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作・斯波

明日天気になあれ



雨は半刻を過ぎて激しさを増していた。
俺は木の下で雨宿りをしながら空を見上げた。
このまま走って帰るか―――しかしそうすると背中に背負った食材も濡れる。ついでに今着ている服は同居している姑が洗濯したもので、濡らすと非常にまずい気がする。
じゃあ止むのを待つか―――しかしそれはそれで食事の支度が遅れてまずい気がする。
(どっちにしてもシンタローさんに怒られるのは決定か・・・)
走るか、と覚悟を決めた時、濡れた草を踏んで足音が近づいてきた。
誰だろう、と振り返って俺は目を丸くした。
傘を持って立っていたのは、今まさにその顔を思い浮かべていた鬼姑だった。


「何してんだよヤンキー」
隣に住んでいるトシさんが作ってくれた傘を差して、手にはもう一本の傘。
「ほら、帰るぞ」
ぶっきらぼうに言って俺に傘を押しつける。
「え、あの・・・」
「パプワが腹空かしてんだよ。帰ってとっとと飯の支度だ」
「あ、はいっ」
足早に歩き出した背中を慌てて追いかける。


―――もしかして俺を迎えにきてくれたんだろうか。


心臓が、ドキドキしていた。



「言ってた食糧は調達出来たか」
「はい、多分全部揃ったと思うんですけど」
「そっか」
空が急激に明るくなっていく。
「あの、シンタローさん」
「あん?」
―――俺のこと迎えにきてくれたんすか。
そう訊こうと思った時、シンタローさんが足を止めた。


太陽が覗きかけた空からは、もう雨は落ちてきていなかった。


「何だ、こんなにすぐ止むんなら迎えにきてやることもなかったな」
晴れていく空を見上げてシンタローさんは独り言のように呟いた。
「あの、ありがとうございます!」
「何改まってんの? せっかく洗濯した服濡らされたら気分悪いだろーが」
「あ、やっぱりそっちっすね・・・」
「―――それに今の時期は風邪、ひきやすいんだぜ」
「え?」


(今、何て)
ぽかんとした俺にびしゃっと冷たい水滴が降りかかった。
「ひゃっ」
シンタローさんが閉じた傘の滴を俺に投げかけたのだ。
「何するんすか!」
「グズグズすんな、ヤンキー」


俺を置いてさっさと歩き出す。後ろからは背中に揺れる髪と耳しか見えなかったけれど、俺はそれでも顔がだらしなく緩むのを抑えきれずにいた。
―――今の時期は風邪、ひきやすいんだぜ。
俺のことを心配して迎えにきてくれた鬼姑の耳は、林檎みたいに真っ赤だったから。


「・・おい!」
急に足を止められて、危うく広い背中にぶつかりそうになる。
「は、はい?」
「何で後ろ歩くんだよ?」
「え」
「俺の背後に立つんじゃねえよ」
「何ゴルゴみたいなこと言ってんすか? じゃあ俺が先歩きま」
「違うだろーが、馬鹿」


―――だから、・・・隣に来いよ。
そう言った小さな声は、ほんの少し気恥ずかしそうな響きを帯びていた。



シンタローさんの温かい手をしっかり握って歩く。
「遅くなっちゃいましたね」
「ああ」
「パプワ、怒ってますかね」
「ああ」
「キスしても、いいすかね」
「ああ―――ってコラ、ふざけんな!」
そっと触れた唇は、手よりもずっと柔らかくて温かかった。


「あ、明日も晴れですよ。―――」


見上げた空にはもう、薔薇色の夕焼けが広がっている。



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トシさんはリッちゃんのために一生懸命作ったんだと思います。
こんなことになってるとも知らず。

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