作・斯波
顔見れば
何にも言えないあたしだけれど
逢わねば言いたいことばかり
兎のお眼々はどうして紅い
「―――ああ。分かった、大丈夫だ」
携帯から少し困ったような声が聞こえてくる。
「怒ってなんかいねえよ。いいから、またな」
電話を切ると、思わず小さな溜息が零れた。その時、
「あらら、大分煮詰まったはるわ」
頭上から降ってきた声に俺は舌打ちをして椅子に背をもたせかけた。
根暗で陰気な伊達衆筆頭の№2が書類を持って無表情に俺を見下ろしている。
「キンタローからやね。デートのキャンセルっちゅうとこか」
「おまえに関係ねェ」
「どーせわては嫌われもんどす」
「てめえで分かってりゃ世話はねえな」
「グンマはんが言うてましたえ、急な仕事が入ったらしいどすな」
グンマの奴、余計なことを。
「まあこの間せっかく特戦部隊が半年振りに帰還したのに誰かさんが仕事せえへんかったせいで休暇も取れず師匠にも逢われへんかったわてには関係ない話どすな」
何だ? ここぞとばかりに俺、嫌味を言われてるのか?
「―――キンタローの仕事、わてが代わったげてもええけど?」
意外極まりない言葉に俺はぱっと顔を上げた。
アラシヤマは面白くもなさそうな顔で俺を見ている。
「何や別に開発課の仕事でもないらしい。内容聞いたらわてで大丈夫そうやさかい」
「おまえ・・何企んでんだ・・・」
「何どすのそのネガティブシンキン。たまには人の親切を素直に感謝したらどないやのん」
「てめーの日頃の行いが悪いからだろ」
「へえへえ、ホンマ素直やないわ。そやけどシンタローはん」
「何だよ。やっぱ止めたとか言い出したら蹴り殺すぞ」
「そんなん言いまへん。その代わり、キンタローに逢うたらちゃんと甘えなはれや」
「なっ―――大きなお世話なんだよ! 何でそんなことてめえに」
「あんさん、だいぶ眼ェが赤いどすさかい」
「眼?」
「兎のお眼々はどうして紅い」
きょとんとした俺を尻目に、アラシヤマはにいっと笑って背を向けた。
「―――きっと寝不足逢い不足!」
眼魔砲が炸裂するより一瞬早く、嫌味ったらしい殺し屋は姿を消していた。
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このアラシヤマはマカアラ前提。
「誰かさんが仕事せえへんかった」話は、また別にあるのでそのうち上げたいと思います。
渡井の眼もいま紅いです。ドイツ時間で起きてるせいで…。
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