作・斯波
あの人が泣いてるのを初めて見た。
月明かりの下だった。
それ以来、あの泣き顔が目に焼きついて離れない。
BABY, DON’T CRY
夜中に目を覚ましたらシンタローさんがいなかった。
パプワとチャッピーは昼間の遊び疲れが出たのかよく眠っている。
そっと、パプワハウスを抜け出した。
シンタローさんはわりとすぐ見つかった。
それは声が聞こえていたからだ。
家からちょっと離れた林の中で、シンタローさんはこっちに背を向けて泣きじゃくっていた。
しゃくりあげるたびに解いた髪が背中で揺れる。
小さな子供みたいに声を上げて泣いているシンタローさんを、俺はただ呆然と眺めていた。
もう大人と呼ばれる年齢になっている人間がこんなにも無防備に激しく泣くことがあるなんて、俺は今まで知らなかったんだ。
人の気配を感じたのかシンタローさんが振り向いたので、俺は慌てて木の陰に隠れた。
だけど俺の心臓はドキドキと波打っていた。
カメラだって100分の1秒をレンズに焼きつける。
わずか数秒だったけど、俺の網膜にはシンタローさんの顔がはっきり残っていた。
月の光にきらきら光る涙を零しながら振り返ったその顔は、赤ん坊みたいに幼くて、そしてとても綺麗だった。
翌朝目が覚めると鬼姑はちゃんと家にいて、そしていつもと全く変わらない顔でパプワと遊んだり俺を殴ったり俺に蹴りを入れたり俺に眼魔砲を撃ったりしていた。
強気で格好良くてエラそうなその顔を見ながら、俺は喉まで出そうな言葉を何とか抑えていた。
―――何がそんなに悲しいんすか。
誰を想ってあんなに泣いてたんすか、シンタローさん。
あんたを泣かすことが出来る奴に、俺は今気が狂いそうなほど嫉妬してる。
(独りぼっちで泣かないで)
いつか俺の胸であの人が泣いてくれるようになればいいと、そう思う。
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南国でのシンタローさんの泣き顔が好きでした。ちみっ子心に既にシンタローさんファンだった…
…と初出で書きましたが、考えたらそんなにちみっ子でもなかったです。
何を無意味に年齢詐称してるんでしょうか私は。
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