「こんな姿にしてどういうつもりだよ」
睨みつけながらキンタローに訴えるとしらっとした顔でヤツは答えた。
「人間が猫になれるのか実験したまでだ」
ふざけやがって。俺の意思はどうでもいいのか。
勝手に酒に一服盛りやがったな。
大体俺でなくても高松のところの助手とか、若い団員とか、アラシヤマとか親父とか選択肢は一杯あるだろうよ。
なに考えてんだ、こいつは。
「俺じゃなくてもいいだろッ」
こういうことは他のやつにしろ、とソファに体を投げ出して怒鳴ってもキンタローの表情は変わらない。
ふっと口角を上げ、普段から言っている言葉を吐いた。
「おまえでなくては嫌だ」
だーかーら!!俺じゃなくていいだろって言ってるだろ。
俺じゃなきゃ嫌なんて…んなコト、今言うんじゃねえ。
とりあえず鏡の前に立ってみろ、とにやつくキンタローに悪い予感が胸をよぎった。
***
無理やり脱衣所に引きずられ、鏡の前に立たされると案の定異形の俺が写っていた。
ソファに座っていた時から感じた違和感どおり鏡の中でぱたりぱたりと尻尾が動いている。
タンクトップから出た二の腕は目覚めてすぐに気づいた。
灰色がかった濃い紫のふわふわの毛がそよいでいる。
まさか、と思って胸の前を掴んで視線を落とすとそこには毛が生えてはなかった。
「全身じゃねえみたいだな」
剥き出しの方は艶やかな毛並みで覆われてはいない。
胸にもないとなると、腕と尻尾と…ああ、あとは頭の上の耳だけか。
全部が全部、猫のようになったわけではないようだ。
だが、気に入らねえ。
わざわざ騙してこんな姿にしやがって。
拳を握り締めようとするとふにっとした肉球が邪魔をして指が曲げられない。
気のせいではなく、指自体が短くなっているのも一因のようだ。
眼魔砲は…撃てねえだろう。
「おい、キンタロー。早く戻せよ。ちゃんと動物になれたんだろ、実験は終わりにしろ。
おまえのことだから解毒剤は用意してんだろッ!」
寄越せ、と腕を出すものもなんとなく格好がつかない。
そのうえ、キンタローはにやつきながら意地悪く拒否してくれた。
「それよりも、シンタロー。今見えてる部分だけ変わったかと思っているのか」
「ああ?」
「尻尾が生えてるだろう。…ああ、悪いが勝手に穴を開けた。脱がせたときに俺は確認済みなのだが」
急いで胸を確認した時と同じようにカンフーパンツの紐を緩めて、覗き込む。
「…ッ!!なんなんだよっ!これはっ」
俺の下半身は、いや正確に言うと太股までが腕と同じく毛で覆われていた。
***
ふざけんな、なに考えてるんだ、おまえは。
この変態。いつも好き勝手しやがって。
大体、俺を実験にするのがおかしい。つーか、やめろ!絶交するぞ!
あーもー、なに考えてるんだよ。
百歩譲って猫にするのはまだいい。いいか、譲ってやってだぞ。
するんだったら完璧に猫にするとかな…あー、ホントおまえ馬鹿だ。
頭いいけど馬鹿だ。なに考えてるんだ。これじゃ中途半端に露出してて俺が変態みたいじゃねえか。
靴下履いたままスルのとは訳が違うんだぞ!!くそっ。
いいか、今日はもう指一本触らせねえからな。
実験だからって俺は同意したわけじゃないんだからな。
おまえが変だっていうのに…このまんまでいたら誤解うけるだろっ!この×××野郎!
「言いたいことはそれだけか」
ぜえぜえと息をついた俺にキンタローは素っ気無く言う。
なんだって、あんなに言ったのに分からねえのかよ。
「いいからとっとと戻せ。今すぐにだっ!」
「その戻す薬はここにはない。ちゃんとおまえの手が届かない場所に隠してある」
「ふざけんなっ、ぶん殴るぞ」
「その腕でか?」
ぐっと詰まった俺に目を細め、キンタローはさっと視線を横へと移した。
「そういえば飲んでいたから風呂に入ってなかったな」
「俺が綺麗に洗ってやる」
まずい…コイツ本気で言ってやがる。
くるっと背を向けて部屋へと戻ろうとする。
だが、逃げるよりも早くぎゅっと尻尾を掴まれた。
「ぎゃっ!」
爪先から頭の天辺まで悪寒が駆け上がる。
逃げようと思っていたのにへなへなと力が抜けていく。
ぺたりと膝をつくと、キンタローがしゃがみ込んで俺の髪を片手でかき上げた。
もう片方の手は俺の尻尾を掴んで離さない。
二度三度指先に髪を絡め、そしてその指を顎へと持ってくる。
(キスする気かよ?)
尻尾が掴まれたままで力が出ない。
だが。
舌入れてきたら噛み付いてやると待ち構えているとキンタローは思いもかけない行動を取った。
「シンタロー」
少し腰を浮かせて、ふっと新しくできた耳に熱い息と囁く声が吹き込まれた。
何故だか、掴まれている尻尾が震える。
抵抗する力なんか…もう出ない。でも…。
「安心しろ、可愛がってやるから」
ンなこと言われても誰が安心するか。
いい加減に尻尾を離せ。あ、待て。脱がすなっ。
「あとで首輪もつけてやるからな」
ふざけんなキンタロー、ああ、もう最悪だ!!
でも…抵抗なんて。もうできやしない。
ここまでくれば、もう言いなりになるしかないのだ。
意識がない間に穴を空けられたカンフーパンツは無理やり破り取られてしまったし、タンクトップだって引きちぎられて床の上にある。
下着だってとっくに身に着けていない。
変質者としか思えないような姿のままバスルームへと引きずり込まれる。
尻尾は握られたままだ。
ここまできたら逃げることなんて出来ないのは分かっているのに、キンタローは俺の尻尾をしっかりと握りこむ。
足の裏も手と同じように肉球となっている。
バスルームのタイルはひんやりとしていて、思わず掴まれたままの尻尾がじんじんとした。
いつの間にかキンタローはシャツの袖を捲り上げていた。
「……キンタロー?」
できることならここで引き返して欲しい。
願いを込めるように彼の表情を伺う。けれども、彼からは無情な宣告しか聞けなかった。
「シンタロー、綺麗にしてやるから膝で立て」
もう、抵抗は出来ない。
俺はそろそろと冷たい床に膝を着いた。
***
「!!熱っ」
かけられた湯の熱さに耳がふるふると震えた。
また、尻尾にびくびくと振動が伝わる。
「ああ、すまない。今は猫だったな、もう少しぬるめにしよう」
すぐさま温度が調節され、心地よく感じる湯が髪から膝へと伝わっていった。
ふわふわとした毛並みが濡れて張り付くのを確認すると、キンタローがシャンプーを取ろうと腕を伸ばした。
その間、シャワーヘッドは固定され湯が流れていたため寒さは感じなかった。
髪を洗われることはべつに初めてじゃない。
床屋でだってあるし、ガキの頃は親父が洗ってくれたりした。
目の前のこの男が洗ったことだって何度もある。
だが、今ここで俺の髪を流れる指の感触はそのどれもと違う感じがした。
何故違うのだろうと、ぼんやりと考えていると再び湯が注がれる。
髪を洗う気持ちよさにいつのまにか時間の感覚も鈍くなったらしい。
湯を流す間も絶えずキンタローの指先は俺の髪を梳いていた。
耳の後ろを洗われたときようやく違和感の原因に気づく。
(そうか…耳が猫みたくなってたな)
泡をすべて流し去るとキンタローが今度はボディソープを手に取る。
とろりとした乳白色のそれを肩から順に擦りこむように泡立てられる。
髪の毛を扱っていたときと同じように腕の毛並みは丹念に洗われ、立たされてから背筋や腰を洗われ、下肢へと洗う手が進んでいく。
彼の動きに反応しないように耐えようと天井の方を見つめる。必死に別のことを考えようと頭を動かす。
大体、コイツは一緒に風呂に入るとここからやらしい手つきになるんだ。
案の定、キンタローの手つきは緩慢ながらも俺を高みへと押し上げるものだった。
彼の指の動きに翻弄されないように、我を失わないようにと俺は必死で別のことを考えようとする。
太股にソックスのように生えた毛を撫で擦られたときも、胸板へと滑る指先が胸の尖りを掠ったときも。
腰のくびれを泡とともに擦られ、臍の周りを円を描くようになぞられたときも。
必死で別のことを考えてやりすごす。
だが、すっと指が後ろへと回され、尻尾を擦られると「あっ」と小さい声が出てしまった。
「尻尾が感じるのか」
「…ッ!いきなり触るから驚いただけだっ」
「そうか」
くっと笑って、キンタローがぎゅっと尻尾を掴む。その力に擦られたときよりも大きな声が出た。
「ンンッ…アッ!」
「どこが感じてないんだ?シンタロー」
さて、とわざとらしく言いながらキンタローが指を前へと滑らしてくる。
「胸から腹はつるつるのままにしたのに…ここは邪魔だな。猫らしくない。美観を損ねる」
洗うだけじゃないのかよ、と訴えた言葉は当然の如く聞き入られない。
いやだ、と抵抗しても腕に抱きこまれいつの間にか反転させられて背面座位のように姿勢をとらされる。
無理やり足を開かされて、閉じようとばたつかせても尻尾を握りこまれると封じられてしまう。
いつの間にか手に持っていたシェーバーをチラつかせられ、体から力が抜けていく。
もう抵抗は意味を成さない。
心の奥底、いやそんな奥を探らなくても俺はもう抵抗する気など起きていないのだ。
脱衣所とは違い、鏡がない。
けれど、分かる。俺は今きっと怯えの中に媚を売るような表情をしている。
それが、キンタローを煽るのだ。いつも、いつも…。
シェーバーの電源が入った。
朝、身だしなみを整えるときと同じ繊細な指使いが下肢を走る。
尻尾の戒めが外され、長い指が柔らかな毛並みの下に滑らしていく。
「キンタロ、オ…」
「おまえが動かなければ大丈夫だ」
左手で俺のモノを軽く押さえられた。
キンタローの息が肩口に当たる。
熱い。吹きかかった場所がぞわりと粟立つ。
「そのままじっとしていろ」
茂みにそっとシェイバーの刃が当てられる。
ヴィーンと機械音が鳴り、下腹に振動が伝わる。
掬い取るように当てられ、シュ、シュ、シュと軽い音を響かせて剃り落とされていく。
「や、ふざけ…」
動くことは出来ない。
徐々に露出させていくそこを見るのが気恥ずかしい。なんとはなしに目線は風呂場の壁へと逸らされていく。
形ばかりの抵抗を口にしてもキンタローの手は止まらなかった。
「どうする?シンタロー」
剃られた毛を落とすために湯をかけながら、キンタローが囁いてくる。
シェーバーを当てられる間、尻尾に回されていた手が傷つけないようにと前を握りこまれていた。
尻尾を掴んだときのようにぎゅっとするのではなく、ゆるゆると縦にも横にも動かされそこは確かな兆しを見せていた。
今もただ流すだけでなく、シャワーを持っていない手で張り付いた毛を払い落とすように触っている。
張り詰めたそこはじんじんと熱を上げていく。
注がれる湯が止められた後もなお、キンタローは俺を弄っていた。
波のように襲ってくる快感はもうやり過ごせない段階に来ている。
何度も高波を堰き止められ、もうどうしようもない状態に陥って荒い息をつく俺に後ろから熱い息がかかる。
「さあ、どうする?シンタロー」
ここでするか、ベッドがいいかと囁かれると返事をするどころではなく。
キンタローの声だけで堰が崩され、自分が熱い飛沫が放出するのをぼんやりと見ている羽目に陥った。
「答えを貰っていなかったのにな」
べとついた手を見せつけながら、わざとらしくそれを舐めとる。キンタローはうすく笑っていた。
***
風呂から出て、寝室へとどうやって戻ってきたかは分からない。
たしかに自分の足で来たのは覚えているのに、頭の中がふわふわとしている。
いつの間にか猫のように四つ這に姿勢をとらされ、後ろから掠めるようにしか与えてくれないキンタローの愛撫に思考が奪われている。
背骨や腰のくぼみをなぞる指がどうしようもなく焦れったい。
じわじわとしか与えられていない快感をやり過ごそうと頭を振ると濡れて重くなった髪がばらばらと肩へと落ちてきた。
自分の髪が触れる感触すらも今は快感となっている。
「どうしてほしいんだ、シンタロー」
さっきみたいに触って欲しいのか?ちゃんと言えばしてやるぞ。
俺を追い立てようと意地悪くキンタローが尻尾の先を指でつついた。
そのままびくびくと震え、アンテナのように立ち上がったままの尻尾を掴む。
俺を捕まえたときのようにぎゅっと締めるのではなく、指で作った環の中を扱くように擦られた。
「前も後ろも立てていやらしいヤツだ」
まだ猫は発情期ではないぞ、と笑いながら尻尾の付け根に手をかける。
中指で円を作ったまま、親指で入り口を引っかかれてたまらない震えが沸き上がる。
「さあ、どうする?シンタロー」
***
緩やかでもとめどない刺激に観念し、キンタローが言わせたかった言葉を口にするとすぐに熱い楔が打ち込まれた。
待ち構えていたものの感触に体の中が震え、彼を煽ってやろうと言わんばかりに収縮する。
「あっ、や…いや、あ、あ」
「猫みたいに鳴いてくれないのか、シンタロー」
それともまだ足りないのかもな、と打ち込む動きを強くされ、体が刺激でのけぞる。
後ろから攻め立てるキンタローのヘアで尻尾が擦られ、びんびんと震える。
「ひっ…ん、んあぁ…。あっ、い、い」
「こういう楽しみ方も…っ悪くないな」
双丘に手をかけられ、ぐっと開かされてより奥へとキンタローが突き進んでいく。
ゆるやかな突きと抉るような差込とでシーツにぐっしょりと水溜りのようなしみが出来ていた。
「あ、も…キン、タロッ、無理ッ」
快感を最大に得ようと勝手に体が動く。獣のように腰を振って押し付けるようにねだる。
互いの息は荒い。
ラストスパートまでもう少しとなり、ねだる動きも与える強さも激しいものへとなっていく。
「あ、っ…ん、キン…タロ」
荒い息を吐き、言葉にならない声をつむぎながら互いの名を呼び合う。
一呼吸、ぎりぎりまで引き抜いた後、深く抉る刃が訪れた。
「シンタロー」
熱い呼びかけとともに放っておかれていた尻尾が擦られた。
ピンと立ち、敏感になっていたそこから刺激が全身へと伝わる。
「んんんにゃぁぁあ!!っあ、あっ!」
味わったことのない刺激に耐えることが出来ず、本物の猫のように甲高い叫び声が喉をついた。
「目が覚めるころ元に戻しておいてやるよ」
流し込まれる奔流が途絶えた後、そんな囁きが聞こえた気がしたが何か言う前に俺の思考はフェードアウトした。
END
睨みつけながらキンタローに訴えるとしらっとした顔でヤツは答えた。
「人間が猫になれるのか実験したまでだ」
ふざけやがって。俺の意思はどうでもいいのか。
勝手に酒に一服盛りやがったな。
大体俺でなくても高松のところの助手とか、若い団員とか、アラシヤマとか親父とか選択肢は一杯あるだろうよ。
なに考えてんだ、こいつは。
「俺じゃなくてもいいだろッ」
こういうことは他のやつにしろ、とソファに体を投げ出して怒鳴ってもキンタローの表情は変わらない。
ふっと口角を上げ、普段から言っている言葉を吐いた。
「おまえでなくては嫌だ」
だーかーら!!俺じゃなくていいだろって言ってるだろ。
俺じゃなきゃ嫌なんて…んなコト、今言うんじゃねえ。
とりあえず鏡の前に立ってみろ、とにやつくキンタローに悪い予感が胸をよぎった。
***
無理やり脱衣所に引きずられ、鏡の前に立たされると案の定異形の俺が写っていた。
ソファに座っていた時から感じた違和感どおり鏡の中でぱたりぱたりと尻尾が動いている。
タンクトップから出た二の腕は目覚めてすぐに気づいた。
灰色がかった濃い紫のふわふわの毛がそよいでいる。
まさか、と思って胸の前を掴んで視線を落とすとそこには毛が生えてはなかった。
「全身じゃねえみたいだな」
剥き出しの方は艶やかな毛並みで覆われてはいない。
胸にもないとなると、腕と尻尾と…ああ、あとは頭の上の耳だけか。
全部が全部、猫のようになったわけではないようだ。
だが、気に入らねえ。
わざわざ騙してこんな姿にしやがって。
拳を握り締めようとするとふにっとした肉球が邪魔をして指が曲げられない。
気のせいではなく、指自体が短くなっているのも一因のようだ。
眼魔砲は…撃てねえだろう。
「おい、キンタロー。早く戻せよ。ちゃんと動物になれたんだろ、実験は終わりにしろ。
おまえのことだから解毒剤は用意してんだろッ!」
寄越せ、と腕を出すものもなんとなく格好がつかない。
そのうえ、キンタローはにやつきながら意地悪く拒否してくれた。
「それよりも、シンタロー。今見えてる部分だけ変わったかと思っているのか」
「ああ?」
「尻尾が生えてるだろう。…ああ、悪いが勝手に穴を開けた。脱がせたときに俺は確認済みなのだが」
急いで胸を確認した時と同じようにカンフーパンツの紐を緩めて、覗き込む。
「…ッ!!なんなんだよっ!これはっ」
俺の下半身は、いや正確に言うと太股までが腕と同じく毛で覆われていた。
***
ふざけんな、なに考えてるんだ、おまえは。
この変態。いつも好き勝手しやがって。
大体、俺を実験にするのがおかしい。つーか、やめろ!絶交するぞ!
あーもー、なに考えてるんだよ。
百歩譲って猫にするのはまだいい。いいか、譲ってやってだぞ。
するんだったら完璧に猫にするとかな…あー、ホントおまえ馬鹿だ。
頭いいけど馬鹿だ。なに考えてるんだ。これじゃ中途半端に露出してて俺が変態みたいじゃねえか。
靴下履いたままスルのとは訳が違うんだぞ!!くそっ。
いいか、今日はもう指一本触らせねえからな。
実験だからって俺は同意したわけじゃないんだからな。
おまえが変だっていうのに…このまんまでいたら誤解うけるだろっ!この×××野郎!
「言いたいことはそれだけか」
ぜえぜえと息をついた俺にキンタローは素っ気無く言う。
なんだって、あんなに言ったのに分からねえのかよ。
「いいからとっとと戻せ。今すぐにだっ!」
「その戻す薬はここにはない。ちゃんとおまえの手が届かない場所に隠してある」
「ふざけんなっ、ぶん殴るぞ」
「その腕でか?」
ぐっと詰まった俺に目を細め、キンタローはさっと視線を横へと移した。
「そういえば飲んでいたから風呂に入ってなかったな」
「俺が綺麗に洗ってやる」
まずい…コイツ本気で言ってやがる。
くるっと背を向けて部屋へと戻ろうとする。
だが、逃げるよりも早くぎゅっと尻尾を掴まれた。
「ぎゃっ!」
爪先から頭の天辺まで悪寒が駆け上がる。
逃げようと思っていたのにへなへなと力が抜けていく。
ぺたりと膝をつくと、キンタローがしゃがみ込んで俺の髪を片手でかき上げた。
もう片方の手は俺の尻尾を掴んで離さない。
二度三度指先に髪を絡め、そしてその指を顎へと持ってくる。
(キスする気かよ?)
尻尾が掴まれたままで力が出ない。
だが。
舌入れてきたら噛み付いてやると待ち構えているとキンタローは思いもかけない行動を取った。
「シンタロー」
少し腰を浮かせて、ふっと新しくできた耳に熱い息と囁く声が吹き込まれた。
何故だか、掴まれている尻尾が震える。
抵抗する力なんか…もう出ない。でも…。
「安心しろ、可愛がってやるから」
ンなこと言われても誰が安心するか。
いい加減に尻尾を離せ。あ、待て。脱がすなっ。
「あとで首輪もつけてやるからな」
ふざけんなキンタロー、ああ、もう最悪だ!!
でも…抵抗なんて。もうできやしない。
ここまでくれば、もう言いなりになるしかないのだ。
意識がない間に穴を空けられたカンフーパンツは無理やり破り取られてしまったし、タンクトップだって引きちぎられて床の上にある。
下着だってとっくに身に着けていない。
変質者としか思えないような姿のままバスルームへと引きずり込まれる。
尻尾は握られたままだ。
ここまできたら逃げることなんて出来ないのは分かっているのに、キンタローは俺の尻尾をしっかりと握りこむ。
足の裏も手と同じように肉球となっている。
バスルームのタイルはひんやりとしていて、思わず掴まれたままの尻尾がじんじんとした。
いつの間にかキンタローはシャツの袖を捲り上げていた。
「……キンタロー?」
できることならここで引き返して欲しい。
願いを込めるように彼の表情を伺う。けれども、彼からは無情な宣告しか聞けなかった。
「シンタロー、綺麗にしてやるから膝で立て」
もう、抵抗は出来ない。
俺はそろそろと冷たい床に膝を着いた。
***
「!!熱っ」
かけられた湯の熱さに耳がふるふると震えた。
また、尻尾にびくびくと振動が伝わる。
「ああ、すまない。今は猫だったな、もう少しぬるめにしよう」
すぐさま温度が調節され、心地よく感じる湯が髪から膝へと伝わっていった。
ふわふわとした毛並みが濡れて張り付くのを確認すると、キンタローがシャンプーを取ろうと腕を伸ばした。
その間、シャワーヘッドは固定され湯が流れていたため寒さは感じなかった。
髪を洗われることはべつに初めてじゃない。
床屋でだってあるし、ガキの頃は親父が洗ってくれたりした。
目の前のこの男が洗ったことだって何度もある。
だが、今ここで俺の髪を流れる指の感触はそのどれもと違う感じがした。
何故違うのだろうと、ぼんやりと考えていると再び湯が注がれる。
髪を洗う気持ちよさにいつのまにか時間の感覚も鈍くなったらしい。
湯を流す間も絶えずキンタローの指先は俺の髪を梳いていた。
耳の後ろを洗われたときようやく違和感の原因に気づく。
(そうか…耳が猫みたくなってたな)
泡をすべて流し去るとキンタローが今度はボディソープを手に取る。
とろりとした乳白色のそれを肩から順に擦りこむように泡立てられる。
髪の毛を扱っていたときと同じように腕の毛並みは丹念に洗われ、立たされてから背筋や腰を洗われ、下肢へと洗う手が進んでいく。
彼の動きに反応しないように耐えようと天井の方を見つめる。必死に別のことを考えようと頭を動かす。
大体、コイツは一緒に風呂に入るとここからやらしい手つきになるんだ。
案の定、キンタローの手つきは緩慢ながらも俺を高みへと押し上げるものだった。
彼の指の動きに翻弄されないように、我を失わないようにと俺は必死で別のことを考えようとする。
太股にソックスのように生えた毛を撫で擦られたときも、胸板へと滑る指先が胸の尖りを掠ったときも。
腰のくびれを泡とともに擦られ、臍の周りを円を描くようになぞられたときも。
必死で別のことを考えてやりすごす。
だが、すっと指が後ろへと回され、尻尾を擦られると「あっ」と小さい声が出てしまった。
「尻尾が感じるのか」
「…ッ!いきなり触るから驚いただけだっ」
「そうか」
くっと笑って、キンタローがぎゅっと尻尾を掴む。その力に擦られたときよりも大きな声が出た。
「ンンッ…アッ!」
「どこが感じてないんだ?シンタロー」
さて、とわざとらしく言いながらキンタローが指を前へと滑らしてくる。
「胸から腹はつるつるのままにしたのに…ここは邪魔だな。猫らしくない。美観を損ねる」
洗うだけじゃないのかよ、と訴えた言葉は当然の如く聞き入られない。
いやだ、と抵抗しても腕に抱きこまれいつの間にか反転させられて背面座位のように姿勢をとらされる。
無理やり足を開かされて、閉じようとばたつかせても尻尾を握りこまれると封じられてしまう。
いつの間にか手に持っていたシェーバーをチラつかせられ、体から力が抜けていく。
もう抵抗は意味を成さない。
心の奥底、いやそんな奥を探らなくても俺はもう抵抗する気など起きていないのだ。
脱衣所とは違い、鏡がない。
けれど、分かる。俺は今きっと怯えの中に媚を売るような表情をしている。
それが、キンタローを煽るのだ。いつも、いつも…。
シェーバーの電源が入った。
朝、身だしなみを整えるときと同じ繊細な指使いが下肢を走る。
尻尾の戒めが外され、長い指が柔らかな毛並みの下に滑らしていく。
「キンタロ、オ…」
「おまえが動かなければ大丈夫だ」
左手で俺のモノを軽く押さえられた。
キンタローの息が肩口に当たる。
熱い。吹きかかった場所がぞわりと粟立つ。
「そのままじっとしていろ」
茂みにそっとシェイバーの刃が当てられる。
ヴィーンと機械音が鳴り、下腹に振動が伝わる。
掬い取るように当てられ、シュ、シュ、シュと軽い音を響かせて剃り落とされていく。
「や、ふざけ…」
動くことは出来ない。
徐々に露出させていくそこを見るのが気恥ずかしい。なんとはなしに目線は風呂場の壁へと逸らされていく。
形ばかりの抵抗を口にしてもキンタローの手は止まらなかった。
「どうする?シンタロー」
剃られた毛を落とすために湯をかけながら、キンタローが囁いてくる。
シェーバーを当てられる間、尻尾に回されていた手が傷つけないようにと前を握りこまれていた。
尻尾を掴んだときのようにぎゅっとするのではなく、ゆるゆると縦にも横にも動かされそこは確かな兆しを見せていた。
今もただ流すだけでなく、シャワーを持っていない手で張り付いた毛を払い落とすように触っている。
張り詰めたそこはじんじんと熱を上げていく。
注がれる湯が止められた後もなお、キンタローは俺を弄っていた。
波のように襲ってくる快感はもうやり過ごせない段階に来ている。
何度も高波を堰き止められ、もうどうしようもない状態に陥って荒い息をつく俺に後ろから熱い息がかかる。
「さあ、どうする?シンタロー」
ここでするか、ベッドがいいかと囁かれると返事をするどころではなく。
キンタローの声だけで堰が崩され、自分が熱い飛沫が放出するのをぼんやりと見ている羽目に陥った。
「答えを貰っていなかったのにな」
べとついた手を見せつけながら、わざとらしくそれを舐めとる。キンタローはうすく笑っていた。
***
風呂から出て、寝室へとどうやって戻ってきたかは分からない。
たしかに自分の足で来たのは覚えているのに、頭の中がふわふわとしている。
いつの間にか猫のように四つ這に姿勢をとらされ、後ろから掠めるようにしか与えてくれないキンタローの愛撫に思考が奪われている。
背骨や腰のくぼみをなぞる指がどうしようもなく焦れったい。
じわじわとしか与えられていない快感をやり過ごそうと頭を振ると濡れて重くなった髪がばらばらと肩へと落ちてきた。
自分の髪が触れる感触すらも今は快感となっている。
「どうしてほしいんだ、シンタロー」
さっきみたいに触って欲しいのか?ちゃんと言えばしてやるぞ。
俺を追い立てようと意地悪くキンタローが尻尾の先を指でつついた。
そのままびくびくと震え、アンテナのように立ち上がったままの尻尾を掴む。
俺を捕まえたときのようにぎゅっと締めるのではなく、指で作った環の中を扱くように擦られた。
「前も後ろも立てていやらしいヤツだ」
まだ猫は発情期ではないぞ、と笑いながら尻尾の付け根に手をかける。
中指で円を作ったまま、親指で入り口を引っかかれてたまらない震えが沸き上がる。
「さあ、どうする?シンタロー」
***
緩やかでもとめどない刺激に観念し、キンタローが言わせたかった言葉を口にするとすぐに熱い楔が打ち込まれた。
待ち構えていたものの感触に体の中が震え、彼を煽ってやろうと言わんばかりに収縮する。
「あっ、や…いや、あ、あ」
「猫みたいに鳴いてくれないのか、シンタロー」
それともまだ足りないのかもな、と打ち込む動きを強くされ、体が刺激でのけぞる。
後ろから攻め立てるキンタローのヘアで尻尾が擦られ、びんびんと震える。
「ひっ…ん、んあぁ…。あっ、い、い」
「こういう楽しみ方も…っ悪くないな」
双丘に手をかけられ、ぐっと開かされてより奥へとキンタローが突き進んでいく。
ゆるやかな突きと抉るような差込とでシーツにぐっしょりと水溜りのようなしみが出来ていた。
「あ、も…キン、タロッ、無理ッ」
快感を最大に得ようと勝手に体が動く。獣のように腰を振って押し付けるようにねだる。
互いの息は荒い。
ラストスパートまでもう少しとなり、ねだる動きも与える強さも激しいものへとなっていく。
「あ、っ…ん、キン…タロ」
荒い息を吐き、言葉にならない声をつむぎながら互いの名を呼び合う。
一呼吸、ぎりぎりまで引き抜いた後、深く抉る刃が訪れた。
「シンタロー」
熱い呼びかけとともに放っておかれていた尻尾が擦られた。
ピンと立ち、敏感になっていたそこから刺激が全身へと伝わる。
「んんんにゃぁぁあ!!っあ、あっ!」
味わったことのない刺激に耐えることが出来ず、本物の猫のように甲高い叫び声が喉をついた。
「目が覚めるころ元に戻しておいてやるよ」
流し込まれる奔流が途絶えた後、そんな囁きが聞こえた気がしたが何か言う前に俺の思考はフェードアウトした。
END
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