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作・斯波

自分の気持ちを大事にしよう
失くさないでいいものまで失くしてしまわぬように

今のあなたがとても好き



ONE MORNING



カーテンを閉め忘れた窓から朝の光が射しこんでいる。
俺は隣で寝息を立てているシンタローを起こさないようにそうっとベッドを出た。
少しだけ窓を開けると、風とともに小鳥の囀りが飛び込んできた。
(いい天気だ。―――)
俺は眼を細めて、眠っているシンタローを振り返る。
今日は一月振りの休日だ。ガンマ団総帥であるシンタローは、決して自分からは休みを取ろうとしない。放っておくと極限まで無理をするタイプなので、俺は時々半ば強制的に休みを取らせることにしていた。それでも渋るシンタローを従わせたのは、
―――おまえが休まないと俺も休めない。
という理屈だった。実際それは嘘ではない。補佐官である俺は本部においてはシンタロー以上に忙しいのだし、総帥が休まないと秘書官のティラミスとチョコレートロマンスだって休めないのだ。
(もう少し寝かせておくか)
目を覚ます気配のないシンタローをそのままにして戸棚を開けた。普段は忙しくて開けることもない棚の奥には、買い置きの豆が置いてある。ミルの音で起こしてしまっては可哀想なので、豆は前もって挽いて小分けにしてあった。
コーヒーメーカーのスイッチを入れると、数分でいい香りがしてきた。ソファに腰掛け、目覚めの煙草に火をつける。
時計に眼を遣るとちょうど8時30分。
今頃総帥室には、性格も口も悪いが仕事だけは無駄に出来る№2が向かっている筈だ。
出来上がったコーヒーをカップに注ぎ、咥え煙草のまま部屋を横切ってベッドへ向かう。
サイドボードにカップを置いた時、俺のシャツの裾がきゅっと引っ張られた。
振り向くと、眩しそうに顔をしかめたシンタローが俺を見上げていた。
「ああ、起きたか?」
「ん・・・」
「まだ大分声が掠れているな。無理をさせすぎたか?」
「ばっ―――」
一瞬で顔が真っ赤になる。怒鳴り声を上げられる前に、俺は自分が吸っていた煙草を咥えさせることに成功した。
「灰が落ちるぞ」
くすくす笑いながら灰皿を差し出してやると、シンタローは溜息を吐いて起き上がった。
寝ている時は束ねている長い髪を解くと、しなやかなその髪はまるで生き物のように裸の上半身に広がる。朝陽に惜しげもなく晒した肌に残った昨夜の痕跡が眼に飛び込んできて、俺は慌てて視線を逸らした。
「・・・コーヒー」
声が物憂げなのは、まだ完全に目覚めていないからだろう。
俺が渡したカップに口をつけ、その熱さにまた顔をしかめる。
「―――いい天気だな」
「ああ、久し振りの上天気だ。朝飯を食ったら出かけるか?」
「今年はまだ桜を見てねえなあ」
「花見に行ってもいいぞ。弁当なら作るから」
「んー・・でも暖かそうだから海を見るのもいいかもな」
「車の用意は万全だ。いつでも出発出来るぞ」
「だけど久しく買い物にも行けてねえし」
「近くに新しい百貨店がオープンしたそうだ。なかなかの評判だが、行ってみるか」
二本目の煙草を咥えながらそう言うと、シンタローは可笑しそうに笑い出した。
「どうした?」
「だって、おまえ何処でもいいみたいな返事するから」
「・・・何処でもいいぞ?」
何でそんなことが可笑しいのだろう。
シンタローはコーヒーカップをボードに置いて煙草を揉み消した。
「おまえ、絶対怒んねーよな。俺が何したいっつってもしたくないっつっても」
「?」
「俺を甘やかしすぎだとか思わねーの?」
「全然」
しなやかに流れる黒髪を撫でながら、コーヒー味の唇に軽いキスをする。

「まだまだ足りない。―――」


―――もっと我が儘を言って、俺を振り回して。  
            子供のように俺を困らせて―――


「やっぱおまえ、甘過ぎ」
喉の奥で笑って、シンタローが俺の首に手を回す。
「別にいいじゃないか。おまえは俺にとって、いいか俺にとってはだな」
「煩い、二度言うな」
むきになった俺の言葉を封じて、シンタローは白い歯を見せて笑った。
「よし、決めた」
「シンタロー?」
「今日は一日、おまえとベッドの中にいることにする!」

桜も海も、新しい洋服も要らない。
大好きなひとと、二人だけの夢を見よう。
「嫌か?」
「・・・まさか」
悪戯っぽく笑ったシンタローをコーヒーの香りごと抱きしめる。

休日の朝はまだ、始まったばかり。


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天然紳士なキンちゃんも可愛いですが、
シンタローさんに優しい大人紳士も好きです。

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