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作・渡井

リキシン好きに20のお題02「家政夫vs主夫」


串焼き


地響きが聞こえた。
「何だ?」
リキッドは皿を洗う手を止めて顔を上げる。寝転がって『ヤンキー烈伝 オレの塀のなか物語』を読んでいたシンタローも、上半身を起こした。
「いまパプワの声がしなかったか?」
チャッピーと遊びに出たままの少年の名前が出て、リキッドは思わず傷がある方の頬を強張らせた。
「まさかパプワに限って……でももし何かあったら」
「んばば!!」

扉を蹴倒さんばかりの勢いで入ってきたのは、そのパプワだった。片手に軽々と巨大な肉の塊を抱えている。
「夕食を獲ってきてやったぞ」
「ハヤシくんに会ったのね……」
「今晩はバーベキューだな」
シンタローが肉を受け取って目を輝かせた。男の子はみんな肉が好きなのだ。
「僕はチュパカブラのタグチくんと約束がある。帰るまでに支度しておけよ」
「地球の図鑑に載ってない子と遊ぶんじゃありません!」
扇子を広げて宣言したパプワはまた外へと出て行き、パプワハウスには男二人が肉とともに残された。

そのまま焼くにはむろん大きすぎる。シンタローの提案で切り分けて串焼きにすることになり、彼が包丁をふるう間に、リキッドはラッコのオショウダニくんに竹を貰ってきた。
思ったとおりスティックの竹は串に手ごろで、適当に削って肉を刺していく。
「あとはタレだな」
甘辛いタレを手早く作る姿からは、悪い奴ら限定半殺し稼業のガンマ団総帥という身分は想像も出来ない。
4年前はこの人が家事を全部やってたんだよなあ、と不思議な気持ちでぼんやりと見ていた。
「ヤンキー、肉は」
「あっはい、出来てるっす」
バットに並べた串刺しの肉を差し出すと、シンタローが軽く眉を寄せた。
「あの、何か」
条件反射でビクついたリキッドに、串を指差す。
「これ、先は丸くしとけ。パプワの食い方は豪快だしよ、危ねェだろ」
「あ」
言われて初めて気がついた。肉を刺しやすいようにと、尖らせたままだったのだ。

こんなとき自分は「家政夫」だと実感する。目の前の家事に精一杯で、何のために家事をこなしているのかを忘れてしまうのだ。
大切な家族の笑顔を守るための家事だ。文句を言っても、チャッピーに噛まれて景気良く流血しても、シンタローはそこのところを決して外さない。かなわない、と思わず苦笑がもれた。
―――でも、俺だって。
串の先を潰しながらリキッドは心の中で拳を握った。俺だって、パプワやチャッピーや島のみんなが大好きな気持ちは同じだ。俺が守るんだ。
いま目の前にいる、この人のように。
「肉だけじゃバランス悪いな。ヤンキー、あとで野菜採りに行くぞ」
「うっす。こないだのドレッシングの作り方、教えて下さいね」
この島の番人だと、この人に胸を張れるように。
「にしても」
ふと考えてしまった。シンタローの家事のやり方は、家政夫ではないなら何と呼ぶのだろう。家長であるパプワがいて可愛いチャッピーがいて、シンタローは、
「お母さん……?」
「あァん?」
出来上がる先から肉をタレに漬け込んでいたシンタローが、この上なく機嫌の悪い顔で振り向いた。心の中で呟いた言葉を、どうやらうっかり口に出してしまっていたらしい。
「テメー、また人を姑呼ばわりしてんのか? あ?」
「あ、いえ、その」
「うるせえヤンキー、黙って正座しろ」
「ああっやっぱ鬼姑!」

でも母親呼ばわりしたことがバレたら、もっと怒られそうな気がしたから。
リキッドはおとなしく正座して、猫に頬を差し出した。


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すみません。
リッちゃんは本当はもっと気の利く子だと思います。

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