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「はぁ」
 リキッドは洗濯をしながら今日何度目かも知れぬため息をついた。
「…はぁ……」
「どーした、リキッド」
 後ろから声をかけられリキッドは飛び上がって振り向いたが、そこにいるのがパプワだと知ってあからさまに安堵の息をついた。
「なんだ、パプワかよ~」
「さっきからナニを辛気臭くため息ばっかりついているんだ。うっとうしい」
「わう」
 チャッピーもパプワに同意とばかりに眉間にシワを寄せる。
「だぁってよ~」
 パプワの腰ミノを洗濯板でゴシゴシ洗いながらリキッドはぼやく。
「今日からシンタローさんと一緒の生活だろ。プレッシャーよ、俺」
「なぜだ? リキッドはシンタローがキライなのか?」
「そーじゃなくてよ。なんてーの、ダンナの親と突然同居することになった嫁の心境っての?」
「お前なぞ嫁にもらったおぼえはないわ!」
「はい、スミマセン……」
 洗濯板で頭をかち割られ血を垂らしながら謝罪する。
 自分で止血をしながらリキッドはため息混じりにポツリと呟いた。
「不安なわけよ、要するに。俺、シンタローさんにあんま好かれてねーみたいだし。気詰まりっつーかさ」
「心配するな」
 あっさり言い放つパプワの顔を見てリキッドは首を傾げた。
「シンタローはリキッドのことキライじゃないぞ」
「あんなにイビられててか?」
「シンタローはどーでもいいヤツはテキトーにあしらうし、キライなヤツには見向きもしないぞ。それに…」
「それに?」
「リキッドは今以上にシンタローの事を好きになるだろうからな」
 たぶん、と付け加えつつ確信的な口調にリキッドはポカンとしてパプワを見ていたが、やがておかしくてたまらないとばかりに笑い出した。
「どうして笑うんだ?」
 爆笑しているリキッドを見てパプワは不思議そうな顔をするので、リキッドは何とか笑いをおさめようと必死になって息を整えていた。
「わりーわりー。パプワがあんまり突飛な言い回しをするからよ。そりゃ長く一緒にいりゃあ今よりずっと好きになるだろうな!」
「そういう意味じゃないぞ」
「へ?」
 意味深なパプワのセリフにリキッドは反射的に聞き返した。
「そういう意味じゃない。別に、信じなくてもいいけどナ」
 そう言ってパプワは首をすくめるとチャッピーに跨った。チャッピーはパプワを乗せて陽気な足取りで歩き出す。
「おい、パプワ。怒ったのか?」
「怒ってない。散歩に行くだけだ」
「パプワ!?」
 パプワはリキッドを振り返らずにチャッピーに揺られながら手だけを振った。
「なんなんだ、パプワのヤツ…」
 ゆっくりと遠ざかっていくチャッピーの尻尾を、リキッドは訳がわからないままボーゼンと見送った。




    *    *    *




 シンタローとの共同生活が始まってはや数日。初日から続くシンタローのステキな嫁イビリにリキッドは少々疲れ気味だった。次は何を注意されるのかと思うと一緒に台所に立つだけで戦々恐々としてしまう。

――て、いうか。黙って並んでいるだけで気詰まりなんですけど。こんなんで俺がシンタローさんを好きに? ありえねーよな…

「おい」
「はいぃぃぃぃぃぃ!」
 気を抜いた瞬間に突然声をかけられ驚きのあまり手元が狂ってしまい、リキッドは左手の指先を包丁で切ってしまった。
「痛ッ」
「馬鹿! 振り回すな!」
 反射的に切った指を振り回そうとした手首をシンタローがしっかりと掴まえて、あろうことか切った指をそのまま咥えられてしまった。
「シっシンタローさん!?」
「動くな! ついでにちょっと黙ってろ」
「……ハイ」
 思いがけないアクシデントにリキッドは真っ赤になってうろたえたが、つかまれた手を振り解くのも失礼だと気付きいて大人しく
されるがままにすることにした。
 落ち着いてみると、ずいぶん不思議な感じだった。いつもは見上げているシンタローの顔を、今は見下ろしているのだ。

――睫、なげー…

 伏し目がちにしているせいか、睫が際立って長く見える。

――シンタローさんって、きれいなカオしてんだな…

 もともと整った目鼻立ちをしているのは知っていたが、リキッドが知るシンタローは戦いを前にした厳しい顔か、もしくは不機嫌そうに眉を寄せて自分を見る顔だけだった。笑った顔も知ってはいるが、その笑顔を向けられたことはない。
 まさかこんなふうに間近でシンタローを見ることになろうとは思いもよらない事だったので、リキッドはついまじまじと見つめてしまう。そんな視線に気付いたシンタローが上目遣いにリキッドを睨みつけた。
「ナニ見てんだ」
「あ、ハイ。スンマセン」
 いつもなら萎縮しまくるリキッドなのだが、どうしたわけかこの時のシンタローからは威圧感が感じられなかった。心臓が跳ねるかと思うほど驚いたが、怖いとは感じなかったし、鼓動が早まることが意外にも不快ではなかった。
「もうそろそろ血も止まっただろ。来い。手当てしてやる」
「いーッスよ、シンタローさん。そんな…」
「よくねーよ。口ン中なんて雑菌だらけなんだからちゃんと消毒しとかねーと」
「はぁ」
 救急箱を抱えたシンタローに手招きされてリキッドは言われるままに座り込んで切った指をおずおずと差し出した。シンタローはまた少し出血し始めた指に手際よく消毒を施すとガーゼを当てて手早く包帯を巻き始める。あまりに鮮やかな手並みにリキッドは思わず感嘆の声を漏らした。
「はー。上手いッスねー、シンタローさん」
「まがりなりにも軍隊にいたんだ。下っ端だった時にイヤでもおぼえる。オマエもそーだろーが」
 ジロリとにらまれてリキッドはばつが悪そうに頭を掻いた。
「いやー。特戦はテメーのことはテメーでしろ、が基本だったもんで…。おまけにあのメンツで怪我するよーなマヌケは俺ひとりだったし…。テメーの手当てをしたことはあっても人にしてやったことも、してもらったこともねーッス」
 何しろバケモンみたいな連中ですから、と付け加えながらリキッドは笑ったが、シンタローは興味なさげに相槌を打っただけで包帯をきつめに結んだ。
「よし、これでいいだろ」
「じゃ、晩飯の支度の続きを…」
「いい。怪我した奴は座ってろ」
「え? いやでもシンタローさんに全部やってもらうわけには…」
「バカヤロ。片手に包帯巻いてて何が出来る。洗い物も満足にできねーんなら邪魔なだけだ」
「けど…」
「シンタローの言うとおりだぞ、リキッド」
 いつのまにか帰ってきたパプワが食事前のシットロト踊りの準備をしながらリキッドに言う。
「第一リキッドの血が隠し味の料理なんか断固拒否する!」
 パプワの一言によってリキッドはためらいながらもシンタローに台所を任せることにして自分はテーブルの支度をすることに決めた。


 実に居心地の悪い時間を経て、ほぼシンタローによる夕飯が机に並んだ。
 パプワは口にこそ出さないがすごく嬉しそうだし、チャッピーは「いただきます」が待ちきれない様子で目をキラキラさせている。
「うし! んじゃあ食うか!」
「うむ。いただきます」
「わう!」
 待っていましたとばかりに箸を持ってさっそく料理に取り掛かる。無邪気に喜ぶパプワとチャッピーを見て、リキッドはため息をつきそうになった。それというのもパプワとチャッピーがいつもよりずっと美味しそうに食べているように見えるからだ。

――見た目はそんなに変わらねーのになぁ…

 そんなことを思いながら料理に手をつけずにいるとシンタローがリキッドを睨む。
「なんだよ、食わねーのか?」
「え? あ、いえ。いただきます」
 慌てて箸を取ってみそ汁を一口。そして目が点になる。目の前にある皿、その次にある器。気がつけばそ誰よりもすごい勢いで次々料理に手をつけていく。
「味はどーよ?」
「美味いッス! マジ美味いッス!! 特にこの魚の煮付けなんかサイコー!」
「あったりめーだ。マズイなんていったらぶっ飛ばすぞ!」
 乱暴に言いながらシンタローは満面に笑みをこぼす。
 初めて自分に向けられた笑顔にリキッドは思わず呆けてかじっていた人参をポロリと口から零れ落ちた。
「テメ、なにやってんだ」
「あ、スンマセン」
 慌てて人参を拾って口に放りこむリキッドを見てパプワが顔をしかめる。
「落ちたものを拾って食うな、リキッド」
「なに言ってんだ、パプワ。3秒ルールでOKよ」
 シンタローがパプワの頭をガシガシかき回しながらリキッドに、なぁ、と笑いかけた。それだけでリキッドの胸が高鳴る。

――な、なんだよ。俺、なんか変だぞ…。

 そう思っただけで動悸が早くなり、顔が赤くなってくるのがはっきりとわかる。
 パプワに笑いながらベトベトに汚したチャッピーの口元をナプキンで拭ってやる。いつも見ているその光景をぼんやりと見ているとシンタローがまたリキッドを見て笑う。
「いっぱい食えよ。おかわりあるからな」
「ハ、ハイ!」
 シンタローがただ笑いかけてくれる。それだけでリキッドはたまらなく嬉しい。もっとシンタローが笑ってくれればいい。自分がシンタローを喜ばせてみたい。そんな気持ちが後から後から芽生えてくる。
「シンタローさん、この小鉢美味いッすね。どうやって作るか教えてくださいよ」
「おう、そいつはな…」
 嬉々として料理の作り方を説明するシンタローと頬を薄く染めながら楽しそうなリキッド。二人の顔を見ながらパプワは浅いため息をつく。
「ほらな、チャッピー。僕のいったとおりだろう」
「わう」
「どうせ遅かれ早かれ、リキッドも陥落すると思っていたんだ」
 呆れたようなパプワの口調に同調するかのようにチャッピーは何度も深く頷いた。
「シンタローは魔性の男だからな。リキッドみたいなヤツがひっかからないほうがおかしいんだ。それにしても…」
 パプワは肩をすくめて首を振った。コタローがやってきてからおぼえたお気に入りの仕草なのだが、まさに今の心境にふさわしい。
「シンタローにもちょっとは自覚してもらわんと困る」
 普段は無愛想なくせにふとした時に無防備に笑顔を振り撒いて、それで何人落としてきたことか。本人は無自覚なところがまた始末が悪い。
 ありえない、とか言っていたくせに夢中のリキッドと無邪気に魔性の笑みをこぼすシンタローを眺めながら、パプワはシンタローを中心にいろんな意味で賑やかになるであろう島を思って軽くため息を漏らす。
「でも、仕方ないかな?」
「わう」
 苦笑するパプワに、同意とも同情とも諦めとも取れる返事をチャッピーは返すのであった。
 パプワとチャッピーの視線の先にいるリキッドはすでにひとりで夢の国へと旅立ってしまっているようだった。







END。。。。。






『Do fancy yankee dream of playing with him in the flower garden?』












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リキッドにとって予想外の出来事であってもパプワくんにとっては想定の範囲内の出来事(笑)
パプワくんとチャッピーは書いていてたのしーなーと思うわけです。
前半書いててすっごく楽しかったです。しかーし!
恋に落ちる瞬間の描写って難しいですね。まだまだ修行が足りんですたい。

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それはあまりに雄大で。
あまりにも輝いていて。

同じほどの腕を備えた身でも。
煌めく色素を携えていても。

決して手は届かないのだと思い知らせるのです。



…………伸ばす腕を、知って下さい。



忘れ果てた回帰


 いつものように台所に立つすらりとした背の男。刻まれる包丁の音はリズムを取っているようで乱れがなかった。
 それを横目でちらりと見つめ、こっそりと動く影。
 先ほど男が何かを作っていたよう気に手を伸ばし、中にあるものをひとつまみ取り出した。
 しおしおとした少し濃い桃色に小首を傾げ、口にぽいと入れるのと男の声が響いたのは同時だった。
 「あ、こらチャッピー、食べるな!」
 「きゃうんっ」
 いつもの叱られたのとは違うチャッピーの鳴き声にびっくりしたようにパプワが声をかけた。
 「どうした、チャッピー」
 「きゃうん、きゃうん」
 「あーあ………だからダメって言っておいただろ?」
 先ほど作り終えた容器の蓋をもう一度閉め、清潔な布巾を水で絞ってシンタローがチャッピーの前にしゃがみ込んだ。涙目で見上げる犬はどうにかして欲しいと目だけで訴えている。
 「ほら、舌出して。まだ飲み込んでねーな?」
 出された舌の上でどうする事も出来ずにたたずんでいるものをつまみ上げ、軽く拭ってやる。それだけでもかなり変わるだろう。近くに置いておいたコップに水を満たし、チャッピーに渡してうがいを促した。
 ガラゴロとうがいの音が響く中、パプワが不思議そうにシンタローの手の中にある容器を見つめる。
 それがなんなのか、自分も知らない。先ほどシンタローが何か作っていて、でもご飯ではないようだったから、デザートなのかもしれない。
 デザートのつまみ食いなら自分もしたいけれど、チャッピーの様子からいって違うらしい。
 「それは一体なにが入っているんだ?」
 「ん? ああ、これは桜の花びらだよ。それを塩漬けしてんの」
 楽しそうに答えたシンタローの笑顔につられて笑いかけながら、その物体の用途がしれずに眉をしかめる。
 …………そんなものを食べたのだから、さぞチャッピーも驚いただろうと思いながら。
 「………………?」
 疑問を視線に溶かして投げかけたパプワに気付き、シンタローがしゃがみ込んでその視線を同じくした。さらりを長い髪が頬を滑る様がすぐ間近に見える。こうしてきちんと目を合わせ、言葉をまっすぐ向ける瞬間が、パプワは好きだった。
 「コレはお湯に薄めて香りを楽しむものなんだよ。だからこのままじゃ食べれないし、うまくもない。………解ったか、チャッピー」
 こっそり後ろで丸まって聞いているチャッピーに苦笑しながら声をかける。伸ばされた腕が優しくその毛皮を撫でているのを見てパプワはぎゅっとチャッピーを抱きしめた。………そうするとその大きな手のひらが自分の頭も撫でてくれる事を知っているから。
 柔らかな仕草で晒される慈愛の御手。
 心温まる絆の再現。
 ………決して、それは他者を介入させない。
 否、それらは全てが優しく、しかも決して内へ入り収縮する類いではなく、広がり数多のものを包む様相を示しているのだ。そう思う事こそが劣等感なのかもしれないと小さく息を吐く影が、一つ。
 自嘲気味な笑みを残し、吐いた息を飲み込むように唇を閉ざすとパッと笑顔を咲かせた。
 「シンタローさん、俺、昼飯の材料集めてきますね。パプワ、なにがいい?」
 楽しげに弾んだリキッドの声にきょとんと小首を傾げ、パプワがジッとシンタローを見上げる。
 どこか幼いその仕草を愛でる瞳は優しい。
 「なんでもいいぞ」
 「………それが一番困る回答だってーの」
 呆れたため息の中、シンタローはきちんとその言葉の含む意味を汲み取っている。だから零す笑みは柔らかく、照れたようにパプワの頭を少し力を込めて撫でた。
 微笑みを、零さずにはいられない風景。まるで絵画の中にしかないような美しき絆。決して現実にはあり得ないと思わせるほどの崇高さに、何故か痛む胸を持て余す。
 ほんの少し遠いところに立っているだけで、遥か彼方にたたずむような虚無感を感じるのはきっと、浅ましさなのだろうと思いながら……………

 てくてくとジャングルの中を歩きながら辺りを見回す背中を見遣る。
 彼が前を歩き、自分は後ろ。荷物持ちは強制ではなく志願したのだが、そうでもしないと一緒に材料集めなど同行させてもらえないような気も、する。
 思わず吐きそうになる息は重く、そんなものを晒したなら機嫌を悪化させるだろう目の前の人物を思えば落とす事も出来ない。
 「お、これこの島にもあるのか。パプワたち好きだから多めに持ってくぞ」
 「え? ………あ、これ……でも前に食いませんでしたよ?」
 差し出された果物を見て訝しげに首を傾げた。
 甘酸っぱくて果肉が少し堅い柑橘系の果物。そのまま出しても食べないだろうと思ってジャムにしたが、あまり好評ではなかった。そう思って疑問を口に出すと逆にシンタローは小首を傾げた。
 「そうか? 前ん時は砂糖漬けにしたの保存用に多めに作ったけど、全部たいらげやがったぞ、あの大食らいたちは」
 どこか楽しげな声で話す言葉は、軽い。ふと過る過去の姿。………考えてみると、まともに顔をあわせたのは前のパプワ島での戦闘の時だった。
 さぞ印象が悪いだろう事は自分への対応の冷たさで十分知れる。確かに一番はじめに彼の仲間に重傷を負わせたのは自分なのだから、なにも言い訳はないけれど。
 多分、自分が知っている彼の顔は少ない。なにせ晒されるすべてがパプワたちの為なのだから。
 自分の為にむけられた笑みは記憶にない。当然と言えば当然なのだろうけれど。
 「本当にシンタローさんはパプワたちの事よく知ってますね」
 苦笑を交えて僅かな羨望とともに呟いたのは、無意識。
 …………どちらへの羨望かさえ、あやふやだった。
 けれど呟いた途端に後悔する。どうせ回答は解っているのだ。自信の溢れ得たあの笑みで、当たり前だと言われるに決まっている。
 決して自分が入り込めない世界の、清艶なる絆の存在。伸ばす腕すら携えず、ただ傍観する事以外、為す術もない。
 いっそ潔く諦めて、加えて欲しいのだと声を大にして叫べばまだ救いもある。けれどそれすら出来ないのは多分に望みが違うからだと、解っている。
 溜め息を飲み込んで、与えられるだろう言葉に傷つかない為の準備をする。そうして見遣った視線の先には、けれど想像とはまるで違うものがたたずんでいた。
 振り返った影。揺るぎない雄々しい背中。風に揺れた長い黒髪が頬を撫で、静かに包む。
 そのひとつひとつが網膜に焼き付くように静かに流れた。
 瞬く瞳。どこか、憂いさえ乗せて。………自分の予想した回答が紡がれる事はないと、はっきりと示された。
 姿は変わらず、決して脆弱には見えないのに。………頑強であり揺るぎないと思わせるのに。
 それでもこんなにも儚く思わせるものは一体なんだと言うのだろうか…………?
 「なにも俺は知らねぇよ」
 静かに告げられた音。震えすら帯びず、力みすらない。ただ淡々と事実を語るように穏やかだ。
 そのくせ潔く頭(こうべ)すら下げかねない寂しそうな瞳に息が詰まる。………誰よりも何よりも互いを理解していると見えるのに。けれど決して解ってはいないのだと悲しげな音が囁いた。
 困惑して、干上がる喉をむち打ち声を上げる。掠れるような叫びに聞こえる見苦しさに舌打ちしたくなりながら。
 「だって…………!」
 あんなにも解りあえているではないか。望むものを互いに与えあって、それでも解らない事があるのなら、どうやって理解が通うと言うのか。
 自分は彼よりも長くパプワの傍にいた。それでも解らない事だらけで、途方に暮れる事の方が多い。
 全てに柔軟に対応し、慈しみ抱きしめ必要な時に必要なだけの腕と言葉と、信頼を捧げる。
 そんな理想的な事、他では決して見られない。……見られるわけがない。
 もどかしく言葉に出来ないそれらを喉奥に蟠らせて唸るように唇を噛む。どれほど、それこそ血反吐を吐く思いで訴えても、決して受理されないと肌で感じた。
 ゆっくりと瞼を落とし、それらの感情すべてを見極め受け流した瞳は常と変わらぬ威厳を甦らせて前方を見遣った。
 ………静かに細く吐き出された吐息を受け止めたのは、ただ前方に広がる柔らかな緑たちだけだったけれど…………

 空には星が煌めいている。シンタローはそれを見上げた。もう眠っているだろうパプワたちの寝息すら聞こえてきそうな静寂はそう体験出来るものではなかった。
 見上げた空の様相の見事さに感嘆を覚え、同時にその不可解さに面白みが込み上げる。海底の奥底に沈んだ島にありながらここには太陽があり星がある。前に島と変わらない静けさと美しさ。
 息を吸うごとに浄められるような不可思議な感覚。身の裡の奥底で凝り固まったものを柔らかく溶かしてくれる。
 ゆっくりと落とした瞼の底、過去に映されたのはかつての島だった。
 けれど今は、ガンマ団の面々も浮かぶ。かつては切り捨て自由になる事ばかり考えていたのに、今はあの場もまた、自分の帰る場所と変わった。
 「……………………」
 息を落とし、微睡むように頤を下げた。呼気は静まり眠りを誘うように風が作り上げた木々の歌声が身を包んだ。
 けれど眠りは訪れない。不意に感じ取った気配にそれらは妨げられた。
 殺された足音。滲ませる事のないように気づかわれた気配。木々の密集した場では見事という他ないほどその気配は無音を身にまとって近付いて来た。その静寂さが逆に奇妙に虚空に残されてはいたけれど。
 小さく息を吐き、眼前の人を見遣る。起き上がってどこかに消えたから散歩程度かと思えばなかなか帰ってこなかった。………このままではパプワたちも起きてしまうのではないかと危惧して探してみればこんな間近な場所で眠りこけている。………本当に、よくわからない人だ。
 誰よりも何よりもかつての島を愛し、そこに住う命をかけがえのないものと尊んでいるくせに。
 誰よりも何よりも漂流した命を思い、手放せないと思い寄せているくせに。
 この二人はそれでも決して同じ道を進もうとはしない。離別を、いっそ潔いまでに受け入れ、そうして進む強さ。
 見ていてどれほど歯がゆいものかなんて、当の本人たちは知りもしないのだろうけれど。
 それほど人は強くはないのだ。自分を理解してくれるものを、手放す事などできない。……それなのにただ相手が喜ぶからと、別離すら受け入れ笑う根拠が、リキッドには理解できない。
 「……もし………」
 小さく息を飲み呟いた、声。
 聞き届けられる事のない事を願い晒された音は、けれど続きはしなかった。言いたくなかったと自身で解っていた。
 彼が自分の代わりにこの島に残ったならどれほどの幸があっただろうか。彼は強く、自分に出来ない事だって何でも出来る。正直、ここまで完璧な人間を自分は知らない。苦手とする分野すらない彼が信じられない。
 それでも、あるいはだからこそ、か。彼はこの島を探すのではなく舞い戻り組織を改革した。
 ………自分の生きる意味を知っている事は、幸福なのだろうか?
 そう問いかけたくなる。
 ただ我が儘に己の為にだけ生きればいいと、自分は思うのに。二人はそれでは笑えないのだと、笑う。
 夜気が忍び寄り、風が少し強く肌をなぶった。南国の島のようであり、けれど海底に沈んだこの島は時折吹く風がひどく冷たい。
 それに思考を舞い戻らされたリキッドは膝を折りシンタローの前にしゃがんだ。やはり起こして帰った方がいいだろうかと一瞬悩み、腕を伸ばす。
 風が、吹きかける。漆黒の髪を揺らし、青い月影に晒された肌を影に染める。
 眩く輝く己の髪とは対極にあるそれを眺める。思いのほか長い睫毛が色濃く影を落とし、風に揺れる様すら見て取れる距離。………決して、自分には許されないだろうと諦めていたのに。
 伸ばす腕が触れる事が出来る。ほんの少し近付けば重なる肌。
 呼気すら埋(うず)めて、無意識に風に押されるように身体が揺れる。
 …………あと、ほんのすこし。
 落とされた瞼の先には鮮やかな彼の姿。自分ではない誰かが傍に居て初めて晒される彼の本質。
 痛みを飲み込むように寄せられた眉。悔恨すら覚悟して近付けられた唇は、緩やかな呼気に触れて弾かれるように身を離した。
 触れる事すら、罪な気が、した。
 口吻けるだけでなく、その身にまとう空気すら穢す事が出来ない。
 彼の事も、彼の思う子供の事も理解できない自分に、触れるような資格すら、ない。
 噛み締めた唇で苦みを飲み下し、ゆっくりとリキッドは立ち上がる。
 せめて夜風に凍えないように毛布くらい持ってこようと歩む背は、それ故に気付かない。
 ゆっくりと開かれ微睡む仕草のままに見遣った視線に。
 「………度胸ねぇな……」
 噛み締めるような声音に己で小さく笑う。

 触れて来たならどうするかすら考えていない身で、その言もないだろうと再び瞼を落とした。
 もう少し、またあの男が来たなら目を覚まし帰ろう。
 きっと子供が自分がいないと不機嫌に顔を顰めて布団にうずくまっているだろうから……………



rss

何処か遠くで鐘が鳴り始めた。
百八つの煩悩を落とすという、除夜の鐘が。



YOUR PLACE, MY PLACE



「―――あれ? 鐘、鳴り出した?」
炬燵で蜜柑を食べていたシンタローが顔を上げた。
ガンマ団総帥としての仕事も一応昨日で終わり、ほんの数日だが休暇を貰って帰ってきたシンタローは普段出来ないことをするのだといってお節料理の作り方を家政夫に指導したり(或いは殴ったり)大掃除が出来ているかチェックしたり(或いは蹴りを入れたり)していた。
蜜柑の皮を剥いていたリキッドも耳を澄ませる。
「あ・・ほんとですね。もうそんな時間なんだ」
二人で暮らし始めて半年になるこのマンションの部屋は静かなものだった。
元々防音も完璧なのだが、年末年始を迎えて住人自体が少なくなっているらしい。
海外旅行行く人も多いみたいですよ、とリキッドが笑う。いつもの井戸端会議で聞き込んできたものとみえた。
「そういえばシンタローさんはいつも大晦日は何してたんですか?」
「去年までは親父やグンマやキンタローと一緒だったな。あの馬鹿親父が張り切るもんだから、付き合わされるこっちはいい迷惑だったぜ。結局最後は大喧嘩になって、眼魔砲撃ちあってるうちに年を越してるって感じ?」
「うわあ~・・想像が出来すぎて怖いんですけど・・・」
「おまえは?」
「俺は特戦の虐めっ子達のパーティに招ばれてました」
「へえ~vハーレムもいいとこあんじゃん。元部下を忘れねェなんて」
「んないいもんじゃないっす! 下僕兼家政夫兼余興の色物として呼ばれるんですから!」
口を尖らせるリキッドに思わず笑い出して二つ目の蜜柑に手を伸ばした。


実を言うと今年も家族でのパーティには招待されていた。
リキッド君も連れておいで、と父親は笑った。
従兄弟達もそのつもりのようだった。
何より、お兄ちゃん絶対来てよねという可愛い可愛い弟からのメッセージは強烈な誘惑だった。


けれど断腸の思いで首を振った。



「色物って何すんだよ?」
「まあ、何でもです。隊長の気分しだいで女装でもコスプレでも」
「げっ・・見たくねえ」
「意外と好評だったっすよ?」
「俺の前じゃあ絶対すんなよな」
「しませんよ!」
眉をしかめるシンタローに思わず憤慨しつつ、三つ目の蜜柑をその前に置いた。


実を言うと今年も特戦部隊のパーティには来いと命令されていた。
あのクソガキも一緒でいいぞ、と元上司は笑った。
元同僚たちもそのつもりのようだった。
四年間虐め抜かれた記憶はまだ身体に残っていて、つい頷いてしまいそうになった。


けれど踏み絵を前にした隠れキリシタンもかくやといわんばかりの覚悟で首を振った。



リキッドはシンタローが家族の誘いを断ったことを知らない。
シンタローはリキッドが元上司と同僚の恐喝に逆らったことを知らない。
でも想いは何となく通じ合っている。
互いが、自ら望んで今ここにいるのだと分かっている。


(今日はどうしてもこいつと二人だけでいたい)
(今日はどうしてもシンタローさんに側にいて欲しい)


―――だって今夜は、二人が一緒に迎える初めてのNew Year’s Eve だったから。


 
あ、とリキッドが声をあげた。
時計の針は、十二時を過ぎていた。


リキッドがいきなり炬燵を出て正座する。
「シンタローさん!」
ぴたりと両手を突いて頭を下げるリキッドに、シンタローも釣られて思わず座り直した。
「なっ・・何!?」
「ここここんな不束者の俺ですけどっ・・今年も宜しくお願いします!!」
そう言った声は裏返っていて、何だか笑いそうになって困った。
だけどもっと困ったのは、何故だか分からないがちょっと泣きそうになったことだった。
「こちらこそ」
目の前の金色と黒の頭をくしゃくしゃと撫でてやる。


「宜しくな。今年も来年も再来年も、―――その先もずっと」



吃驚したようにぱっと顔を上げ、やがて青い瞳は嬉しそうにふわりと微笑った。
近づいた唇がシンタローの名を形づくる。
瞬きもせずに今年最初のキスを受け止めたシンタローの瞼がやがてゆるりと閉じた。
除夜の鐘はもう、聞こえない。


「捨ててこいよ」
それは耳を疑うような言葉だった。
言葉を失くして立ち尽くしている俺にシンタローさんはもう一度言ったのだ。
捨ててこいよ、と。



WHITE CHRISTMAS



俺は玄関前の植え込みの陰にそっと箱を置いた。
「ごめんな。いい人に拾われてくれよな」
心がしんと冷えているのは、凍えるような寒さのせいだけではなかった。
みゃん、と小さな声が答える。
つぶらな瞳を一杯に見開いて俺を見上げているのは、掌に乗りそうな小さな子猫だった。

「捨ててこいって、・・・こんな寒い夜に外に置いといたら死んじまいますよ!」
「仕方ねえだろうが。このマンション、ペット可じゃないだろ」
「シンタローさん・・」
「情が移る前に早く捨ててこい」

―――なんか、ものすごいショックだった。


シンタローさんは基本的に面倒見のいい人だ。
たぶん、誰かが困っていると放っておけないのだと思う。だからマンションの玄関に捨てられていたこの黒い子猫を俺が拾って帰った時も、きっと喜んでくれるだろうと思ってた。
飼っていいとまでは言ってくれないにしても、こんな真冬の夜に表に放り出すような真似はしないと信じていた、それなのに。
「おまえ・・朝までちゃんと生きてろよ」
ちょんとつついた指を、子猫はがじがじと噛んでいる。
「明日になったら俺が行き先を探してやっから」
俺の言葉が分かるのか分からないのか、猫はまたみゃんみゃんと歌うように鳴いた。
立ち上がった俺を引き止めるかのように精一杯背伸びして、段ボール箱の縁に前足をかける。
みゃおぉん、と語尾を伸ばした声がまるで、
―――行かないで。
と言っているように聞こえて、俺は足早にマンションに入った。
部屋に戻るとシンタローさんはもうベッドにもぐりこんで背を向けていた。
「捨ててきましたよ」
(明日はクリスマスなのに)
「今夜は冷えますね」
(楽しみにしてた日をこんな気持ちで迎えるなんて)
「夜中過ぎには雪が降るかもって天気予報で言ってました」

返事はついに、返ってこなかった。


部屋の中の空気の余りの冷たさに俺が目を覚ましたのは午前二時頃のことだった。
「あれ・・・?」
隣に寝ているはずのシンタローさんの姿が無い。トイレかな、と思ってシーツが冷え切っていることに気づく。それはついさっき抜け出したというような冷え方ではなかった。
「どこ行ったんだろう・・」
ベッドを出ると部屋の中はぞっとするほど寒くて、俺は思わず身震いをしてコートを羽織った。
だがリビングにもキッチンにもシンタローさんはいなかった。
俺は途方にくれて部屋の中を見回した。本格的に混乱していた。
―――こんな夜中に家出!?
まさか、さすがにそこまでは考えられないだろうと思った途端、心の中に閃くものがあった。


エレベーターホールに出てきた俺は、膝が抜けそうなほど安堵していた。
ドアの向こう、植え込みに向かってパジャマのまましゃがんでいる背中は見慣れた人のものだった。音を立てないようにドアを開き、そうっと近づいてみる。
「・・・ごめんな」
ぎくりとして立ち止まった。だがすぐに、その言葉が誰に向けられたものか気づく。
シンタローさんは小さな小さな黒猫を抱き上げていた。
「飼ってやりたいけどさ、おまえはすぐに死んじまうだろ」
手の温もりが心地良いのか、子猫はシンタローさんの手の中で大人しく丸まっている。
「おまえは俺達みたいには生きられないもんな。俺はさ、誰かが目の前で死んでいくのを見るのはもう嫌なんだ」
み~、と小さく子猫が答える。
「別れるのってつらいだろ・・・その相手を、大切に想えば想うほど」
頭をなでた指に、黒い子猫はすりすりと身を寄せた。
「だから、―――ごめん」
名残惜しげに子猫を箱の中に下ろし、立ち上がって振り向いたシンタローさんが凍りついた。
「リキッ・・・!!」
「・・・心配したじゃないすか」
「何――おまえいつからそこに」
「風邪ひきますよ」
シンタローさんは口を開きかけてまた閉じた。
何か言いたいのだけれど言葉が出てこないらしい。
こんなに狼狽えているシンタローさんを見るのは初めてだった。
俺はシンタローさんの手を取った。かじかんだ手は冷凍肉のように冷たかった。
(こんなに冷えて)
「上着くらい着ないと」
(そんなにこの子猫のことが心配で?)
「俺は別に・・その・・・」
「いいから黙って」

必死に言い訳を探している愛しい人を、力の限りに抱きしめた。


「おい、ヤンキー・・・」
「俺だって死ぬんですよ、シンタローさん」
腕の中で、冷えた身体がぴくりと強張る。
「明日にもいなくなっちまうかもしれないんです。俺だって、アンタだって」
「・・・・」
「だからって出逢わなかったほうがいいなんて、絶対に俺は思いません」
「リキッド―――」
「誰かが死んでしまうと悲しいのはその相手が大好きで大切でかけがえのない存在だったからで、だけどそれだけの・・・ううん、それ以上に楽しい思い出がたくさんあったからで」

(そうだ、俺達は)

「だから、何かを愛する前に失うことを怖れないで下さい。俺は、例え出逢ってから五分後に死んでしまう運命だったとしても、やっぱりシンタローさんと出逢ってシンタローさんを好きになりたいと思うから」

やっぱり返事は無かった。
でも俺の肩に押しあてられた額と、そっと背中に回された手の力が、シンタローさんの気持ちを教えてくれた。


「こいつ連れて帰りましょうよ、シンタローさん。俺がちゃんと飼い主見つけますから、それまで俺達の部屋に置いてやりましょ」
「・・・」
「ね、こんな日なんだし」
「こんな日って―――あ、そうか・・・」

そうだ、今の今まで忘れてたけど。
日付が変わったから、今日はもうクリスマス・イブなんだ―――。


シンタローさんが子猫を抱き上げてパジャマの中にすっぽりと入れる。
コートを脱いでシンタローさんに着せ掛けた時、空から白いものが舞い降りてくるのが見えた。
「雪ですよ、シンタローさん!」
「ほんとだ!」

ホワイトクリスマスだな。
そう言って笑う恋人をもう一度しっかりと抱き寄せた。


次の日俺達は手作りのディナーとケーキでクリスマスを祝った。
飾りつけをしたツリーの周りを駆け回っていた黒猫は、一週間経ってもまだうちに居る。

rs

  ウインター・ワンダーランド


片づけを終えて戻ってきてみると、パプワとチャッピーはもう眠っていた。
ささやかなお祝いはいつの間にか島のナマモノたちも巻き込んで、大宴会と化していた。さすがの最強ちみっ子も疲れたのだろう。
ふわりとシーツを被せたのは、長い黒髪を一つに結った、俺を複雑な気分にさせる人だった。

パプワのために「失いたくない」。
コタローのために「奪いたくない」。
―――そして俺のために、「帰したくない」人。

「シンタローさん」
随分と気をつけて小声で呼んだつもりだったが、唇に人差し指を立てられて、俺は慌てて口をつぐむ。
誕生日おめでとう、とみんなに言われていたけど、シンタローさんに言われたときが一番嬉しそうだった、と思うのはきっと俺だけじゃない。
幼い寝顔を見つめているシンタローさんもまた、穏やかな表情だ。
「こんな南の島でも、さ」
囁くような声が聞こえてきた。
「クリスマスってのはちゃんと来るもんなんだな」
「そりゃそうっすよ」
隣に音をさせずに座り、俺は笑顔を作ってみせる。

1年がたてばクリスマスはやってくる。
来年も、その来年も、そのまた来年も暦は淡々と続いていく。
俺が知りたいのは、そこにあなたが居るかどうか、だけで。

「クリスマスなのに、下に置くプレゼントがねェや」
ごめんな、とパプワとチャッピーの寝顔に笑って、シンタローさんはゆっくり立ち上がった。
トシさんが取ってきてくれた木には、カラフルな飾りつけがしてある。折り紙で作った星を指でつついている横顔に、胸が締めつけられた。
「じゃあシンタローさん、朝になったらそこに座ってたらどうっすか?」
「はぁ?」
「プレゼントに」
ニッと笑ったら、同じ笑顔が返ってきた。
「ふざけんな、何されっか分かったもんじゃねえよ」
「はは、確かに」
だけど、これ以上のプレゼントなんて考えられない。
笑っているあの人にそっと近づいて、腕を掴んだ。
「ん…?」
軽く(残念だけれど本当に軽く)触れ合った唇は、柔らかかった。

「~~~ッ!!」
正確に2秒後、俺は頭を抱えて蹲っていた。
「オメーな…これはヒイラギどころかモミの木ですらねーだろうが!」
俺の頭、「めけょ」って言った。絶対言った。
「つ…掴まないで下さいよ!」
「うるせえ、これで済んだだけありがたいと思え!」

やっぱり小さな小さな声で言い争う俺たちを見て、モミの木ですらないツリーが笑った気がした、聖なる夜のお話。

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