作・斯波
見た目と実際が違うなんてよくある話。
だけどこれはそういう問題でも無さそうなんだ。
BODY
ハッキリ言ってシンタローさんはデカい。
背は俺より高いし、筋肉の付きも俺よりいいと思う。
いつでも人を真っ直ぐ見るから、向かい合って立ってみるといつも見下ろされてる感じ。
腕組みをして突っ立って俺を見ているシンタローさんはエラそうで強そうで格好良くて、たぶん実際の体格以上にこの人に備わっているオーラのようなものがそう見せている。
シンタローさんが放っている光は誰より強くて、見ていると俺は時々立ち眩みがしそうなほど眩しくなる。
この人には絶対敵わないって―――この人の隣を歩くなんて俺に出来るのかなって、そう思わせるほどその光は強い。
なのに何でかなあ。
夜になるとシンタローさんは、少しだけ小さくなるような気がするんだ。
「―――分かんないんす」
「何が」
「絶対シンタローさんの方が俺よりガタイがいいっすよね?」
「?・・・多分な?」
「ねえシンタローさん、物の大きさって日によって変わったりすると思います?」
「すいません話がさっぱり見えません」
俺の腕に抱かれてる時のシンタローさんは、すっぽり包み込んでしまえそうだ。
黒い頭を俺の肩のくぼみにちょこんと乗せて子供みたいに拳を口にあてて眠っている。
安心しきった表情で、何もかも俺に預けて眼を閉じて安らかに呼吸しているシンタローさんがいつもより2割減で小さく見えるのは何故なんだろう。
「んなこと言うけど、おまえだって昼間と今じゃ全然違うぜ。声も表情も、身体の大きさまで違うような気がする」
「え、マジで? それはおっきくなるんすか、それともちっちゃくなるんすか?」
何の気無しに訊いただけなのに、シンタローさんはみるみる赤くなった。
んなこと訊くなバカと怒られておまけに頭をポカリと殴られた挙げ句向こうを向かれてベソをかきそうになった俺に背中を向けたまま、シンタローさんはぽつりと言った。
―――昼間よりずっと、頼れる感じがする・・・ような気がする。
小さな小さな声でそう呟いた人の背中を、思わずぎゅっと抱きしめた。
「アレ? こんなちっちゃかったっけ・・・」
パプワの新しい腰みのを作るために古いので採寸していた俺は、ちょっと驚いた。
「もっと大きいのかと思ってたぜ」
「それは錯覚だ」
「あっさり言い切るのねお坊ちゃま・・・」
「人間の眼が捉えている物の大きさというのは案外不正確なんだ。手で実際に測ってみると思ったよりも小さかったり大きかったりするんだゾ」
「ふーん・・・」
「人と人の距離だってそうだぞ、家政夫」
「は?」
「遠く見えている奴だって、実は意外と近くにいたりする。重すぎる運命を軽々と背負っているように見える強い人間だって、手の中に抱きかかえてみると意外に小さかったりするんだ」
「パプワ・・・」
だからあいつを頼んだぞ。
真顔でそう言った10歳のちみっ子は、俺が知っている誰よりも大人びて見えた。
「おまえ、変わったな」
「そうすか?」
シンタローさんの長い指が飽くことなく俺の髪を梳いている。
「図太くなった。何か図々しくなったし」
「何すかソレ!」
「ほんとのことだもん」
「シンタローさんのせいですよ。あんたが俺を変えたんだ、きっと」
「じゃあテメーも俺を変えてみろよ」
片肘をついて俺の顔を真上から覗きこむ。
(そんな顔、反則だ)
「おまえ好みに、心も身体も。―――」
―――好きなようにしていいんだぜ、なあリキッド―――
きゅっと眼を細めて甘くかすれた声で俺を誘惑するこの人に、俺はまだ全然敵わない。
(だけどきっと)
「―――上等っす」
この人の全部を抱きしめられる俺に、いつか絶対なってやる。
それが昼間でも夜でも、安心して頼って貰える男になってみせるから。
笑みをたたえたままの柔らかい唇をそっと舌でなぞった。
「・・・今の言葉、忘れないで下さいよシンタローさん」
あなたのすべてはもう、俺のもの。
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調子乗りっちゃん。
…すみません、言ってみたかっただけです。
160ない私にはシンタローさんは2階の人です。
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