作・渡井
リキシン好きに20のお題08「必殺技」
コキール
帆立貝をくれたのは、アコヤ貝のイフクさんだった。
「ウミギシくんが世話になったから」
というのがその理由で、今朝イカ男のウミギシくんは、またシンタローと会って揉めたのである。
シンタローは不機嫌そうだったが、立派な帆立貝にリキッドは大いに浮かれていた。中のひとつはとりわけ大きく、貝殻の形も綺麗で、すぐに夕食はコキールに決めた。
「コキールっつうと、あのグラタンみたいなやつか?」
「グラタン……まあ似てるっちゃ似てますが」
料理店では貝殻の形をした器を使うが、本来は貝そのものを皿にする。バターと小麦粉を火にかけ、牛乳で伸ばして…などと説明していたら、シンタローの好奇心を煽ったようだ。
「美味そうだな。俺も覚えるから作ってみろ」
「え、マジっすか?」
言葉は乱暴だが要するに作り方を教えてくれ、ということで、今まで教わってばかりだったリキッドは慌てた。
何とかサマになってきたところの家政夫が、指導役のお姑に料理を教えるなんて、心臓に悪いにも程がある。鍋でバターを溶かす間も、帆立に塩胡椒をする間も、手の震えを押さえるだけで必死だ。
「本当はサフランとかローリエを使うんですけど……」
つい島暮らしで入手できない材料を挙げて言い訳してしまうが、シンタローはそれにも熱心に頷きながら手元を覗き込んでくる。
こういうときは大体、帰ったら弟や従兄弟に食べさせてやろうと思っているときだと分かってきた。
シンタローが料理好きなのは、本人の元々の資質もあるだろうが、周りが喜んで食べてくれるからではないだろうか。
きっと彼は誰からも愛され、それを当たり前に受け止める類いの人間だ。周囲は彼の一挙一動に歓喜し、安堵し、心配し、やがて惹かれていくのだろう。
だって自分がそうだ。彼がこの島に来るまではろくに話したこともなかったし、初対面は最悪だった。
苦手だったはずの男に、こんな短い間に恋をした。
「帆立は一度、軽く火を通しておいた方がいいっす」
イトウくんやタンノくんやアラシヤマのように、惹かれ過ぎて毎日のようにふっ飛ばされている連中まで出てくる始末だ。
好きだと言ったら自分もそうなるのだろうかと考えて、心の中で否定した。
リキッドは彼らのように逞しくはなれない。
「で、ソースをかけて天火に入れます」
「それは?」
「チーズです。おろし金でおろしてみたんですけど」
「へえ、工夫したもんだな」
彼らはシンタローの必殺技である眼魔砲を食らっても食らっても、めげずに追いかけてくる。
自分は駄目だと思った。
「なあ、何分くらい焼くんだ?」
シンタローが嬉しそうにオーブンを覗き、振り向いて訊ねてくる。
その黒い真っ直ぐな眼だけで、リキッドは殺されてしまうのだから。
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諸国大名 弓矢で殺す、
シンタローさんは眼で殺す。
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作・渡井
リキシン好きに20のお題07「乙女ヴィジョン」
ロースト
イトウくんの天使ちゃんを食べてしまったハヤシくんは、オカマの恐竜である。紫外線には気をつけているが食べ物に関してはうっかりさんで、たびたび人肉につられてやられている。
今回もハヤシくんの尻尾を勝ち取ったのはパプワだった。
「ただ焼くだけでは芸がない」
という殊勲者の命により、リキッドが思いついたのはロースト料理だった。
ロースト料理は肉を蒸し焼きにしたものである。牛や鶏、野鳥などが一般的だが、ハヤシくんは恐竜なのでロースト恐竜だ。
「俺んちはよく祝い事にローストビーフが出ました」
肉の塊を糸で縛り、焦げ目をつけてからオーブンで蒸し焼きにする。肉汁でグレイビーソースを作る。
筋を丁寧に取り除いたり、綺麗に焼けるよう何度か油を回しかけたりと、細かな手間を惜しまず作り上げたロースト恐竜に、シンタローも満足そうな顔をした。
「形が良く出来上がってるときは、味も大抵いいもんだ」
「そんなこと言われたらプレッシャーっすよ」
返事は謙遜ではなく本音である。
ただでさえ辛口。ただでさえお姑。
惚れているのを自覚して以来、何とか点数を上げようと必死なリキッドだった。
「これを切ってソースをかけて食うんだな?」
「はい。切り分けるのは父親の仕事だったりするんですよ」
「じゃあリキッドが切るのか?」
突然聞こえてきた声は、シンタローとリキッドのだいぶ下からだった。
シンタローが膝に手をつくようにして、パプワと視線を合わせる。
「うちのパパはリキッドだぞ。父の日にいろいろとしてやったからナ」
「へえ?」
「いや、あの…いろいろとしてもらったっつうか、いろいろとやられたっつうか…」
遠い目で呟くリキッドに、おおかたの想像がついたのかシンタローは面白そうに人の悪い笑みを浮かべている。
「いいじゃねえか、じゃあパパに切ってもらうか?」
まあでも楽しかったよな、元気なちみっ子のいる家庭も悪くねェよなあ…なんてぼんやりと目の前の光景を見ていたリキッドは、その言葉に元気良く返事した。
「あっじゃあシンタローさんがママですよねっ」
「「は?」」
呆れかえったような二重奏に、我に返ったのは3秒後。
…バレた、だろうか?
真っ赤になって、すぐに真っ青になった。ちなみに頭は真っ白である。
「リキッド」
肩にぽんと手を置かれて体がびくりとした。
シンタローは――笑っていた。既に見慣れた、俺様な顔で。
「こないだも言ったと思うがな」
「は、はいぃ?」
「人を姑呼ばわりすんなって言ってんだろーがこのバカヤンキーが!!」
「熱熱熱熱熱ッッッ!!」
「あー疲れた。パプワ、お前が切ってくれよ。公平にだぞ」
「おお、このナイフを使えばいいんだな」
「人に向けちゃいけません。こらチャッピー、ちゃんとフォーク持って」
とりあえず、ローストしたばかりのオーブンに叩きつけられるだけで済んだ。おおむね幸運と言えよう。
バレなかったらしい。それ自体が幸運かどうかはリキッドにも判断できない。
思わず胸を駆け巡った夢の家庭像は、欠片ほども伝わらなかったが、ことが平和におさまると思えば仕方ない。
「シンタロー、こんな感じか」
「何かお前の分だけ大きくねェか?」
結局パプワが切ることになるのも仕方ない。実質的には彼が家長である。
「ちょ、パプワ、何だよ」
だけどシンタローの目を盗んでパプワとチャッピーにフォークでつくつく刺されるいわれはないと思う。
「痛いって、チャッピーも止めなさいっ」
そんな不満はパプワの小声にすぐかき消えた。
「不届きなことを考えるからだ」
「わう」
――バレていたらしい。本人以外には。
呑気にパプワとチャッピーに笑いかけるシンタローを見ながら、リキッドはがっくりと肩を落とした。
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…何で料理縛りにしちゃったんだっけか。
(7番目にして既にきつい模様)
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作・渡井
リキシン好きに20のお題06「一つ屋根の下」
炊合せ
浜辺に野菜が流れ着いたと教えてくれたのは、胸キュンアニマルズのエグチくんとナカムラくんだった。
第二のパプワ島は異次元の世界にあるが、ときおり大渦のワームホールを経て船荷などが流れてくることがある。運がいいと美少年が打ち上げられるが、その場合は生温かいお兄さんたちが大勢やってくるので注意が必要だ。
野菜はほとんどが海水に浸かって駄目になったり割れていたりしたが、わずかながら食べられそうなものがあり、シンタローは身をかがめてエグチくんとナカムラくんに礼を言っている。
「煮物にするから、後で食べに来いよ」
「わーいシンタローさんのお料理ー」
シンタローは島のみんなには(一部を除いて)優しい。
その情けを小指の先ほどでも分けてくれないものか、とため息をつく家政夫がいた。
「オラ何やってんだヤンキー、さっさと支度しろ」
さっきとは夏と冬ほど温度を変えて飛んでくる声に、リキッドは慌ててキッチンへと走った。
「煮物にするんすか?」
「こないだ和食を教えろって言ってたろ。炊合せにするか、いろんな野菜を使えるし海老なんか入れてもいいしヘルシーだし」
パプワ島のちみっ子は、生活習慣病への警戒を怠らないのである。
料理をしながらシンタローが早口で作り方を教え、リキッドは手伝いながら必死にメモを取っていく。
それぞれの持ち味をいかすために、別々の鍋で煮ること。
魚や鶏肉を入れてもいいこと。
薄味の方が風味が引き立つこと。
特に最後に煮汁をかけるときは、一番薄味の出汁をかけないと味付けが変化してしまうことなど、愛想のない口調ながら丁寧に説明してくれる。
これが本当にガンマ団総帥だろうかと、何度も思ったことをまた思った。
「不思議っすね。いろんな味なのに一つの皿に入って、美味しくて」
味見をして感嘆すると、シンタローがふと笑った。
どうかしたのかと顔を見たリキッドに気づき、少し苦笑いになる。
「なんか、ウチみたいだな」
「ああ」
リキッドも同じ笑みになる。
最強ちみっ子のパプワ。島のアイドル、チャッピー。俺様なお姑のシンタロー。そして、自分。
色も形も味もバラバラに、一つ屋根の下で暮らして、一つの料理が作られていく。その連想は奇妙に心地よかった。
そして何より、シンタローが何気なくもらした「ウチ」という言葉が嬉しかった。
きっとシンタローが帰ってしまっても、ここは彼の「ウチ」であり続けるだろう。自然に暖かくなる胸のうちに、黒い影がさす。
帰らなければいいのに。
「ちょっと作りすぎたな。他の連中も呼ぶか」
シンタローの声にはっとして、咳き込むように返事をした。
嫌なことを考えてしまった。4年前、シンタロー自身が自分の気持ちにけりをつけ居場所を選んだというのに、何でこんなことを思うのだろう。
「シンタローさん」
呼びかけると束ねた黒髪が揺れた。
「何だ?」
名前を呼ぶと、振り向いてくれるから。自分を見てくれるから。
だから帰らないで欲しい、傍にいて欲しいと、そう気づいた瞬間、胸にすとんと何かが落ちてきた。
――ああ、そういうことか。
「他にも何か作りますか?」
「そうだな、これだけじゃ寂しいしな」
分かってしまえばこんなにも簡単なことだ。
俺はシンタローさんに恋をしている。
不思議に穏やかな心の中で呟いて、リキッドは晴れやかな笑顔を浮かべた。
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たかが自覚するまでに6個もお題を使ってしまいました。
お料理は次回から洋食編へ。
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作・渡井
リキシン好きに20のお題05「髪」
酒蒸し
朝食の後で海岸に散歩に行ったシンタローが戻ってきたのは、すでに太陽が真上を越えた頃だった。パプワとチャッピーは昼食を終え、クボタくんに乗りに行っている。
「遅かったっすね」
出迎えたリキッドは何気なく声をかけてぎょっとした。
シンタローの表情はあからさまに険しく、額には青筋が立っている。そして両手には何故かアサリを抱えていた。
「ちきしょう、うっかり洞窟の方に行ったらウミギシに会っちまった」
「ああ、イカ男の。シンタローさん、面識ありましたっけ」
「4年前にちょっとな」
そのアサリは何だろうとまじまじ見ていたら、シンタローが忌々しげに言った。
「投げられた」
「ぶっ」
リキッドは慌てて笑いを噛み殺した。
この俺様なお姑が、顔だけはいい10本足のナマモノに貝を投げつけられている光景は、想像だけで笑える。
そして文句を言いながらもおかずになりそうなアサリをしっかり拾ってくるのはさらに笑える。
しかし本当に笑ったら殺される。案の定、青筋が増えるシンタローに慌てて会話を逸らした。
「どうしましょう、味噌汁にでも入れますか?」
「味噌汁なあ……俺は酒蒸しの方が好きだけどな」
「酒蒸し?」
「知らねェのか?」
アサリに酒を振って火にかける料理と聞いて、リキッドは大いに興味を持った。
パプワ島は四方を海に囲まれている。魚や貝の料理は一つでもバリエーションを広げたい。和食が得意なお姑のお料理教室は、絶好のチャンスと言えた。
それもこれも食卓を賑わせ、パプワたちの食事を工夫したいがためと分かっているので、シンタローもわりに(普段の扱いを考えれば格段に)協力的だ。
「日本酒だったらありますよ、獅子舞の寄越したのが」
コタローが男児祭りを無事にクリアしたとき、祝いだと貰ったものだ。呑みかけだったが、一升瓶の半分近くは残っているだろう。
「へえ、コタローがそんなことしてたのか」
「鼻血拭けよブラコン兄さん」
正直に突っ込んだ見返りに、満遍なく顔面を猫に引っかかれた。
あれ、と声を上げたのは、家に入り床に胡坐を組んだシンタローの後ろ姿を見てからだった。
「シンタローさん、頭の後ろに砂ついてますよ」
「あんのイカ男……!」
アサリをぶつけられたのは後頭部らしい。リキッドはとりあえずアサリを置き、ブラシを取りに走った。
「シャコ貝の次はアサリかよ」
「駄目っすよ、そんな乱暴にはたき落としたら」
苛々とかき回したせいで、髪は乱れ紐が緩んでいる。リキッドは背中に向かって正座し、失礼しますと紐の一方を引っ張って抜いた。
するりと櫛目を通る長い黒髪に、心臓が跳ね上がった。
「し、シンタローさん、髪キレイっすね」
「そうでもねえよ。ここに来てからは潮風でバシバシだし」
しかし色も抜けていないし、手触りもいい――と考えてリキッドは耳まで赤くなる。
俺いま触ってんだよな、シンタローさんの髪に。
「酒蒸しって、パプワとチャッピー食えます?」
「アルコールは飛ぶと思うけど……そうか、考えなかったな。出来ればあいつらには一滴の酒も与えたくねえな。1パーセントでもアルコールが入ったら手に負えなそうだ」
「あんたの叔父さんほどじゃないっすけどね」
まったくだ、とシンタローが笑った。
砂を丁寧に取り、ブラシで梳いた髪をうなじでまとめる。
「こんなもんすか?」
「おお。昼メシ食ってねえし、さっさと作ってパプワたちが帰る前に食っちまおうかな」
「バレたらシメられますよ」
「お前が黙ってりゃバレねえよ」
思わず口元が緩んだ。
二人だけの秘密。その言葉の響きは、たかが熱で飛ぶほどのアルコールよりもリキッドを酔わせる。
「俺にも食わせてくれるなら黙ってますよ」
「ちっ、しょーがねえな」
きゅっと髪を結んだ。シンタローが手で確かめて頷く。
「じゃあヤンキー手伝えよ」
はい、と元気良く返事して立ち上がり、皿を取ろうとしたら背中を蹴られた。
「手ェ洗え。砂やら髪の毛やら触っただろうが」
「うっす……」
ああ、もったいないな。
心の中で自然にそう呟いてシンタローを見ると、彼は既に料理の準備に取り掛かっている。てきぱきとした動作に、尻尾のように背中に垂らした髪が揺れる。
もう一度あの感触を確かめたいと思った自分に戸惑いながら、リキッドは入念に手を洗い、大きく振って水気を切った。
水滴と共に、指先から黒髪の感触がこぼれて消えていった。
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5個目にもなって今更ですが、「料理」で統一してます。
タイトル考えなくていいから楽だなぁ…。
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作・渡井
リキシン好きに20のお題04「ガンマ団」
卵焼き
「ちが――う!」
「ギャアア!」
リキッドの悲鳴がいかにも癇に障ると言いたげに、シンタローが眉をひそめて上半身を起こした。
「ァん? 何やってんだよオメー」
「シンタロー、こいつに卵焼きを教えてやれ。僕は今日は卵焼きしか食わんゾ」
「だから作ったじゃねえか!」
クボタくんの卵を手に入れて帰り、パプワのリクエスト通り昼食に卵焼きを作ったら、チャッピーに噛まれた。
青の秘石もチャーミングなこの島のアイドルは、人の頭をエサだと思っているふしがある。
強制的に昼寝から起こされて不機嫌なシンタローが皿をのぞき、呆れたようなため息をついた。
「まあ、これは俺でもちゃぶ台イッテツ返しだな」
「俺の卵焼きに文句があるんすか!?」
「これは卵焼きじゃねェんだよちったあランド以外の知識も持ってろ役立たずヤンキー使えねーのもそんだけ程度超えると法律に触れるぞオラ」
「酷ッ!」
悪口ならばどんな長台詞も息継ぎなしで大丈夫なお姑さんである。
「だって卵の焼いたのじゃないですか」
「スクランブルエッグと卵焼きは違うんだよ」
しょーがねえなあ、とシンタローは大儀そうに立ち上がった。アメリカに卵焼きはないのか? などと言いながら、リキッドと並んでキッチンに向かう。
クボタくんの卵は大きい。おやつに取って置いた分をボウルに開け、しゃかしゃかと箸で混ぜて塩胡椒を振る。
「卵焼きは普通はこうやって」
フライパンに流し込んだ溶き卵を器用に巻いていく。
表面はつやつやの黄金色、中はふんわりとやや半熟。
「シンタローさん上手いっすね」
「バカやろ、卵焼きなんざ基本中の基本だ」
最近気づいた。素直に誉めるとシンタローはちょっと乱暴な口を利く。俺を誰だと思ってんの、とわざとらしい得意顔を作ることもある。
誉められて慌て気味なのが分かりやすくて、リキッドは誉め上手になった。
「味付けは人によって好みがあるけどな。グンマなんざ砂糖入れねえと食わねェし、キンタローは出汁入りのが好きだし……」
作ってんのかよ総帥。
潰さないように卵焼きを切りながら、リキッドはちらりと横顔をうかがった。シンタローは気づかずに皿を出している。
特戦部隊はハーレム直属の戦力だから、他の団員のことはあまり詳しくないのだが、グンマ博士と言えばガンマ団随一の頭脳とギリギリの紙一重っぷりが有名だった。
キンタローに至っては、4年前にリキッド自身がクレイジー呼ばわりした男。今でこそお気遣いの紳士だが、当時は下っ端など一睨みで黙らされたものである。
「ガンマ団でも料理してたんっすか?」
「おお、一番手っ取り早いストレス解消だったからな。その時間もなかなか取れなかったけどよ」
卵焼きは、確かにスクランブルエッグとは全然違った。リキッドの目の前で湯気を立てる皿が不意に引かれ、思わず声を上げそうになる。
「パプワ、出来たぞー」
シンタローが背中を向けてパプワとチャッピーに呼びかける。さっきまで手が届いた皿が、今は遠い。
4年前には様々に絡み合っていた思惑を断ち切り、強烈な個性を手中に収めて、シンタローはグンマやキンタローに卵焼きを作っている。
彼らにも誉められたのだろうか。彼らにもあの乱暴な口調で答えたのだろうか。
「おっ俺にも食わせて下さい、作り方覚えたいし……」
「ったく、一口だけだぞ」
シンタローが作った黄金色の料理を、他の奴が食べるのは嫌だ。
この感情を何と名づけたら良いのか、リキッドはまだ知らずにいる。
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梅干しを漬け味噌汁を作るリッちゃんが、
卵焼きを知らないはずはないでしょうけれど、そこはそれ。
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