忍者ブログ
* admin *
[278]  [277]  [276]  [275]  [274]  [273]  [272]  [271]  [270]  [269]  [268
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

vx







作・斯波

やさしいかお
つめたいかお
かわいいかお
どれもぜんぶあなた



本日は晴天なり



「――えー・・何でだよ?」
「文句を言うな、すぐ済む」
「はーいはいはい」
「返事は一回!」


ドアがばたんと閉まると俺はちょっと不貞腐れてベッドに寝転がった。
分かってはいるのだ―――本来なら俺が文句を言う筋合いじゃないことくらい。
キンタローが出て行ったのは彼が属している組織の仕事の為で、そして俺はその組織の頂点に立っている人間なのだから。
(だけどせっかくの休みなのにさ)
何せ俺もあいつも忙しい。休みが合うなんてことはめったに無くて、しかも今日は久しぶりによく晴れていい天気になったからドライブにでも行こうかと話が決まりかけた矢先にキンタローの携帯電話が鳴ったのだ。
それは開発課の研究員からの電話で、なにやら問題が起こったようだった。
短い受け答えで電話を切ったキンタローは、
―――ちょっと出てくる。すぐ戻るから。
そう言ってさっさと白衣を羽織った。そして話は冒頭へ帰るというわけだ。

何のかの言っても俺だって立派な二十八歳。しかも泣く子も黙るガンマ団総帥だ。
デートより仕事を優先することなんかざらにある。
(あーあ・・ドライブはお預けだなこりゃ・・)
電話がかかってきた時点でもう諦めはついていた。すぐ帰ってくると言ってはいたがあてにはならない。キンタローは仕事をおろそかにするような男ではないし、俺が惚れてんのはそういう部分でもあるんだから仕方がない。
だけど判ってはいても期待をはぐらさかれてしゅんとなった気持ちは隠せなくて、俺はベッドに寝転がったまま溜息をついた。
「――ま、しょうがねェか」
煙草を捜してサイドボードに伸ばした手に、柔らかいものが触れる。
上体を起こして眺めてみると、それはさっきキンタローが白衣を着るために脱ぎ捨てたジャケットだった。
(まだ温かい・・・)
何となく寂しくなって抱え込んでみる。俺よりほんの少し大きなキンタローの身体にゆったりとしたシルエットを与えるそのジャケットは俺の胸をすっぽり覆うくらい大きくて、顔を埋めるといつもあいつがつけているフレグランスの優しくて甘い香りがした。
(・・キンタローの匂いだ)
眼を閉じると、耳許で囁く低い声までが聞こえるようだった。
―――シンタロー。
少しだけ笑みを含んだその声で名前を呼ばれると、俺はもうキンタロー以外見えなくなる。
この世界もガンマ団の未来も、どうでもいい。
ただキンタローの腕の中でずっと夢を見ていたい、そう思う。
―――シンタロー。

嫌だ、まだ眼は開けない。
もうちょっとおまえの声を聴いていたいから。
おまえの香りに包まれて、今はただ眠りたいんだ。

夢から覚めたときにはどうぞ、おまえが隣にいますように。


「――・・シンタロー?」
俺はそっと扉を開けた。部屋はしんと静まり返っている。
(帰ってしまったのか?)
すぐ戻る、そう言ったがもうあれから二時間は経っていた。研究員が持ってきた問題点についてグンマと頭をひねっていたらあっという間に時間が過ぎていて、ふと我に返って時計を見た俺は後はグンマに任せることにして慌てて開発課を出てきたのだ。
こんなことはしょっちゅうで、だからシンタローも怒ったりはしていないだろうとは思ったが、わりとドライなあいつのことだからもう今日のデートは諦めて、さっさと自分の予定を立てているのかもしれない。
そう思って寝室に入った俺はぎょっとした。
俺のベッドですやすやと寝息をたてているのはまさにそのシンタローだった。


「・・・寝てしまったのか」
起こすべきだろうか、と俺は迷った。
疲れが溜まっているのかもしれない。しかしこのまま放っておいて夜になったら、起きたときにこいつが不機嫌になるのは火を見るより明らかだ。
―――帰ってきたんだったらさっさと起こせよ!
せっかく一緒に過ごせる筈の日だったのに。
そう言って拗ねる顔が今からまざまざと目に浮かぶような気がした。
ここはやはり起こしてデートのやり直しをすべきだろう。
「おい、シン―――」
伸ばした手が途中で止まる。
シンタローがしっかり抱いて眠っているのは、俺が脱いでいった上着だった。

(――もしかして、俺の代わりに?)

思わず、満面の笑みが溢れた。


何だかとても気持ちのいい感触に、シンタローはふっと目を開いた。
フレグランスの優しい香りに混じって嗅ぎ慣れた煙草の匂いがする。
数秒自分が何処にいるのか、何をしているのか分からずにいた。
それから、大きな掌が頭の上に乗っていることに気づく。
「・・・え?」
ベッドに腰をかけ、煙草を咥えたままシンタローの髪を撫でているのは、数時間前に出て行った筈のキンタローだった。
「ああ、眼を覚ましたか?」
眼だけで微笑ってキンタローは煙草を揉み消した。シンタローは起き上がって目をこすった。
「おまえ、帰ってきたんなら起こせよな・・・」
「済まない。よく寝ていたから」
「いつ戻った」
「何、ついさっきだ。―――その毛布は気に入ったか?」

くすりと笑われて初めて、自分がキンタローのジャケットを握りしめていたことに気がついた。

「なっ・・これは別に!」
「うん?」
「ちょっと寒かったから借りただけで・・別におまえの匂いがどーとか感触がどーとかじゃ」
見事に墓穴を掘りまくっているシンタローの顔は真っ赤で、キンタローは微笑したままそんな恋人を眺めている。
「大体おまえが俺を置いて出ていくから悪い!」
どうにも収拾がつかなくなって投げつけたジャケットを、キンタローは笑いながら受け止めた。
「まだ昼を過ぎたばかりだ。出かけるか?」
「・・・昼飯はオメーの奢りだからな」
「分かった」
立ち上がったキンタローはシンタローが投げたジャケットを無造作に着込んだ。
「おい、それ着ていくのか?」
「? 駄目か?」
「駄目・・じゃないけど・・・俺が抱え込んでたから・・皺になってる」
「大丈夫だ、着ている間に体温で伸びるだろう。それに」
ぱんぱんとはたいてみて、キンタローはニッと笑った。
「おまえの匂いがするのに着ないなんて勿体無い」

さらりと言われてまたもや顔に火がついた。
何か言おうと口を開いたものの、ぱくぱくと動くだけで言葉が出てこない。
―――駄目だコイツ・・・マジで恥ずかしすぎる。
がっくりとうなだれて髪をぐしゃぐしゃとかき回しているところをふわりと抱きしめられる。
優しく香るフレグランスはもう、残り香ではない。
「おいっ」
「おまえはほんとに可愛いな、シンタロー。―――」

夢にまで聴いた甘い声でそう囁かれ、シンタローは無条件降伏した。


--------------------------------------------------------------------------------

世界の共通語「モッタイナイ」です。
そういえばキンちゃんはゴミの分別とか細かそうだ。

キンシン一覧に戻る

PR
BACK HOME NEXT
カレンダー
04 2025/05 06
S M T W T F S
1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 31
最新記事
as
(06/27)
p
(02/26)
pp
(02/26)
mm
(02/26)
s2
(02/26)
ブログ内検索
忍者ブログ // [PR]

template ゆきぱんだ  //  Copyright: ふらいんぐ All Rights Reserved