前髪をかきあげられて、額に柔らかな感触。
口付けだと気付くのに、そう時間はかからなかった。
恥ずかしいから止めろと言っても聞きやしねぇ。
普段へらへら笑ってるくせに、たまに真剣な顔をしたかと思えば、こんな事しかしない。
全く、何考えてやがるんだか……いや、それは前に聞いたな。
しかもこいつ「貴方の事です」とかなんとか、馬鹿正直に答えやがった。
馬鹿だこいつ。
馬鹿ヤンキー。
「シンタローさん……」
ああ、まただよ。
こいつがこんな風に名前を呼ぶ時は、決まって俺を困らせる。
声が震えるほど思い詰めて、そうしてやっと吐き出すんだ。
「誰にも、渡したくないんです」
はぁ?
何だそりゃ?
俺のことか?
「けど、俺は貴方を縛ることなんか出来ないから」
当たり前だ馬鹿が。
第一、俺はものじゃねぇ。
「ずっと、”貴方”でいて下さい」
「…………」
「…………」
何言ってんだこいつは。
「……我侭言ってんじゃねぇ」
「……そうっすよね……スンマセン」
……そうやって、無理してへらへら笑うな。
お前のそういうところが嫌いだ。
そうやって無自覚に他人を傷つける、性質の悪い奴。
だから俺が悪いみたいだろーが。ふざけんなよ。
「俺はてめぇになんか従わねぇよ」
我侭なんて、絶対きいてやんねー。
「……その、今の、忘れてくださいね! どうかしてたっすよ俺っ……」
……だから、これは俺の意思。
別に絆されたわけじゃねぇからな。
そこんとこよく覚えとけ。
「俺は俺にしか従わねぇよ」
俺の意思は俺のもんだ。
お前に声をかけんのも、
こうやって触れんのも――――。
まさか、文句はねぇだろ?
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