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0524
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「「シンタローさーんっ」」
「よぉ、エグチくん、ナカムラくん」
訪ねてきた胸キュンアニマル達に、穏やかに微笑むシンタローさんは、あんまり直視できない。
ものすごい俺の心臓に悪いから。
この組み合わせはヤバイ。ホントに。
「お誕生日だって聞いて、お祝いにきたのー」
「きたのー」
「そっか、ありがとな」
っ……! 可愛すぎるっ……! どっちがとは言わないけどっ……!
言わなくても分かるだろ?! この状況を前にすれば!
二匹を撫でながらお礼を言って、見送る姿。
ああ、和むよなぁ……。
って、そうじゃない!
和んでる場合じゃない!
俺だって祝いたい気持ちは同じ。
「おめでとう」の一言くらい、五秒足らずで済むのだろうけど、変に意識しちまって、言い出せない。
落ち着け俺。たった一言じゃないか!
……良し、言う。
言うぞー。
「シン……」
「シンタローさぁ~ん!」
「私たちの愛を受け止めてぇ~!!」
……いや、いつかはくると思ってたけどさ、 なんてタイミングの悪いナマモノ達なんでしょうねっ……?!
「眼魔砲」
さっきとは打って変わって、冷酷にナマモノどもを一蹴する。
うわ、黒焦げ……惨い。
まあでも、ゾンビの如く不死身に甦る生命力なのであんまり心配はしてない。
ったく、また言えなかった。
今日に限って……いや、今日だからこそ、この家には来客が多い。
「いっそどっかで大々的にやったほうが良かったんじゃねぇか? パプワ?」
俺がそう言うと、パプワはいつものように扇子を広げながら答えた。
「みんなそれほど暇じゃないんだぞ。状況を考えろ状況を」
確かに、今は島ごと空間移動したりとか、色々忙しいけどさ。
じゃあこの来客数はなんだよ……。
多すぎなんだよ。
……たぶん、パプワも彼と共に過ごしたいと思ってるんだろう。
素直じゃないよなー、ホント。
しかし、
「シンタローさん~」
この状況じゃ、
「シンタローさんっ!」
いつまで経っても言えそうにない。
流石、愛されてます。
「シンタローはぁ~んっ!」
「眼魔砲」
……余計なのにも愛されてます。
今日はまた一段とよく飛んだな……。
花、添えとくか。
「ったく、余計なもんまで来んなっての」
余計って、シンタローさんにまで……同情するぜ、祇園仮面。
けど、何にしろ後回し。今はそれどころじゃない。
「あ、あのっ……!」
「あん?」
やっと人口密度が減って、いつもの人数になったところで、やっと……。
今度こそ言う。言うんだ俺っ!
「よぉ、邪魔するぜ」
……今度はどなたデスカ?
何なんだこのタイミングの悪さ!
俺に恨みでもあるのか? えぇ?!
「何であんたたちまで来るんだよ……」
シンタローさんが訝しげな視線を向けたその先には、心戦組の面々。
……はっ?! ウマ子はっ……?!
……どうやらいないらしい。
よかった! 生きてるって素晴らしいっ!
「んなことぁ、こいつに聞いてくれ」
煙草をふかしながらしれっと言うトシさんは、近藤さんの方を指差した。
っていうかアンタら来るなら来るで、もっとタイミング見てくれませんか?
「いや、島では一応ご近所さんな訳ですし、何もないのもどうかと思いまして」
「……そう言うからには、手ぶらってこたぁないんだろうな?」
……俺様モード入ってます。
もともと組織自体が敵対してるようなもんだから、仕方ないのかもしれないけど。
でも、どっちかというと天然で。
「えぇ、今ウマ子が、祝いにと熊を獲りに……」
「「いりません。」」
そんな危険物は。
う……前に見たトラウマが……!
「ホント、祝う気持ちがあるならその分現ナマよこせよって感じですよね」
……こっちはこっちで怖いし。
「ソージ! お前はまたそういう……!」
「三段突きみね打ち」
……床、掃除しないとなぁ……。
「ったく、何しに来たんだよ」
「そりゃこっちのセリフだ」
熊は要らんからとっとと帰れと言わんばかりに、トシさんを睨みつける。
俺様継続中。
「俺は別に、商売敵の頭の生まれた日なんて祝う気ねぇよ」
トシさん、じゃあホント何しに来たんっスか……。
シンタローさんの機嫌損ねるくらいなら帰って欲しいんですけど。
「おいリキッド」
「え、はい?」
何でそこでいきなり俺に振る?!
とか思ってたら、何か投げてよこされた。
「どーせ飲まねぇからな。お前にやるぜ。 同居人とでも飲みな」
手の中のものを確認する。
言った言葉から大体予想は出来たけど。
……酒。
和風の。つまり日本酒ってやつ。
わざわざ俺使って関節的に渡さなくても……。
自分で渡せばいいのに、この人も大概素直じゃない。
「それじゃあな」
用向きもすんだからと言って、近藤さんを引きずって帰っていく。
……局長だよね? 一番偉いんだよね? あの人?
未だ流血したまま引きずられていく姿からは、全く想像できないけど。
「何がしたかったんだ、あいつ等は……」
大きく息をついて、シンタローさんがドアを閉める。
ちなみに熊は念を押してお断りした。
この大事な日にウマ子に構ってる暇はないんだっての。
つーか今度こそ言えるだろ?
もういい加減次があったら泣くぞ俺は?!
「シ……」
「だぁー、何か疲れたなー今日」
……今度は当人に言葉を遮られました……。
……もぉ泣いて、いいっスか?
って言うか実は故意ですか?!
まさかこの間頬にしたことを、まだ怒ってる……ってことはないと思うけど……。
たぶん……。
「贅沢者め。みんなお前に会いにきてたんだぞ」
俺が言うより先に、パプワが答えた。
その「みんな」のおかげで俺はまだ言えてないんっスけどね!
「ん……そっか」
あ……。
今、なんか……。
呟いたその声が、すげぇ嬉しそうだった。
「何っつーか……こういう風に会いに来られるのも、嬉しいもんだな」
本当に、少し照れくさそうに、ふわって感じで笑って。
その顔は、やっぱ心臓に悪い。
鼓動が痛いくらいに早く打つ。
「みんなシンタローが好きだからな」
「わぅ~!」
パプワが言った言葉。
確かに、みんな彼が大好きで、彼も嬉しそうにそれを受け止めている。
「おめでとうナ、シンタロー」
「わぅ!」
不意に、先を越された。
くっ……! 俺が言いたかったのにっ……!
「ああ、サンキューな」
けれど、
そう言って笑う顔を見ていると、嫉妬する自分を、馬鹿みたいだって思う。
やっぱ俺、相当この人のことが好きだ。
「シンタローさんっ、あの……」
そのたった一言に緊張して、震えてはいたけれど。
やっと言い出しかけたそれに対して、笑顔で……。
「てめぇ、一昨昨日の……今度やったら殺すぞ? 変態ヤンキー」
いや、笑顔だけど、目が笑ってない……。
やっぱまだ怒ってるんですね。
プレゼントだと思って許してくれたりとかしません?
……って、今はそのことじゃなくて!
「そ、そうじゃないっス! 俺はただっ……!」
「ただ?」
正面から見つめて(睨みつけて)くるのは反則だと思います……。
「その……一言、『おめでとう』を、言いたくて……」
ああ、もう、普通に言えば済むことなのに。
何でこんなことまで言ってんだ、俺は。
「ふぅん」
『ふぅん』って……それだけですか?!
俺はそんな一言で片付けられちゃうんですか?!
うわっ、すげぇショック……。
「……どうした。はやく言えよ」
「へ……」
てっきりそこで終わったと思った会話は、まだ続いていたらしく、シンタローさんは、まだ俺を見ていた。
「言ってくれんだろ?」
苦笑して、促すような言葉。
「祝ってくれんなら、受け取っとくぜ?」
沈んでいく気分を、その一言がすくい上げた。
自分のことながら、かなりの単純ぶりだよな、俺も。
こんな風に言ってくれるから、俺は――――。
あなたに――――。
「っおめでとうございますっ! シンタローさんっ!!」
精一杯の気持ちを込める。
デカイ声だすな、とどつかれたけど。
小さく「ありがとな」と言ったのも、確かに聞こえた。
『ありがとう』を言いたいのは、むしろ俺のほう。
島のみんなに好かれていて、
家事全般が上手かったり、
天然俺様体質だったり、
人をこき使ったり、
けれど、
色々言いながらも、人の誕生日を祝ったり、
向けられた言葉に、照れながらお礼を言ったりしてるあなたが――――。
今、ここに、いてくれる。
だから、
『おめでとう』と『ありがとう』を――――。
END
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後書き
す、すごい……人(ナマモノ含)がたくさん出ているっ……!
(いっつもリキシン(二人だけ)ばっかり書いてるから……。)
要するにシンタローさんはアイドルです。(何)
続きものにするはずだったのにほぼリンクしてません。(オイ)
というか互いに相手目線で祝おうとしただけなのに、
リキッドばかりが幸せそうってどういうことなんデスカ?!
2004(May)
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