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ms4
息を整え、汗の引いた体を起こして、マジックはベッドから下りた。
敷き詰められた絨毯の感触が裸の足の裏をくすぐり、気持ちがよい。
シーツに包まったままの彼の愛息子はあーとかうーとか唸りながらぐったりとしている。
ミラー越しにそんな様子を見つつ、ガラステーブルからマジックはグラスを手に取った。
ガラスの表面は冷たい冷気の粒ではなくいつの間にかテーブルまで水を滴らせていた。
中身を口に含めるとぬるい酸味が口に広がる。
果汁のうまみも香りも吹き飛んだそれでとりあえずマジックが喉を潤していると背後から声がかかった。

「……悪ぃ。俺にもくれ」
喉渇いた、と掠れ気味の声でシンタローはマジックに頼んだ。

「ああ。さっきシンちゃんが飲んでたやつ?パパ、今飲んでみたけどぬるくて美味しくないよ」
それでもいいの?とマジックはベッドの方へと顔を向けた。

「甘い方がいいのならルームサービスを頼むよ」
「……いい。とりあえずなんか飲みたい」

自分のグラスを置いて、マジックはシンタローの飲んでいたものを手に取る。
マジックがベッドへと運んでいくとシンタローはゆっくりと体を起こした。

「はい。シンちゃん。でも本当に美味しくないからね」
「あー、はいはい」
いいんだよ、と言いながらシンタローは渡されたグラスに口をつけた。
喉を通るグレープフルーツジュースはマジックの言うとおり時間が経って味が落ちている。
それでもシンタローは一瞬、眉を顰めるも一気に飲み干した。

「すごく喉が渇いていたんだね」
「アンタが声あげさせたんだろッ」
シンタローはふんと鼻を鳴らした。
「ああ。それはパパが悪かったね」
ごめんね、とマジックはシンタローの手から空のグラスを取り上げた。
ベッドサイドのチェストにそれを置いて、マジックはシンタローへと指を伸ばす。

「……ねえ。シンちゃん、キスしてもいい?」
マジックはシンタローの顎へと手を添えて、くちづけを試みてもよいか窺った。
「……ん」
シンタローは静かに目を伏せる。毒づいていた息子が大人しくなる変わり様にマジックは気づかれないようそっと笑みをこぼす。

「愛しているよ。好きだと言ってくれてありがとう」


マジックの与えたくちづけは深いものではなかった。
そっと口唇が触れ合うと彼はすぐに離した。
それから、幼い頃、就寝前に与えたときのもののように掠めるように、目を閉じたシンタローの瞼にやわらかいキスを落とす。
くすぐったそうにシンタローは顔を僅かに背けると、頬へと寄せられていたマジックの指をそっと手にする。

「俺も……」
愛してる、といってシンタローはマジックの背へと腕を回した。





ゆっくりと互いを侵食しあうキスを終えると、離れていくマジックにシンタローは悪戯めいた表情で父の口唇を奪った。
シンタローが突然試みた啄ばむようなキスを与えられてマジックは思わず口元に手をやる。

「シンちゃん……可愛い」
パパはもうめろめろだよ、とずっと封印してきたふざけた口調でマジックはシンタローに言った。

「……ったく。可愛いとか言うんじゃねえよ。それよりさ」
「なんだい?」
「アンタ……痩せただろ」
前よりも、と言ってシンタローはじっとマジックの裸身を見つめた。
シンタローが毎日袖を通している赤い総帥服をマジックが着ていた頃、マジックは鍛え抜かれた体をしていた。
総帥という激務を何十年もこなしていても秘石眼だけには頼らずに遠征へ赴いていた。。

「最近ジムに通っていないから筋肉が落ちただけだよ」
マジックは息子の問いにそう答えた。ジムに通っていないのは事実だ。
引退して、あまり体を維持する必要性がなかったこともある。それにその時間を末息子の看病へと当てていた。

「そう……かな」
言われてみればそうかも、とシンタローはマジックを見る。

「それともういい加減年だからね。来月にはまたひとつ年をとるし」
段々体力も落ちてくるよ、とマジックは悲しげに笑った。

「え、アンタ年取るの気にしてたのかよ!?」
まだ棺桶に足突っ込むには早いだろ、とシンタローは笑う。

「うん。気にするよ。だってシンちゃんと年の差を実感するからね」
止まって欲しいくらいだよ、とマジックは苦笑した。
そんな父にシンタローは大きく嘆息する。

「……馬ッ鹿じゃねえの」

酷いよ、シンちゃん。パパの繊細な男心を分かってくれないなんて、とマジックは息子に言う。
けれども、息子は相手にもしない。

「年取るの気にしててパーティも止めることにしたのかよ」
止めたところで意味がないぜ、とシンタローは呆れたように言った。

「う~ん。パーティはね、別にそういうわけじゃないよ。年末で忙しいし、どちらかといえばコタローのほうに力を入れてあげないとと思ったから。
今年から……パパはちゃんとコタローのことを祝うよ」

だから自分のことはいいのだ、とマジックはシンタローへ言った。
年末を控えていて家族もそれぞれ仕事が忙しくなる時期だ。

「一度くらい私の誕生日がなくてもいいじゃないかと思ったんだ。コタローには寂しい思いをさせてしまったし、それに今年は私も仕事が入っているから」
必要ないんだ、とマジックはそっと目を伏せた。





「……でも誕生日に一人って寂しいよな」
黙り込んだ父親にシンタローは口を開いた。望んだことだよ、と言う父にシンタローは首を振った。

「俺が嫌なんだよ!だからッ、仕事はキンタローに任せるように手配して来月の12日は空けておいてやるから」
「……シンちゃん?」

「キンタローには上手い酒でもやればいいからさ。俺がアンタの誕生日を祝ってやる」
アンタの仕事先に押しかけてやるよ、とシンタローははにかむように笑った。

「今日みたいに?」
「ああ。いいだろ?」
少し照れくさそうにシンタローにマジックは仕方なさそうに頷く。

「もちろん、いいよ」
シンちゃんがしてくれることなら、とマジックは了承した。



*



デキャンタに残っていたグレープフルーツジュースを飲んでから、シンタローはバスルームへと向かう。
先にシャワーを浴びたマジックはシンタローを未練がましい目で見た。

「なんだよ?」
鈍い重さが残る体に眉を顰めつつ、シンタローはマジックを見返した。

「やっぱり一緒に入ればよかったかな……って」
バスルームへ向かうシンタローの足取りからマジックは息子の体を気遣う様子を見せた。

「一人で入れるっつうの!」
うるせえな、とシンタローはマジックに言い捨てた。

「そんな声出さなくても……。シンちゃん、今更恥ずかしがらなくたっていいんだよ?」
「ふざけんな!」

間髪入れずにシンタローに返事をされてマジックは大仰にため息を吐いた。

「分かったよ。……シンちゃんがお風呂に入っている間、パパは大人しくレストランの予約を入れておくから」
お風呂は今度でいいから、とマジックが言うよりも早くシンタローは
「とっとと予約しやがれッ!アンタと運動した所為で俺は腹が減ってんだよッ!!」
と投げつけるように叫び、バスルームのドアを閉めた。


残されたマジックは、シンタローの要望を速やかに叶えるべく、濡れた髪のまま受話器を取り上げた。





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