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3







作・斯波

ああ もし恋なかりせば
この世は我らの心にとって
何であろうか?



思い過ごしも恋のうち 5



「あああ・・・眠い」
「俺にもたれていいぞ、シンタロー」
「シンタローはあんvわてにもたれかかっておくれやす」
同時に両脇から発せられた声に、ガンマ団総帥は本日何度目になるか分からない溜息をついた。


敵国との交渉の席に補佐官と№2を連れて行ったのは失敗だったとシンタローが思い知ったのは、交渉開始2分後のことだった。
実戦を任せているアラシヤマは事も在ろうにダークスーツ姿で現れ、敵国側の代表が座っている席に向かって悠然と脚を組んで、
―――この場で葬式出したってもええんどすえ。そう思て香典も用意してきたんどす。
わてがおったら全員火葬にすんのも容易いことやしね。
と言い放ち、短気な自分の宥め役として連れてきた筈のキンタローはキンタローで、
―――馬鹿な! 今のトレンドは普段着で行うお別れ会形式だしこの国は土葬がメインだ!
おまえなんかに任せられるか。俺が、いいかこの俺が最高の葬式を演出してやる!
憤然とそう対抗してシンタローを失神させかけた。
危うく決裂しかけた交渉を必死にとりまとめ、帰途に就いた頃にはもうシンタローはぐったり疲れていた。総帥専用車の後部シートは広く、大柄な男三人が座ってもまだ余裕がある。
ふかふかのシートと細かな振動が疲れた身体に心地良く響いて、二人の馬鹿な部下に挟まれて心底疲弊したシンタローはすぐにうとうとしかけた。
「あああ・・・眠い」
そして話は冒頭に戻るのだった。


「おまえなんかにシンタローを支えられる訳がない」
「はあ? あんさん、こないだわてに負けたんもう忘れたんどすか?」
「ふん、男がいつまでも前と同じ位置にいると思うなよ」
「格好つけなはんな、実質四歳のちみっ子が」
「ちみっ子言うな!」
「―――ちょっとおまえら静かにしてくんない」
「大体おまえはシンタローより背が低いだろう。自分より背の低い人間の肩にもたれるには」
といきなりキンタローに両肩を掴まれてシンタローの身体がぐらりと揺れる。
「ちょ、キンタロー」
「これだけ離れていないと角度的に無理だろう!」
「痛いって」
「角度をクリアしたところで頭だけ肩に置けばその後身体がつらい」
「今! 今つらいから!」
「そんなんじゃシンタローにもアッチョン○リケとか言われちゃうぞ、バーカ」
「言うかボケェ!!」
「それにシンタローは首の筋をすぐ寝違えるんだぞ」
「今関係無いしねソレ!」
「まあ可愛いったらないんだが。一日中小首をこう傾げて」
「小首ゆうのはもうちょっと小柄な人間に言う事やおまへんの?」
「わざと曲がらない方から声をかけてやるとすぐに忘れて振り向こうとしてじたばたするのがまた愛らしくて繰り返し何度もやったものだ」
「テメーあれはわざとだったのかよ!」
「だからシンタローに肩を貸すのは俺の方がベターなのだ」
「そんなん関係あらしまへん。こうやって」
今度はアラシヤマがシンタローをぐいと引き戻す。
「うわ」
「みっちゃーくすれば問題ナッスィング!」
確かにシンタローより低いとはいえアラシヤマも相当背の高い男であるから、首が痛いほどの身長差ではない。
「密着しなくて良し! てゆーかおまえら俺を寝かせてくれる気あんの!?」
「大体シンタローが疲れてしまったのはおまえの葬式発言のせいだぞ」
「何言うてますん、あんさんかてすでに弔辞用意してたやないの」
「会場に白い菊の花が飾ってあったのはおまえの仕業だろうが」
「和平案が黒枠で縁取られてたんはあんさんの差し金どすやろ」
「なっ・・・交渉開始からめちゃくちゃ雰囲気悪かったのはオメーらのせいかアァ!」
「どうせセレモニーホールかて押さえてあったんどすやろ」
「あのなあ、おまえら俺を差し置いて勝手に」
「心配するなシンタロー、おまえの分の喪服もちゃんとクリーニング済みのを持ってきてある」
「そんなとこまでお気遣いの紳士ッ!?」
「冠婚葬祭の有休は三日間だ。届けも出しておいた」
「ツッコミ知らずかよオイ!」
その間もシンタローの身体はキンタローとアラシヤマの間を行ったり来たりしている。
「手をどけろ、アラシヤマ!」
「あんさんこそ!」
「どっちの肩で眠るんだ、シンタロー!!」
詰め寄った瞬間、二人の顔面に青い光が炸裂した。

「前の席で一人で寝るわアァ!!」

「・・・良かったですね総帥、車体も耐眼魔砲構造にしておいて」
「全くだ。ちっ、すっかり眠気が覚めちまったぜ」
「真っ直ぐ本部に戻りますか」
「ああ、そうしてくれ」


―――キンタローの恋はまだまだ前途多難。


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作・斯波

俺たちはずっとこのままなのだろうか。
届くことのない想いを抱いたまま、凝視めているだけなのだろうか。
おまえの眼に俺が映る日は来るのだろうか。
こんな日々に、俺はもう耐えられそうにない―――。



思い過ごしも恋のうち 6



「やめてよキンちゃん、一人語りに入るのは」
お茶請けの煎餅をばりばりと噛み砕きながらグンマは冷たく言った。
「はっきり言ってウザイ」
「これは今の俺の正直な気持ちだ。俺の中に降り積もった感情が美しい結晶となって言葉の糸を紡ぎだし、そしてそれはいつか彩なす錦となってあいつの心に・・ぐはっ!」
この世に生まれ出でるばかりになっていたキンタローの傑作は、従兄弟の手によって容赦なく口に突っ込まれた煎餅によって無と化した。
「それ以上ポエム作らないでいいからねvvてゆーか作ったら殺すv」
「ひはしらな、ほれはひんたろーを」
「喋るか煎餅食べるかどっちかにしてよ、行儀悪い」
「(ごくり)しかしだな、俺はシンタローを愛しているんだ」
「ふーん」
「誰にも渡したくない。いいかグンマ、この誰にもという言葉は修辞的な意味であって、あの根暗で陰気な人間嫌いのストーカーにだけは奪られたくないという意味では」
「どっちでもいいよ。むしろどうでもいい」
しかし、とキンタローは溜息をついた。グンマが眉を上げる。
「何か問題でも?」
「問題か・・・」
問題ならある。
そう、実に大きな問題が。

「最近シンタローが、やけに俺に冷たい。―――」


心なしか涙ぐんで空を見上げているキンタローを横目にグンマは最後の煎餅をつまんだ。
「キンちゃんの気のせいじゃないの」
「違う。俺が総帥室に行くと露骨に迷惑そうな顔をするし、口の利き方も素っ気ない。こないだなんか、半径5メートル以内に近づいたら眼魔砲だと言われたんだぞ!」
―――それは・・自業自得じゃないのかな。
グンマはそう思う。キンタローが従兄弟で総帥のシンタローに恋心を抱いていることは、団内で知らぬ者はないくらい有名な事実だった。
そして、ガンマ団№2の刺客で炎使いである根暗な殺し屋を恋敵にしていることも。
その争いがシンタローの逆鱗に触れたのは一度や二度のことではなく、揉め事を避けるために最近のシンタローは二人からのアタックを殊更に無視するようになっていた。
―――頭良いのに、何でそれが分かんないんだろう。
それでもグンマはキンタローが好きだった。
四年前に突如現れたこの従兄弟は、苛酷すぎる運命と懸命に闘って今の地位を勝ち取った。
その後もシンタローを支え、ガンマ団の実務を一手に引き受けて頑張っている。
グンマに対してもこのうえなく優しいキンタローの恋の成就を願わない訳がない。
「大丈夫だよ、シンちゃんは照れてるだけだと思うよ」
「・・・でも嫌われてるかもしれない(めそ)」
「キンちゃんが嫌われるなんてんな訳ないじゃん! キンちゃんは頭も顔も良いし仕事だって出来るし、そりゃ性格はちょっとアレだけど」
「アレ?」
「や、だからシンちゃんて意地っ張りなところがあるからさ。人前では見栄張っちゃうんじゃないの?―――ほんとはキンちゃんに甘えたいんだと思うよ」
「そうか! 今流行りのゴマダレとかいうヤツだな!」
「えーとそれってツンデレのことかなキンちゃん」
「分かった、ありがとうグンマ!」
キンタローは大きな手でグンマの手をぎゅっと握った。
理知的な光を湛えた青い瞳は、目に見えて明るくなっていた。
「決心がついたよ。あいつに俺の気持ちをちゃんと伝えてくる」
「・・え?」 
「今から総帥室の中心で愛を叫んでくる!」
「ちょ、キンちゃん!」
あっという間に飛び出していったキンタローを見送って、グンマは溜息をついた。
「・・・知―らないっと」
―――とにかく無事に生還してね、キンちゃん。
柏手を打って従兄弟の幸運を祈るグンマだった。


「おい、シンタロー!」
総帥室の扉をバン、と勢いよく開く。
「俺は今日こそおまえに告げる!」
「え・・キンタロー・・?」
「キンタロー様! 今はまずいです!」
「キンタロー様、ちょっとお待ち下―――」
秘書官二人の慌てた顔など目もくれずに、呆然としているシンタローに向かって叫ぶ。


「俺はおまえのためなら死ねるぞー!!」


「―――・・・そらあええ心がけどすなあv」
「え・・?」
「ほな今すぐ死ねエェ!」

告白の高揚感に宙を飛んでいるような心持ちのキンタローを迎えたのは、渦を巻いて襲いかかる炎の極楽鳥だった。

骨まで灰にするほどの炎を、間一髪眼魔砲で相殺する。
「何故貴様がここに―――」
キンタローの言葉は途中で途切れた。見開いた瞳がみるみるうちに吊り上がってゆく。
アラシヤマはソファの足許に膝を突いている。
そしてそのソファに寝そべっているのは、上半身裸になったシンタローだった。


「おい・・アラシヤマ・・・」
「キンタロー補佐官! お話を」
「―――貴様、シンタローに何をしてるんだ」
「補佐官!」
「あーあ、せっかくええところやったのに」
アラシヤマが溜息を吐いて立ち上がる。
「邪魔どすえ、キンタロー。さっさと出ていきなはれ」
「おい、キンタロー落ち着」
「あ、あきまへんえシンタローはんvまだ起き上がられしまへんやろ?」
「何―――ッ!」
「腰に響きますさかい、もうちょっと寝てた方がええどすよ?」
「腰・・・腰だと!? 貴様シンタローの腰に何をしたァ!」
「ですからキンタロー様!」
「こいつの腰は、いいかシンタローの腰はそんじょそこらの腰とは違うんだぞ!」
「意味分かんねーし! だからなキン」
「シンタローは黙っててくれ!! 来いアラシヤマ、今日こそ決着をつけてやる!」
「ふん、望むところどす。後悔しなや、キンタロー」

キンタローの拳がぽうっと青い光を帯びる。
アラシヤマの右手もふわりと炎をまとって燃えあがった。

「・・平等院鳳凰堂」
「・・眼」
「てめえらまとめて逝きやがれ――ッ!!」

―――その場を収めたのは結局、今回もガンマ団総帥の必殺技だった。


「鍼治療!?」
30分後。
ティラミスとチョコレートロマンスが泣きながらせっせと後片付けをしている総帥室で、シンタローは椅子に腰を下ろして疲れたように眉間を揉んでいた。
「ああ。最近疲れがたまってて身体が重いから、アラシヤマに鍼を打って貰ってたんだよ」
そのアラシヤマは物言わぬオブジェとなって先程伊達衆のコージに引き取られていった。
「あいつの鍼はマーカー仕込みだから腕はいいんだ。けど治療の後は暫く怠くて起きあがれねえんだよ。あいつの言葉は、だからそういう意味だ」
「そうか・・・済まなかった・・」
事情を漸く飲み込んだキンタローは顔も上げられずにいた。
せっかくこの苦しい胸の内をシンタローに伝えようと勢い込んでやってきたのに、自分がしたのはまたもやシンタローに迷惑をかけることだけだった。
勘違いして、早とちりして、結果的に余計疲れさせて。
二人の秘書官が残骸物を持って部屋を出ていくのがキンタローの眼に映った。
(これじゃあ嫌われても仕方ないな・・・)
「邪魔をして悪かった。―――じゃあ、俺はこれで」
悄然と肩を落として立ち上がる。
そのまま力のない足取りで背を向けようとするキンタローを、シンタローが呼び止めた。
「待てよ、キンタロー」
のろのろと振り返ったキンタローは、ちょっと驚いて向き直った。
少しだけ眼を逸らしているシンタローの頬と耳は、林檎のように赤くなっていた。
「あれって、本気なのか」
「シンタロー・・・?」
「さっき、言ったこと。―――」

キンタローは暫く黙ってシンタローを凝視めていた。シンタローは困惑したように視線を逸らしていたが、やがて意を決したようにキンタローを真っ直ぐ見つめ返した。
漆黒の深い瞳と、青く澄んだ秘石眼がぶつかる。

「本気だ」
キンタローの声はかすれもせず、震えもしなかった。
「俺はおまえの為なら、いつだって死ねるよ」

シンタローの唇が、ふっとほころぶ。

長い睫毛を伏せたシンタローの顔に、キンタローの影が落ちる。
唇が重なりかけた寸前、シンタローの拳骨がキンタローの脳天に炸裂した。
「イダダダダダ!!」
「その覚悟があんならこれ以上俺を悩ませんな、馬鹿!」
「ちょ、シンタロー」
「はーいはいはいお話は終わり! 俺はお仕事があるからね~君もお仕事頑張ろうね~v」
頭を押さえてうずくまるキンタローを蹴り飛ばすようにしてドアを閉める。
半泣き顔の従兄弟を追い出すと、シンタローはほうっと溜息を吐いた。
(俺はおまえの為ならいつだって死ねるよ)


―――全く、あんな眼で見られたんじゃあ言えねェよな。
俺もおまえとおんなじ気持ちだなんてさ。


キンタローの愛情を受け入れられる日がいつ来るかなんて、自分でも分からないけれど。
それでも今はこのままでいいと思う。
(ま、思い過ごしも恋のうちって言うしな)

彼らの夏はまだ、始まったばかりだ。


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「夏はまだ、始まったばかり」なお話を夏の終わりに載せる、タイミングの悪いわたくし。
当サイトでは「ポエマーなキンちゃんと容赦ないグンマ」を推しております。
どっちも攻め希望なのでCPではないです。

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