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0521
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何やらヤンキ―が朝からそわそわしている。
理由は分かってる。
というか昨日知った。
だからって特別何かしてやるかって言えば、んなことない。
子供じゃねぇんだ。
そんぐらい聞き分けるだろ?
大の男がそれより年上の男に祝われて何が嬉しいよ?
まあ一応、いつもは分担してる家事を、今日くらいはってことで、俺がやってる。
その後ろで……。
さっきから……。
……だから止めろ。
「…………」
無言で嫌な圧力かけるのは止めろってんだ。
こいつ、自覚が在るのか無いのか、構って欲しいと訴える犬みたいな目で見てくることがある。
認めたくないが、そういうのに弱いんだ俺は。
下手な脅し文句や脅迫まがいの言葉より、ずっと効き目がある。
……ようは甘いってことなんだろうが……。
だから俺は認めたくねぇんだ!
こういう時に限ってパプワやチャッピーはいなかったりする。
というか、いないからこそか? このヤンキ―。
「シンタローさん」
うっせぇ、呼ぶな。
「あの、ホントありがたいんですけど、俺やっぱ手伝います」
「ああ? 何でだよ?」
人が折角代わってやるってのに、コイツは立ち上がって、隣にきた。
「いえ、その……やることなくって」
そう言ってへらりと笑う。
家事がすっかり体に染み付いているのか、どうも落ち着かないらしい。
「……ま、いいけどよ」
別に、どうしても断らなきゃいけないわけでもなく、俺にしてみてもそっちの方がありがたい。
何と言っても構って欲しいオーラを浴びずにすむ。
すむと……。
「…………」
思ってたんだが……。
「…………」
ったくよぉ……。
「…………」
沈黙。
もういい加減疲れてくる。
お前一体俺にどうして欲しいんだよ?
「……リキッド」
そうして数分……。
「はい?」
「お前水汲み行って来い」
耐えられなくなる。
もともと我慢強い方じゃないんだ。
仕方ない。
「へ? ……水ならそこに……」
「いいから行けってんだ」
何でもいいから理由をつけて、この状況から脱したい。
意識して睨みつけると大人しく外へ出かけていった。
こういう時だけあいつの下っ端根性には感謝する。
「…………馬鹿か俺は」
あいつが出て行ったのを確認して、額に手を当てて呟く。
こんなことがしたかったわけじゃないだろう?
だって、
あんな顔で、あんな目で見るから――――。
「っ……! あぁもう! 作りゃいいんだろ?! 作りゃ!!」
別に何にも特別ってことじゃない。
俺はただ『いつも通り』のオヤツを作ってやるだけだ。
それに一言足すだけなんだ。
何にも特別なんかじゃねぇ。
これは言い訳なんかじゃない。
事実だ。
懸命に自分に言い聞かせて、俺は台所に向き直った。
「すんません、遅くなりました……」
水汲みに行っただけのはずのヤツは、何故かボロボロで、心なし影を背負いながら、帰ってきた。
「遅い」
別に急ぎだったわけじゃないが、遅れたら遅れたで癇に障る。
こっちはとっくに終わってたってんだ。
「いや、その、途中でウマ子がですね?!」
必死で言い訳するその目の前に、皿を突き出した。
「……え?」
いきなりのそれに驚いたのか、目を丸くしたまま固まっている。
っだー、説明までさせんなっ。
「本日のオヤツだ。食うのか食わねぇのか?」
皿の上に乗った一切れのケーキ。
もちろんパプワたちのは同じのを別にして取ってある。
だからオヤツなんだよ。
他意はねぇ。
「へ、あ、あのっ……?」
まだ状況が読み込めないのかこの馬鹿。
「……食わねぇならいい」
「っ食べます! 食べさせていただきますっ!!」
とんでもないと言うようにして、強く首を横に振り、引っ込めようとしたその皿を、力を込めて引かれた。
さっきまで背負ってた影はどうしたんだか。
最初からそう言えっての。
「えっと、そのっ……。ありがとうございますっ! シンタローさんっ」
嬉しそうに笑うその顔。
素直に出てくる言葉。
何となく苦笑する。
ホント、こういうのに甘いよなぁ……、俺は。
今日一日、これだけ優しくしてやったんだ。
だから最後くらい……。
「Happy birth day Liquid」
ガラにもなく言ってやったその言葉に対して、了承もなしに人の頬に口付けをしてきた男を、眼魔砲でぶっ飛ばしたって、バチは当たらないだろう。
END
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後書き
何かシンリキっぽいんですけど…!!(そら大問題だ!!)
う、うちはリキシンサイトですよね?!
少なくともシン受けなハズよ!(リキシンだけしかない)
シンちゃんだってちゃんと思いやってるんだよと言いたかったのです!
(あまりにもリキッドが一方通行すぎなので)
でもやっぱり最後はリキ→シンオチ。
シンタロー誕生日へ続く…かもしれない。
2004(May)
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