そっと足音を立てぬように廊下に敷き詰められた絨毯を歩く。
商談先の国に招待されキンタローと来たのはいいものの、毎夜のような夜会とつまらない視察にシンタローは辟易していた。
昼は総帥服でなくガンマ団色を廃して地味目のスーツを、夜はというときっちりとした礼服での毎日に疲れきっている。
そんな折に昔馴染みの仲間が補給ついでに近くまで来たのはシンタローにとって僥倖だった。
軽くて口当たりのよい飲み物を会話の端々に口をつけるのもよいが、やっぱり酒は気の合うヤツと自分のペースで飲む方がいい。
幸いなことに今回はキンタローと別々の部屋だった。
壁に耳を当ててアイツがシャワーを浴びているのを確認してから、こっそりと部屋を抜け出すことにした。
どうせ、アイツのことだ。俺がとっくに寝ていると思って部屋に電話をかけることもないと思う。
今朝だって昨日の夜会で睡眠時間が削られたのを心配していたから俺の部屋に訪ねるわけがない。
アイツだって疲れてるし、そのまま寝ちまうだろう。
(バレねえよな……たぶん)
総帥服じゃねえし、とシンタローは己の格好を見て笑った。
念のため、アラシヤマから勝手にSP専用の黒いスーツを取り上げて着ている。
親友の頼み、を口にすると快く貸してくれた。
勿論、寄ると触ると煩い自称親友はここにはいない。
なんとか丸め込んで飲ませた睡眠薬入りのジュースで今頃はベッドの中だ。
万が一、起きたとしても、あるいはキンタローに気づかれても犬猿の中ゆえに俺の不在はばれないだろう。
(いい夢見ろよ。キンタロー)
夜目にもはっきりと分かるホテルのひかりを見ながらシンタローはタクシーを捕まえた。
このときはバレやしないと思って勝手に飛び出して行ったのだ。
キンタローに言えば勝手なことをするなと怒られるし、絶対部屋から出してもらえなくなると思ったから。
ただ、軽い気持ちで行動しただけだったんだ。
***
久しぶりに気持ちのよい飲み会だった。
旧交も温めることが出来たし、なにより地酒がうまかった。
旬の野菜を刺身と和えてカルパッチョ風に仕上げたものも洋風串焼きも酒にあって美味かった。
ほろ酔いのいい気分でホテルへ戻ると出迎えたのはベルボーイだけで部下達はいなかった。
よし!気づかれないでうまくいったぜ!とシンタローはほくそ笑んだ。
(キンタローのヤツ、今頃ぐっすりだな)
勿論、アラシヤマも夢の中だろう。
シンタローの行動に聡い二人に気づかれなかったのだから他の団員は言わずもがな、である。
深夜はエレベーターの止まる音も小さい。
敷き詰められた絨毯の上をそっと歩き、部屋の前のドアに立つとシンタローは安堵のため息を吐いた。
あとはこのまま眠って、キンタローが起こしに来る前にシャワーを浴びればいい。
朝になれば酒も抜けるだろう。明日の予定は確かたいしたことのないものだった。
夜に招待での観劇があったと思ったがごねれば断れるものだ。
ノブを回す音にも気遣い、薄暗い部屋に入る。
ぱちりと電気をつけるとシンタローは思わず声を上げた。
「キンタロー!」
叫ぶシンタローにキンタローは冴えた眼差しのまま近づいた。
そしていきなり抱きすくめられる。
「シンタロー」
低い声がシンタローの耳朶を這う。
「どこへ行っていた」
かり、と耳翼を噛まれシンタローはその刺激と刺すようなキンタロー声に背筋を震わせた。
「えっとな……、その……外で飲んできたんだよ」
吐く息に酒気が混じっている。
それがなくともシンタローのことはすべて分かっているといっても過言でない従兄弟を誤魔化すことは出来ない。
「それで」
一人ではないんだろう、と冷たい声音が耳に吹き込まれる。
誰と行動したのかはとっくに調べがついているぞ。向こう3ヶ月は減給だな。
おまけに大事な総帥をここまで送り届けもしなかったようだ、とキンタローが言う。
そんな仕打ちはねえだろ、と旧友を思ってシンタローが抗議の声を上げると突き飛ばされるようにベッドへと押し付けられた。
「キンタローッ。てめ、なにす……!う、ぐっ」
「ここがどこだかわかっているんだろうな?いいか、ここはガンマ団ではない。勝手な行動は慎むのが当たり前だと思っていたが」
おまえはそんな常識も持ち合わせていないようだな、とキンタローは囁くように言った。
馬乗りに乗り上げられてシンタローは従兄弟の重さに呻く。抗議の声はキンタローによって封じ込められた。
襟首を掴まれて息が苦しい。
そんなシンタローを見ながら、ぎらりとキンタローの目に不穏な色が灯った。
「ガキの頃に伯父貴に知らない土地で一人で出かけるなと注意されただろう?ああ?友達とやらがいたといういいわけは聞かない。
おまえは一人で出かけて一人で戻ってきたんだからな。総帥の自覚が足りなすぎるんじゃないか?
物覚えの悪い総帥閣下には仕置きが必要だな」
口角を上げて、キンタローは嘲笑った。口元を歪めるその仕草は、従兄弟の後見人であるドクター曰く、亡き叔父譲りだという。
「二度とおまえが勝手なことをしないようにその体に刻み付けてやる」
やべえ。コイツぶちきれてやがる。
不敵に笑みながらキスを落とす従兄弟に身を竦ませながら、シンタローはこれからのことを思って己の軽率さを後悔していた。
悪い総帥にはお仕置きをしないとな、と言いながらキンタローはシンタローの眼球を舐めた。
ざらりとした舌の感触と狂気じみた眼差しに背中に汗が伝わっていく。
そして、喉元に指を当てられシンタローは従兄弟の突然の行動に驚愕した。
「答えろ、シンタロー。この服は誰のものだ?」
ぎらつく獰猛な目で問うキンタローの声は冷たい怒りを孕んでいる。
*
「……アラシヤマだよ」
キンタローの指は軽く当てられただけだった。それでも急所を封じる脅しにシンタローの声は乾いたものしか出せなかった。
SP用のスーツの持ち主を告げるとキンタローはやはりなと呟く。
「道理で抹香臭いはずだ。酒のにおいだけでなくこの服から陰気な感じがすると思ったらそういうことか」
言いながら喉元に突きつけた指をキンタローはすべらかに下に下ろしていく。
スーツに何かが憑いているとばかりに忌々しげ呟くキンタローにシンタローはそれはないだろうと思った。
ぶちっと引きちぎるかのようにボタンを弾き飛ばされ、下に着込んだシャツまでもが同じ運命を辿らされる。
(悪ぃ。アラシヤマ……。おまえの服、ダメにしちまった)
無理やり丸め込んで借りたとはいえ、自称親友の煩い部下にどうやって言い訳しようかと思う。
押さえ込まれ、怒り狂った従兄弟にシンタローはなすすべもなくじっとするしかない。
それでも弾き飛ばされたボタンがシーツの上や床に散らばるのを横目に見ながらシンタローはどうやって逃げようかと思案していた。
「逃げようなどという気はおこさないほうがいいぞ」
ぐい、とシンタローの顎を長い指で捉えて、キンタローは酷薄そうに笑った。
喉元を苦しめていた指が離れて、シンタローはようやく息をつく。
ふ~っと肩を揺らしてため息をつくとキンタローはネクタイを緩めていた。
無理やりヤるつもりかよ、と仕置きと言っていた従兄弟に諦めを感じつつそれでも逃げ場を探る。
どうせこのフロアにはガンマ団の連中しかいない。
総帥が半裸で廊下を走りまわっても、皆一様に口を噤むだけだ。
顎にかかっていた指がふ、と離れ、よし!と従兄弟の鳩尾に蹴りを入れようとシンタローは動いた。
(動けなくなっているうちに絶対逃げてやる!)
すっとキンタローに押さえ込まれていた体を動かし、シンタローは身を縮めた。
すり抜けるついでに一発お見舞いしてやろうと踵を上げる。けれども、
「馬鹿め。そんなことはお見通しだぞ、シンタロー」
くくっと笑い声が耳に反響したかと思うとシンタローはさっきよりも力強くシーツへと体を押し付けられた。
くそっ、と舌打ちをしてもがこうとすると視界をやわらかなものが遮る。
きっ、と睨みつけて文句のひとつでも言おうと見上げれば目の前が閉ざされている。
しゅるり、と布の擦れる音がして、それから頭の後ろをに引き攣った痛みが走るかと思うとキンタローが、
「おまえのきれいな目が潤む様を見れないのは残念だが」
と囁きながらシンタローの耳朶に噛みついてきた。
ネクタイで閉ざされた視界ではキンタローの隙を窺うことも出来ない。
「てめ、キンタロー!解け!解けよッ!このッ変態ッ!」
なに考えてんだ!とシンタローが噛みつくように叫ぶ。
するとキンタローは半裸のシンタローの喉元へと舌を這わせながら「おとなしくしろ」と低い声音で牽制した。
「暴れると痛い目にあうぞ。俺は、これからおまえの身が無事だったかチェックするんだからな」
この体を俺以外に触らせていないだろうな、とキンタローはシンタローの胸に手を這わせる。
撫で回す手の感触はいつもと同じだ。
けれども閉ざされた視界が刺激を助長してシンタローはうっと息を飲んだ。
「だいぶ酔っていたようだが、酒場でふらついて介抱されたりはしなかったかシンタロー?
背を摩られたり、胸元に手を入れられたりはされていないだろうな」
言いながらキンタローはシンタローの胸の尖りをきゅっと摘む。
薄い色の乳首が従兄弟の指で赤みを帯びはじめているのを想像してシンタローは照れ隠しに
「そっ、そんなことするのはおまえだけだろッ!」
と叫んだ。事実、酔ったときにシンタローは従兄弟にセクハラ紛いの介抱を受けたことがある。
「どうだろうな?この服を貸したアラシヤマあたりなら血迷ってやらないとも限らないだろう?」
忌々しげに"アラシヤマ"と口にするとキンタローはシンタローのズボンに手をかけた。
かちゃかちゃとベルトが音を立てて、それからジッパーが引きおろされる音がシンタローの耳に届く。
足をばたつかせて抵抗しようかと思ったが視界が閉ざされている状況ではどうにもならない。
抵抗しなくてもどうせうまくキンタローにあしらわれて、前戯もそこそこのきついお仕置きを喰らうだけだ。
明日は視察があるというのに、出かける気が起こらないほど攻め立てられることは予想している。
だが、予想以上のことをシンタローはされるつもりはなかった。
(ここはおとなしく我慢だ……我慢)
抵抗してキレたキンタローにとんでもない目に合わされるのは嫌だ。
目隠しくらい受けてたってやろうじゃねえか。周りが見えないくらいどうってことねえよ!
そんな気持ちでシンタローは、ズボンが下肢から引き抜かれるのをなすがままにされていた。
「……抵抗しないんだな」
おとなしいおまえはめずらしい、と下着も抜き取りながらキンタローが言う。
意地悪く囁くその言葉にシンタローはおまえが喜ぶ反応なんかしてやらねえよ!と心の中で舌を出した。
そんなシンタローの考えすらもキンタローにはばれているということも思い至らずに。
***
下肢から下着を引き抜かれ、シンタローの体はキンタローにシーツに縫いとめるように押さえつけられている。
カエルの解剖みたいだな、とキンタローが言った呟きにシンタローはまざまざと己の姿を脳裏に描いてしまった。
(ンなこといちいち言うんじゃねえよ!)
かあぁっと頭に血が上ったが、シンタローは我慢、我慢だと心の中で唱えた。
「少し冷たいだろうが、我慢しろ」
言うなりキンタローはなにやら蓋を開けた。きゅぽん、と小気味のよい音はいつも彼が使うローションのキャップとは違う。
もっとも旅先だから適当に用意したものなんだろうか、とシンタローが考えていると鼻先に甘いにおいが突きつけられた。
「分かるか、シンタロー?」
キンタローの声は楽しげに耳に響いた。
なんだよ、それ?と視界が閉ざされてはいるものの真上にいるだろう従兄弟へとシンタローは視線を向けた。
「リキュールだ。目の覚めるような紫色をしているんだが、おまえには見えないな。
だが、くらくらするほど甘ったるいにおいなのはわかるだろう、シンタロー」?
言うなり、シンタローの頬に冷たくとろりとした液体が塗りつけられる。
くん、と鼻で嗅いだときよりもずっと濃密な香りが鼻腔へと届く。
「おまえはハーレム叔父貴のことを言えないくらい酒が好きなようだしな。たまにはこういうものを使ってやるよ」
どうやって、とシンタローが口を開けるとその隙に乗じてキンタローの指がシンタローの口腔へと進入する。
シンタローに説明している間にリキュールを指の腹に纏わせていたのだろう。
上顎にぬちゃりと当たった粘液をうっかりと舐めてしまいシンタローは眉を顰めた。
(なんだよッ!この甘さ……!)
甘い、とシンタローが顔を顰め身じろいだ拍子に、キンタローの指が歯の裏を擦る。
歯茎に指を軽く引っ掛けた後、長い指が口腔を彷徨った。
口腔を蹂躙する指に刺激された唾液とリキュールとが混ざり合う。
少しずつ嚥下を試みるが喉を焼け付かせるよう酷い甘さにシンタローは咽た。
「っ、けほっ、くっ、っ……ッ」
タイミング悪く甘い唾液が気管に入る。
シンタローが咳こむとキンタローはそのままでいたら指を噛まれることに思い当たったのだろう。
薄紫の唾液が絡みつく指をシンタローの口腔から撤退させた。
「すまない。少し痛い思いをさせてしまったな」
こういった場合は水分をとって落ち着かせたほうがいいんだろう、とキンタローが濡れた指先をシンタローの顎へとかける。
たしか飲みかけのミネラルウォーターがベッドサイドにあったはずだ。
従兄弟の口唇が己のものへと合わさったときに、シンタローはてっきりそれだと思って与えられた液体をごくりと飲んだ。
「――ッ!!」
確かに与えられた液体はリキュールとは違うものだった。
だが、舌先に残る辛さと喉を焼くアルコールのキツさにシンタローは視界を覆うネクタイの下で目を見開いた。
げほげほ、と指を咥えさせられたときよりもさらに咳き込む。口の端には溢れた唾液がつうと首元へと流れようとしていた。
「したたかに酔った体には効くだろう?もう指一本も動かせないはずだ」
ふ、とキンタローが力を抜く気配がする。
膝を割った状態で無理やりにシーツへと縫いとめていた力がなくなったが、シンタローは逃げ出すことも不可能だった。
カエルの解剖、とキンタローが揶揄した姿をとったままシンタローはだらしなく唾液を口唇から溢れさせた。
ぬちゅぬちゅと淫らな音が下肢に響く。
常ならば耳を塞ぎたいはずなのに、指先から直腸へとじわじわと流し込まれたリキュールによってシンタローの思考は低下していた。
だらんと枕に頭を預け、キンタローの目の前にがばっと足を開いたままでシンタローは恍惚のため息を漏らす。
「俺以外のヤツが触れていないか、軽く指でチェックしていただけなのに……。
シンタロー、おまえはもうこんなになっているんだな」
言うなり指を引き抜かれ、シンタローは名残惜しげな声を漏らした。
「おまえの中を弄くっていたのは人差し指だけだというのに……。これでは人間ドックへと入ることも出来ない。
いやらしい体だな、おまえの体は。こんなんじゃ俺でなくても、医者だろうがなんだろうが指を突っ込まれただけで喘いでしまうだろう。
俺が遠征に行っているとき誰に慰めてもらっているんだ?アラシヤマか、それともさっきおまえが会っていたヤツラか?」
自慰ならば死人は出ないが、と笑いながらキンタローは目の前で勃ち上がっているシンタロー自身を指でピンとはじく。
はじかれたシンタローのものがふるんと腹部へと揺れて、シンタローの腿が震えた。
「ッわけ、なっ……ア、ヒイィッ!」
シンタローが首を振り、否定しようとするとキンタローは従兄弟のものをきゅっと掴んだ。
己の中心を握りこまれ、じわじわ嬲るような指での刺激とはちがう直接的な行動に悲鳴を上げる。
きゅっと蛇が獲物を締め付けるようにキンタローはシンタローのものを掴みながら従兄弟の乳首を撫でた。
すう、と乳暈を撫でた後にキンタローがぷっくりと勃ち上がった蕾をぎりと捻る。
胸と下肢への痛い刺激にシンタローは涙を浮かべた。
溢れる涙がネクタイの布地へと吸い込まれ、そして瞼が布地に張り付いていく。
「ここへ来る前に俺は何度もおまえに言ったはずだが」
「っ、な……に、やぁっ、やめッ!ひ……ッ」
胸から引っこ抜くんでないかと思わせるくらいにキンタローは乳首を摘む指に力を込めた。
「治安の悪い場所でひとりで行動するな、と注意したことをおまえは聞いていなかったようだな。
おまえに会ったヤツらがガンマ団のバッジをつけていたからいいものの普通ならばどうなっていたか分かるか」
ぎゅ、ぎゅと左右に乳首を捻られ、そして自身を痛いほどに締め付けられてシンタローは体を強張らせる。
足指は強すぎる刺激にぴんと突っ張り、口元は恐怖でひくひくと震えていた。
「女でなくても、見目のよい若い男は売り物になるそうだ。
酔ったおまえを捕らえるくらい、ずる賢い商人には容易いことだろうな。起きたら、素っ裸で競りにかけられていてもおかしくない」
「ッ、な、わけ……ね……」
「ないとは限らない。人身売買の組織を先ごろ潰したばかりだったな?浪士崩れの男が捉えられていた報告は受けただろう?」
俺は写真を見たが人買いが置いた用心棒ではなかったぞ、とキンタローは口元を歪めて笑った。
「事態に気づいて俺が落札すればいいが、そうでなかったら明日にでもヒヒ爺のハーレムだな。
そうでなかったら……そうだな。あの辺りの歓楽街ではよく××国の組織が談合を行うそうだ。
偶然、おまえを見つけたらどうするだろうな?ガンマ団総帥を捕らえて拷問にかけるのはそう不自然なことではないが」
ここを切り落とされるかもな、と笑いながらキンタローはシンタローのものを扱いた。
きつく握られ、必死で耐えていたというのにいきなり戒めがなくなり、やわやわと快楽が与えられてそのギャップにシンタローが呻く。
すぐさま、キンタローに
「痛いほうがよかったのか?」
と自身を扱かれながら問われ、シンタローは首を振った。
「イッ、アッ……アッ!きんたろ、気持ち、い……ふっ……ん、あ、あぁ」
「素直だな、シンタロー」
気持ちいいほうがいいのか、とキンタローは笑いながら乳首への負荷も解いた。
それから充血したそれに紫色のリキュールを塗りこむ。
そのときに慰めてくれていた手が離れてシンタローはもどかしさに足を揺らした。
「どうしたんだ?シンタロー」
やさしくリキュールを刷り込みながらキンタローは問う。
「やっ、だ……きんたろ、あ、触れ、よッ!」
キンタローへとシンタローは必死で指を伸ばした。
愛撫の途中でベッドから従兄弟が降りないように腕の中に閉じこめようともどかしい体を動かす。
そんなシンタローの行動にキンタローは笑いながら、胸元へと口唇を近づけていった。
「ふッ、ああ……キン、タロ……ッ」
キンタローの舌で紫色の艶を帯びた乳首を舐め上げられシンタローは思わず差し伸べた手をぶれさせた。
ひととおりリキュールを舐め取るとキンタローが今度は吸いつく。
たっぷりの唾液と一緒に口で吸われてシンタローはその刺激に手をシーツへと落とした。
カエルのように上げていた足もいつの間にか軽い膝立ちの状態になってシンタローはキンタローのやわらかな愛撫に身を任せた。
乳首への責めに飽きたキンタローが再び内奥を弄りはじめると、シンタローの脳裏からは我慢という言葉が抜け落ちていった。
キンタローの責めたてへ抵抗の言葉でなく、感じるままに喘ぎ、啜り泣くシンタローにキンタローは満足げに熱いため息を吐いた。
「これから、どうしてほしい?いや……違うな。おまえはどうすればいいんだ、シンタロー?」
汗で湿ったシーツに力なく乗るシンタローの手首をキンタローは掴んだ。
もう片方の手もシンタローの肩口を押さえて、キンタローはシンタローの顔に視線を落とす。
シンタローの顔は涙と唾液でぐちゃぐちゃで、髪もすっかり乱れていた。
「も……おま、えの言いつけやぶんなっ……から許し、てっ……くれよ」
お願いだ、とシンタローは顔を必死に上げてキンタローにキスをした。
見えなくても口唇の位置くらいは分かる。子どものようなたどたどしいキスにキンタローは微笑んだ。
「……今日のところはこれで許してやるが」
そう言ってキンタローはシンタローの足首を掴んだ。
目隠ししたシンタローからは分からなかったが、キンタローはシンタローの淫らな姿にいきり立っていた。
シンタローが喘いでいるうちに脱ぎ捨てた服は床の上で散らばっている。
このまま放置しておいて皺になることくらいすでにどうでもよいことだった。
「次はないぞ、シンタロー」
瞳をぎらつかせて一気に押し入る。
「……ッ!!ア、アアッ……キンタロー!」
指でかき回されたそこはもうぐちゃぐちゃに解れていて、抵抗することもなくキンタローを飲み込んだ。
シンタローの体内で温められたリキュールが押し入ったキンタローに性急にかき混ぜられる。
そのたびにキンタローの熱と内奥の熱さとが摩擦を起こしてさらなる熱の上昇が体の奥で起こった。
熱の進行を食い止めたくてシンタローは下肢に力を入れようとした。
けれどもそれはキンタローのものを締め上げ、むしろ余計な熱を生む。
首を振ったりしていてすでに最初の位置からずれていたネクタイをキンタローはシンタローから引き下ろした。
「見ろ、シンタロー。見えるだろう?俺の目に映るおまえの淫らな姿が」
「っ、な、こと……わかんね……ア、ア、アアアッ!」
がしがしと打ちつけられる腰にシンタローは甲高く泣いた。
視界が開けたというのに彼の目は瞑っている。
「や、あ……イイッ、すご、キンタロー!ア、アアッ!ん、あぁ……」
喘ぎ、髪を振り乱しながらシンタローはキンタローの名を呼ぶ。
瞑った目尻から涙が溢れて、それからそれはキンタローの舌先へと消えていった。
「シンタロー」
愛している、と囁かれシンタローは目を見開いた。
限界を超えた昂ぶりを穿ちながら、キンタローは「心配させるな」と掠れた声で囁く。
首筋に噛みつかれながら、キンタローの爆ぜる熱の本流を受け止めるとシンタローはびくびくと震え、そして意識を手放した。
END
商談先の国に招待されキンタローと来たのはいいものの、毎夜のような夜会とつまらない視察にシンタローは辟易していた。
昼は総帥服でなくガンマ団色を廃して地味目のスーツを、夜はというときっちりとした礼服での毎日に疲れきっている。
そんな折に昔馴染みの仲間が補給ついでに近くまで来たのはシンタローにとって僥倖だった。
軽くて口当たりのよい飲み物を会話の端々に口をつけるのもよいが、やっぱり酒は気の合うヤツと自分のペースで飲む方がいい。
幸いなことに今回はキンタローと別々の部屋だった。
壁に耳を当ててアイツがシャワーを浴びているのを確認してから、こっそりと部屋を抜け出すことにした。
どうせ、アイツのことだ。俺がとっくに寝ていると思って部屋に電話をかけることもないと思う。
今朝だって昨日の夜会で睡眠時間が削られたのを心配していたから俺の部屋に訪ねるわけがない。
アイツだって疲れてるし、そのまま寝ちまうだろう。
(バレねえよな……たぶん)
総帥服じゃねえし、とシンタローは己の格好を見て笑った。
念のため、アラシヤマから勝手にSP専用の黒いスーツを取り上げて着ている。
親友の頼み、を口にすると快く貸してくれた。
勿論、寄ると触ると煩い自称親友はここにはいない。
なんとか丸め込んで飲ませた睡眠薬入りのジュースで今頃はベッドの中だ。
万が一、起きたとしても、あるいはキンタローに気づかれても犬猿の中ゆえに俺の不在はばれないだろう。
(いい夢見ろよ。キンタロー)
夜目にもはっきりと分かるホテルのひかりを見ながらシンタローはタクシーを捕まえた。
このときはバレやしないと思って勝手に飛び出して行ったのだ。
キンタローに言えば勝手なことをするなと怒られるし、絶対部屋から出してもらえなくなると思ったから。
ただ、軽い気持ちで行動しただけだったんだ。
***
久しぶりに気持ちのよい飲み会だった。
旧交も温めることが出来たし、なにより地酒がうまかった。
旬の野菜を刺身と和えてカルパッチョ風に仕上げたものも洋風串焼きも酒にあって美味かった。
ほろ酔いのいい気分でホテルへ戻ると出迎えたのはベルボーイだけで部下達はいなかった。
よし!気づかれないでうまくいったぜ!とシンタローはほくそ笑んだ。
(キンタローのヤツ、今頃ぐっすりだな)
勿論、アラシヤマも夢の中だろう。
シンタローの行動に聡い二人に気づかれなかったのだから他の団員は言わずもがな、である。
深夜はエレベーターの止まる音も小さい。
敷き詰められた絨毯の上をそっと歩き、部屋の前のドアに立つとシンタローは安堵のため息を吐いた。
あとはこのまま眠って、キンタローが起こしに来る前にシャワーを浴びればいい。
朝になれば酒も抜けるだろう。明日の予定は確かたいしたことのないものだった。
夜に招待での観劇があったと思ったがごねれば断れるものだ。
ノブを回す音にも気遣い、薄暗い部屋に入る。
ぱちりと電気をつけるとシンタローは思わず声を上げた。
「キンタロー!」
叫ぶシンタローにキンタローは冴えた眼差しのまま近づいた。
そしていきなり抱きすくめられる。
「シンタロー」
低い声がシンタローの耳朶を這う。
「どこへ行っていた」
かり、と耳翼を噛まれシンタローはその刺激と刺すようなキンタロー声に背筋を震わせた。
「えっとな……、その……外で飲んできたんだよ」
吐く息に酒気が混じっている。
それがなくともシンタローのことはすべて分かっているといっても過言でない従兄弟を誤魔化すことは出来ない。
「それで」
一人ではないんだろう、と冷たい声音が耳に吹き込まれる。
誰と行動したのかはとっくに調べがついているぞ。向こう3ヶ月は減給だな。
おまけに大事な総帥をここまで送り届けもしなかったようだ、とキンタローが言う。
そんな仕打ちはねえだろ、と旧友を思ってシンタローが抗議の声を上げると突き飛ばされるようにベッドへと押し付けられた。
「キンタローッ。てめ、なにす……!う、ぐっ」
「ここがどこだかわかっているんだろうな?いいか、ここはガンマ団ではない。勝手な行動は慎むのが当たり前だと思っていたが」
おまえはそんな常識も持ち合わせていないようだな、とキンタローは囁くように言った。
馬乗りに乗り上げられてシンタローは従兄弟の重さに呻く。抗議の声はキンタローによって封じ込められた。
襟首を掴まれて息が苦しい。
そんなシンタローを見ながら、ぎらりとキンタローの目に不穏な色が灯った。
「ガキの頃に伯父貴に知らない土地で一人で出かけるなと注意されただろう?ああ?友達とやらがいたといういいわけは聞かない。
おまえは一人で出かけて一人で戻ってきたんだからな。総帥の自覚が足りなすぎるんじゃないか?
物覚えの悪い総帥閣下には仕置きが必要だな」
口角を上げて、キンタローは嘲笑った。口元を歪めるその仕草は、従兄弟の後見人であるドクター曰く、亡き叔父譲りだという。
「二度とおまえが勝手なことをしないようにその体に刻み付けてやる」
やべえ。コイツぶちきれてやがる。
不敵に笑みながらキスを落とす従兄弟に身を竦ませながら、シンタローはこれからのことを思って己の軽率さを後悔していた。
悪い総帥にはお仕置きをしないとな、と言いながらキンタローはシンタローの眼球を舐めた。
ざらりとした舌の感触と狂気じみた眼差しに背中に汗が伝わっていく。
そして、喉元に指を当てられシンタローは従兄弟の突然の行動に驚愕した。
「答えろ、シンタロー。この服は誰のものだ?」
ぎらつく獰猛な目で問うキンタローの声は冷たい怒りを孕んでいる。
*
「……アラシヤマだよ」
キンタローの指は軽く当てられただけだった。それでも急所を封じる脅しにシンタローの声は乾いたものしか出せなかった。
SP用のスーツの持ち主を告げるとキンタローはやはりなと呟く。
「道理で抹香臭いはずだ。酒のにおいだけでなくこの服から陰気な感じがすると思ったらそういうことか」
言いながら喉元に突きつけた指をキンタローはすべらかに下に下ろしていく。
スーツに何かが憑いているとばかりに忌々しげ呟くキンタローにシンタローはそれはないだろうと思った。
ぶちっと引きちぎるかのようにボタンを弾き飛ばされ、下に着込んだシャツまでもが同じ運命を辿らされる。
(悪ぃ。アラシヤマ……。おまえの服、ダメにしちまった)
無理やり丸め込んで借りたとはいえ、自称親友の煩い部下にどうやって言い訳しようかと思う。
押さえ込まれ、怒り狂った従兄弟にシンタローはなすすべもなくじっとするしかない。
それでも弾き飛ばされたボタンがシーツの上や床に散らばるのを横目に見ながらシンタローはどうやって逃げようかと思案していた。
「逃げようなどという気はおこさないほうがいいぞ」
ぐい、とシンタローの顎を長い指で捉えて、キンタローは酷薄そうに笑った。
喉元を苦しめていた指が離れて、シンタローはようやく息をつく。
ふ~っと肩を揺らしてため息をつくとキンタローはネクタイを緩めていた。
無理やりヤるつもりかよ、と仕置きと言っていた従兄弟に諦めを感じつつそれでも逃げ場を探る。
どうせこのフロアにはガンマ団の連中しかいない。
総帥が半裸で廊下を走りまわっても、皆一様に口を噤むだけだ。
顎にかかっていた指がふ、と離れ、よし!と従兄弟の鳩尾に蹴りを入れようとシンタローは動いた。
(動けなくなっているうちに絶対逃げてやる!)
すっとキンタローに押さえ込まれていた体を動かし、シンタローは身を縮めた。
すり抜けるついでに一発お見舞いしてやろうと踵を上げる。けれども、
「馬鹿め。そんなことはお見通しだぞ、シンタロー」
くくっと笑い声が耳に反響したかと思うとシンタローはさっきよりも力強くシーツへと体を押し付けられた。
くそっ、と舌打ちをしてもがこうとすると視界をやわらかなものが遮る。
きっ、と睨みつけて文句のひとつでも言おうと見上げれば目の前が閉ざされている。
しゅるり、と布の擦れる音がして、それから頭の後ろをに引き攣った痛みが走るかと思うとキンタローが、
「おまえのきれいな目が潤む様を見れないのは残念だが」
と囁きながらシンタローの耳朶に噛みついてきた。
ネクタイで閉ざされた視界ではキンタローの隙を窺うことも出来ない。
「てめ、キンタロー!解け!解けよッ!このッ変態ッ!」
なに考えてんだ!とシンタローが噛みつくように叫ぶ。
するとキンタローは半裸のシンタローの喉元へと舌を這わせながら「おとなしくしろ」と低い声音で牽制した。
「暴れると痛い目にあうぞ。俺は、これからおまえの身が無事だったかチェックするんだからな」
この体を俺以外に触らせていないだろうな、とキンタローはシンタローの胸に手を這わせる。
撫で回す手の感触はいつもと同じだ。
けれども閉ざされた視界が刺激を助長してシンタローはうっと息を飲んだ。
「だいぶ酔っていたようだが、酒場でふらついて介抱されたりはしなかったかシンタロー?
背を摩られたり、胸元に手を入れられたりはされていないだろうな」
言いながらキンタローはシンタローの胸の尖りをきゅっと摘む。
薄い色の乳首が従兄弟の指で赤みを帯びはじめているのを想像してシンタローは照れ隠しに
「そっ、そんなことするのはおまえだけだろッ!」
と叫んだ。事実、酔ったときにシンタローは従兄弟にセクハラ紛いの介抱を受けたことがある。
「どうだろうな?この服を貸したアラシヤマあたりなら血迷ってやらないとも限らないだろう?」
忌々しげに"アラシヤマ"と口にするとキンタローはシンタローのズボンに手をかけた。
かちゃかちゃとベルトが音を立てて、それからジッパーが引きおろされる音がシンタローの耳に届く。
足をばたつかせて抵抗しようかと思ったが視界が閉ざされている状況ではどうにもならない。
抵抗しなくてもどうせうまくキンタローにあしらわれて、前戯もそこそこのきついお仕置きを喰らうだけだ。
明日は視察があるというのに、出かける気が起こらないほど攻め立てられることは予想している。
だが、予想以上のことをシンタローはされるつもりはなかった。
(ここはおとなしく我慢だ……我慢)
抵抗してキレたキンタローにとんでもない目に合わされるのは嫌だ。
目隠しくらい受けてたってやろうじゃねえか。周りが見えないくらいどうってことねえよ!
そんな気持ちでシンタローは、ズボンが下肢から引き抜かれるのをなすがままにされていた。
「……抵抗しないんだな」
おとなしいおまえはめずらしい、と下着も抜き取りながらキンタローが言う。
意地悪く囁くその言葉にシンタローはおまえが喜ぶ反応なんかしてやらねえよ!と心の中で舌を出した。
そんなシンタローの考えすらもキンタローにはばれているということも思い至らずに。
***
下肢から下着を引き抜かれ、シンタローの体はキンタローにシーツに縫いとめるように押さえつけられている。
カエルの解剖みたいだな、とキンタローが言った呟きにシンタローはまざまざと己の姿を脳裏に描いてしまった。
(ンなこといちいち言うんじゃねえよ!)
かあぁっと頭に血が上ったが、シンタローは我慢、我慢だと心の中で唱えた。
「少し冷たいだろうが、我慢しろ」
言うなりキンタローはなにやら蓋を開けた。きゅぽん、と小気味のよい音はいつも彼が使うローションのキャップとは違う。
もっとも旅先だから適当に用意したものなんだろうか、とシンタローが考えていると鼻先に甘いにおいが突きつけられた。
「分かるか、シンタロー?」
キンタローの声は楽しげに耳に響いた。
なんだよ、それ?と視界が閉ざされてはいるものの真上にいるだろう従兄弟へとシンタローは視線を向けた。
「リキュールだ。目の覚めるような紫色をしているんだが、おまえには見えないな。
だが、くらくらするほど甘ったるいにおいなのはわかるだろう、シンタロー」?
言うなり、シンタローの頬に冷たくとろりとした液体が塗りつけられる。
くん、と鼻で嗅いだときよりもずっと濃密な香りが鼻腔へと届く。
「おまえはハーレム叔父貴のことを言えないくらい酒が好きなようだしな。たまにはこういうものを使ってやるよ」
どうやって、とシンタローが口を開けるとその隙に乗じてキンタローの指がシンタローの口腔へと進入する。
シンタローに説明している間にリキュールを指の腹に纏わせていたのだろう。
上顎にぬちゃりと当たった粘液をうっかりと舐めてしまいシンタローは眉を顰めた。
(なんだよッ!この甘さ……!)
甘い、とシンタローが顔を顰め身じろいだ拍子に、キンタローの指が歯の裏を擦る。
歯茎に指を軽く引っ掛けた後、長い指が口腔を彷徨った。
口腔を蹂躙する指に刺激された唾液とリキュールとが混ざり合う。
少しずつ嚥下を試みるが喉を焼け付かせるよう酷い甘さにシンタローは咽た。
「っ、けほっ、くっ、っ……ッ」
タイミング悪く甘い唾液が気管に入る。
シンタローが咳こむとキンタローはそのままでいたら指を噛まれることに思い当たったのだろう。
薄紫の唾液が絡みつく指をシンタローの口腔から撤退させた。
「すまない。少し痛い思いをさせてしまったな」
こういった場合は水分をとって落ち着かせたほうがいいんだろう、とキンタローが濡れた指先をシンタローの顎へとかける。
たしか飲みかけのミネラルウォーターがベッドサイドにあったはずだ。
従兄弟の口唇が己のものへと合わさったときに、シンタローはてっきりそれだと思って与えられた液体をごくりと飲んだ。
「――ッ!!」
確かに与えられた液体はリキュールとは違うものだった。
だが、舌先に残る辛さと喉を焼くアルコールのキツさにシンタローは視界を覆うネクタイの下で目を見開いた。
げほげほ、と指を咥えさせられたときよりもさらに咳き込む。口の端には溢れた唾液がつうと首元へと流れようとしていた。
「したたかに酔った体には効くだろう?もう指一本も動かせないはずだ」
ふ、とキンタローが力を抜く気配がする。
膝を割った状態で無理やりにシーツへと縫いとめていた力がなくなったが、シンタローは逃げ出すことも不可能だった。
カエルの解剖、とキンタローが揶揄した姿をとったままシンタローはだらしなく唾液を口唇から溢れさせた。
ぬちゅぬちゅと淫らな音が下肢に響く。
常ならば耳を塞ぎたいはずなのに、指先から直腸へとじわじわと流し込まれたリキュールによってシンタローの思考は低下していた。
だらんと枕に頭を預け、キンタローの目の前にがばっと足を開いたままでシンタローは恍惚のため息を漏らす。
「俺以外のヤツが触れていないか、軽く指でチェックしていただけなのに……。
シンタロー、おまえはもうこんなになっているんだな」
言うなり指を引き抜かれ、シンタローは名残惜しげな声を漏らした。
「おまえの中を弄くっていたのは人差し指だけだというのに……。これでは人間ドックへと入ることも出来ない。
いやらしい体だな、おまえの体は。こんなんじゃ俺でなくても、医者だろうがなんだろうが指を突っ込まれただけで喘いでしまうだろう。
俺が遠征に行っているとき誰に慰めてもらっているんだ?アラシヤマか、それともさっきおまえが会っていたヤツラか?」
自慰ならば死人は出ないが、と笑いながらキンタローは目の前で勃ち上がっているシンタロー自身を指でピンとはじく。
はじかれたシンタローのものがふるんと腹部へと揺れて、シンタローの腿が震えた。
「ッわけ、なっ……ア、ヒイィッ!」
シンタローが首を振り、否定しようとするとキンタローは従兄弟のものをきゅっと掴んだ。
己の中心を握りこまれ、じわじわ嬲るような指での刺激とはちがう直接的な行動に悲鳴を上げる。
きゅっと蛇が獲物を締め付けるようにキンタローはシンタローのものを掴みながら従兄弟の乳首を撫でた。
すう、と乳暈を撫でた後にキンタローがぷっくりと勃ち上がった蕾をぎりと捻る。
胸と下肢への痛い刺激にシンタローは涙を浮かべた。
溢れる涙がネクタイの布地へと吸い込まれ、そして瞼が布地に張り付いていく。
「ここへ来る前に俺は何度もおまえに言ったはずだが」
「っ、な……に、やぁっ、やめッ!ひ……ッ」
胸から引っこ抜くんでないかと思わせるくらいにキンタローは乳首を摘む指に力を込めた。
「治安の悪い場所でひとりで行動するな、と注意したことをおまえは聞いていなかったようだな。
おまえに会ったヤツらがガンマ団のバッジをつけていたからいいものの普通ならばどうなっていたか分かるか」
ぎゅ、ぎゅと左右に乳首を捻られ、そして自身を痛いほどに締め付けられてシンタローは体を強張らせる。
足指は強すぎる刺激にぴんと突っ張り、口元は恐怖でひくひくと震えていた。
「女でなくても、見目のよい若い男は売り物になるそうだ。
酔ったおまえを捕らえるくらい、ずる賢い商人には容易いことだろうな。起きたら、素っ裸で競りにかけられていてもおかしくない」
「ッ、な、わけ……ね……」
「ないとは限らない。人身売買の組織を先ごろ潰したばかりだったな?浪士崩れの男が捉えられていた報告は受けただろう?」
俺は写真を見たが人買いが置いた用心棒ではなかったぞ、とキンタローは口元を歪めて笑った。
「事態に気づいて俺が落札すればいいが、そうでなかったら明日にでもヒヒ爺のハーレムだな。
そうでなかったら……そうだな。あの辺りの歓楽街ではよく××国の組織が談合を行うそうだ。
偶然、おまえを見つけたらどうするだろうな?ガンマ団総帥を捕らえて拷問にかけるのはそう不自然なことではないが」
ここを切り落とされるかもな、と笑いながらキンタローはシンタローのものを扱いた。
きつく握られ、必死で耐えていたというのにいきなり戒めがなくなり、やわやわと快楽が与えられてそのギャップにシンタローが呻く。
すぐさま、キンタローに
「痛いほうがよかったのか?」
と自身を扱かれながら問われ、シンタローは首を振った。
「イッ、アッ……アッ!きんたろ、気持ち、い……ふっ……ん、あ、あぁ」
「素直だな、シンタロー」
気持ちいいほうがいいのか、とキンタローは笑いながら乳首への負荷も解いた。
それから充血したそれに紫色のリキュールを塗りこむ。
そのときに慰めてくれていた手が離れてシンタローはもどかしさに足を揺らした。
「どうしたんだ?シンタロー」
やさしくリキュールを刷り込みながらキンタローは問う。
「やっ、だ……きんたろ、あ、触れ、よッ!」
キンタローへとシンタローは必死で指を伸ばした。
愛撫の途中でベッドから従兄弟が降りないように腕の中に閉じこめようともどかしい体を動かす。
そんなシンタローの行動にキンタローは笑いながら、胸元へと口唇を近づけていった。
「ふッ、ああ……キン、タロ……ッ」
キンタローの舌で紫色の艶を帯びた乳首を舐め上げられシンタローは思わず差し伸べた手をぶれさせた。
ひととおりリキュールを舐め取るとキンタローが今度は吸いつく。
たっぷりの唾液と一緒に口で吸われてシンタローはその刺激に手をシーツへと落とした。
カエルのように上げていた足もいつの間にか軽い膝立ちの状態になってシンタローはキンタローのやわらかな愛撫に身を任せた。
乳首への責めに飽きたキンタローが再び内奥を弄りはじめると、シンタローの脳裏からは我慢という言葉が抜け落ちていった。
キンタローの責めたてへ抵抗の言葉でなく、感じるままに喘ぎ、啜り泣くシンタローにキンタローは満足げに熱いため息を吐いた。
「これから、どうしてほしい?いや……違うな。おまえはどうすればいいんだ、シンタロー?」
汗で湿ったシーツに力なく乗るシンタローの手首をキンタローは掴んだ。
もう片方の手もシンタローの肩口を押さえて、キンタローはシンタローの顔に視線を落とす。
シンタローの顔は涙と唾液でぐちゃぐちゃで、髪もすっかり乱れていた。
「も……おま、えの言いつけやぶんなっ……から許し、てっ……くれよ」
お願いだ、とシンタローは顔を必死に上げてキンタローにキスをした。
見えなくても口唇の位置くらいは分かる。子どものようなたどたどしいキスにキンタローは微笑んだ。
「……今日のところはこれで許してやるが」
そう言ってキンタローはシンタローの足首を掴んだ。
目隠ししたシンタローからは分からなかったが、キンタローはシンタローの淫らな姿にいきり立っていた。
シンタローが喘いでいるうちに脱ぎ捨てた服は床の上で散らばっている。
このまま放置しておいて皺になることくらいすでにどうでもよいことだった。
「次はないぞ、シンタロー」
瞳をぎらつかせて一気に押し入る。
「……ッ!!ア、アアッ……キンタロー!」
指でかき回されたそこはもうぐちゃぐちゃに解れていて、抵抗することもなくキンタローを飲み込んだ。
シンタローの体内で温められたリキュールが押し入ったキンタローに性急にかき混ぜられる。
そのたびにキンタローの熱と内奥の熱さとが摩擦を起こしてさらなる熱の上昇が体の奥で起こった。
熱の進行を食い止めたくてシンタローは下肢に力を入れようとした。
けれどもそれはキンタローのものを締め上げ、むしろ余計な熱を生む。
首を振ったりしていてすでに最初の位置からずれていたネクタイをキンタローはシンタローから引き下ろした。
「見ろ、シンタロー。見えるだろう?俺の目に映るおまえの淫らな姿が」
「っ、な、こと……わかんね……ア、ア、アアアッ!」
がしがしと打ちつけられる腰にシンタローは甲高く泣いた。
視界が開けたというのに彼の目は瞑っている。
「や、あ……イイッ、すご、キンタロー!ア、アアッ!ん、あぁ……」
喘ぎ、髪を振り乱しながらシンタローはキンタローの名を呼ぶ。
瞑った目尻から涙が溢れて、それからそれはキンタローの舌先へと消えていった。
「シンタロー」
愛している、と囁かれシンタローは目を見開いた。
限界を超えた昂ぶりを穿ちながら、キンタローは「心配させるな」と掠れた声で囁く。
首筋に噛みつかれながら、キンタローの爆ぜる熱の本流を受け止めるとシンタローはびくびくと震え、そして意識を手放した。
END
PR