■SSS.13「ガラスのシャワー」 キンタロー×シンタロー何かが頬を掠めた。その瞬間、焼け付くような熱と圧し掛かる力を感じた。
「シン…」
俺に圧し掛かかり床へと押さえつける従兄弟は名を呼ばせなかった。
「黙れよ」
起き上がるな、と声を潜めて言う。
頬はいまだ熱を持っている。じくじくとした熱とわずかな痒みに眉を顰めてしまう。
状況はまだつかめていない。
此処へは商談で赴いたのだ。
「大統領は所要で席を外している、しばらくそこでお待ちください」
と案内役の軍人に言われ、ガラス張りの執務室へと従兄弟と二人通されたのだ。
部下達は皆、此処に辿り着くまでに体よく追い払われている。
この部屋に通されるまでの様子もそもそもおかしかった。
ぎらついた殺気を隠しきれない軍人や不穏な目つきの秘書官たち。
人払いを望んでいると言われて、SPまでもが追い払われたのだ。
壁へと目を向けると蜘蛛の巣のように割れたガラスが目に付いた。
高層ビルが林立したこの地区においてガラス張りの部屋を狙い済ますことなど容易いことだろう。
クリーンな政治をアピールしたこの部屋が仇となった。
四方八方がガラス張りのこの部屋では俺と従兄弟は格好の標的だ。
折り重なって伏せたまま、神経を研ぎ澄ませ、敵の気配に集中する。
きらりと白いひかりが前方で光った。肩越しに従兄弟に「眼魔砲を撃つ」と囁く。
同意ととともに俺の上に乗る従兄弟も手を構えるのが見て取れた。
左右には敵の気配は感じられない。周囲をすべて囲むのではなく、挟み撃ちにしようと考えたのだろう。
俺と従兄弟の二人だけを始末すればいいのだから、その分待機している部下たちへと暗殺者が殺到しているに違いない。
再び、視界にきらめきが映った。
間髪いれずに意識を掌へと向ける。片方の瞳に力が漲るのを感じる。
「「眼魔砲」」
呼吸を合わせた訳でもないのに、声が重なる。
まるで双子のように、いや従兄弟は俺にとってそれ以上の絆を持った存在なのだ。
俺たち二人の体を包み込むように青白いひかりが辺りを照らす。
爆発音とともにガラスが盛大に割れる音が響いた。
ぱらぱらと天井のタイルが落ちてくる。室内の状況は惨々たる物だった。
同じタイミングで眼魔砲を撃ったこともあるのだろう。
あまりの衝撃に狙ってもいない左右のガラスまでもがひび割れている。
爆風によってガラスの破片もそこらじゅうに落ちていた。
上体を起こし、従兄弟を抱えなおす。
向かい合った形で俺の胸へともたれる姿勢になった従兄弟がそっと俺の頬を撫でた。
「弾、掠っただけだったな…」
銃弾は頬を掠めるだけで皮膚の下の血管までは切り裂かなかったようだ。
忘れていた頬の痛痒さが従兄弟の指によって甦ってくる。
手を伸ばし、指をそっとそこから外させる。
従兄弟の温かみが離れると、外気の冷たさを強く感じた。
「おまえに怪我がなければいい」
目の前の従兄弟の皮膚を裂いていたのなら、自分は眼魔砲の威力を容赦しなかっただろう。
隣のビルから狙った射撃犯の周囲だけでなく、ビルのすべてを瓦礫へと変えていただろうと思う。
温かな指を握り締めたまま、そう口にすると従兄弟は「馬鹿じゃねぇの」と言った。
「ガラス吹き飛んじまったな」
残念そうに従兄弟が呟いた。だが、それは仕方がないだろう。
襲撃されるまでの間、この部屋で従兄弟はしきりに展望台みたいだとはしゃいでいた。
よほどガラス張りの部屋が気に入っていたのだろうか。
「ガンマ団にも作るか?」
景色が一望できていい、と言っていた。そんなに気に入ったのならば、作らせればいいのにと思っていたのだ。
総帥である従兄弟が命じれば、すぐにでもそんな部屋はできるのだから。
「いらねぇよ」
狙われやすいし、こういうことできないだろ?
にやっと笑って従兄弟は俺の口を塞いできた。
いくらか長めのくちづけを楽しんでいると、ふいにジャケットの内側が震えた。
名残惜しげに離れ、携帯電話を取り出す。着信は部下からだった。
奇襲してきた敵は壊滅したと報告され、そちらはと振られたときには二人とも無事だとだけ言った。
従兄弟は立ち上がり、服の埃を払っていた。
部下からは、「すぐに車を回します。警察が動いたようですから」と電話越しに伝えられる。
短い通話を切り、俺も立ち上がる。
報告どおり警察が動いたようだ。遠くにサイレンとなにかをスピーカーで叫ぶ声が聞こえてくる。
「真下を歩いているヤツは何かと思っているだろうな~」
サイレンを耳にしながら従兄弟が言う。
大量のガラスが落ちてくるんだぜ?シャワーみたく。
きらきらして綺麗だっただろうな。
他愛のない彼の想像に俺は何も言わない。
ガラスのシャワーなど痛いだけだろうが、従兄弟が言うのならそれは綺麗な光景だったのだろう。
最後に部屋を振り返ると、ガラスがぽっかりとなくなってがらんどうの部屋が目についた。
どうかしたか?と怪訝そうに聞いてくる従兄弟にはなんでもないと答える。
「シンタロー、ガラスの破片に気をつけろ」
子ども扱いするなと、ふくれる従兄弟の前を俺は歩いていく。
俺が通った道ならば、安全だから。
部屋を出て、階段へと向かっていくと銃を構えた刺客が見えた。
狙うのなら、シンタローよりも俺を先に狙えばいい。俺は従兄弟のために傷つくことは厭わないのだから。
「シン…」
俺に圧し掛かかり床へと押さえつける従兄弟は名を呼ばせなかった。
「黙れよ」
起き上がるな、と声を潜めて言う。
頬はいまだ熱を持っている。じくじくとした熱とわずかな痒みに眉を顰めてしまう。
状況はまだつかめていない。
此処へは商談で赴いたのだ。
「大統領は所要で席を外している、しばらくそこでお待ちください」
と案内役の軍人に言われ、ガラス張りの執務室へと従兄弟と二人通されたのだ。
部下達は皆、此処に辿り着くまでに体よく追い払われている。
この部屋に通されるまでの様子もそもそもおかしかった。
ぎらついた殺気を隠しきれない軍人や不穏な目つきの秘書官たち。
人払いを望んでいると言われて、SPまでもが追い払われたのだ。
壁へと目を向けると蜘蛛の巣のように割れたガラスが目に付いた。
高層ビルが林立したこの地区においてガラス張りの部屋を狙い済ますことなど容易いことだろう。
クリーンな政治をアピールしたこの部屋が仇となった。
四方八方がガラス張りのこの部屋では俺と従兄弟は格好の標的だ。
折り重なって伏せたまま、神経を研ぎ澄ませ、敵の気配に集中する。
きらりと白いひかりが前方で光った。肩越しに従兄弟に「眼魔砲を撃つ」と囁く。
同意ととともに俺の上に乗る従兄弟も手を構えるのが見て取れた。
左右には敵の気配は感じられない。周囲をすべて囲むのではなく、挟み撃ちにしようと考えたのだろう。
俺と従兄弟の二人だけを始末すればいいのだから、その分待機している部下たちへと暗殺者が殺到しているに違いない。
再び、視界にきらめきが映った。
間髪いれずに意識を掌へと向ける。片方の瞳に力が漲るのを感じる。
「「眼魔砲」」
呼吸を合わせた訳でもないのに、声が重なる。
まるで双子のように、いや従兄弟は俺にとってそれ以上の絆を持った存在なのだ。
俺たち二人の体を包み込むように青白いひかりが辺りを照らす。
爆発音とともにガラスが盛大に割れる音が響いた。
ぱらぱらと天井のタイルが落ちてくる。室内の状況は惨々たる物だった。
同じタイミングで眼魔砲を撃ったこともあるのだろう。
あまりの衝撃に狙ってもいない左右のガラスまでもがひび割れている。
爆風によってガラスの破片もそこらじゅうに落ちていた。
上体を起こし、従兄弟を抱えなおす。
向かい合った形で俺の胸へともたれる姿勢になった従兄弟がそっと俺の頬を撫でた。
「弾、掠っただけだったな…」
銃弾は頬を掠めるだけで皮膚の下の血管までは切り裂かなかったようだ。
忘れていた頬の痛痒さが従兄弟の指によって甦ってくる。
手を伸ばし、指をそっとそこから外させる。
従兄弟の温かみが離れると、外気の冷たさを強く感じた。
「おまえに怪我がなければいい」
目の前の従兄弟の皮膚を裂いていたのなら、自分は眼魔砲の威力を容赦しなかっただろう。
隣のビルから狙った射撃犯の周囲だけでなく、ビルのすべてを瓦礫へと変えていただろうと思う。
温かな指を握り締めたまま、そう口にすると従兄弟は「馬鹿じゃねぇの」と言った。
「ガラス吹き飛んじまったな」
残念そうに従兄弟が呟いた。だが、それは仕方がないだろう。
襲撃されるまでの間、この部屋で従兄弟はしきりに展望台みたいだとはしゃいでいた。
よほどガラス張りの部屋が気に入っていたのだろうか。
「ガンマ団にも作るか?」
景色が一望できていい、と言っていた。そんなに気に入ったのならば、作らせればいいのにと思っていたのだ。
総帥である従兄弟が命じれば、すぐにでもそんな部屋はできるのだから。
「いらねぇよ」
狙われやすいし、こういうことできないだろ?
にやっと笑って従兄弟は俺の口を塞いできた。
いくらか長めのくちづけを楽しんでいると、ふいにジャケットの内側が震えた。
名残惜しげに離れ、携帯電話を取り出す。着信は部下からだった。
奇襲してきた敵は壊滅したと報告され、そちらはと振られたときには二人とも無事だとだけ言った。
従兄弟は立ち上がり、服の埃を払っていた。
部下からは、「すぐに車を回します。警察が動いたようですから」と電話越しに伝えられる。
短い通話を切り、俺も立ち上がる。
報告どおり警察が動いたようだ。遠くにサイレンとなにかをスピーカーで叫ぶ声が聞こえてくる。
「真下を歩いているヤツは何かと思っているだろうな~」
サイレンを耳にしながら従兄弟が言う。
大量のガラスが落ちてくるんだぜ?シャワーみたく。
きらきらして綺麗だっただろうな。
他愛のない彼の想像に俺は何も言わない。
ガラスのシャワーなど痛いだけだろうが、従兄弟が言うのならそれは綺麗な光景だったのだろう。
最後に部屋を振り返ると、ガラスがぽっかりとなくなってがらんどうの部屋が目についた。
どうかしたか?と怪訝そうに聞いてくる従兄弟にはなんでもないと答える。
「シンタロー、ガラスの破片に気をつけろ」
子ども扱いするなと、ふくれる従兄弟の前を俺は歩いていく。
俺が通った道ならば、安全だから。
部屋を出て、階段へと向かっていくと銃を構えた刺客が見えた。
狙うのなら、シンタローよりも俺を先に狙えばいい。俺は従兄弟のために傷つくことは厭わないのだから。
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