作・斯波
思いがくるくる回ってる
近くにいるのに飛ばされる
二人の距離が
つかめない
CLOSE TO YOU
満天の星空。
立ち上る湯煙。
リラックスするにはこれ以上ないシチュエーションのはずなのに俺が声も出ないほど緊張しているのは、隣でのんきに歌など口ずさんでいる鬼姑のせいだった。
パプワにせがまれて三日がかりで作り上げた露天風呂は、自分でも拍手したくなるほどの出来栄えだった。パプワとチャッピーは勿論、アニマルズやシンタローさんも大喜びで楽しんでくれて、俺はそれが嬉しくてたまらなかった。
だけどやっぱり俺は家政夫だから、風呂に入るのはちみっ子たちを寝かせた夜更けになる。
まあ一人で星を見ながら湯に浸かる気分は格別だったのでのんびり手足を伸ばして楽しんでたら、目を覚ました姑がやってきたのだった。
「おっいいな、夜の露天も」
「あ、も少ししたらあがりますからシンタローさんもドーゾ」
「ヤダ」
「えっ?」
「おまえ、風呂長いもん」
「いやそんなに長くは・・ちょっと待ってて貰えれば」
「うるせェ、口答えすんな。俺は今入りてーんだよ」
―――あんたどれだけ俺様なんですかアアァ!
魂のシャウトが途中で途切れたのは、無造作に服を脱ぎ捨てたシンタローさんのせいだった。
(ちょ・・・ヤバイ)
心拍数が、一気に跳ね上がった。
(・・・確かに風呂は島のみんなのことも考えて大きめに作りましたけども!!)
だけどゴツイ男二人が一緒に入るなんて状況は想定の範囲外で、自然俺とシンタローさんは肩が触れ合うほどの距離に居た。
―――あああ・・早く上がってくれねえかな。
俺の方が先に入っていたんだから俺が先に上がるのが普通なんだろう。
なのにそれが出来ないのは、湯の中でぼんやりと揺らめく白い身体のせいだった。
暗いせいではっきりとは見えないけど、それがかえって俺の劣情を刺激する。
別にイケナイ想像をしてるわけでもないのに、俺の下半身はとても人様に見せられるようなものではなくなっていた。
「―――な」
「はいっ!?」
「やっぱ風呂長いじゃんおまえ」
「そそそうすか!?」
声が裏返った。
「や、今日は何か疲れちゃって・・・やーいいもんですねっ、ゆっくり湯に浸かるってのは!」
「まあな」
ニヤリと笑うと、黒い瞳がきらりと光るのが夜目にもはっきり分かった。
(シンタローさんは、やっぱり綺麗だ)
そう思った瞬間、シンタローさんの指が俺の頬に伸びた。
「・・・おまえ、湯あたりしたんじゃねェ?」
「えっ」
「顔、スゲー熱くなってる。―――」
濡れた指が俺の頬をすっと撫でて、―――それから・・・唇をかすめた。
「シンタローさ―――」
ざばっとシンタローさんが立ち上がる。
水面が激しく揺れて、こぼれた湯がざあっと音を立てた。
「んじゃ、お先」
見事に引き締まった身体が無造作に湯船を跨ぐ。
呆然として言葉もない俺の前を通り過ぎて、シンタローさんはふと振り向いた。
「おい、リキッド」
「―――あ、はいっ!?」
「おとぎ話ならそれでいいけどさ、願ってるだけじゃ現実にはどうにもなんないんだぜ?」
ニッと笑ってそう言ったシンタローさんは、タオルをひっかけて家の中に入っていった。
濡れた長い黒髪から振り零れる水滴が、まるで天から落ちてきた星屑のように見えた。
広くなった湯船の縁に顎を乗せて、俺は満天の星空を見上げる。
「どうしろっつーんだよ・・・」
―――・・・どうせ俺に触れる気なんかないくせに。
(とか、ヘタレな俺には言えるわけもないけど)
今はあの人の一番近くで笑っていたいと、心からそう思った。
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風呂が長いのは渡井です。
斯波は短いです。
でもシンタローさんを風呂に入れるのは好きだそうです。
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