忍者ブログ
* admin *
[16]  [17]  [18]  [19]  [20]  [21]  [22]  [23]  [24]  [25]  [26
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

rwr





作・斯波

ほんとはとっても
きみがすき
いわないけどね



A.S.A.P.



終業時刻まであと五分。
未決書類を持って来ようとしたティラミスを追っ払う。
「それは明日でもいんだろ?」
「しかし総帥」
「明日やれることは今日やらないってのが俺のポリシーだから」
「しかし―――」
「はーいはいはい、もう定時だからね~、みんな帰ろうね~。てゆーか帰らせてお願い!」
あと、三分。


キンタローが入ってきた。何か言いかけるのを手で制する。
「仕事の話なら明日にしてくれ」
「何を急いでいる。今夜は会食の予定も入っていなかっただろう」
「いいの、俺は今日は雨が降ろうと槍が降ろうと定時であがるんだよ!」
携帯が鳴る。液晶の番号通知を見るなり切った。
(あの馬鹿親父の話につき合ってる暇はねェ)
「ちょっといいかシンタロー、その言い回しには大きな疑問がある。雨はともかく槍が降ってくるなんて光景を俺は生まれてこのかた見たことがな」
「じゃあな、キンタロー!」
終業のチャイムが鳴るなり部屋を飛び出し、廊下を足早に歩き出す。
「総帥―――」
「ちょっとお話が―――」
声を掛けてくる部下を全て無視してエレベーターに乗った。


部屋に一人残されて首を傾げるキンタローのもとへグンマがやってきた。
「キンちゃん、シンちゃんのOKは出た~?」
「それが、何やら急いで帰っていった」
「へえ~・・・」
「今日は豆が降ろうと瓜が降ろうと定時で帰ると言ってたな」
「何か違うような気がするよキンちゃん」
「ん? 亀が降ろうと蟻が降ろうと・・・だったか?」
「どんどん遠ざかっていってるよキンちゃん」
「とにかく飛んで帰ったな」
「へえ―――ああ、そうか」
にっこりしたグンマにキンタローが訝しげな顔を向ける。
「どうした?」
「そりゃ急いで帰るよ」
「えっ? 理由を知ってるのか?」
驚いたように眉を上げる従兄弟にもう一度ニコッと笑う。
「だって、ほら―――」


専用車を1ブロック手前で止めさせた。
「ここでいい。じゃあまた明日頼む」
走り去る車を見送って歩き出す。
「あ―――・・・どんな顔すりゃいいんだ・・」
ショーウインドに映った顔をチェックする。

適度に不機嫌そうな表情を作れているか。
意に反してだらしなく緩んだ顔はしていないか。

(・・ったく、何でこんな緊張してんだよ、自分ちに帰るだけだってのに)

でも、そこにはあいつがいる。
これからは毎日、あいつが俺を出迎えてくれる。
俺の帰りを待っている笑顔がある。
ただそれだけのことなのに、俺は何でこんなに浮かれちまってるんだろう。


「引っ越して初めての帰宅だからだと!?」
「だって今まで一人の部屋に帰るだけだったのにさ、今日からは待ってる人がいるんだよ? そりゃあ誰だって、一刻も早く帰りたいじゃーん♪」
「鮫が降ろうと針が降ろうと俺は帰るとあいつが言い張った理由はそんなことか・・・全く、馬鹿馬鹿しい!」
「馬鹿はおまえだろ」
「えっ?」
「んーん、何でもなーいv」


ドアノブに手をかけようとして、数秒躊躇った。
ごほんと咳払いをひとつ。
大きく息を吸い込んだ時、ガチャっと中から扉が開いた。
「お帰りなさい、シンタローさん!」
今にも飛びついてきそうな笑顔に、完璧だった筈のポーカーフェイスは一瞬で剥がれ落ちた。

「・・・ただいま。―――」


キッチンからは秋刀魚を焼くいい匂いがしている。


--------------------------------------------------------------------------------

何かシンリキっぽい…?
いえ、リキシンです。リキシンなんです。
容赦ないグンマ推奨しまくってます。

リキシン一覧に戻る

PR
r





作・斯波

逃げ場のない恋を
二人でしよう



ル ル ル



「これで全部か?」
声をかけられてシンタローは振り向いた。
額に汗を滲ませたキンタローが最後の段ボール箱を玄関に置いたところだった。
「ああ、それで終わりだ」
タオルを手渡しながらシンタローは礼を言う。
「悪かったな、せっかくの休日に力仕事させて」
「何、構わない。引っ越しというのもなかなか面白い体験だったぞ」
答えるキンタローは真顔だ。何事にも研究熱心な彼のことだから、今日の体験も彼の脳内に無数に存在する引き出しのどれかにファイリングされるのだろう。
「しかしこれからが大変だな」
「平気だ。家政夫なら奥にいるから」
足の踏み場もないほど段ボールが積み上げられた部屋の奥に、タンクトップ一枚のシンタローは顎をしゃくった。その方向からは元気に鼻歌を歌う声が聞こえてくる。
「やっぱり狭くないか?」
見回すキンタローがさっきから少し落ち着かないように見えるのは、彼にしては珍しくTシャツなどというものを着ているせいだろう。いつでも見事なまでにスーツで通しているこの従兄弟が今日もスーツで来るというのを必死で止めたのはシンタローだ。それも道理、引っ越しの手伝いにスーツで来る人間はいない。
しかも九月に入ったとはいえまだまだ残暑厳しい折である。
「もっと広い部屋が幾らでも借りられただろう? 何故1LDKなんだ」
さっき全ての荷物を運び入れた部屋は建物こそ新築だが、特別いい間取りという訳ではない。
12畳の寝室と20畳のリビング、それにリビングと続いている10畳のダイニングキッチン。
「お互いの個室は要らないのか?」
それは引っ越しの手伝いを頼まれて以来、キンタローがずっと疑問に思っていたことだった。
シンタローはガンマ団総帥という激務をこなす身であり、当然ながら不規則な生活をしている。
家政夫が主な仕事であるリキッドとは違うのだ。
だからこそ一緒に暮らそうということになったのだろうが、しかし夜遅く戻ってきたり逆に夜中でも出ていったりすることが多いシンタローと暮らすなら、とりあえずお互いの部屋は確保しておきたいと思うのが普通なのではないだろうか。
シンタローにしたってその方がリキッドに気を使わなくて済む。
そう言われてシンタローは首に巻いていたタオルを取った。
「ん―――・・・俺も最初はそう思ったんだけど・・・」
「何だ? 問題でもあったか」

遠い目をするシンタローの脳裏に、今日という日を迎えるまでの悲喜こもごもがまるで走馬燈のように甦っていた―――。

一緒に暮らそう、と言い出したのがどちらからだったか定かではない。
お互いもう大人で(そう思えない時も多々あるが)両想い、おまけにまだ若い男同士となれば好きな相手にいつでも側にいて欲しいと思うのは当然のことだ。
話が決まるとリキッドはさっそくなけなしの貯金を解約した。
シンタローの方も泣いてすがる父親を容赦なく足蹴にして本部の居住区を引き払うことにした。
揉め事は最初からたくさんあった。
場所が便利な方がいいというシンタローと、大事なのは陽当たりなのだと主張するリキッド。
オール電化に憧れているリキッドと、料理で一番肝心なのは火加減だと思っているシンタロー。
アジアン家具で統一するのが夢だったシンタローと、北欧家具に憧れるリキッド。
議論は果てしなく繰り返され、そしてその全てにシンタローは勝利してきた。
大体特戦あがりとはいえ、基本的にヘタレなヤンキーが俺様総帥に勝てる筈もないのだ。
そのうえリキッドには、シンタローにベタ惚れに惚れているという弱味がある。
―――イヤなら別に無理に一緒に住まなくってもいいんだぜ、俺は。
そう言って凄味のある漆黒の瞳でひと睨みされれば、逆らう術など何一つない。
だがそのリキッドが最後まで譲らなかったのが部屋の間取りだった。
「えーと、寝室とキッチンとリビングだろ。で、俺とおまえの部屋が一つずつ・・・」
取り寄せたカタログを眺めながら物件を吟味しているシンタローに、リキッドが断固として言ったのだ。
「駄目っすよ、シンタローさん!」
「えっ何が?」
「個室なんて、要りません」
「要るっつの。俺の生活が不規則なのは知ってんだろ?」
「知ってます」
「おまえとは生活時間帯が違うんだから、お互いの為に個室は要るだろうが。それにたまには俺だって一人でくつろぎたいし」
「それでも駄目です」
「だから何でなんだよ? ちゃんと理由を言ってみろよ」
頑として譲らぬヤンキーに、シンタローの堪忍袋の緒は早や切れかけていた。
訳の分からない理由なら遠慮無く眼魔砲をぶちかましてやろうと思った時、リキッドが言った。

「俺、シンタローさんとの生活に逃げ場を作りたくないんス。―――」


呆気にとられたシンタローに、リキッドは畳みかけるような勢いで続けた。
「だって個室があったら、喧嘩とかしたとき口利かずに生活出来ちゃうじゃないすか。シンタローさんて妙に意地っ張りなとこあるから、俺の顔見たくないと思ったら俺が謝るまで絶対に部屋から出てきてくれないでしょ?」
ガキじゃあるまいしそんなことするか、と言いたかったが何だか説得力がなさそうだったのでやめることにする。
「俺、喧嘩しても悲しいことがあっても勿論嬉しい時だって、シンタローさんとずっと一緒にいたいんすよ。ちゃんと話して、向かい合って」
「おまえ・・・」
「悲しくなるんなら二人でなりたい。楽しくなるのも二人がいい。そうじゃなきゃ俺、一緒に暮らす意味なんかないと思ってるから!」


怒鳴るように言った後、暫くリキッドは黙ったままシンタローを凝視めていた。
その顔が少しずつ赤くなってゆく。
シンタローも黙ってリキッドを見返している。
リキッドの顔はとうとう耳まで赤く染まった。
「や、てゆーか俺・・・あの、生意気ゆってごめんなさ」
何か言いかけたのを塞いだのはシンタローの唇だった。

「んっ・・」
「な、リキッド」
年下の恋人をぎゅっと抱きしめ、熱っぽい口調で囁く。

「今のちょっと、惚れたかも。―――」

リキッドが、目を見開いたのが分かった。



「―――で、それで個室無しの間取りを了承したんだな」
キンタローはちょっと呆れてシンタローを眺めた。
「まあね、俺的には大譲歩って感じだけど」
ぶっきらぼうを装ってはいるが、従兄弟の声は明らかに弾んでいるし足取りも明らかに軽い。
(よっぽどあいつが可愛いんだな)
眼の輝きにもすぐにほころびそうになる唇にも、好きな相手と一緒に暮らし始めた人間の心の弾みが見て取れて、こっちまで何だか嬉しくなるような気がする。
その時奥のリビングからその可愛い男が現れた。
いつもの赤いタンクトップに頭にはタオルを巻いている。
「シンタローさん、服は全部箪笥に入れちゃっていいんすか・・・あ、キンタローさん」
まだ幼さを残した顔がぱっと笑顔になった。
「今日はすいませんでした、すっかりお世話になっちゃって」
「いや、どうせ暇だったから」
「これ片づけたら飯作りますけど一緒にどうすか?」
危うく頷きそうになったところで、もう一人の従兄弟の脅迫めいた忠告を思い出した。


―――い~い、キンちゃん。手伝いが終わったらソッコー帰ってくること。
夕食誘われても断るんだよ、キンちゃんは邪魔者以外の何ものでもないんだから!


マンションを出て、ベランダを振り仰ぐ。
律儀に頭を下げるリキッドと手を振るシンタローに軽く手を挙げて、キンタローは背を向けた。
そのまま、まるでハミングでもしているかのように楽しげな足取りで歩き出す。


眼下に広がる街にも、そろそろ灯りが点りはじめていた。


--------------------------------------------------------------------------------

勢い余ってパラレル同棲シリーズなど始めてしまいました。
20畳のリビングを狭いと言い切る良家のお子たちです。

リキシン一覧に戻る

hhh





作・渡井

  Bookmaker


広報課にあったというガンマ団員アンケート結果を持ってきたのは、ロッドだった。
「アンケートなんか採ってやがったのか?」
「それが笑えますよぉ、公表できなくなっちまって」
どういうことだと紙を受け取ったハーレムは、中身に目を走らせて声を殺し俯いて笑った。

総帥がカッコいい、とか。
総帥がシンタローだからここにいる、とか。
総帥が本部に全然戻らないのが不満だ、とか。

「シンタローのことしか書いてねーじゃねえか」
「ね? こんなもん、前総帥やキンタロー様には見せらんねえって、広報の奴ら青くなってましたよ」
「言えるな」
青の一族は愛情も独占欲もその表現方法も桁外れだ。
特戦部隊はさっそく、彼らがこれを見たら何発の眼魔砲が飛ぶか、賭けを始めている。

それにしても、とハーレムは会話を耳にしながら紙を指で弾いた。
シンタローというのは、つくづく不思議な男だ。

南の島から戻って以来、総帥代行をしている長兄は、シンタローが実の息子でないと分かってからも、団員一同にウザがられる程の溺愛っぷりである。
シンタローの命を狙ったことのあるミヤギ・トットリ・アラシヤマ・コージは新総帥の側近になった。
一度は辞めた津軽ジョッカーや博多どん太も、シンタローの総帥着任と同時に舞い戻ってきた。
グンマだって出生の秘密を知っていろいろと思うことはあるだろうに、いまだにシンちゃんシンちゃんとうるさい。
そして何と言ってもキンタローだ、と、かつて自分が擁立しようとした甥っ子を思い、ハーレムは笑いを堪えた。
シンタローへの殺意だけで立っていた男が、いま彼を救うために徹夜を続けている。
まったくたいしたもんだ。
周りから見れば、シンタローはもうすっかり新生ガンマ団の総帥なのだろう。

―――目を背けているのは自分だけだ。

別にシンタローに不満がある訳ではない。
ガンマ団に留まって自分らしく生きることも、やろうと思えば出来たかもしれない。
けれどハーレムは故意にでも新総帥に逆らわずにはいられなかった。

理由は分かっている。
自分は、シンタローを子どもだと信じたいのだ。


青の一族に黒眼黒髪の子が生まれたときは驚いたが、ハーレムはハーレムなりにシンタローを可愛がった。
精神的に幼さ(というよりガキっぽさ)の残る彼は、子ども扱いされたくない気の強いちみっ子と合っていたらしい。
可愛くないガキだ、ムカつくナマハゲだと言い争う姿は、周りから見ればどちらが子どもか分からず、また周りから見れば楽しそうだった。

なのに、久しぶりに兄に会いに行ったとき。
「ハーレム叔父さん!」
駆け寄ってきたシンタローは思ったより成長していて、そして、
―――あの男に似ていた。

マズいと思ったときにはもう遅かった。
ハーレムはシンタローの腕を振り払い、体を嫌悪に震わせていた。
今も忘れない。
シンタローのひどく驚いた―――傷ついた顔を。


ちょうどあの頃から、シンタローはさまざまなことを知り始めていた。
父親のやっている仕事。総帥の長男という言葉の持つ意味。一族の異端である自分。
団員たちはマジックにおもねり、シンタローに媚びを含んだ笑顔を向けた。そして彼が去るとささやくのだ。
(成長すればもしかしたらって思っていたが)
(駄目だな)
(あれは秘石眼じゃない)
実力があれば良いのかと、シンタローは士官学校に進んで優秀な成績を取り、戦闘試合があれば必ず優勝してみせた。
それでも声は止まない。
(決勝の相手はグンマ様の作ったロボットだって)
(八百長じゃないの?)
眼魔砲を撃てるようになってさえ、誰かが言うのだ。

(だってシンタローは総帥の息子だから)

失望や嫉妬や敵意の視線のなか、彼は一刻も早く大人になろうとしていた。
弟の誕生をあんなに喜んだのも、守るべき誰かが欲しかったせいかもしれない。
けれどあのとき、シンタローがもっとも助けを必要としていたとき、ハーレムはその手を振り払ったのだ。


今になれば分かる。
体を取り戻したキンタローを手元に置いたのも、彼をシンタローと呼んだのも、すべて自分の罪悪感から来ている。
ジャンに似ていなければ、シンタローを受け入れられた。あんな顔をさせずに済んだ。
だからジャンに似ていないシンタローを求めたのだ。
そうしてあの島で皆がそれぞれの真実を知り、戦いの末に運命を乗り越えていった。
ハーレムもそうした。
長兄の、次兄の、末弟の心を抱きしめ、若い甥たちに未来を託した。
なのにシンタローへの気持ちだけは残っていたらしい。

あの日、少年だったシンタローともう一度逢いたい。


「隊長、隊長はどうします? 今んとこ本命はねー、マジック前総帥が10から15発、キンタロー補佐官が5から10発」
シンタローが子どものままであったら、自分たちはあの日からやり直せる。だから大人だなんて思ってやらないし、あいつの命令なんて聞いてやらない。
「えらくおとなしい予想じゃねえか。多分もっと派手にやらかすぜ」
「マジかよ、本部壊れんじゃね?」
俺は訳の分かった大人になんかならない。

だからお前も、どうかそのままで。

痛みが人を大人にするのなら、シンタローは大丈夫だ。あの島は決して彼を傷つけたりはしない。
ストレスが溜まったときは、手近に自分の元部下がいるのだし。
「いつ見せます?」
「シンタローが島から戻ったらだな。あいつがキレた兄貴とキンタローにキレ返して、眼魔砲を何発撃つかも賭け対象にするから覚えとけよ」
ちょうどそこで酒がなくなり、ハーレムは新しい瓶を取りに立ち上がった。
「兄貴がどんな顔すっか楽しみだな」
だから早く戻って来いなんて、そんな甘っちょろいことは思ってやらないけれど。

酒を探して棚の奥に消えた隊長を確認し、特戦部隊は賭けノートに新たな項目を付け足した。

『アンケートを公表できない本当の理由は、自由意見欄のほとんどがシンタロー総帥への愛の告白で埋まっているせいだと知ったとき、キレたハーレム隊長が撃つ眼魔砲の数は?』


--------------------------------------------------------------------------------

か…過去を捏造し倒してしまいました…
隊長と新総帥、大好きなんです。

その他CP一覧に戻る

hh







作・斯波

鏡の中から俺を見つめる
あれは一体誰だろう



姿 見



戦場で、部下が死んだ。
その報告を、総帥室で聞いた。


報告を持ってきた秘書官を下がらせて、俺は椅子を立った。
ガラス窓から見下ろした風景はいつもと同じ夕暮れ時で、不思議なほどに美しかった。
―――いい奴だったのに。
何度か一緒に遠征に出たことがある。入団して数年経っていると言っていた。早く伊達衆のように自分の部隊を持ちたいと笑っていたのが昨日のことのように甦る。
「何シケた面してんだよ、総帥さんよ」
突然声をかけられて吃驚して振り向くと、ハーレムが居た。
そういえば特戦部隊が帰還したとさっきチョコレートロマンスが言っていたような気がする。
「・・・黙って入ってくんな」
「声はかけたぜ。返事がねえから入らせて貰った」
ハーレムは俺の隣に立って同じようにガラス窓に額をくっつけた。
「死人が、出たそうだな」
「・・・・」
「その不景気な面の原因はそれか。・・・下らねェ」
「―――下らねェだと?」
「オメーが持ってんのは何だ、仲良しサークルか?」
ハーレムはガラスから顔を離して真っ直ぐ俺を見た。
「軍隊なんだぜ、総帥。戦場が俺たちの職場なんだ」

そんなこと、分かってる。
今までだって死人が出ていなかった訳じゃない。
今日死んだ男は階級がかなり上だったから、だから俺のところまで報告が上がってきた。
それだけのことだ。
分かっちゃいるが、しかし。


「下らねェなんて言うな!!」
「てめえは総帥だろーが!」
声を荒げた俺に、ハーレムの声も高くなる。
「死んだ男のために悲しむことなんざ誰だって、それこそ士官学校のガキにだって出来らあ。けどな、それを全部ひっかぶって前に進むことは、トップに立つ奴しか出来ねーんだよ。出来ねえとは言わさねえぞシンタロー、兄貴がずっとやってきたことなんだからな!」
言い返したいことは山ほどあった。
俺の考えていることとか、目指しているものとか。
おまえが率いてる特戦部隊のやり方がどれだけそれを阻害しているかということも。
けれどそうしなかったのは、ハーレムの眼がいつになく真剣だったからだった。
秘石眼である青い瞳は真面目な色を湛えている。その色は、
(・・悲しみ・・・?)
いつも傲岸なこの男が普段は決して他人に見せない何かを今俺に晒していた。
「俺はな、シンタロー」
「・・・」
「マジックを尊敬してるぜ。兄貴のやり方には問題もあったろうが、それでも俺にはあいつの真似は出来ねえ。殺した相手や殉職した部下の命の重さを全部自分の肩に乗っけて、それでもいつも笑ってた。俺には出来ねえ芸当だ。だから俺は、あいつを総帥と認めた」
「・・・俺は」
「その覚悟のねえ俺にはトップに立つのは無理だったんだ」
ハーレムの声は静かだった。
「なあ、何で特戦部隊は俺を含めて四人しかいないと思う」
「何でって・・・」
「確かにあいつらの能力なら部下は三人で十分だ。だが昔は結構いたんだぜ」
―――知らなかった。
「俺はもう嫌になっちまったんだよ。部下の葬式を出すのも、泣き崩れる親に会うのもな」
俺はマジック兄貴ほど強くねえからと呟くハーレムの口許は苦笑いしているようで、その声はまるで苦いものでも飲み下したように掠れていた。
「今いるあいつらなら、きっと大丈夫だ。あいつらの墓参りをする羽目にはならねえだろう。だからそういう意味じゃ、リキッドがあの島に残ってくれてよかったと今じゃ思ってる」
「ハーレム・・・」
「だがオメーは違うだろ。このでっかい軍隊にゃ伊達衆みてえな野郎ばっかがいる訳じゃねえ。強い奴がいりゃあ弱えのもいるんだ。オメーはそいつら全部の墓を建てる覚悟があるのか?
殺さねえっつうオメーの方針は、部下の命を担保にしたでっかい借金なんだぜ」


「夢を見てるってのは分かってる」
俺は、心の底まで見通すような青い瞳を見据えた。

「だけど負けねえよ。だって俺は、独りじゃないから。―――」


共に命を賭けてくれる奴らが、俺の側にはいる。
今も戦場で戦っている仲間、そして散っていった仲間も。
そいつらが背中を守ってくれてるから、俺は前だけ見て走ることが出来るんだ。


ハーレムは暫く俺を凝視めて、それからふっと微笑った。
「やっぱマジックの息子だな」
「・・・え?」
「おんなじことを言いやがるぜ」


(ハーレム、おまえがいるから)
「あいつが育てただけのことはあるよ」
(私は自分の道を信じていられるのだよ)


「―――・・最後までケツ割んじゃねえぞ、クソガキ」
くしゃくしゃと俺の頭を撫でた手は、小さい頃俺を抱きしめてくれた親父と同じ匂いがした。



「じゃあな、元気出せや」
「おい」
俺は思わずハーレムの腕を掴んでいた。
背中を向けかけていたハーレムは眉根を寄せて振り返った。
「何だよ?」
「―――もう、行くのか」
「んだ、寂しいのか」
ニヤリと笑われ、顔が真っ赤になるのが自分でも分かる。
「んな訳ねーだろ! さっさと行きやがれこのナマハゲ!」
ちっと舌打ちして振り払った手を、今度は逆に掴まれた。
「俺にとってオメーは鏡みてえなもんだ」
「はあ? 何言ってんだオッサン」
「似てるから衝突する。考えてることが分かっちまうから腹が立つ」
「煩え、そんなのテメーだけじゃ―――」
「けどそこに違う姿が映ると不安になる」

(イラつく ムカつく)
「そうだろ、シンタロー?」
(だけど鏡の中ではすべてが逆に映るから)

(―――俺のほんとの気持ちはきっと)
煙草臭い唇が重ねられる一瞬前、俺はきつく目を閉じた。



ガラスの向こうにはあの日と同じ夕暮れが広がっていた。
びりびりと窓を震わせる轟音を聞いている俺の隣には、今は俺の補佐官となった半身がいる。
「ついに行ってしまったな」
「・・・ああ」
特戦部隊の離脱は、避けられないことだった。
遅かれ早かれあの叔父はガンマ団を飛び出していっただろう。
「本当に良かったのか、シンタロー」
「仕方ねえよ。俺が何言ったところで、生き方を変えるようなハーレムじゃねえ」
「俺が言ってるのはハーレムが使いこんだガンマ団の経費三億円のことだが」
「―――はあっ!? さんおくえん!?」


今頃酒を呷って高笑いしているであろう男の名を、心の中で呼んでみる。
俺は親父を超えてみせるぜ。
死んでいった奴ら全ての墓標を背負える男になる。
そしたらおまえをとっ捕まえて、俺から奪っていった金と心を返して貰うからな。


―――覚悟しとけよ、叔父貴。


--------------------------------------------------------------------------------

いっぱい居たんですよね隊長、熊とか蛇とか。
ハレシン好きです。原作では殆ど顔を合わせてませんが。

その他CP一覧に戻る

rye







作・斯波


まっしろな
心を染めて
花いちりん



梅雨の晴れ間



「あ、紫陽花。―――」
しゃがみこんだ背中で艶やかな黒髪が揺れている。
数日降り続いた雨が止んで、束の間の晴れ間が広がった午後のことだった。

「こんな南国にも咲くんだなあ・・・」
嬉しそうな声に心がどきんと跳ねる。
「紫陽花が好きなんすか?」
訊いてみると珍しく屈託無い笑顔を見せてその人は頷いた。
「子供ん時からすげェ好きだったんだよ」
「へえ・・・」
「みんな梅雨って嫌がるだろ? けど俺は好きなんだよなあ」
「珍しいっすね」
「だって雨の日のほうが、紫陽花って綺麗じゃん? 何だか悩ましげな感じがしてさ」

―――まるで、あなたみたいだ。

今朝方まで降っていた雨の滴をまだその縁に煌めかせている青い花びらに、そっと触れた。


三日前の夜中、ふっと眼が覚めた。反射的に隣に寝ている筈のあの人を捜した。
親友のちみっ子と一緒に眠りに就いた筈のその人はシーツの上に独り座って、開いたままの窓の向こうをぼんやり眺めていた。
声を掛けようとしてやめた。
昼間はまるで向日葵のように笑っていたその人の瞳には、水滴のような涙がいっぱいたまっていたのだ。

咄嗟に背を向けて目を瞑った。

あの人が見てるのは雨なんかじゃない。
俺なんかの知らない遠い世界なんだ。
あの人が本来育まれるべき土壌はここじゃない。

翌朝眼を覚まして気づいた。

リキッドは、本物の恋に落ちていたのだ。

「紫陽花ってさ」
楽しそうに話す声にはっと我に返る。
「土壌によって花の色が違うだろ?」
「ああ・・・聞いたことありますよ。酸性とアルカリ性で違うらしいっすね」
「そ。俺もどっちがどっちだったか忘れちゃったんだけど。そこが気に入ったんだ」
「へえ・・・意外」
―――土壌で色を変えるなんて潔くない。
てっきり、この男ならそんなふうに怒るのかと思っていた。
だが長い黒髪を払って呟いた声は、まるで独り言のように小さかった。

「俺もそんなふうにしなやかに生きてみてェなあって、・・・なんか、そう思ってさ」


今朝までの雨が嘘のように晴れ上がった空を見上げた瞳の行先を、同じように追ってみる。
(なんて遠い眼をするんだろう)

二人がそこに見出すものはきっと、まだ同じではないのだろうけれど。


青いインクを滲ませたような優しい色の紫陽花を揺らすと、はらはらと滴が振り零れる。
「・・・ほんとだ」
「あん?」
「綺麗っすね、凄く」
「だろ? おまえも好きか、紫陽花」
苦しい胸の裡も知らず嬉しそうに微笑む想い人に、リキッドもにこりと笑い返した。

「ええ、大好きです。―――」


(あなたが見ているものが今の俺には見えなくても)

俺はこの恋を諦めない。
花でさえ土壌によって色を変える。
(それならきっといつか)

「晴れましたね」
「うん。あ、今の間に洗濯」
「ああ、やっちまいましょうか」
「何言ってんのヤンキー、テメーがやんだよ」
「あ・・・やっぱりそうっすよね」
(雨が止んだらそこには青い空が広がってる)


―――きっといつか、俺の想いであなたの心をも変えてみせますよ、シンタローさん。


--------------------------------------------------------------------------------

心の中では強気なリッちゃん。
去年はマカアラで紫陽花の土壌ネタだったので、今年はリキシンで。


リキシン一覧に戻る

BACK HOME NEXT
カレンダー
04 2025/05 06
S M T W T F S
1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 31
最新記事
as
(06/27)
p
(02/26)
pp
(02/26)
mm
(02/26)
s2
(02/26)
ブログ内検索
忍者ブログ // [PR]

template ゆきぱんだ  //  Copyright: ふらいんぐ All Rights Reserved