作・渡井
リキシン好きに20のお題06「一つ屋根の下」
炊合せ
浜辺に野菜が流れ着いたと教えてくれたのは、胸キュンアニマルズのエグチくんとナカムラくんだった。
第二のパプワ島は異次元の世界にあるが、ときおり大渦のワームホールを経て船荷などが流れてくることがある。運がいいと美少年が打ち上げられるが、その場合は生温かいお兄さんたちが大勢やってくるので注意が必要だ。
野菜はほとんどが海水に浸かって駄目になったり割れていたりしたが、わずかながら食べられそうなものがあり、シンタローは身をかがめてエグチくんとナカムラくんに礼を言っている。
「煮物にするから、後で食べに来いよ」
「わーいシンタローさんのお料理ー」
シンタローは島のみんなには(一部を除いて)優しい。
その情けを小指の先ほどでも分けてくれないものか、とため息をつく家政夫がいた。
「オラ何やってんだヤンキー、さっさと支度しろ」
さっきとは夏と冬ほど温度を変えて飛んでくる声に、リキッドは慌ててキッチンへと走った。
「煮物にするんすか?」
「こないだ和食を教えろって言ってたろ。炊合せにするか、いろんな野菜を使えるし海老なんか入れてもいいしヘルシーだし」
パプワ島のちみっ子は、生活習慣病への警戒を怠らないのである。
料理をしながらシンタローが早口で作り方を教え、リキッドは手伝いながら必死にメモを取っていく。
それぞれの持ち味をいかすために、別々の鍋で煮ること。
魚や鶏肉を入れてもいいこと。
薄味の方が風味が引き立つこと。
特に最後に煮汁をかけるときは、一番薄味の出汁をかけないと味付けが変化してしまうことなど、愛想のない口調ながら丁寧に説明してくれる。
これが本当にガンマ団総帥だろうかと、何度も思ったことをまた思った。
「不思議っすね。いろんな味なのに一つの皿に入って、美味しくて」
味見をして感嘆すると、シンタローがふと笑った。
どうかしたのかと顔を見たリキッドに気づき、少し苦笑いになる。
「なんか、ウチみたいだな」
「ああ」
リキッドも同じ笑みになる。
最強ちみっ子のパプワ。島のアイドル、チャッピー。俺様なお姑のシンタロー。そして、自分。
色も形も味もバラバラに、一つ屋根の下で暮らして、一つの料理が作られていく。その連想は奇妙に心地よかった。
そして何より、シンタローが何気なくもらした「ウチ」という言葉が嬉しかった。
きっとシンタローが帰ってしまっても、ここは彼の「ウチ」であり続けるだろう。自然に暖かくなる胸のうちに、黒い影がさす。
帰らなければいいのに。
「ちょっと作りすぎたな。他の連中も呼ぶか」
シンタローの声にはっとして、咳き込むように返事をした。
嫌なことを考えてしまった。4年前、シンタロー自身が自分の気持ちにけりをつけ居場所を選んだというのに、何でこんなことを思うのだろう。
「シンタローさん」
呼びかけると束ねた黒髪が揺れた。
「何だ?」
名前を呼ぶと、振り向いてくれるから。自分を見てくれるから。
だから帰らないで欲しい、傍にいて欲しいと、そう気づいた瞬間、胸にすとんと何かが落ちてきた。
――ああ、そういうことか。
「他にも何か作りますか?」
「そうだな、これだけじゃ寂しいしな」
分かってしまえばこんなにも簡単なことだ。
俺はシンタローさんに恋をしている。
不思議に穏やかな心の中で呟いて、リキッドは晴れやかな笑顔を浮かべた。
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たかが自覚するまでに6個もお題を使ってしまいました。
お料理は次回から洋食編へ。
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