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作・渡井




  He has no age


「リキッドくーん」
「お誕生日おめでとー」
食材を集めてきた帰り道で、声をかけてきたのはエグチくんとナカムラくんだった。
「ありがと、覚えててくれたんだな」
時に容赦ない突っ込みが入るが、やっぱり可愛い。
リキッドの表情が思わず緩む。

今日は誕生日。
掃除、洗濯、食材集めはきっちりと言い渡されたが、夕食はシンタローが作ってくれるらしい。
パプワやチャッピーや島のみんなから祝われるのはとても嬉しいけれど、本当は怖くて厳しい鬼姑の食事が一番楽しみだったりする。


エグチくんとナカムラくんは、手を振りながら仲良く歩いていった。大きく手を振り返してパプワハウスへと急ぐ。
思えばこの島に来て、初めて会ったのが彼らだった。
あれからいろんなことがあったよなあ、と柄にもなく感傷に浸ってみる。特戦部隊の一員だったはずが、いまや島の番人だ。
古今東西の権力者が夢見た「永遠の命」が自分の体の中にある。
どんなに年月を重ねても、何度誕生日が巡ってきても、もう自分には年齢など何の意味もないものになってしまった。
覚悟は決めていたのにふと寂しくなるのは、シンタローに出逢ってからだった。

いつ帰るか分からない想い人。
胸に秘めた気持ちは秘めっぱなしになるかもしれないけれど、それでもいいと強がりでなく思う。
かつて彼がいた世界で自分は生きる。
かつて自分がいた世界で彼は生きる。
遠く離れていても、確かに刻まれる時間は同じだと信じていられるくらい、何の迷いもなく純粋にひたむきに好きだ。
ただ、それが体に残るものならば、もっと強く信じられるのに。
自分は若いまま、あの人だけが年齢を重ねていくのかと思うとそれが寂しい。
(シンタローさんって、元はジャンさんの体って聞いたけど……)
彼も不老である可能性はあるのだろうか?
けれどそれを望む気にはなれない。シンタローはこの島で生きる自分とは違う。帰るべき存在だ。

家族や友を失いながら、一人だけ生き続けるなんて悲しすぎる。
だからどんなに寂しくても、シンタローの不老を望んだりしない。
ほんの数日後に来る彼の誕生日には、ちゃんとケーキに立てるローソクを1つ増やそうと思う。

足が止まった。
声は聴こえないけれど、パプワが何か言って、シンタローがそれに答えて笑っている。
一つ屋根の下で暮らすようになって知った。
強大な力を持ち、大組織を従え、様々な苦難を乗り越えてきたはずのシンタローの笑顔は、まるで子どものようだ。

チャッピーがこちらを見てわおんと吠え、「おお、帰ったか」とパプワが扇子を広げた。
「遅ェぞ、家政夫」
腕を組んだ格好に俺様の威厳が十分に発揮されている。
説教や小言さえ待ちわびるようになったのはいつからだろう。
「すんません。こんなもんでいっすか?」
「ちゃんと揃ってるだろうな」
籠の中身をチェックしている目は主夫のそれだ。
だけど今日は、いつも使っている材料がどんな料理になるのか楽しみで仕方ない。
「あ、コレも採ってきました」
途中で見つけた甘い果実を差し出すと、シンタローはまた笑った。
「おっ、珍しく気が利くな。じゃあデザートに使うか」
「うっす!」
パプワとチャッピーが踊っているのを見ながら、リキッドは張り切って返事した。
多分シンタローは子どもの頃からこの笑顔だったんだろう、と胸が弾んだ途端に気づいた。

多分シンタローはいくつになってもこの笑顔だ。
何度誕生日が来てもキラキラと輝くものが色あせない、とすれば。

(シンタローさんだけが歳を取っても、俺は大丈夫だ)

彼の笑顔にも、きっと年齢はない。


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作・斯波


まったくこの恋というやつは
どんな大きな過ちの
言い訳にもなるんだ



この雨が止んだら



―――後になって思えば、それは凄まじいまでの雨と雷のせいだった。


「おい、リキッド、雨だ!」
姑の慌てたような声に、掃除をしていたパプワハウスの家政夫は顔を上げた。
確かにぱらぱらという音が聞こえる。
「何ボケッとしてんだよ、洗濯物取り入れてこい!」
「うっす!」
夕食の下拵えに手が離せないシンタローに怒鳴られて家の外に飛び出すのと雨が激しさを増すのとはほぼ同時だった。
「ギャーッちょっと待って待って!」
自然相手に文句を言いながら手早く洗濯物をロープから取り込んでいく。
何とか洗濯物を家の中に放りこんだ瞬間、南国特有のスコールが一気に襲ってきた。
「うわ―――・・・」
青い閃光が暗くなった空を裂いて走る。
リキッドはその美しさに、家の中に入るのも忘れて立ちつくした。
数秒で全身はびしょ濡れになったがそんなことも気にならない。
叩きつけるような雨と青黒い雷光と揺れる木々と。
「綺麗だ・・・」
もう見慣れている筈なのに、何度見ても飽きない光景だった。
「あれくらいの電磁波を出せたらなー・・・あの鬼姑に対抗出来るかもしれないのに」
技の前に気迫で負けていることは棚に上げてぼんやり呟く。
その途端、
「ヤンキー!」
腹の底に響くような声で怒鳴られて思わず飛び上がった。
「何してんだコラ!」
シンタローがずかずかと歩いてくる。
雨と稲妻が荒れ狂う真ん中に立って空を眺めていたリキッドの肩をがしっと掴む。
「危ねェだろーが!!」
自分もずぶ濡れになりながら目を吊り上げて怒る顔を見て思った。

―――んなこといったって、もう遅い。

だって綺麗なものを嫌いな奴なんかいないじゃないか。
それがどれだけ危険でも、側に寄って直に触れてみたいじゃないか。

あんたがいい例だよ、シンタローさん。
そうだろう?


「おい、聞いてんのか」
「聞いてますよ」
目が二つ、鼻が一つ、口が一つ。
配置は他の人間とそう変わらない筈なのに、何で結果としてこれほど違ってくるんだろう。
「俺、どっかで計算間違えたのかな・・・」
「は? 何言ってんの?」
「神様ってすげえよな」
「何訳の分からないこと言ってんだよ、いいから早く中に―――」


背を向けかけた人の肩を掴んで抱き寄せた。
「ちょ・・っ」
互い濡れた肌から、温もりと心臓の鼓動が伝わってくる。
大きく見開かれた瞳にシンタローの驚愕が読みとれた。
半開きになった形の良い唇がかすかに動く。
それが罰当たりな言葉を吐き散らす前に、自分の唇で塞いだ。

「んっ・・!」
自分より背の高いシンタローの足許がふらついた。
その身体を強く抱きしめた瞬間、ひときわ凄まじい雷鳴が空を裂いて轟いた。
「ひゃっ」
思わずバランスを崩したリキッドの足がシンタローの足にひっかかる。
「わ、うわわっ」
そのままバシャッと二人して倒れこんだ。
(ヤバイ! 確実に息の根を止められる!)
水溜まりと泥の中にシンタローを押し倒した形になったリキッドは、死を覚悟した。
何しろ相手は泣く子も黙るガンマ団総帥なのだ。
だが、自分を見上げているシンタローの顔を恐る恐る見たリキッドの息は、違う意味で止まりそうになった。

(・・・え、うそッ!!)

八つも年上の俺様総帥の綺麗な顔は、今にも泣きそうに歪んでいた。


「あの、シンタローさ―――」
「・・・冗談か?」
「えっ」
「俺のこと、からかってんのか」
微かに掠れた低い声に、冷えていた身体が一気に燃えあがった。

「・・・俺は」
泥にまみれた手でそっとシンタローの頬を包んだ。
(こんなに綺麗なものを)
「冗談のつもりはないっすよ」
(俺の手で汚せたら)

瞼がゆるりと閉じて漆黒を覆い隠す。
唇が小さくリキッドの名前を形づくる。
はあ、と零れた吐息に理性のたがが一気に外れた。

そこから先を見ていたのは、鳴りやまぬ雷と南国の雨だけだった。


「―――丁寧に洗えよ」
「はい・・・」
湯気が立ちのぼる風呂の中。
シンタローはバスタブに浸かって気持ちよさそうに眼を閉じている。
「終わったら身体もな」
泥と雨水ですっかり汚れたシンタローの髪を洗わされているリキッドは溜息をついた。
(まあ俺が悪いんだからしょうがねえんだけどさあ)
でもこの人だって共犯なんだと思う。
今だって湯の中で揺らめいている白い身体にどれだけ胸と下半身が熱くなっていることか。
それを百も承知でリキッドに髪を預けているこの男の人の悪さを今更ながらに思い知らされる。
「分かってると思うけど二度洗いだぞ」
「はいはい」
「馬鹿、返事は一回でいーんだよ」
「・・・はい」
「雨は上がったか?」
「え?」
開いている窓から見える空に目を遣った。
「あ、はい。もうすっかり」
「んじゃ洗濯物の干し直しだな」
「うっす」
「それから」
ばしゃんと音を立ててシンタローの手が伸び、シャンプーの泡を流していた家政夫の首をぐいと引き寄せた。
(迂闊に触れると怪我をする)
「うわっ」
「こっちの方も、最初からやり直し。―――」

ニッと笑われて、危うく失神しそうになる。

―――それでも俺はアンタに触れずにはいられない。

南国の空は、さっきの豪雨が嘘のように青く晴れ上がっていた。


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とりあえずリッちゃんも風呂に入った方が良いと思います。
さて、「こっちの方」はどこまで行ってどこまでやり直したんだか…


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作・斯波


雨があがれば洗濯日和
まっしろに洗って乾かしたいのは
君のシャツと 僕の心



GREEN GREEN



扉を開いてリキッドは眼を細めた。
木々の緑が眼に沁みるほどに眩しい。
朝早く干した洗濯物はすっかり乾いて、抱え込むと胸がほかほかと暖かかった。
この二、三日雨が続いたので溜まっていた大量の洗濯物を床に放り投げ、仕上がりにうるさいスーパーちみっ子のためにアイロンのスイッチを入れる。
この島に来るまでアイロン掛けなどしたことがなかったリキッドだが、彼はこの仕事が好きだった。手の動きと共に布の皺がぴしっと伸びていく行程がたまらないのである。
鼻歌を歌いながら一枚一枚丁寧に仕上げていくリキッドの動きはリズミカルだった。
かけ終わると綺麗にたたんでいく。
ふと、その手が止まった。
リキッドの視線が手の中のシャツに落ちる。
自分より一回り大きなサイズのその白いシャツに、そうっとリキッドは頬を寄せた。
真っ白に洗い上げてあるのに、シャツからはかすかにその人の匂いがした。
静かに眼を閉じる。そうしていると近くに感じられるような気がした。

いつか去ってゆくあの人に、俺は想いを告げることが出来るだろうか。
見る者を吸い込んでしまいそうなあの黒い瞳が、俺を凝視めてくれる日は来るのだろうか。

きっとこのシャツにアイロンが当たっていることなんて気づきもしない、そんな人だけど。
それでも綺麗好きなあの人に満足して貰いたいから、今日も真剣にアイロンを掛ける。


「・・・あちっ」
アイロンが驚くほど近くにあったのに全然気づかなかった。
慌てて水で冷やし、ふうふうと冷ます。
だがもう指先には水膨れが出来かけていた。


高熱のアイロンも、きっと俺の心ほどには熱くないだろう。
火傷したのは指ではなく、きっと別の場所。

(シンタローさん)


俺の前を、その切ないほど強く広い背中で走り続けていてくださいね。
いつか俺が追いつく日まで、立ち止まらずに。


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洗濯はリキッドの時代。
もうヘタレとかそういう範囲ではなくなっている気がします。


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作・斯波

夢を見て、泣いた。
涙が零れ落ちる前に飛び出した。
あいつにだけは、この顔を見せたくなかったから。



DARLING, I DON’T CRY



パプワハウスを飛び出して、林の中で月を見上げた。
青い月が、笑ったような顔で俺を眺めていた。
夢の中で俺を呼んだ熱い声。
俺の髪を撫でて、そっと頬に触れてそして俺にキスをしてくれた。
「リキッド・・・」
小さな声で想い人の名前を呼んでみる。
途端に涙があふれた。

大人になれば哀しいことは少なくなる筈だって思ってた。
誰かを好きになって泣きたくなるなんてことはもう、ないと思っていたのに。
こみあげる嗚咽を止めることが出来なくて、子供のように泣きじゃくった。

―――シンタローさん。
ふっと呼ばれたような気がして振り返った。
だけどそこにいたのはやっぱり青い月だけで、それさえもが悲しかった。
(あいつにこんな顔は見せたくない)
リキッドではなかったことに安堵する一方で、空虚な風が心を吹き抜ける。

一度でいいから、太陽の匂いのするあの広い胸で泣きたいと思った。

もし俺が好きだと言ったら、あの純情ヤンキーはどんな顔をするだろう。
たぶん真っ赤になって目をうろうろ泳がせて、どう言ったら俺を傷つけずに済ませられるかそればかりを考えて右往左往するのに決まっている。
俺の想いはきっと、あの優しい男を困らせるだけだ。


翌朝俺はいつもと同じ顔を取り繕うことに何とか成功して、パプワと遊んだりヤンキーを殴ったりヤンキーに蹴りを入れたりヤンキーに眼魔砲を撃ったりしていたのだけれど。

ふとした拍子に目が合ったリキッドは、何だか物言いたげに見えた。

(知ってるか、リキッド)
おまえがその向日葵のように明るい微笑を投げる全ての相手に、俺は今気が狂いそうなほど嫉妬してる。

―――もう泣かないという決心を、俺はいつまで守れるんだろう。


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そう言えば南国を読んだ頃には、
途中からリキッドの存在自体を忘れていた。
…心から反省しております。

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作・斯波

あの人が泣いてるのを初めて見た。
月明かりの下だった。
それ以来、あの泣き顔が目に焼きついて離れない。



BABY, DON’T CRY



夜中に目を覚ましたらシンタローさんがいなかった。
パプワとチャッピーは昼間の遊び疲れが出たのかよく眠っている。
そっと、パプワハウスを抜け出した。


シンタローさんはわりとすぐ見つかった。
それは声が聞こえていたからだ。
家からちょっと離れた林の中で、シンタローさんはこっちに背を向けて泣きじゃくっていた。
しゃくりあげるたびに解いた髪が背中で揺れる。
小さな子供みたいに声を上げて泣いているシンタローさんを、俺はただ呆然と眺めていた。

もう大人と呼ばれる年齢になっている人間がこんなにも無防備に激しく泣くことがあるなんて、俺は今まで知らなかったんだ。


人の気配を感じたのかシンタローさんが振り向いたので、俺は慌てて木の陰に隠れた。
だけど俺の心臓はドキドキと波打っていた。
カメラだって100分の1秒をレンズに焼きつける。
わずか数秒だったけど、俺の網膜にはシンタローさんの顔がはっきり残っていた。

月の光にきらきら光る涙を零しながら振り返ったその顔は、赤ん坊みたいに幼くて、そしてとても綺麗だった。


翌朝目が覚めると鬼姑はちゃんと家にいて、そしていつもと全く変わらない顔でパプワと遊んだり俺を殴ったり俺に蹴りを入れたり俺に眼魔砲を撃ったりしていた。
強気で格好良くてエラそうなその顔を見ながら、俺は喉まで出そうな言葉を何とか抑えていた。

―――何がそんなに悲しいんすか。
誰を想ってあんなに泣いてたんすか、シンタローさん。

あんたを泣かすことが出来る奴に、俺は今気が狂いそうなほど嫉妬してる。

(独りぼっちで泣かないで)

いつか俺の胸であの人が泣いてくれるようになればいいと、そう思う。


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南国でのシンタローさんの泣き顔が好きでした。ちみっ子心に既にシンタローさんファンだった…
…と初出で書きましたが、考えたらそんなにちみっ子でもなかったです。
何を無意味に年齢詐称してるんでしょうか私は。

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