「シンタローさんって甘いモン好きなんっすか?」
洗い物をしてる途中、ヤンキーがんなことを聞いてきた。
「……別に、特別好きじゃねぇ」
そりゃ良く作るしな。そう、作るのは好きだ。
けど恰好つかねぇだろ? 総帥が甘いもんが好きだなんて。
そりゃあ、いくらなんでもグンマほどじゃねぇけど……。
……そーいやあいつ、リンゴと蜂蜜大量に入れねぇと、俺の作ったカレー食わないんだよな。
この間はこれでもかってほど練乳と砂糖かけたフレンチトースト食ってたし……。
思い出すだけで胸ヤケがするぜ。
いや、グンマはともかく、体裁ってもんがあるだろーが。
「シンタローさん、嘘つくんならもっとうまくついて下さいよ?」
顔そらしてから言っても説得力がねぇか。
人のこと、余計なトコまで良く見やがって。
「何で隠すんっすか?」
「うっせぇなぁ。好きじゃねぇって」
聞くんじゃねぇよ。
くだらねぇ意地だってことくらいわかってんだからよ。
「シンタローさんってば」
ああもぅ、うるせぇな。
今日やけにしつこいぞ? お前。
「別にいいだろ。どっちだろうと。何でそんなに気にするんだよ」
俺が甘いもん好きだろうが嫌いだろうが、そこまで気にすることか?
……ああ、おやつ作りに関係あるか。
つーか、だったら最初に答えただろうが。
あれだけじゃ満足しねぇか?
「だって、好きな人のことは知りたいもんでしょう?」
…………。
「……馬鹿か」
ヤバイ。
「まぁ、馬鹿ですから」
今、絶対顔赤い。
くそっ、気にいらねぇ。
こいつの方が上手みてぇじゃねぇか。
ヤンキー崩れのくせに生意気だ。
「じゃ、俺おやつ用意するっすね。……甘くしましょうか?」
余裕顔でそう言うこいつにムカついて、結局手が出る。
「俺で遊ぶなんざ100年早ぇんだよ馬鹿野郎!」
「痛ぇ~。……へへっ、はい。分かってるっすよ」
妙に幸せそうな顔をして笑う様が、腹立たしくて、結局、もう一発拳骨をお見舞いした。
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……全く、番人のくせに転んで手首捻るなんざ、身体鈍ってる証拠じゃねぇのか?
利き手おかしくしたんじゃあ、家事もろくに出来ねぇだろうに。
「痛っ! ちょっ……! 優しくしてくださいよ! 怪我人なんっスから!」
「なぁにが怪我人だ。捻っただけだろ。」
この前包帯の礼だ。せいぜい痛がってろ馬鹿野郎。
この俺が直々に手当てしてやってるだけ、有難いと思え。
つーか、治るまで俺が家事受け持ちかよ。
嫌いじゃねぇけど……、こいつが休んでるってのが勘に障るな。
働けよ家政夫。
「酷いッス……。」
「ばぁーか、甘えてんじゃねぇ。」
掃除、洗濯、飯の仕度……やる事は山ほどあるんだ。
お前に構ってやる暇はねぇよ。
だからそういう目で見んな。……無視だ無視。
そりゃ、右手ギブスしてた時は俺も世話になったとは思ってるけどよ。
……まぁ言ってやる気はねぇ。
こいつ妙に嬉しそうだったし。
……なんか腹立つ。
「だいたい、こんな事くらいで負傷するなんざ、てめぇ、俺がいなかったらどうする気だよ。」
左手で包丁持つのか? 危なっかしい。
つーかそんな料理をパプワに出してみろ、どうなるかわかったもんじゃねぇ。
「あ……その、俺、手伝いますから。」
……あー、もう、そういうことじゃねぇんだよ。
「シンタローさん?」
「……治るまでだからな」
それ以降は知らねーぞ、俺は。
「へ……」
『へ』じゃねぇよ。分かれよ! ったく……。
「いいから座ってろ、ウロチョロすんなよ。邪魔だ」
「え、はぁ……」
何だその煮えきらねぇ返事は。
「あの……」
「ああ?」
文句でもあんのかコラ。
「その……すんませ……いえ、ありがとうございます」
…………別に。
「仕方なく、だっての」
お前の為とか、そんなじゃねぇし。
「はい」
だから嬉しそうに笑うんじゃねぇ。
前髪をかきあげられて、額に柔らかな感触。
口付けだと気付くのに、そう時間はかからなかった。
恥ずかしいから止めろと言っても聞きやしねぇ。
普段へらへら笑ってるくせに、たまに真剣な顔をしたかと思えば、こんな事しかしない。
全く、何考えてやがるんだか……いや、それは前に聞いたな。
しかもこいつ「貴方の事です」とかなんとか、馬鹿正直に答えやがった。
馬鹿だこいつ。
馬鹿ヤンキー。
「シンタローさん……」
ああ、まただよ。
こいつがこんな風に名前を呼ぶ時は、決まって俺を困らせる。
声が震えるほど思い詰めて、そうしてやっと吐き出すんだ。
「誰にも、渡したくないんです」
はぁ?
何だそりゃ?
俺のことか?
「けど、俺は貴方を縛ることなんか出来ないから」
当たり前だ馬鹿が。
第一、俺はものじゃねぇ。
「ずっと、”貴方”でいて下さい」
「…………」
「…………」
何言ってんだこいつは。
「……我侭言ってんじゃねぇ」
「……そうっすよね……スンマセン」
……そうやって、無理してへらへら笑うな。
お前のそういうところが嫌いだ。
そうやって無自覚に他人を傷つける、性質の悪い奴。
だから俺が悪いみたいだろーが。ふざけんなよ。
「俺はてめぇになんか従わねぇよ」
我侭なんて、絶対きいてやんねー。
「……その、今の、忘れてくださいね! どうかしてたっすよ俺っ……」
……だから、これは俺の意思。
別に絆されたわけじゃねぇからな。
そこんとこよく覚えとけ。
「俺は俺にしか従わねぇよ」
俺の意思は俺のもんだ。
お前に声をかけんのも、
こうやって触れんのも――――。
まさか、文句はねぇだろ?
「痛っ……! 痛いって! ふっざけんな、てめぇ!」
「す、すんませんっ……」
痛みに耐えかねて声を上げると、触れていた手が慌てて離れた。
腕を自分のほうに引き戻して、巻かれたそれを一気に解く。
「痛っ……血ィ止まるだろうが!」
「だ、だって、シンタローさんがきつめにしろって……」
「馬鹿か! 加減しろ加減!」
だってじゃねぇよ!
誰が血が止まる程きつくしろって言った?!
少しばかり動いても解けないくらいにしろって言ったろうが!
……ったく、包帯もろくに結べやしねぇのかコイツは。
使えねぇヤンキーだ。
「貸せよ。自分でやっから」
しゅんとした顔で俯いている(俺が悪いみてぇだろうが)馬鹿から、包帯を奪い取って、 ……しかしどうしたもんかと考える。
右手が塞がっている状態で、(だからギブスってのは嫌なんだ。全く面倒くせぇ)
左手にこれを巻いてくのは、容易じゃない。
仕方なく、伸ばした包帯を口で抑えてどうにかそれを巻いていく。
かなり不恰好になるが……。
それも仕方ない。役に立たねぇヤンキーに頼ってられっか。
こっちの方が数倍はマシだ。
「何か……」
「あん?」
「口使うってヤバイっすねー……」
「はぁ?!」
何口走ってやがるこの馬鹿。大体誰せいだと思ってんだ。
「すんません、ちょっと我慢できないっす……」
「な……! 俺が知るかっ! さりげなく上に乗るなー!!!」
この人は結構世話好きだ。
何だかんだと言いつつも、パプワ達の世話をやいている。
家事に何かと口出しするのも、俺の世話をやいてくれてるんだ……と思いたい。
……それなら、
例えば、俺が小さかったら、もっと優しかったんだろうか……。
……なんて、とてつもなくくだらないことを考えていたら、
「……何でだよオイ……」
縮みました。
「……小さい……」
というか周りが大きい。
台所に立てないんだけど……。
……って! そうじゃなくて!
いやいやいや! おかしいだろって! おい!
夢だろ夢。
さっきちょっとうとうとしたのがいけないに違いないっ。
……あ、頬痛いや。
ああ、でも、頭のどこかで「まあこの島だしな」とか思ってる自分がいるよママ!
はっ! こんな時に万が一UMA子が来たら俺死ぬんじゃ……!
瞬間、ガチャリと音を立てて扉が開く。
ウマ子か、違う誰かか……。
まさに生きるか死ぬか。
「ったく、あのナマモノどもめ……」
……シ ン タ ロ ー さ ん で す 。
ありがとう神様!!
そして早く気付いてシンタローさん!
何だか機嫌悪そうに帰宅したその人は、俺を見るなり思い切り怪訝そうな顔をした。
「…………」
「ど、ども……」
いや、そんな見つめないで下さいよ。
照れますって。
「ついに人攫いにまで手を出したか、あのヤンキーは」
……酷っ! 俺はアナタみたいに美少年好きじゃないですから!!
……って言ったら殺されるよな。たぶん。
「……? なんかその髪色は見覚えが……」
気づかれてないんだ……?
「シンタローさん、その……わかりません?」
「…………リキッドか?」
遅いです。
「何小さくなってんだてめぇ」
すんません、気付いたとたんになんでそんな態度変わるんっスか。
「その、俺にもよくはなんて言うか……小さいけれど頭脳は大人?」
「てめぇは頭脳もガキだろ」
その通りといえばその通りなんですけどね。
「いつかの放電現象と同じで原因不明、か」
「はい……。ご迷惑かけます」
あの時は一晩で治ったけど。
今度はどうなることやら。
「なら、前みたいにほっときゃ治るだろ」
「で、でも家事が……!」
「お前、それで台所立つ気か?」
確かに、この姿じゃあ台所まで届かない。
「いいからその辺座ってろ」
昼飯の準備を初めながら、言い切られて、そうなると俺は座ってるしかないわけで……。
……気まずい。
「あ、あのっ、手伝……」
「いい」
何か怒っている様で、心臓が締めつけられる。
「怒ってるんすか……?」
番人として無防備過ぎる俺に。
「違ぇ」
ああ、やっぱ怒ってる。
「すんません」
「違ぇって言ってんだろ」
「だって声が怒ってるじゃないですか!」
「怒ってるんじゃねぇ!」
てっきり尖った目線を向けられると思っていたその顔は、意外なくらい赤くて、一瞬、とうとう俺の目が駄目になったのかと思った。
「シンタロー、さん?」
「っ……!」
直ぐに顔をそらしはしたものの、赤みが引くことはなくて、バツが悪そうに俯むいたまま黙り込んだ。
「どうしたんっすか?」
言いながら原因を辿る……。
一体何……あ。
「あの、もしかして、照れてます……?」
「ばっ……!違ぇよ!」
ビンゴ。
美少年好きだもんなぁ、この人。
え、俺美少年? ……あー金髪だから?
この金髪美少年好き!
普段がそうなら良いのに……。
こんな風な姿なんて、そうそう見れるもんじゃないから、今の内に見ておこう、うん。
可愛いなぁ、この人。
「シンタローさん」
「……ぁんだよ」
赤くなった顔を隠す様に顔をそらしたまま、機嫌悪そうに答える。
「キスしてもいいっすか?」
「ばっ、いっ……良いわけあるか!」
普段なら殴られかねないけど。特権はフルに活用して、ね?
「何でっすか?」
「な、んでって……」
あぁ、もぅ、誘ってる様にしか見えませんよ?
「キスだけですから」
「~っ、勝手にしろっ」
じゃ、遠慮なく。
この身長差だから、屈んでもらうしかないんだけど。
とても子供らしくとは言えないよな。俺も。
「んっ……」
すっかり小さくなってしまった手で、両頬を包む。
子供特有の体温がやたらに高い、弾力のある掌がくすぐったいのか、身じろぐ彼も可愛いだなんて……?
卑怯だなぁ俺。
「んだよ、早くしろ」
命令口調です。
全くこの人は……。
絶対素直になんかならないんだから。
「何笑ってんだ」
だって……ねぇ?
「……止める」
「うわっ、すんませんっ!」
しばらく見てたいとか言ったら絶対怒るだろうから、これ以上機嫌が悪くなる前にしてしまおうとか、俺も大分慣れてきた感じ。
不意をついて頬に置いた手ごと引き寄せ、深く交わす。
「んんっ……」
不意をついたからか、酸素が取り込めないらしく、苦しそうに眉を寄せる。
「っ……はぁっ」
いや、そういう顔はヤバイですって。
は、歯止めが……。
ぼんっ
やたらわざとらしい爆発(と呼ぶのも大袈裟な)音とともに、目の前がチカチカと点滅した。
「な、何だっ?」
まだはっきり見えない目で、正面にいた筈のシンタローさんを見る。
「……」
え……何その不機嫌そうな顔。
「戻ってんぞ、お前」
「へ……」
慌てて自分の手を見る。いつものごつい手だ…。
「ぅわっ! 戻ってる!」
ああ、あれですか?
姫のキスで魔法が解けたみたいな……?
メルヘンだよな。
「遅ぇよ。オラ、退け」
あ、あの……扱い違くありません?
「……退けよ」
いや、今更退けと言われても……。
「すんません、ちょっと、歯止めが……」
効きません。
いや、やっぱり無理でした。
「っおい!止……!」
何か言おうとする口を重ねて塞ぎ、押し戻して来た腕を重力任せに押し返す。
「っ……おいって!」
抵抗を示しつつも、本気じゃない彼が愛しくて、そのまま行為を進める。
とりあえず、眼魔砲が来ないことを祈っておこうと思います。