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作・斯波



ほんとの気持ちは言葉じゃ言えない
だけど分かってほしいから
今日もあなたを求めてる



泣きたいきもち



「今、何してんの」
携帯を耳に当て、返事を待つ。
「そっか。学会、明後日だもんな」
論文が進んでないんだとあいつは言った。
今必死で資料を読み漁っているところらしい。
「大変だな。電話なんかしてる場合じゃないな」

―――じゃあ切るよ。おやすみ。

通話切ボタンを押した瞬間、涙が零れそうになった。


本当は逢いたかった。
寂しくて寂しくて、電話越しの声なんかじゃ我慢できなくて。
逢って抱きしめて欲しかった。
それが無理なら、せめて側にいて欲しかったんだ。

ベッドに寝転び、眼を閉じる。
鼻の奥が熱くなってくるのを必死で堪えた。

「逢いたいなんてこの俺様が、・・・言える訳、ねェだろ。―――」


いつでも全てがうまくいく日ばかりじゃない。
俺の方針に従ってくれる部下ばかりじゃないし、成功する任務ばかりじゃない。
聞かない振りをしていても陰口は聞こえてくるし、見ないように努力していても、冷たい目は俺を追ってくる。

そんな時に逢いたいのはやっぱり、あいつだけだった。


もう一度携帯を取り上げ、リダイヤルを押しかけて思いとどまる。
(邪魔しちゃいけないよな)
もしかしたら俺以上に忙しいかもしれないあいつを困らせたくはない。
あいつは俺を慰めるために存在してる訳じゃない。


それでも、時には我が儘が言いたくなる。
(全部放り出して俺だけを見てくれ)
電話なんかで気持ちが伝わる訳がない。
(俺のことだけを考えてくれ)
いっそ泣き喚くことが出来れば、このやるせなさを伝える事が出来るだろうか。

でも泣けない。
ここで泣いてしまったら、俺は際限なく弱くなってしまうから。


その時遠慮がちにドアがノックされた。
「・・・?」
立っていって扉を開ける。
外を見た途端、俺は目を丸くした。
ノートパソコンと分厚いファイルを持って立っていたのは、キンタローだった。


「な・・何? どうしたの?」
「入っていいか?」
「そりゃいいけど―――おまえ論文書いてるんじゃ」
「その事で来たんだ。おまえの部屋にある資料が必要になってな」
さっさと部屋に入り、本棚を探す。俺は呆気にとられてその後ろ姿を見守っていた。
すぐに目当ての資料を探し出して、キンタローは振り返った。
「ついでだから、ここで論文を書いてもいいか?」
「え・・・?」
「邪魔はしないつもりだが。―――」

キンタローの手の中にある資料を見て、思わず笑い出しそうになる。
(それ、おまえの部屋にもあるだろ)
ちょっとだけ眼を逸らして返事を待っているキンタローの耳は、うっすらと赤くなっていた。

「・・・仕方ねえなあ。別に俺は構わねェけど」
「そうか、悪いな。先寝てくれてていいから」
「まだ大分かかりそうか」
「多分、朝までには終わる」


ああ、―――朝までずっと、側に居てくれるってことか。


俺はくすっと笑ってもう一度ベッドに寝転がった。
泣きたい気持ちは、嘘のように消えていた。




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すっかり立ち直ったシンちゃんに、タイピングの音がうるさい! と
夜中に怒られなければ良いのですが。


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