作・斯波
太陽が眩しいくらい照りつけてた。
青い空は何処までも高く澄んで、何処か近くで笑い声が響いていた。
それも気にならないくらい、こいつに溺れていた。
キンイロノユメ
「ちょ、ヤバイって・・っ」
「いいから、黙って」
「やめろっつってんだろ!」
「駄目。もう退けない」
陽光が凝って形を成したような金色の髪がふわりと目の前に落ちてきた。
「―――シンタローさんだって、今更やめらんないでしょ?」
普段ヘタレなくせに、腹を据えた時のこいつは人が変わったように強引になる。
(ああ パプワの声がする)
水飛沫を跳ね上げて遊んでいる声は意外に近くて、俺は思わずヤンキーを押し返した。
「すぐそこにパプワ達がいんだぞ!」
「じゃあこのままで戻ります?」
ぐいと掴まれて腰が砕けた。
「・・や、あっ」
「シンタローさん、俺のこと好き?」
「何言って・・っ・・んっ」
「声、もう少し抑えないと聞こえちまいますよ」
「誰のせい―――・・っあ!」
侵入してきた指に思わずあげかけた悲鳴を必死で噛み殺した。
「もうちょっとかがんでくれません? じゃないとつらいのはアンタっすよ」
「てめ」
ふざけんな、と言おうとした瞬間、俺の内部でヤンキーの長い指が動いた。
「う・・あっ・・」
がくりと膝が折れる。肩に縋りつく俺の脇に手を回して抱き上げながら、ヤンキーは人の悪い笑みを浮かべた。
「あれェ珍しく素直っすね、シンタローさん」
「や・・っ」
「それとも」
―――・・・これだけでもう、感じちまったの?
熱い声に耳を犯されて、ぽろりと涙が零れた。
「ね、シンタローさん」
ぐいぐいと突き上げてくるリキッドの息が荒い。
「俺のこと好きっすか? 答えて下さいよ、シンタローさん」
訊きながらリキッドはキスの雨を降らせる。
こいつはセックスの時にはキス魔になる癖があって、顔でも髪でも首筋でも、とにかく何処にでもキスをしたがる。だが今日はいつになく執拗で、唇が押し当てられるたびに俺は焼けつくような痛みを感じた。
「んん・・んんっ・・」
(んなこと言われたって答えようがないだろーが!)
声が洩れないように大きな掌で俺の唇を塞いでいるのは訊いている当人なのだ。
リキッドが動くたび、水に濡れた金髪が目の前で揺れる。
きらきら輝くその髪からは水滴と一緒に金色の粉が散るようで、
(綺麗だ)
眩しくて眩しくて思わず眼を閉じたその時。
「リキッドくーん」
思いがけないほど近くで聞こえた声に愕然と目を見開いた。
「どーしたのー?」
「一緒に遊ぼうよー」
狼狽えまくる俺と対照的に、リキッドの声はいつもとまるで変わらない。
「ああ、もうすぐ行くから」
「シンタローさんはー?」
「ちょっと虫に噛まれちゃってさ、手当したらすぐ行くよ」
「手伝おうかー?」
エグチくんの邪気のない声にぎくりと身を竦ませる俺の腰をぐっと引き寄せて、リキッドは顔だけ岩陰から出して振り向きながら笑った。
「大丈夫だよ、すぐに行くから向こうで遊んでていいよ」
「はーい」
「早く来てねー」
ほてほてという足音が遠ざかっていく。
全身から力が抜けるのが自分で分かった。そこをすぐに突き上げられて悲鳴を上げる。
「もー、集中して下さいよ」
「ばっ・・も、やめろって・・!」
「こんな状態で? ソレ無理でしょ」
ね、と一番深いところを一突きされて思わず艶めいた喘ぎが洩れた。
リキッドの手は俺自身を強く握りしめたままだ。
「も・・駄目だって・・」
「イキたい?」
くすりと笑ってリキッドは俺の耳にキスをした。それだけでぞくりとする。
「俺のこと好きっすか、シンタローさん。―――」
「答えてくれたらイカせてあげます」
「なっ・・・!」
(ああ 内緒にしておきたかったのに)
おまえのことが好きで好きでたまらない。
このまま死んでしまってもいいくらい、俺はきっとおまえに溺れてる。
「・・・良かった」
リキッドがニッと笑った。
少年のように無邪気で嬉しそうな、素直な笑みだった。
「俺もあんたを離しませんから」
「んっ・・んあっ!!」
リキッドの手の中で俺の欲望が弾け、一瞬遅れて俺の中でもリキッドが達する。
「愛してます、シンタローさん」
大きな瞳を伏せて囁くリキッドの顔は、怖いくらい真剣だった。
瞬きするたびに金色の睫毛からも太陽の破片がきらきらと零れ落ちるのをうっとりと眺めた。
それは、俺の心の中まで明るくしてくれるような眩しさだった。
「だから謝ってるじゃないですか~・・・」
「誰が許すかボケェ!!」
晩飯の支度のためにパプワ達より早く湖を後にした俺は後ろも見ずに足早に歩いていた。
少し遅れて半泣き顔のヤンキーがついてくる。
眼魔砲を食らわせた顔は例によって例の如く血まみれになっていた。
「やめろって言ったのに無茶しやがって」
「アンタが色っぽすぎるのが悪いっす」
「・・・あァん? この上さらに口答えですかー?」
「すいませんお姑さん・・気持ち良くなかったすか・・・」
「そういう問題じゃありません!!」
俺はちみっ子たちと楽しく遊ぼうと思ってたのに、結局ヤンキーがつけたキスマークのせいでタンクトップも脱げずに寂しく浜辺で見学になってしまったのだ。
「当分てめえとはしねェ」
「ええええ! そんなぁ!!」
漸く陽が傾き始めた夏の空を見上げて残照の眩しさに眼を細める。
(髪と眼からきらきら零れ落ちていた太陽の結晶)
「あれは・・悪くなかったんだけどな。―――」
「でしょっ!? 俺もマジ燃えたっす!」
ぬけぬけと言いくさるヤンキーに躊躇無く本日2発目の眼魔砲を放った。
(どんなにおまえに溺れているか、どれほどおまえに焦がれているか)
譫言のように言い募った台詞が記憶から飛ぶまでブチのめしてやるからな。
覚悟しとけよ、ヤンキー。
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なりきり100の質問にあった「水浴びエッチ」です。
たまには純情じゃないリッちゃんです。
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