作・渡井
Rain cats and dogs
機嫌が良いときのシンタローは、ことが終わっても猫のようにじゃれついてくる。
キンタローの髪を軽く引っ張ってみたり、首筋を甘噛みしてくるのが愛しくて、キンタローも髪を指に巻き取ったり脇腹をくすぐったりする。
そうしているうちにどちらかが(あるいは両方が)その気になって、再び身体を重ねることも珍しくなかった。
しかし今日ばかりはお手上げだ。
「シンタロー、悪かった」
裸の背中に声をかけてみるものの、ぴくりとも動かない。
激しい雨が降る少し肌寒い夜、さっきまで身体を寄せてキンタローにもたれかかっていたのに、不用意な一言で機嫌を損ねてしまい、ずっとこの状態である。
後ろから抱きしめ、愛していると耳元でささやいても、シンタローは振り向いてくれない。
恋人の不機嫌を持て余してため息をつけば、もの言わない背中はいっそう強張った。
「シンタロー……」
自分でも情けない声だと思いながら呟くと、ようやく長い黒髪が揺れた。
キンタローがシンタローにはとことん甘いように、シンタローも結局はキンタローに対して非常に甘いのだ。
特に普段は紳士で冷静なキンタローが、飼い主に叱られた犬のような目をしているときは。
「…ったく」
まだ少し拗ねた唇で呟いて、身体ごと向き直ったシンタローを安堵の息と共に強く抱きしめた。
「言っとくけど、俺わりとモテるんだからな」
「知っている」
「あんまくだらねーこと言ってっと捨てちまうぞテメー」
睨んでくる気の強い目は、スタンドの淡い明るさを受けて黒曜石のように光っている。秘石眼なんかよりよっぽど綺麗だとキンタローは見つめた。
「それは困るな」
「だろ?」
「お前に捨てられたら、俺はきっと泣いてしまう」
しばらく黙っていたシンタローが、小さく笑って抱きしめ返してきた。泣くのかよ、と可笑しそうに言われる。
「じゃあ仕方ないから捨てないでおいてやる」
「そうしてもらえると嬉しい」
真面目に答えるな、とまた笑われた。
外は土砂降り。
激しく窓を叩く群れから、抜け出してきた猫と犬が一匹ずつ、互いを暖め合っている。
「分かったら二度と俺のこと、隠れファザコンなんてぬかすなよ」
「肝に銘じておこう」
雨はまだ止みそうにない。
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自分で書いてて甘…
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