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作・斯波

暗い世界に生きていた俺に
光を与えてくれたのは紛れもなく
輝くようなおまえの瞳だった



あいのうた



俺は身体を離して起き上がった。
ベッドが軋んでも、眠り続ける俺の恋人は目を覚まさない。
(・・・また無理をさせたか)
分かってはいてもいざ目の前にこの顔を見るとまるきりセーブが利かない。
まるで初めて女を知ったガキのようだと自分でも可笑しくなる。
情事の疲れが色濃く残った寝顔にかぶさる黒髪を払いのけてやり、上半身は裸のままで寝室のドアを開けた。
「待たせたな」
「―――あのなあ、キンタロー」
うんざりしたような顔で食卓に頬杖を突き、煙草を吹かしているのは陰気で人間嫌いな№2。
「気持ちは解るけど、人待たしてる時くらい遠慮せえ」
「これでもおまえに気を遣って途中で切り上げてきたのだが」
「最低どすな、このエロ魔人」
嫌味な口調にはもう慣れている。
「わてかて忙しいんどすえ。あんさんが急ぎの書類や言うから持ってきたったのに」
「いいから寄越せ」
アラシヤマの手から書類をひったくって眼を通す。
性格も口も悪いが仕事だけは無駄に出来るこの男は今日もきっちり仕事をしていた。
内容をチェックしている間、アラシヤマは足をぶらぶらさせながら待っている。
小さな声で歌を口ずさんでいるのが聞こえて俺は少し驚いた。
それは音楽には疎い俺も聞いたことがある、有名な賛美歌だった。
「おまえの歌は初めて聞いたな」
いつも人魂を背負って歩いているこの男が鼻歌を歌っているシーンになど、ついぞお目にかかったことがない。
「わてが最初から最後まで歌えんのはこれだけなんどす。ちっちゃい頃、ハーレム隊長はんに教えて貰いましたん」
あのハーレムが、賛美歌を?―――似つかわしくないことこの上ない。
アラシヤマは初めて俺をちらりと見た。
「ハーレムはんは・・・ルーザー様に教えて貰た、言うたはりましたえ」
書類をめくる俺の手が止まった。


「昔、まだ仲良かった頃に」
―――今はもういない、俺の父親。
「その頃のハーレムはんにとっては、ルーザー様が闇を照らす光やったんやそうどす」

アラシヤマが出て行った後、俺は暫くぼんやりと座っていた。
携帯が鳴って我に返る。
「もしもし?」
『忘れるとこやった。ラジオつけてみ』
「はあ? 貴様何を言っているんだ」
『ええから。ほな』
一方的に切れた電話に舌打ちをして立ち上がり、ラジオをつける。
静かな音楽が部屋いっぱいに広がった。

信じていいの?
その甘い響きが
彷徨っていた私を救ってくれた


(これはさっきアラシヤマが)
名前も知らない女性歌手の優しい声が、まるで雨の滴のように俺の心に降り注ぐ。
俺は開いたままになっていた寝室の扉の向こうに視線を投げた。

かつて道を見失った私を
見つけだしてくれた

これは俺の歌だ。
長い間闇の中で生きていた、俺の。

今は私にも全てが見える

闇の中を彷徨って、誰にも気づいて貰えずに泣き続けていた俺を、あいつが救ってくれた。
抱きしめて、笑いかけて。
俺のために泣いてくれた。
俺を閉じ込めてる張本人だと思っていたあいつこそが、俺の光だったんだ。

私の心に
畏れを植えつけて
同じその手で恐怖を取り除いて下さった

シンタローに逢って初めて俺は恐怖を知った。

一度知った光を手放すこと。
再び孤独の底に突き落とされること。
愛する者を失うことを、俺は心の底から怖れた。


甘く澄んだ歌声が部屋を、そして俺の心を満たす。
ボリュームを上げておいて、寝室へ向かった。

真っ白なシーツに長い黒髪を乱して眠る恋人の頬にそっと触れてみた。

おまえが俺の宝物だ。
たとえ何を失っても、おまえがいれば俺は生きていける。
(俺に恐怖を教えたのはおまえの存在だったけれど)
その恐怖を取り除いてくれたのも、おまえだったから。

「・・ん」
ゆるりと瞼が開いて、漆黒の瞳が俺を捉える。
「キンタロー・・?」
隣の部屋から流れてくる歌に気づいたのか、シンタローは眼を擦って起き上がった。
「―――・・この歌、知ってる」
幼さの残る口許がふわりとほころんだ。
「親父がよく歌ってた」
「・・・俺の父さんも、好きだったそうだ」
「そうか、だって兄弟だもんな。きっと、祖父ちゃんが好きだったんじゃねえかな」


信じられないほどに美しいその調べを
生まれて初めて私は信じたの

ベッドに腰を下ろして、目覚めたばかりの恋人を抱きしめる。
「キンタロー・・どうした?」
「おまえは温かいな」
「・・? おまえもだぜ?」
(俺の光)
俺を人間に戻してくれた、唯一の光。
おまえの全てが俺は欲しくてたまらなくて、俺の全てを受け取って貰いたくて。

「おまえがいれば俺は他に何も要らない」
「―――・・朝から熱烈だな、オイ」

愛してる、おまえを愛してる。
憑かれたように囁く俺を、おまえは笑って抱き返してくれる。

まだ眠そうな瞼の上にキスをひとつ落とした。
「―――今朝だけはアラシヤマに感謝だな」
「えっ、何で!?」

父さん。
一人でも俺はちゃんと生きているよ。

Amazing Grace

俺を支えてくれるのはこの恋人と、あなたが残してくれた愛の歌。


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キンちゃんは天然でエロ魔人に違いない、
としつこく主張し続けていきたいと思います。

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