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作・渡井


Don't dream, Be it


「あの、シンタローさん」
パプワたちが出かけて静かになった昼下がり、リキッドが妙に気合の入った、それでいて不安そうな声で呼びかけてきた。
ヤバい、とシンタローの直感が告げる。
「あんだよ。つか洗濯は終わったのか?」
「あ、いえ、まだ……」
「とろとろしてねえで手ェ動かせ。そのへん散歩してくるから、片付けとけよ」
「……うす」
顔を見たくなくて、足早にパプワハウスを出る。

リキッドが向けてくる視線の意味を、シンタローは多分気づいている。面倒なことになるのが嫌で今日のように流してしまうけれど――――いつかは向き合わなくてはならないだろう。
足は自然に海岸へと向かっていた。日差しを浴びた熱い砂の上に腰を下ろし、海をぼんやりと眺めた。
風はなく、波は穏やかな表情を見せている。

パプワ島の記憶は海と直結している。シンタローはこの海を何度も夢で見た。

(あのヤンキー、どうしたもんか……)
どうもこうもない。
ふざけたことを言ってねえで家事をしろと、本気にしないでどやしつけてやればいい。しばらくはぎくしゃくするかもしれないが、そのうち彼も諦めるだろうし、諦めなかったところでシンタローはこの島にずっと居るわけではない。


分かっていてもちくりと胸が痛む。
リキッドは思っていることの大半が顔に出る。今日のような返答にだって、まともに傷ついた顔をする。
――――見たくねえな。
ため息が出た。だって、と心の中で言い訳がましく呟く。


あいつは俺の夢なんだから。


ガンマ団を離れること。追われるのではなく自分の意志で、ガンマ団以外に場所を見つけること。
家族と別れること。争ったのではなく成長の証として、絆と愛情に確信を持ち合いながら別々の道を歩き出すこと。
この島を守ること。逃げ込むのではなくこの島の住人として、島と島のみんなを自分の力で守ること。
そして、パプワといること。

4年前ガンマ団に戻り、総帥を継ぐことを決めたのはシンタローだし、後悔したことはない。迷い焦って遠回りをしたこともあるが、パプワ流に言うならば「それもぜーんぶひっくるめて」シンタローの足跡だった。
けれどいつも心のどこかにこの海があった。
リキッドはあのときシンタローが選べなかった、もう一人のシンタローだ。


(だからあいつには――――)
あんな、見ている方が辛くなるような表情はさせたくない。断ると分かっている告白など言わせない。
リキッドの気持ちを聞きたくない理由はそれだけだ。彼はシンタローの夢だから、傷つけたくない―――。

(Don't dream, Be it)

ふいによみがえったのは、ずっと昔ハーレムに教わった言葉だった。
夢見てても駄目だ、夢になれ。――――決断力と行動力の塊である叔父らしい言葉だと思った。
その決断と行動が常に正しいようには見えなかったが(特に競馬のときは)、彼の不器用だけど真っ直ぐな生き方は、一時期のシンタローにとって確かに夢だった。

「……バカみてえ」
どうしようもないじゃないか。俺はあのとき、ガンマ団を選んだ。だから今もガンマ団を選び続けるしかないじゃないか。
掠れた声が誰を罵っているのか自分でも分からない。
リキッドと自分では立場が違う。彼が選んだ道はシンタローには歩けない。けれどそれはシンタローが夢に見るほど夢見た道だから、せめてリキッドにだけは、

(笑っていてほしい)

誰かにそう思ったときから恋は始まっていると、シンタローが気づくのはこれからもっと後のことである。


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言えないリッちゃんと言われたくないシンタローさん。
私の中でのリキシン一大テーマであります。

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作・斯波

見た目と実際が違うなんてよくある話。
だけどこれはそういう問題でも無さそうなんだ。



BODY



ハッキリ言ってシンタローさんはデカい。
背は俺より高いし、筋肉の付きも俺よりいいと思う。
いつでも人を真っ直ぐ見るから、向かい合って立ってみるといつも見下ろされてる感じ。
腕組みをして突っ立って俺を見ているシンタローさんはエラそうで強そうで格好良くて、たぶん実際の体格以上にこの人に備わっているオーラのようなものがそう見せている。
シンタローさんが放っている光は誰より強くて、見ていると俺は時々立ち眩みがしそうなほど眩しくなる。
この人には絶対敵わないって―――この人の隣を歩くなんて俺に出来るのかなって、そう思わせるほどその光は強い。

なのに何でかなあ。
夜になるとシンタローさんは、少しだけ小さくなるような気がするんだ。


「―――分かんないんす」
「何が」
「絶対シンタローさんの方が俺よりガタイがいいっすよね?」
「?・・・多分な?」
「ねえシンタローさん、物の大きさって日によって変わったりすると思います?」
「すいません話がさっぱり見えません」

俺の腕に抱かれてる時のシンタローさんは、すっぽり包み込んでしまえそうだ。
黒い頭を俺の肩のくぼみにちょこんと乗せて子供みたいに拳を口にあてて眠っている。
安心しきった表情で、何もかも俺に預けて眼を閉じて安らかに呼吸しているシンタローさんがいつもより2割減で小さく見えるのは何故なんだろう。

「んなこと言うけど、おまえだって昼間と今じゃ全然違うぜ。声も表情も、身体の大きさまで違うような気がする」
「え、マジで? それはおっきくなるんすか、それともちっちゃくなるんすか?」

何の気無しに訊いただけなのに、シンタローさんはみるみる赤くなった。
んなこと訊くなバカと怒られておまけに頭をポカリと殴られた挙げ句向こうを向かれてベソをかきそうになった俺に背中を向けたまま、シンタローさんはぽつりと言った。

―――昼間よりずっと、頼れる感じがする・・・ような気がする。

小さな小さな声でそう呟いた人の背中を、思わずぎゅっと抱きしめた。

「アレ? こんなちっちゃかったっけ・・・」
パプワの新しい腰みのを作るために古いので採寸していた俺は、ちょっと驚いた。
「もっと大きいのかと思ってたぜ」
「それは錯覚だ」
「あっさり言い切るのねお坊ちゃま・・・」
「人間の眼が捉えている物の大きさというのは案外不正確なんだ。手で実際に測ってみると思ったよりも小さかったり大きかったりするんだゾ」
「ふーん・・・」
「人と人の距離だってそうだぞ、家政夫」
「は?」
「遠く見えている奴だって、実は意外と近くにいたりする。重すぎる運命を軽々と背負っているように見える強い人間だって、手の中に抱きかかえてみると意外に小さかったりするんだ」
「パプワ・・・」

だからあいつを頼んだぞ。
真顔でそう言った10歳のちみっ子は、俺が知っている誰よりも大人びて見えた。


「おまえ、変わったな」
「そうすか?」
シンタローさんの長い指が飽くことなく俺の髪を梳いている。
「図太くなった。何か図々しくなったし」
「何すかソレ!」
「ほんとのことだもん」
「シンタローさんのせいですよ。あんたが俺を変えたんだ、きっと」
「じゃあテメーも俺を変えてみろよ」

片肘をついて俺の顔を真上から覗きこむ。
(そんな顔、反則だ)
「おまえ好みに、心も身体も。―――」

―――好きなようにしていいんだぜ、なあリキッド―――

きゅっと眼を細めて甘くかすれた声で俺を誘惑するこの人に、俺はまだ全然敵わない。

(だけどきっと)
「―――上等っす」
この人の全部を抱きしめられる俺に、いつか絶対なってやる。
それが昼間でも夜でも、安心して頼って貰える男になってみせるから。

笑みをたたえたままの柔らかい唇をそっと舌でなぞった。
「・・・今の言葉、忘れないで下さいよシンタローさん」

あなたのすべてはもう、俺のもの。



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調子乗りっちゃん。
…すみません、言ってみたかっただけです。
160ない私にはシンタローさんは2階の人です。

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作・斯波

とりかえしのつかない恋に
あなたと堕ちてみたいんだ
ものの弾みで泣いちゃいそうな
ちょっとしたことで笑えるような



直情ロマンス



人を好きになるってどういうことだろう。
二十八歳にもなって最近俺は、しみじみそんなことを考えている。
だけどホントのところのんびり考えてる暇なんてないんだ。



「俺シンタローさんのことが大好きっす!」
「もういい加減聞き飽きたんだけどソレ」
「何回でも言いますよ、俺あんたを愛してますから」


好きだって言われるのははっきりいって悪い気分じゃない。
だけどほのぼのしてる場合じゃない。
俺の仕事やこいつの使命や過激に素敵で粘着質な家族親類一同という諸事情を考え合わせると、とてもこいつの浮かれたアプローチにとりあっちゃいられないんだ。



「あのなあ、おまえ俺の性別年齢職業ご縁戚一同分かって言ってんの?」
「え、そんなん関係あります」
「あるだろーが普通!」
怒鳴ると、ヤンキーは本当に俺の言っていることが分からないというように首を傾げた。
「シンタローさんはそんな事考えて人を好きになるんすか」
「や、別に考えてから好きになるって訳じゃねーけど」
「だったら問題ないっすよね」

俺は、シンタローさんがシンタローさんだから好きなんですよ。
そう言って真っ白な歯を見せて笑うヤンキーの顔に、思わず見惚れた。


そんなに簡単なことなのか。
どうしておまえは躊躇いもなくそう言い切れるのか。
(今までにだって好きだと言われたことは何度もあるけど)


うかうかしてると流されそうになる。
こんな相手は、初めてだった。



「ね、手ェつないでいいですか」
「はあァ!? おまえバカじゃねーの!?」
「手ェつないだら大体分かるんですって」
「だから何が!」
「こうやって」
リキッドはさらさらに乾いた手でぐいと俺の手を握った。
「あっコラ」
「ヤですか?」
「何真顔で訊いてんだ! てめーやっぱ正真正銘のバカだろ!!」


実は、嫌ではなかった。


リキッドの手は大きくて温かくて、握られているだけで俺は心が落ち着くような気がする。
それはまるでふんわり乾した布団にくるまっている時みたいな、ぽかぽかした気分。

 
「ほら、俺たち絶対相性バッチリです」
「適当抜かしてんじゃねーぞてめェ」
「―――だから、俺とキスしてみません?」

ぬけぬけとほざきやがったヤンキーを、躊躇なく眼魔砲でぶっ飛ばした。



油断してるとついほだされる。
(ただの純情ヤンキーだと思ってたら)
恋の駆け引きも知らばこそ、若さに任せてぐいぐいと押しまくってくるリキッドの粘り強さに、不意に根負けしそうになる。


「信じてないんですか。俺、本気なのに」
真っ直ぐに俺を凝視めてくる青い瞳は少年のように澄んで、けれど確かに男の欲望がその奥に煌めいていて。


「初めて逢った時から思ってたんすよ。俺いつか、この人の運命のひとになるって!」


(・・・うわああ)
何でだ。何で俺の周りにはこーいう思い込みの激しい奴ばっかり集まってくるんだ。
くらくらと眩暈に襲われた俺のことはお構いなしで、リキッドは俺をぎゅっと抱きしめた。
「シンタローさんのこと考えたら夜も眠れない。もう毎日うずうずしてるんです。シンタローさんが振り向いてくれるまでなんていつまでも待ってられんない。俺そんなに気、長くないから」
「ちょ、離せ」
「ね、俺のことちゃんと真っ直ぐ見て下さいよ」
子供っぽい唇がニッと微笑を形作る。


「そしたらシンタローさん、俺からもう離れられなくなるよ。―――」


本日二発目の眼魔砲は、ヤンキーを家の外まで吹っ飛ばしたのだった。



人を好きになるってどういうことだろう。
考えたって始まらない、それくらいは理解してるつもりだけど。


―――俺いつか、この人の運命のひとになる。


(根拠のない思い込みと執着)
だけど不意に見せる真剣な眼差しが俺を惑わせる。


もしかしたらこいつは本当に俺のことが好きなのかもしれないと、そう思った。


ぶっ飛ばしても蹴りを入れてもメゲずについてくる。
「シンタローさん、ちょっとは本気で考えてみてくれました?」
「・・・おまえ、小学校の通知表に『人の話を聞きましょう』って書かれたクチだろ」
「『男が一度決めたら何があろーと諦めるもんじゃねェ』っつーのが親父の口癖でした♪」



(ほんとはちゃんと分かってる)
リキッドに求められることを、実は結構嬉しいと思っちまってる俺がここにいる。
(だけどやっぱり怖いんだ)
心の声に耳を傾けることがこれ程怖いものだと、知らずによくもまあ二十八年も生きてきたもんだ。



それでもリキッドは食い下がる。
「だって、今の気持ち以上にほんとのことなんてないでしょ」
「だからその一方通行な思い込み何とかしろ」
「どうせ俺たちはいつか誰かを裏切っちまう」
「・・・え?」
「存在してるだけで誰かを悲しませちまうことだって、あるから」
大きな青い瞳が微笑っている。
「だからせめて今は、自分の中の綺麗な想いは大事にしたいんすよ。俺、何回ぶっ飛ばされたって負けません。煩がられたって、しかめっ面されたっていいから」
「リキッド・・・・」


「俺、シンタローさんのこと愛してます!」



俺に必要とされることを願ってやまない不器用な男。
押しの一手しか知らない強引な、だけど可愛い年下の男。

「全く・・・無茶苦茶だよ、テメーは。―――」

(この溜息をも愛と呼べるなら)
もしかしたら俺たちは上手くやっていけるのかもしれない。



いつまで、どこまで、どんなふうに、このままが続いても。


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ヘタレてないリッちゃんは当サイト初です。
ご縁戚一同は考えた方がいいと思います。

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作・斯波




思いがくるくる回ってる
近くにいるのに飛ばされる
二人の距離が
つかめない



CLOSE TO YOU



満天の星空。
立ち上る湯煙。
リラックスするにはこれ以上ないシチュエーションのはずなのに俺が声も出ないほど緊張しているのは、隣でのんきに歌など口ずさんでいる鬼姑のせいだった。

パプワにせがまれて三日がかりで作り上げた露天風呂は、自分でも拍手したくなるほどの出来栄えだった。パプワとチャッピーは勿論、アニマルズやシンタローさんも大喜びで楽しんでくれて、俺はそれが嬉しくてたまらなかった。
だけどやっぱり俺は家政夫だから、風呂に入るのはちみっ子たちを寝かせた夜更けになる。
まあ一人で星を見ながら湯に浸かる気分は格別だったのでのんびり手足を伸ばして楽しんでたら、目を覚ました姑がやってきたのだった。
「おっいいな、夜の露天も」
「あ、も少ししたらあがりますからシンタローさんもドーゾ」
「ヤダ」
「えっ?」
「おまえ、風呂長いもん」
「いやそんなに長くは・・ちょっと待ってて貰えれば」
「うるせェ、口答えすんな。俺は今入りてーんだよ」
―――あんたどれだけ俺様なんですかアアァ!
魂のシャウトが途中で途切れたのは、無造作に服を脱ぎ捨てたシンタローさんのせいだった。

(ちょ・・・ヤバイ)

心拍数が、一気に跳ね上がった。


(・・・確かに風呂は島のみんなのことも考えて大きめに作りましたけども!!)
だけどゴツイ男二人が一緒に入るなんて状況は想定の範囲外で、自然俺とシンタローさんは肩が触れ合うほどの距離に居た。
―――あああ・・早く上がってくれねえかな。
俺の方が先に入っていたんだから俺が先に上がるのが普通なんだろう。
なのにそれが出来ないのは、湯の中でぼんやりと揺らめく白い身体のせいだった。
暗いせいではっきりとは見えないけど、それがかえって俺の劣情を刺激する。
別にイケナイ想像をしてるわけでもないのに、俺の下半身はとても人様に見せられるようなものではなくなっていた。
「―――な」
「はいっ!?」
「やっぱ風呂長いじゃんおまえ」
「そそそうすか!?」
声が裏返った。
「や、今日は何か疲れちゃって・・・やーいいもんですねっ、ゆっくり湯に浸かるってのは!」
「まあな」
ニヤリと笑うと、黒い瞳がきらりと光るのが夜目にもはっきり分かった。

(シンタローさんは、やっぱり綺麗だ)
そう思った瞬間、シンタローさんの指が俺の頬に伸びた。


「・・・おまえ、湯あたりしたんじゃねェ?」
「えっ」
「顔、スゲー熱くなってる。―――」


濡れた指が俺の頬をすっと撫でて、―――それから・・・唇をかすめた。


「シンタローさ―――」
ざばっとシンタローさんが立ち上がる。
水面が激しく揺れて、こぼれた湯がざあっと音を立てた。
「んじゃ、お先」
見事に引き締まった身体が無造作に湯船を跨ぐ。
呆然として言葉もない俺の前を通り過ぎて、シンタローさんはふと振り向いた。
「おい、リキッド」
「―――あ、はいっ!?」

「おとぎ話ならそれでいいけどさ、願ってるだけじゃ現実にはどうにもなんないんだぜ?」


ニッと笑ってそう言ったシンタローさんは、タオルをひっかけて家の中に入っていった。
濡れた長い黒髪から振り零れる水滴が、まるで天から落ちてきた星屑のように見えた。


広くなった湯船の縁に顎を乗せて、俺は満天の星空を見上げる。
「どうしろっつーんだよ・・・」

―――・・・どうせ俺に触れる気なんかないくせに。

(とか、ヘタレな俺には言えるわけもないけど)



今はあの人の一番近くで笑っていたいと、心からそう思った。



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風呂が長いのは渡井です。
斯波は短いです。
でもシンタローさんを風呂に入れるのは好きだそうです。

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作・斯波

明日天気になあれ



雨は半刻を過ぎて激しさを増していた。
俺は木の下で雨宿りをしながら空を見上げた。
このまま走って帰るか―――しかしそうすると背中に背負った食材も濡れる。ついでに今着ている服は同居している姑が洗濯したもので、濡らすと非常にまずい気がする。
じゃあ止むのを待つか―――しかしそれはそれで食事の支度が遅れてまずい気がする。
(どっちにしてもシンタローさんに怒られるのは決定か・・・)
走るか、と覚悟を決めた時、濡れた草を踏んで足音が近づいてきた。
誰だろう、と振り返って俺は目を丸くした。
傘を持って立っていたのは、今まさにその顔を思い浮かべていた鬼姑だった。


「何してんだよヤンキー」
隣に住んでいるトシさんが作ってくれた傘を差して、手にはもう一本の傘。
「ほら、帰るぞ」
ぶっきらぼうに言って俺に傘を押しつける。
「え、あの・・・」
「パプワが腹空かしてんだよ。帰ってとっとと飯の支度だ」
「あ、はいっ」
足早に歩き出した背中を慌てて追いかける。


―――もしかして俺を迎えにきてくれたんだろうか。


心臓が、ドキドキしていた。



「言ってた食糧は調達出来たか」
「はい、多分全部揃ったと思うんですけど」
「そっか」
空が急激に明るくなっていく。
「あの、シンタローさん」
「あん?」
―――俺のこと迎えにきてくれたんすか。
そう訊こうと思った時、シンタローさんが足を止めた。


太陽が覗きかけた空からは、もう雨は落ちてきていなかった。


「何だ、こんなにすぐ止むんなら迎えにきてやることもなかったな」
晴れていく空を見上げてシンタローさんは独り言のように呟いた。
「あの、ありがとうございます!」
「何改まってんの? せっかく洗濯した服濡らされたら気分悪いだろーが」
「あ、やっぱりそっちっすね・・・」
「―――それに今の時期は風邪、ひきやすいんだぜ」
「え?」


(今、何て)
ぽかんとした俺にびしゃっと冷たい水滴が降りかかった。
「ひゃっ」
シンタローさんが閉じた傘の滴を俺に投げかけたのだ。
「何するんすか!」
「グズグズすんな、ヤンキー」


俺を置いてさっさと歩き出す。後ろからは背中に揺れる髪と耳しか見えなかったけれど、俺はそれでも顔がだらしなく緩むのを抑えきれずにいた。
―――今の時期は風邪、ひきやすいんだぜ。
俺のことを心配して迎えにきてくれた鬼姑の耳は、林檎みたいに真っ赤だったから。


「・・おい!」
急に足を止められて、危うく広い背中にぶつかりそうになる。
「は、はい?」
「何で後ろ歩くんだよ?」
「え」
「俺の背後に立つんじゃねえよ」
「何ゴルゴみたいなこと言ってんすか? じゃあ俺が先歩きま」
「違うだろーが、馬鹿」


―――だから、・・・隣に来いよ。
そう言った小さな声は、ほんの少し気恥ずかしそうな響きを帯びていた。



シンタローさんの温かい手をしっかり握って歩く。
「遅くなっちゃいましたね」
「ああ」
「パプワ、怒ってますかね」
「ああ」
「キスしても、いいすかね」
「ああ―――ってコラ、ふざけんな!」
そっと触れた唇は、手よりもずっと柔らかくて温かかった。


「あ、明日も晴れですよ。―――」


見上げた空にはもう、薔薇色の夕焼けが広がっている。



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トシさんはリッちゃんのために一生懸命作ったんだと思います。
こんなことになってるとも知らず。

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