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rs

 好きじゃない



なんなんだよ。
こんな時に変な冗談やってんじゃねぇよヤンキー。
なんでそんな目で俺を見てんだよ。
なんで俺の腕を掴んでんだよ。
……離せよ。
痛いんだよ馬鹿。

「シンタローさん…」

なんだよその目は。
なんで真直ぐ俺を見てんだよ。

「シンタローさん、逃げないでください」

…はぁ?
何言ってんだこいつ。
俺がいつ逃げようとした。
ふざけたこと言ってんじゃねぇ。
俺はそんなに弱い奴じゃねぇよ。
だから手、離せってば。

「…聞いてくださいシンタローさん」

………なんだよ。

「あの、俺は、本当に駄目なやつで…」

そんなこと今更言われなくても十分知ってるぞ糞ヤンキー。

「何やってもシンタローさんにはかなわなくて…」

当たり前だろうがボケ。

「それなのに…俺がこんなこと言うのはおかしいかもしれないですけど」

…………。

「それでも…それでも俺、シンタローさんを守りたいんです」

……やめろ

「シンタローさんに笑っていてほしいんです」

やめろよ…

「その、だから俺は…」

……その先を

「シンタローさんが……」

言わないでくれ――…













「―――好き、なんです……」





馬鹿、ヤンキーがっ…

「シンタロー、さん…」

…うるさい。

「泣かないでください」

うるさい、黙れ。
俺は泣いてなんかない。
なんで俺が泣いてなきゃいけないんだよ。
むしろお前のほうが泣きそうな目をしてるだろうが。
…って、何してんだよお前。
勝手に俺の顔を触ってんじゃねぇよ。
至近距離で眼魔砲ぶっぱなすぞ。

「あの、シンタローさん」

うるさいって言ってんだろ。
いちいち名前を呼ぶんじゃねぇ。

「シンタローさんは俺のこと、好きですか…?」

本当になんなんだよこいつは。
なんでそんなことを聞くんだよ。
…だからやめろって。
そんな目で俺を見んじゃねぇ。

「…お願いです。答えてください」

……馬鹿かこいつは。
俺がお前のこと好きなわけないだろ。
お前なんか好きじゃねぇよ。

“好き”だなんて――

お前には絶対言ってやんない。



 ・END・

(二人の歩く道はあまりにも違いすぎて、重なりなどしないのだから)

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r
 

 

 夜更けにふと目を覚ます。普段なら朝までぐっすり眠れる筈なのに珍しいな。
 そのまま眠りの淵にもう一度辿り着けそうに無いと思うと諦めて体を起こしてみる。座った状態で窓に目を向けると煌々とした月明かりが眩しい。そっか、この光で目が覚めちまったのかな?
 …って言うか、寝てた俺の顔にモロ直撃?
 ああ、俺の馬鹿!今日も早くから家事に奔走しなくちゃならないってのに何でこんな場所に布団なんか敷いたんだ俺!
 ひっそりと深い溜息を吐いてちょっぴり自己嫌悪。
 起きて家事をするにはちょっと早い、それでもすんなり眠れたとしても寝直すのにはちょっと遅いかも知れない微妙な時間。あーあ、どうしようかな。散歩のついでに朝飯の食材ゲットしてくるのも悪くないな…でも…
 「…んー…」
 静かなこの空間に突然聞こえた声にビックリして、上がりそうな声を飲み込んで声のした方を見る。シンタローさんを挟んでパプワとチャッピーが川の字で寝ている。どうやらさっきの声はシンタローさんの声だったらしい。
 ちぇ、何年もパプワ島に居て、パプワ達の世話をしてる俺の立場が無いっての。まー、シンタローさんが来る前でもそんな羨ましいシュチュエーションなんて皆無だったけどね。
 あ…目から汗が出てきたのは気のせい?気のせいだよね?
 目の端に滲んだ水分を腕で拭うと改めて3人を見る。実は不思議とこの光景が嫌じゃないんだよな。確かにちょっと寂しいかも知んねーけど、逆にこれが自然だと感じちまうからしょうがない。
 それにしても、本当に3人とも幸せそうな寝顔してんな。見てるこっちまで心が和んでくる。特にそんなシンタローさんの表情は珍しくて、もっとしっかりと見たいと思った俺は出来る限り音を立てずに布団から抜け出すとシンタローさんの頭上まで移動する。片腕づつにパプワとチャッピーを腕枕して身動きしにくいだろうに苦しげな表情すら浮かべない。流石はお姑さん、アンタは保護者の鏡だぜ。
 覗きこむようにして近づけたその表情が更に嬉しそうに緩むのが見えて、俺も何だか無性に嬉しくなった。
 シンタローさんの事だからパプワやチャッピー、それとナマモノ達(一部除く)と楽しく遊んでる夢でも見てんのかな?それともサービス様の夢?隊長の弟の事を語るシンタローさんは本当に嬉しそうに話すんだ…あ、でもやっぱりコタローの夢かな。この人って本当にどうしようもないブラコンだから。
 床に散らばる長い黒髪に手を伸ばして触れる。この人が幸せそうだったら俺も幸せって感じる気がする…
 少しの間その寝顔を独り占めしていたけど、見つめていた唇が動くのを見て首を傾げた。声は出てないから何を言ってんのか解んないけど、もしかしたらそろそろ腕枕に身体が悲鳴を上げてるのかも知れない。俺が起きる前からみてェだったし。
 そーっと細心の注意を払ってパプワとチャッピーをシンタローさんから離す。起こさないかとか、寝ぼけ眼で襲われるかもとか考えながら嫌な汗をかいたけれど、幸いにうまく移動させる事が出来たみたいだ。
 でも、すぐさま解放されたシンタローさんの腕が何かを求めるように伸ばした手にまた、冷や汗をかいた。
 うわちゃー、もしかしてパプワを移動させたのが悪かったのかな。無意識にパプワを探してるのかもしれない…余計なお世話だったのかな。それでも今更戻す訳にもいかないから彷徨う手を両手で包み込む様に引き寄せると、笑みが強くなった気がする。

 「…キンタロー…」

 一瞬、空気が凍ったのかと思った。握り返してくる手が優しくて、逆に悲しくなった。
 何でそこでお気遣い紳士の名前が出てくるんすか?
 何でコタローやパプワの夢じゃないのにそんなに幸せそうなんすか?
 もしかしてシンタローさん…お気遣い紳士の事を…?
 さっきまでの嬉しさは何処へやら、シンタローさんとは反対に凍える心。
 胸が締め付けられる感覚に思考が止まる。何も考えられなくなって…
 気が付いたら、シンタローさんにキスをしていた。思ったよりも柔らかい唇に合わせるだけのキス。
 「ん……すき、キ…タ…」
 甘い吐息と共に伸びてきた腕が俺の首筋に触れた瞬間、高揚感に背中がゾクリとした。
 夢現の状態なんだろう、とろんとした瞳で俺を見つめるシンタローさんは…本当に可愛かった。パプワやコタローに向ける優しい笑顔とはまた違って、優しい甘えを含む笑顔に魅入られると同時に、その笑顔が無条件で見られるこの場に居ない相手に嫉妬した。これ以上覚醒させない様にゆっくりと腕を背に回して抱きしめると甘えて擦り寄ってきた。
 「…側に居るから、少し眠ると良い…」
 お気遣い紳士が言いそうな言葉を耳元で囁いてやると、解ったと答えてそのまま眠りに落ちた。
 無防備な寝顔…こんなに安心しきったシンタローさんは初めて見る気がする。それだけあの人を心に住まわせている率が高いって事だ、それが悔しい。俺だってシンタローさんの事が好きなのに…
 落ちていく気分を何とか変えようと首を振り、俺にもたれかかるシンタローさんを静かに横たえてシーツを被せる。南国って言ってもやっぱ風邪を引く時は引くから気をつけねぇと。シンタローさんから離れるとパプワとチャッピーにもシーツを掛け直して、出来る限り気配を殺してパプワハウスを出る。夜明け前の薄暗い空気、幾分か涼しい風を身に浴びながら浜へと向かう。こんな塞ぎこんだ気分じゃ何をやっても駄目そう。だから、朝飯の準備をしながら気分を切り替えようと心に決めた。

 知らなかった…何時の間にか俺の中でシンタローさんがこんなに大きな存在になっていただなんて…
 気付けなかった…あんなに魅力的な人に恋人が居ない筈がないって事を…
 忘れていた…いずれこの島を去っていってしまう人だという事…

 …ねえ、シンタローさん。今からでも、全力で頑張れば振り向いてくれる可能性はありますか?
 振り向かせる事が出来たなら、帰らずに此処に残ってくれますか?

 例え眼魔砲を撃たれたとしても、これから本気でいかせてもらいますから覚悟して下さい。
 何時か、あの笑顔を俺に向けてくれる日に向けて。
 

r



「おいッ!テメーまた洗濯手抜きでやりやがったな!!」





「い、いえッ滅相も御座いませんです!!」





「嘘吐け、このヤンキーが!!」





「えぇ?!ヤンキー関係ないんじゃ…ってスミマセン、口答えしてゴメンナサイ!!」






スライディングでシンタローの前までいき土下座。

最近これが日課になってしまったお姑さんとの日常。

俺は普段決して手抜きなどしない、したらパプワに叱られてたからな…。

だが、シンタローさんが来てからは構ってもらいたくて。

シンタローさんにしか見抜けないくらいのミスをする。


今日は洗濯の時の洗剤カスが残っていたらしい。









,


「ったく、よくもまぁこんなミスを毎日毎日…パプアもよく耐えられたもんだ」



「も、申し訳無いです…」



「…テメー、こんなんでよく4年も保ったな」



「…はぁ」



4年の苦労を馬鹿にされるのは屈辱だった。
でも俺のやり方なら当然か、と開き直る。



「さて…俺は此処で残りの洗濯をしてっからテメーはパプアを探してこい」



「は、はい、行ってきます!」



飛び出すように出て行くリキッド。
その後ろ姿に溜め息を吐いてしまい何の言葉も出てこない。
シンタローは残っていた洗濯物を干し始めた。



「シンタロー」



「えッ…ぱ、パプア?!」



「…リキッドはどうした?」



周りをキョロキョロ見渡してから現番人を目で探す。
しかし姿形もなく目の前にいるのはシンタローのみ。



「ついさっきお前を探しに行かせたんだが…」



「僕はチャッピーと一緒に湖で水遊びしていたぞ」



「ワゥ」



「ったく、お子様は涼しく水遊びかよ」



「お前たちも洗濯に水を使ってたじゃないか」



「…あれは家事で遊びじゃねぇんだよ」



「でも使っていたぞ?」



パプアは負けじと引く気配はない。
そんな子供の様子に引かない自分を大人気なく感じて。



「…もうイイ…ところで、俺はリキッドを探しに行くけどどうする?」



「僕等も手伝ってやる」



「……サンキュ」




4年前と変わらないパプアの性格。
素直じゃない言葉の裏にはちゃっかりとリキッドを心配している。
そんな行動がまるで自分みたいで面影さえ感じていた。



しばらくしてジャングルに迷い込んだ。
パプアやチャッピーは歩きなれた道なのか迷うことなく進んでいく。
シンタローは黙ってついて行くだけ。



「…なぁパプア…」



「ん?」



「普段のリキッドの奴のさ…家事の様子ってお前から見てどうだったんだ?」



「真面目だぞ。ま、シンタローの時とは違って始めから上手くなんてなかったがな」



「そっか…」



「でも、シンタローが来てから手を抜くようになった」



「…俺のせいみたいに言うなよ」



だが、確かにパプアの言うとおりかもしれない。
俺が家事をするようになってからリキッドは手抜きを始めた。
何故なのか…ある程度は出来ていないとパプアは納得してはくれない。
つまり俺がくる以前はパプアが納得出来る程度は出来ていたことになる。
確かコタローを迎えに来た時の朝食…。
あれは良かった、あんなにも美味いものを毎日食わせてもらっていたと知った時。


本当に嬉しかった。


ま、俺ならアレの何十倍も美味い飯を作れっけどなッ。

でもコタローのそばにいたのは俺じゃなくてリキッド。


長年待っていた。


コタローが目覚めて家族として暮らせるようになることを。
危険だからと言って日本に監禁していた親父も。

まだ自覚はたりないがコタローの本当の兄であるグンマも。

まだ家族というものに馴染めていないながらも大切な存在だと理解できているキンタローも。

総帥という新しい地位を受け継ぎ今度こそ愛しい弟を守ろうと心待ちにしている俺も。


少し安心していてアイツに気を許していたらサボるなんて家政夫の風上にもおけねぇ。
見つけたら問い詰めてやる。



「…おい、シンタロー?」



「えッ、あ、何だ?どうかしたのか?」



「…ボーっとするな、リキッドを見つけてやったぞ」



パプワが指差した先にはパプワーッ!と呼びかけ探しているリキッドの姿。
こんなところからでも見ていれば真面目に探していて。
赤の番人の役割を果たせてんな、って思えるのに。
何故自分の前だと手を抜きわざわざ叱られるような事をするのか。
もしかしたら特戦にいた頃に同僚や上司からの虐めで芽生えたMっ子気質が彼をそうさせているのでは?



「…んな訳ねぇか」



「何か言ったか?」



何でもねぇ、と言い返してまたリキッドを見る。
どうやらまだパプワを探しているらしい。






,
普段サボってる罰として暫く探させるか。
などと考えてたら隣に居たはずのパプワがいつの間にか居なくなっていた。
まさか、と思い再びリキッドを見ると居た。
チャッピーに跨り乗って悠々とリキッドの目の前に姿を現す。



「チッ…パプワが行ったなら………」



渋々2人の元に向かおうとしたら何か聞こえてきた。
耳を澄ませてみれば目の前の2人の会話だとわかって。



「ぱ、パプワ?!今までドコに居たんだ?探したってのに…」



「おい、最近お前シンタローに叱られてばっかりだぞ」



「げっ!」



「何で手抜きするんだ?シンタローはカンカンだぞ?」



「あ…いや……お、俺だって…やらなきゃ駄目だって分かってんだけど…」



「分かってるならシンタローの足を引っ張るような事をするな」



驚いた。
パプワにそこまで想われてるなんて夢にも思わなかったから。
無性に嬉しくなって思わず頬が微かに赤く染まる。



「わ、悪い…でも…俺、近くにシンタローさんが居るとさ…つい見とれちまうんだよ」



見とれる?



「料理してる時のなんか楽しそうにしてる顔とかさ、洗濯してて綺麗になったときの嬉しそうな顔とかさ」



顔しか見てねぇじゃねぇか。



「すっげー綺麗でさ、可愛くも見えんだ…」



可愛く?
ちょっと待て…コイツ何言ってやがんだ?
何親父みたいに男前な俺様に向かって可愛いなんてぬかしやがってんだ?



「指とか綺麗だし、大きな背中とかもカッコイイし…」



…結局何が言いたいんだ?



「でも、そんなシンタローさんは俺を全く見てくれない…飯の時も遊ぶ時もパプワとばっかり喋って…俺との会話は比較的に少ない…」



「ヤキモチか?」



「うっ…そ、そうかもしれない…」



否定はしねぇのかよ。



「だから…とにかく俺を見てほしくて瞳に映してほしくて喋りたくて…手抜き…しちまったのかな…はは、俺どうしちまったんだろ」



男が男に変だよな、と自分を嘲笑うような笑みで俯くリキッド。
そして、自分の存在がリキッドにそうさせたのだという罪悪感。
本人の目の前に出るに出られないというもどかしさが嫌になり。



,
「けッ、やってらんねぇってんだ」



さっと立ち上がって2人から見つからないように先周りをしてパプワハウスへと向かう。
そして無意識の内に全速力で走っていた。
パプワハウスに着いて扉に手をつき走ったせいで荒れた息遣いをおさめようと深呼吸。
何故走ったのか、走る必要などなかったハズなのに。
そんな疑問が頭の中を駆けずり回ってガンガンと頭痛のように痛い。



「……ったく、何だってンだよ…」



そんな頃、パプワやリキッドはまだ話し合っていたのだがシンタローがなかなか出てこない。
もしかすると先に帰ったのかもしれない、と考えてリキッドに。



「シンタローが待ってるからさっさと帰るぞ」



「あ、あぁ……なぁ、俺また怒られるかな…?」



「…ちゃんと理由を言えばシンタローだって分かってくれる、なんたってシンタローだからな」



まるで自分の事のように自慢気に言うパプワに笑みが漏れた。
プッと笑うと笑うなッ!とチャッピーに頭を噛みつかれた。
痛い、こんな事をシンタローさんは4年前に体験し耐えてきたのか…尊敬します。
なんて考えながら頭から流れる血をハンカチで拭き取る。



「なぁパプワ…俺が手抜きしてること、シンタローさん怒ってるよな」



「当たり前だ、だから帰ったら謝るんだぞ」



「…わかった」



俯きながら愕然となる。
改まって聞く事じゃなかった、怒っていることなど当たり前だ。
まるで、この世の終わりを思わせるような絶望感に満ちた顔での溜め息。
そんな赤の番人に呆れてしまうパプワとチャッピー。



パプワハウスに戻ってくると扉の前でシンタローが立っていた。
まさに仁王立ち、リキッドたちの姿が見えると腕をくみ。



「遅い!遅い!お前パプワを探しに行ったんだよな?なのに逆に探してもらうってのはどういうことだ?しかも俺1人に飯の準備させやがって…一体何様のつもりだぁ?」



「も、申し訳ないっす!スミマセンッ!」



またまたスライディングで土下座する。
しかし、シンタローはその上からリキッドの背中をゲシゲシ足蹴にし上から見下ろす。



「スミマセン!謝りますから蹴らないで下さいッ!」



「あぁ?テメーはいつから俺に指図するようになったんだ?」



「ず、ずびばべん゛……」



泣きながらの謝罪に満足したのか溜め息を吐いてから足を退けてパプワハウスから離れていく。




「さっさと飯に行け、俺は先に水汲みに行ってくっから」



「い、いえ!俺が行きます!シンタローさんが先に」



「いいから先に食え、其れとも俺が作った飯が食えねぇってのか?」



「お先にいただいています、行ってらっしゃいませ」



土下座で見送りパプワハウスへと入ればパプワから何故か注目を浴びる俺。
あぁ、どうせ分かってるさ、シンタローさんは何処かって言いたいんだろ!?



「シンタローに謝ったのか?」



「えッ…そ、そっち?いや、まだだけど…」



「飯くらい1人で食える、チャッピーもいるしな」



「ワウッ!」



「…だから先に謝って来い」





まさか、こんな子供からこんな言葉を聞けるなんて思いもよらなかった。




何時もは俺たち2人には命令形で口を利くくせに、嫌にこんなことに敏感で鋭い。


更に気を遣わせてしまっている俺って一体何のためにパプアのそばにいるのだろうか。




こんな子供に気を遣わせるなんて、大人の風上にもおけないな。





「ごめん、パプア…すぐに戻るから!」



それだけ言って勢い良くパプアハウスを飛び出すリキッド。
シンタローと別れてからまだ時間はそんなに経っていないと確認すれば全速力で水汲み場へと向かう。



俺はなんて奴なんだ…。



シンタローさんばかりでなく、あんな小さな子供のパプアにまで迷惑をかけていたなんて。




あんな小さな子供にまで気を遣わせて心配かけさせて。



守るべき存在に救われて…なんて情けない番人なんだろう。




暫く走っていると漸く目的地の水汲み場へと辿り着く。
そこにはシンタローも居ていかにも面倒くさそうに水汲みをしていた。


「シンタローさん!!」



「ん?」



「す、すみませんでした!!」



「へ?何が?飯の事か?」



「其れもですけど…今まで失態と手抜きについてです!」



もう、どうにでもなれ!って気持ちでシンタローさんに自分の思いを全て打ち明けよう。
そうだ、そうすれば俺のこの胸の詰まった、何だかスッキリ出来ず、ずっと悩んでいた、この気持ち。



「そ、その…手抜きっていうか、手が抜けてしまったのは…見惚れていたからなんですッ!!」



「あ、知ってる」



「えッ……はい?!」



「だから、知ってるって言ったんだ」



「な、なんで…?」



「その…パプアが迎えに行った時、俺も一緒だったんだ」



ってことは…聞かれていたのか?
あの恥ずかしい思いを、未だに分かっていない己の気持ちを聞かれてしまった。



「あ、あの…すみません、気持ち悪い…ですよね」



苦笑いをしてシンタローを見る。
その顔は周りを見る余裕など全くなく、ただこの場から離れてしまいたいという思いでいっぱいだからだ。



「あ、あの…残りは俺がやっときますんで先に戻ってて下さい」



「…2人で持つ方が楽だろ、そっち持て」



「あ、はい……って、今の俺の話聞いてました?!」



「それがンだよ?」



「そ、それがって…気持ち悪い、とか思わないんですか?……自分で言ってて虚しいですけど」


そうだ、打ち明けると決めたのは自分。
気持ち悪がれようが嫌われようが自業自得なのだから。


なのに、なんで構ってくれるんですか?



「テメーだって知ってんだろ?親父が何時も俺に言ってくる台詞をさ」



「マジック様ですか?…確か“可愛い”とか“愛してる”…あぁ、聞き慣れてンですね」



「そッ、だから気にするな」



漸く水汲みも終えパプアハウスに戻ろうとしながらシンタローが呟く。
まるで昔を懐かしむように空を眺めながらリキッドの少し前を歩きながら。



「親父は家族として言ってるって分かってんだけど、俺は可愛いとか…そういう事言われんの嫌だった」



その言葉がリキッドの胸にグサリとくる、自分も言ってしまった。
しかも本人の目の前で…と嘆きながら真っ白になり砂となっていく。


だが、シンタローは更に言葉を続けた。



「…なのに、親父のは嫌だったのに……お前に言われても…ンなに嫌じゃなかった…」



「嫌じゃなかったんですかぁ………えぇッ?!」

,
驚いたリキッドをシンタローは目を向ける事なく最初より早足で先に行こうとする。
シンタローの後ろからはリキッドがしつこくきいてくる。



「い、今何て言ったんですか?!嫌じゃなかったって言ったんですよね?!ね?!ね!」



「う、うるせぇ!!」



「お願いします!もう一度、もう一度だけ言って下さい!!」



「誰が二度というか!ったく……言うんじゃなかった」



ボソッと呟いたのだがリキッドには聞こえていたらしくニヤニヤ嬉しそうに笑み浮かべて。



「今は…まだ、こんな曖昧なことしか言えませんが…ちゃんと気持ちの整理がついたら伝えますからね♪」



「気持ちの整理って…ったく、何が言いたいんだ?」



「…好きかもしれないって事ですvvV」



リキッドの言葉に一気に顔が赤くなったのが分かった。
何故だか分からないが恥ずかしかった、顔が赤くなり体が硬直して動かない。
いつの間にかシンタローを抜かしていたリキッドが不審に思いシンタローの顔を覗き込んで見る。



「どうかしたんですか?」



「えッ?!み、見るなぁぁぁ!!!」



「ちょッ、シンタローさぶッッ!!」



殴られた。
ただ心配して覗き込んだだけだったのだが殴られてしまった。
しかもシンタローは更に殴られたのびたリキッドにバカヤロー!と追い打ちかけパプアハウスへと駆け込んで行った。




シンタローの意外な一面を見たリキッドは至福の時を感じていて殴られた後にも関わらず



リキッドが笑顔だったというのを……



島のナマモノたちが次々に見かけたとか。




更にパプアハウスに帰ってからパプアに帰りが遅いと言われチャッピーに噛まれたとか




END

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「シンタローさん、ハイッ」
「何だ、コレは」
リキッドに笑顔で渡された、赤い…それはカーネーションだった。
いぶかしげにシンタローはリキッドを見やる。
「いやだなぁ。カーネーションですよ!」
その返答にゴン、と頭を殴る。
「んなこた分かってんだよ!何で、俺によこすのかって聞いてんだよ!」
「えーと…今日は」
「今日は?」
「お義母さまの日なんです!だから、いつもお世話になってるっていうことで…ねッ」
苦笑いでシンタローを見つめるリキッドに、もう一度頭を殴る。
今度は遠慮ナシに思いっきり。
「いっってぇえ~~。そうボカボカ殴らなくたっていいじゃないっすか!」
「だ・れ・が!お義母さまだッツ!!」
「え、違うんすか?」


いつものシンタローの態度に、お義母さまとしっかり認識してしまったらしいリキッド。
「ったく、何言ってんだか…」
思いっきり深くタメ息をつくシンタロー。
「す、すんませんッ」
「まぁ…でもこの花、キレイだし…」
少し笑みを浮かべたシンタローにリキッドは心奪われる。
「リキッド」
「は、ハイ…ッ!!」
「何ボヤッとしてんだ。早く花びん用意しろよ」
シンタローのその言葉に、パッと笑顔になるリキッド。
「は、ハイッ!今すぐに!」
リキッドは嬉しそうに花びんを探しに入った。
「ま、花にゃ罪はねぇしな」
シンタローは笑みを浮かべながら、カーネーションの匂いを楽しんだ。















⇒あとがき

r
「お・に・い・ちゃ~んっ」
「コ・タ・ロー!」
 
 
 お互いに歩み寄り、次第にそれは走りへと変わる。
 
 
 そして、シンタローがしゃがみこむと二人は抱き合った。
 
 
「会いたかったぞー、コタロー…」
「僕もだよ…お兄ちゃん」
 
 
 ぎゅうっと、コタローはシンタローの胸に頭を押し付けた。シンタローはその金の髪を何時か優しく梳いてやる。
 
 
「お兄ちゃん」
「なんだー?」
「呼んでみただけー」
「そっかー」
 
 
 シンタローはずっとにやにや、もといにこにこしっぱなしだ。その様子からは世界を統べるガンマ団総帥の面影は全く感じとることは到底出来そうに無い。
 
 
「コタロー」
「なーにー?」
「呼んだだけー」
「もーお兄ちゃんってばー」
「ごめんごめんー」
 
 
 まだコタローはシンタローにしがみついている。
 
 
「さぁ、コタロー。もっとしっかりお兄ちゃんに顔を見せておくれ」
 
 
 そう言うと、シンタローはそっとコタローを体から離して向かい合わせる。
 
 
 
 
 シンタローの目の前には――息を荒げたリキッドの顔があった。
 
  「あ、起きちゃいましたか」
 
 
 口元のよだれを拭いながらリキッドはそう言った。
 
 
「なっ、何してんだよテメーッ!!??」
「そんなにおっきい声出さないで下さいよー。まだ真夜中なんすよ」
 
 
 勢い良く、上半身をシンタローは起こす。意識はとうに夢から現実に引きずり出されてしまっていた。
 
 
「…だから何してたんだよ」
「別に何にもしてませんよ」
 
 
 一旦、そこでリキッドは言葉をきった。
 
 
「ただ…そのなんか寝付けなくて、そしたらシンタローさんが気持ち良さそうに寝てたから…」
「で?」
「…それでシンタローさんの寝顔を見てたらついむらむらしてきちゃって…」
 
 
 リキッドは照れ笑いを浮かべている。
 
 
「つまりは夜這だろ」
「えぇ、そうですね」
 
 
 即座にシンタローの拳がリキッドに炸裂した。
 
 
「ってぇー! 何すんすかー!!」
「うるせぇっ! 急に盛ってんじゃねぇよ、馬鹿ヤンキーッ!!」
「酷いッす! そんな悪いコトしちゃうシンタローさんには…お仕置きッす!」
 
 
 言い終わるや否や、リキッドはシンタローを押し倒した。必死でもがくものの、シンタローには体勢が悪すぎた。
 
 
「ちょっ、やめろリキッドッ!」
「や、です」
「パプワ達が起きちまうだろっ!」
 
 
 再び島に戻ってきてから、やはりパプワとチャッピーとシンタローは一緒に眠るようになっていた。そして、リキッドだけがぽつねんと一人別の布団で眠る事にもなっている。
 
 
「大丈夫ッすよ、ぐっすり寝てますし」
 
 
 リキッドは口をシンタローの耳元に近付け、囁く。
 
 
「シンタローさんが声をあんまり出さなきゃいいんすよ」
 
 
 そっと耳たぶを噛まれて、シンタローは軽く震えた。
 
 
「…っそういう問題じゃねぇっっ!」
「そうすか?」
 
 
 今度は首筋にリキッドの唇の熱と柔らかさが舞い降りる。
 
 
「っう……やめろっ!」
「嫌です」
 
 
 その時突然、横で眠り込んでいたパプワが立ち上がった。思わぬ出来事に二人は固まってしまい、背中には冷たい汗が滝のごとく流れ落ちる。
 
 
「んばばーっ!」
 
 
 シンタローの上に覆いかぶさっていたリキッドは哀れ、そのまま壁に吹っ飛ばされた。
 
 
 行動をなし終えると、パプワはまた眠りへと落ちる。
 
 
 衝突のために破壊されてしまった壁の破片がぱらぱらとリキッドにかかった。
 
 
 
   さくさくと音を立てて、二人は闇に包まれた森を歩いている。
 
 
「いったぁー……、まさか寝ぼけたパプワに蹴られるなんて……」
「自業自得だろ」
 
 
 不機嫌そうにシンタローは言い捨てた。
 
 
「いい加減手ぇ離しやがれっ! 何のつもりだっ!!」
「何って、うちじゃシンタローさんは嫌なんでしょ」
 
 
 リキッドはにっこりと笑みを浮かべている。
 
 
「……何だそれは、それはつまり……」
「外でヤるって事ですよ」
 
 
 シンタローとは対称的に、リキッドの表情は相変わらずだった。
 
 
「――っ、帰るっっ!!」
「あー駄目ッすよー!」
 
 
 ぐいっと力まかせに引き寄せると、リキッドはシンタローを樹に押しあてた。
 一瞬、シンタローは顔を歪ませる。
 
 
「背中痛いと思うッすけどちょっと我慢してて下さいね」
「なっ……テメ…」
 
 
 ゆっくりと、瞳を閉じたままリキッドはシンタローに顔を寄せていく。抵抗しようとするものの、シンタローの両手は相手のによってどちらも封じられてしまっていた。
 
 
「平等院鳳凰堂極楽鳥の舞っっ!!」
 
 
 何の前触れもなく炎に包まれてしまい、リキッドは叫び声をあげた。
 その隙をついてシンタローは拘束から逃れ出る。
 
 
「わてのシンタローはんに何さらしてはるんやっ! 大丈夫でっかシンタ」
「眼魔砲ッ!」
 
 
 アラシヤマが吹き飛ばされた後には、土埃を払うシンタローと火は消えて煙が立ち上るリキッドが地面に倒れているばかりであった。
 
 
 
  「ほらもう帰んぞ」
「いやッすー! シンタローさんとヤりたいんすーっっ!!」
「駄々こねんじゃねぇよ! 大体しようにも場所がねぇだろ」
 
 
 リキッドはしばし眉を寄せる。
 
 
「…じゃあ場所があればいいんすね」
「は…?」
 
 
 きょとんとした様子のシンタローの手を掴むと、リキッドはどんどんと歩きだす。
 
 
「おい、何だよ。何処行くつもりなんだよ!」
 
 
 シンタローの問い掛けにも答えず、リキッドはただ黙々と突き進んでいく。
 
 
 そして五分程立っただろうか、漸く歩みは止まった。
 
 
「なんだ…ここは」
「隊長達が住んでたとこッす。ここなら声出しても良いし、背中も痛くないんで大丈夫ッすよ」
 
 
 嬉々としてそう言いながら、リキッドは扉を開いた。
 
 
「で、何処が大丈夫だって?」
 
 
 長く使われていなかったせいで中は少し埃っぽかった。だがそれ以前に到る所に酒瓶やらガラクタが散乱していて――文字通り足の踏み場さえもありはしない。
 
 
「――――っ、片付ければ良いんすーッッ!」
 
 
 リキッドは泣きながら、元上司&同僚の家の掃除に取り掛かる事となった…。
 
 
 
 
「ふーっ…終わったー!」
 
   始める前とは打って変わって、すっきりさっぱりと整えられた部屋がリキッドの目の前に広がっていた。
 そして晴れ晴れとした面持ちでリキッドはシンタローの方へと振り返る。
 
 
「…まあまあってとこか」
 
 
 その言葉に思わずリキッドは耳を疑ってしまった。いつもならお姑さん的厭味の一つでも飛び出してくるはずであるのに。…もしかしてこれは結構良い感じかも?
 
 
「かなり贔屓目に見てだけどな」
「……そ…そッすか…」
 
 
 渇いた、力の無い笑いがリキッドの口から漏れた。
 
 
「はー…なんか疲れた…」
 
 
 ごろんとリキッドはソファに横たわった。スプリングが小さく軋んだ音を立てる。
 
 
「眠いのか?」
「いや……そんなこと…」
 
 
 否定してはいるものの、蒼い瞳は虚ろで瞼が重そうに見える。
 
 
「ほらそんな眠そうな面しやがって」
「す…すみません…」
「寝れば良いだろ」
「……じゃあ…お言葉に甘えて……ちょっとしたら…起きるんで…そしたら……」
 
 
 最後の方の言葉は寝言に近く、そのまま意味をとれずに崩れ落ちていった。
 次第に吐息は深く安定したものになっていき、リキッドはただ眠った。
 
 
 眠るリキッドを月明かりのもとで、シンタローはぼんやりと眺めていた。馬鹿な奴だ、なんて考えながら。
 
 
 そして先程彼によってたたまれた毛布をかけてやって、シンタローは出ていった。
 
 
 
   リキッドは今日何時目かの欠伸をした。
 
 
「あーあ、せっかくのチャンスだったのになぁ」
 
 
 あの後、リキッドは眠り続けて気付いたのは朝食の時間であった。もっとも、用意は先に帰ったシンタローがしておいたおかげでその事に関しては助かったのだが。
 
 
「…ま、過ぎたこと言っても仕方ねぇや。とりあえずやれることやっとくか」
 
 
 今日の家事は一通り済ませてきてあった。そして今、リキッドはお掃除道具一式を持ってシシマイハウスへと向かっている。
 その目的は暗かったために見逃してしまったと思われる汚れを除去しきることであった。
 
 
「…ちゃんとやったらシンタローさん褒めてくれるかな」
 
 
 足どりも軽く、リキッドは鼻歌混じりですらある。
 
 
 湧き出る妄想に胸を高鳴らせながら、リキッドはシシマイハウスの中へと入った。
 
 
 途端にリキッドは違和感を覚えた。昨日の夜にはもっと全体的にむさ苦しさを漂わせていたはずなのに、今ではカーテンや壁紙などが可愛らしいものへと取り替えられてしまっているのだ。
 
 
 リキッドが首を傾げていたその時、雄々しい地響きが近付いてきた。
 
 
「も…もしや……」
 
 
 意に反して、リキッドは金縛りにかかったかのように体を動かすことが出来なかった。
 
 
 そして、やはり予想通りに彼女はそこにやってきた。
 
 
「リッちゃーんッ!」
「ウ……ウマ子ぉ……!!??」
 
 
 驚きのあまり、リキッドは開いた口が閉じられない。
 
 
「なななな…!」
「まったくこんな所をこっそりウマ子とのために用意してくれるなんて…わしは猛烈に感動しとるけん!」
「ちょ、な、だ、誰がんなこと…」
「ガンマ団新総帥じゃけんのう」
「え」
 
 
 最大級の衝撃がリキッドを貫いた。
 
 
「そんなぁ…」
 
 
 がっくりとリキッドはうなだれた。はらはらと涙が落ちていく。
 
 
「リッちゃん…」
 
 
 その声に反応して身を震わせたリキッドは哀れな犬以外、何にも見えなかった。
 
 
「幸せにしたるけんのうー!」
「い、いやだあぁあ!」
 
 
 リキッドの声が響いた後、森はまたいつもの様に静かになった。
 
 
         End
 
 














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