしたんだ?
大丈夫だよ。お前のためなら時間なんて惜しくないんだから。
そんなとこ立ってないで座ろう、な?
ん? 聞きたいことでもあるのか?
うん。
…………リキッド?
……何でアイツのことなんか――――。
あ、違う違う! 別に嫌なわけじゃないって。
ちゃんと答えるから。
丁度良く本人もいないしな。
まあ、実力から言うと全然甘ちゃんだよな。
家事もろくすっぽできてやしねぇ。
大体、あいつの料理は味が濃い! 人を高血圧にする気かっての。
掃除やらせりゃ隅に埃は残すわ、洗濯やらせりゃ色物分けねぇし、
洗いもん……あ、ごめんな。
こういうことじゃないんだよな。
……そうだな。
心構えは、悪くないと思う。
結構、認めてはいるんだ。
あ! 間違っても本人に言うんじゃないぞ?!
態々調子に乗らせることないんだからな!
……何か、おかしいこと言ったか? お兄ちゃん。
ああ、いや、謝ることじゃないさ。
お前の笑う顔見てるのは、大好きだから――――。
……うん? 何?
…………。
……ああ。
…………。
そう、なんだろうな。
…………。
うん。
…………。
…………。
…………。
…………それは。
……どうかな。
いや、分からない……というかたぶん――――。
違うんだよ。
……なぁ。
本当は、どうなんだろうな。
俺は――――。
――――ああ、帰ってきたな。
そろそろ夕飯の準備始めなきゃな。
待ってろよ。
とびきりのを作ってやるから。
だから――――。
そんな顔しないでくれ。
な?
*
金髪の少年は、兄やその隣にいる青年に気付かれないよう、ゆっくりと息をついた。
卓袱台の前に座る少年と、流し台に立つ彼らの距離は大分離れているのだが、部屋が区切られているわけでもない室内では聞こえてしまってもおかしくない。
だからこそ、息一つつくにも注意が必要なのだ。
外は夕日が沈んでから随分経つ。
それでも月と星で明るい外は、日差しの強い昼と違って、散歩するのにも気持ちがいいかもしれない。
が、食事が終わってから彼の膝の上では茶色い犬が気持ち良さそうに眠っている。
それを無下に起こすわけにもいかず、少年は毛皮の心地よいその頭を撫でながら、やはり流し台の方に聞こえないように、隣に座った友人に話し掛けた。
「ねぇ、パプワくん」
「なんだ?」
目線は膝の上に固定したまま、それでも答えが返ってきたことを確認して続ける。
「僕はね。お兄ちゃんもリキッドも好きなんだ」
「僕も二人が好きだぞ」
当たり前だと言わんばかりに即答する友人に、もちろんパプワくんもチャッピーも、と付け足し、少年は少しだけ笑った。
友人は黙って続きを聞いてくれるようだ。
「だから、困らせたくなかったんだけどね」
ちらりと流し台の方を盗み見ると、また何かやらかしたらしい青年が、兄に怒鳴られていた。
珍しくもないその光景に、ちくりと胸が痛むのはなぜなのか。
「僕、二人に訊いたんだ」
今度は息を吸い込んで、決意をしたように、震えた声でそれを自分の外へと出した。
「『ずっとこのままじゃいられないのか』って」
二人は共にいられないのかと。
彼らは『無理だ』とも『できない』とも言わなかった。
ただ、『違う』と言った。
「違うんだって」
こんなに心地よい空気を、彼らは違うと言う。
「何が違うんだろう」
二人とも、大きな手で自分の頭を撫でながら、寂しそうな顔をするのに。
「コタローは、『ずっとこのまま』がいいのか?」
今まで無言で聞いていた友人から、ポツリとそう聞かれて考える。
いや、自分は確かに子供だけれど、それが分からない程子供じゃない。
「……ううん。本当は分かってるんだよ」
想いは同じはず。
「二人も。僕も」
分かっていて、それでも訊いたのだ。
「そうか」
「うん」
二人とも、相手の前では口にはしないけれど。
「ちょっと家政夫! お兄ちゃんも! いつまでもお皿洗いしてないで遊ぼう?」
だから今、この時間が愛しいのだ。
たまらなく。
「手がかかるったらないよね。ホント」
独り言のように呟いて、少年は精一杯に笑った。
END
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大好きな場所。大好きな人たち。
微妙な感じになってしまったです…。
書き上げたのは早かったのですが。
なんでコタちゃんがいるねん!という声は聞こえません。
(一体どの時間軸での話なんだ)
コタちゃんは結構ブラコンだったり、でもリキッドも大切だったり。
2005(August)
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