おうちでいぬをかうときは
かわいがってあげましょう
ただくれぐれも
つけあがらせないようにしましょう
SIT DOWN,MY GOOD BOY
名前を呼ぶと飛んでくる。
ちぎれそうなくらい尻尾を振って飛びついてくる。
俺のうちには、デッカイ金色の犬がいる。
「調子に乗んな、ボケ!」
叱りつけるとすぐさま耳をぺたんと伏せてしゅんとしょげる。
尻尾はくるりと丸まって、今にも泣きそうな顔をして見上げてくる。
その顔を見ると俺は思わず笑ってしまって、つい頭をぐしゃぐしゃと撫でてやりたくなるんだ。
だけどここで甘やかすと、この犬は調子に乗って大はしゃぎするに決まってる。
なんせこいつは大型犬だから、そうなると落ち着かせるのは大変なのだ。
「駄目だぞ、当分お預けだからな」
素知らぬ顔でそう言ってやる。
途端にがっくりとうなだれてぱったぱったと尻尾を揺らす。
「―――・・・いい子にしてるって約束出来るか?」
小さな声で囁いて金色の毛並みを撫でてやると、犬はぱっと目を輝かせていい返事をした。
遊んで遊んで、とおねだりをする。
温かい舌で俺の顔をぺろりと舐める。
期待に満ちた眼差しでじっと俺の眼を覗きこむ。
人懐こいこの駄犬が、実のところ俺は可愛くて仕方がない。
だけどうっかり油断すると、すぐに飛びついてきて俺を押し倒す。
「ちょ、コラ離れろ!」
怒鳴っても知らん顔をして乗っかかってくる犬に、俺は本日三回目の眼魔砲をぶちかました。
そう―――犬って生き物には、誰がご主人様かということをきっちり教え込む必要がある。
(俺の躾は厳しいんだからな)
覚えとけよ、リキッド。
かわいがってあげましょう
ただくれぐれも
つけあがらせないようにしましょう
SIT DOWN,MY GOOD BOY
名前を呼ぶと飛んでくる。
ちぎれそうなくらい尻尾を振って飛びついてくる。
俺のうちには、デッカイ金色の犬がいる。
「調子に乗んな、ボケ!」
叱りつけるとすぐさま耳をぺたんと伏せてしゅんとしょげる。
尻尾はくるりと丸まって、今にも泣きそうな顔をして見上げてくる。
その顔を見ると俺は思わず笑ってしまって、つい頭をぐしゃぐしゃと撫でてやりたくなるんだ。
だけどここで甘やかすと、この犬は調子に乗って大はしゃぎするに決まってる。
なんせこいつは大型犬だから、そうなると落ち着かせるのは大変なのだ。
「駄目だぞ、当分お預けだからな」
素知らぬ顔でそう言ってやる。
途端にがっくりとうなだれてぱったぱったと尻尾を揺らす。
「―――・・・いい子にしてるって約束出来るか?」
小さな声で囁いて金色の毛並みを撫でてやると、犬はぱっと目を輝かせていい返事をした。
遊んで遊んで、とおねだりをする。
温かい舌で俺の顔をぺろりと舐める。
期待に満ちた眼差しでじっと俺の眼を覗きこむ。
人懐こいこの駄犬が、実のところ俺は可愛くて仕方がない。
だけどうっかり油断すると、すぐに飛びついてきて俺を押し倒す。
「ちょ、コラ離れろ!」
怒鳴っても知らん顔をして乗っかかってくる犬に、俺は本日三回目の眼魔砲をぶちかました。
そう―――犬って生き物には、誰がご主人様かということをきっちり教え込む必要がある。
(俺の躾は厳しいんだからな)
覚えとけよ、リキッド。
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「シンタローさん」
何か切り出しにくい話しをするとき、こいつは決まって呟くように、震えた喉で名前を呼ぶ。
また何か馬鹿言い出すんだろ? ……いい加減にしろよ。
「話、してもいいっすか?」
何でいちいちんな事まで了解とるんだよ。
話すんならとっとと喋れ。
「聞いてくれるだけで、いいっすから」
……相槌、うたねぇぞ。
「返事とか、なくていいですから。……俺もその方が楽っす」
……勝手にしろよ。
「……もう、少し位の弱音とか、許してくれますよね」
……。
「俺、結構、頑張ったつもりなんっすよ?」
……。
「貴方は、まだまだだって言うかもしれないっすけど……」
……。
「ずっと、背中ばっか見てんのはごめんっすから」
……。
「何を今更とか、そんな風に言わないで下さいね」
……。
「俺だって、そのくらいわかります」
……。
「どれだけあがいたって、俺は『貴方』じゃないって」
……。
「だから、こんなこと言うのかもしれませんね」
……。
「今だから、言いますね」
……。
「本当は―――」
……止せ。
「……本当は」
『それ』言っちまったら―――。
「……貴方と、生きたかったんです」
ッ―――……。
「貴方と、いたかったんです……」
……。
「本当に、今更ですけど……」
……。
「これが、俺の本音です」
……何でだよ。
「ありがとうございました。聞いてくれて」
何で今、
「じゃあ、俺、帰りますから」
どうして今更、
「また、来ます」
俺の声が届かなくなってから、
俺の姿が見えなくなってから
そんな事言うんだ。
あの時の姿のまま、あの時の声のまま、あの時の笑顔のまま。
どうして―――。
『どうして……』
もう、俺はここにいないのに。
「それじゃあ……」
お願いだから気付いてくれ。
「俺は、ずっといますから」
気付けよ。
無理に笑う為に、この場所はあるんじゃねぇんだ。
壊れていくのを見せるのならば、
どうか、
来ないでくれ。
「……いいぜ」
「は……?」
了承を返すと、信じられないと言うように目を丸くして、聞き返して来た。
「あの……俺の話、聞いてましたよね?」
「だから答えたろ」
お前こそ聞いてないんじゃねぇか?
「それとも怖じけづいたか?」
「ち、違うっすよ!」
必死で首を振り、ひとしきりに否定をした後、正面から見据えて、もう一度同じ問答。
「い、いいんっすよね……?」
「これ以上聞いたら殴るぞ?」
一回で理解しろ。馬鹿ヤンキー。
「じ、じゃあっ……オ願イシマス」
『お願いします』はねぇだろ。
声震えてんぞ。
頭下げてどうすんだよ。
覚悟でも決めているのか、両肩に手を置いたまま動こうとしない。
ったく、世話焼かすんじゃねぇ。
「おい」
仕方なく置かれた手を引き寄せる。
「へ……?!」
軽く、触れるだけの。
「シ、シンっ……?!」
「これくらい出来んだぜ?」
いつも受け身だと思うなよ?
「不満かよ?」
あったら殴るがな。
「と、んでもないっ…!」
首を振る姿に苦笑する。
ああ、こいつも俺も、相当な馬鹿だ。
腕を掴んだのは意外と節のしっかりとした指だった。
そのわり子供のように高い体温が熱を伝えてくる。
今にも泣きだしそうな、それでもしっかりと俺を見下ろす顔の中に、青を見つけて、動けなくなった。
なんて顔してやがる。
被害者はこっちだろうと言い掛けてやめた。
言ったって意味がない。
「……シンタロー、さん」
絞りだすように擦れた声は、ただ必死に俺を呼んだ。
「シンタローさんっ」
返事なんかしてやらない。
したってお前に聞く気なんてないんだ。
「シンタローさんっ……」
自分が言いたいだけのくせに、返事がほしいなんて思ってないくせに、俺を呼ぶな。
呼んで何も変わらないことぐらい、知ってるだろ。
だから俺も何も言ってやる気なんてない。
さあ、もういいだろ、早く離せ。
手汗が気持ち悪いんだよ。
背中もいい加減痛くなってきてんだっての。
「……れはっ……」
……一人で勝手に泣きだすとかありえねぇよ。
馬鹿じゃねぇの?
「俺はっ……」
洗濯すんのお前だからって、泣いて人の服にぼたぼた落とすな。
いい年した男が泣いたってうっとおしいだけなんだよ。
「……あんたじゃなきゃ、駄目、なんです……」
馬鹿げてる。
俺である必要なんかなかっただろうに。
俺じゃなくたって、同じことだろう?
すがりつく奴がいればいいだけなんだ。
何に追い詰められてこんな行動をとったのか。
俺以外の奴となら一緒に泣けただろうに。
嗚咽まじりに何度も俺を呼ぶ馬鹿に、初めて同情を覚えた。
絶対、俺からなんて言ってやらねぇ。
「何でっすかー!」
抗議を立てるヤンキーに、手刀を入れて黙らせる。
「何で俺が言わなきゃなんねーんだよ」
「びどごどぐら゛い゛……」
涙目の馬鹿(どうやら舌を噛んだらしい)を無視して、洗濯物を担ぎ上げる。
馬鹿に構ってる暇はねぇ。
「シンタローさんのケチ……」
「ぁんだって?」
聞こえないと思ってんなら大間違いだぞヤンキーが。
「だ、だって俺ばっか……!」
「あのな、俺の言葉はんなに安くねぇの」
そうほいほい言えるか!
「じゃあ、どうしたら言ってくれるんっすか?」
どうしたらって……。
「……自分で考えろっ」
んなことまで言わせるんじゃねぇよ。
「顔、赤いっすよ?」
うるせぇ。
「……俺、結構欲深いんっす」
……何だよ。
「貴方を想って、伝えて、触れて――――」
抑え切れないのだと、真剣な顔で言われた日にゃー、どうすりゃいいんだか。
「……我が儘にも程があるだろ、てめー」
「そっすね」
また、へらりと表情だけで笑う。
……ムカつく。
「一回、だけだからな」
「はい」
くそっ、こいつ分かってやってんじゃねぇか?
俺で遊ぶなってんだ。
「――――」
はい。言った。
もー、絶対言ってやらねぇ。
「いいだろ。これで」
「はい」
満足そうに笑って、手を包み込むように握る。ガキめ……。
誘ったんならキスの一つもしてみやがれ。
「いいっすか?」
わざわざ聞くな。
「勝手にしたら怒るじゃないっすか」
流れと空気を読め、阿呆め。
「わかりました」
笑うとこじゃねぇだろ。
「はい」
……ちょっと待て。
「はい?」
俺が言ってやったのに、お前は言わねぇつもりか?
「言った方がいいっすか?」
だから聞くな。
「……貴方が大好きです」