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作・渡井




タイム・リミット~あと45分




顎に当てた蒸しタオルを取り、泡を伸ばしていく。慎重に剃刀を当てて丁寧に動かす。青の一族はもともと髭は薄い方だし、金色だからあまり目立たないだろうが、念には念を入れたい。
時計を見ると夕方の6時15分だった。


大きなタオルで髪の水気を切り、洗濯籠に放り込んだ。棚からドライヤーを取るとコードが絡まっていて、こんなときに限って、と苛々する。何とか元に戻しコンセントに繋いで、長い黒髪を乾かし始めた。
時計を見ると夕方の6時15分だった。


45分ではあまりゆっくりはしていられないな、と歯磨き粉を搾り出した。昼食の後に磨いたが、あれから時間も経っているしコーヒーも飲んだ。鏡に映しながら一本一本を丹念に磨き、さて何を着ようかと悩み始める。
ラフな服装は好みではないし、普段がスーツか白衣だからセンスに自信がない。似合っていると誉めてくれるスーツで行くのが間違いないだろう。


45分しかないのか、と思わず頭の中でチョコレートロマンスを罵った。同僚と共によくやってくれているのだが、何も今日に限ってミスを指摘することはないだろう。おかげで仕事が終わったのは予定よりずいぶん遅れてだった。
買ったばかりのシャツをベッドに並べて腕を組む。普段が赤い制服だから別の色が新鮮だろう。シャツにジャケットを合わせ、下はジーンズで着崩すことにする。


ネクタイをきゅっと締めて、再び洗面台にとって返した。ワックスで髪を整え、抜かりがないかチェックする。亡父が使っていたという時計を腕にはめ、苦笑した。
(俺は何を焦っているのだろう)


父親に勧められたスプレーで髪を潤した。香りと手触りが良いという触れ込みを今日だけ信じてみる。かつてなく真剣に梳かしている自分に気づいて、舌打ちした。
(俺はガキかっつうの)


フレグランスを片手に首を捻った。今まで使ったことがないが、こういうものもつけるべきだろうか。
もう一度時計を見ると時間が迫っている。意を決して首筋に馴染ませた。


鏡の前に立って首を捻った。シャツのボタンをもう一つ外すと、肌を見せすぎだろうか。
もう一度時計を見ると時間が迫っている。どうにでもなれ、と外した。


7時。
2つの扉が同時に開いた。


7時5分。
グンマは研究員に貰った菓子を抱え、上機嫌で部屋へ続く廊下を歩いていた。角を曲がったところで人影を見つけ、片手で菓子を持って手を振る。
「ああ、グンマ、いま帰りか?」
「じゃあ悪いけど後は頼んだぜ」
「うん、気をつけてね」
声をかけられて大きく頷いた。
「いってらっしゃい、シンちゃん、キンちゃん」
すれ違いざまに手を振って、しばらくしてから振り向いた。
「初デートだねっ!」


キンタローの歩調が乱れ、シンタローが振り向いてグンマ、と怒鳴る。それを笑顔でやり過ごして、グンマはいっそう機嫌よく部屋へと戻った。
(ご飯食べに行くくらいで、2人ともガチガチに緊張しちゃってさぁ)
もし朝まで戻らなかったら、父である前総帥に何と告げ口してやろうかと考えて、グンマは声を立てずに笑った。


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作・渡井


タイム・リミット~あと5分




「昼前には士官学校の入学式だ。総帥挨拶の予定がある」
キンタローの声を聞きながら、俺はうつむいて今日の予定表を見ていた。
昨日、キンタローと初めて寝た。お互い起きたのがギリギリで、ろくに会話もせず仕事が始まってしまったのだが、俺は羞恥に顔なんて上げられない。
何でこいつはこんなに冷静な顔をしていられるんだろうと思う。


「面倒くせえな。ティラミスに原稿書かせよう」
シンタローが椅子に座り、目を伏せて予定表に視線を注いでいる。
昨日、シンタローと初めて寝た。お互い起きたのがギリギリで、ろくに会話もせず仕事が始まってしまったのだが、俺は不安でため息をこぼしてしまいそうだ。
何でこいつは目を合わせてくれないのだろうと思う。


「それが終わったら新しい総帥艦のお披露目がある。滑走路のこっちから3番目だ」
ふいに視界にキンタローの指が現れて、紙を押さえた。
その指が昨日、どんなふうに俺の体を滑っていったか思い出してしまって、俺は思わず両目を右手で覆ってしまった。


「どん太が早く見せてえって張り切ってた奴だな。いい仕上がりらしいな」
疲れているのかシンタローの手が動き、眼を押さえた。
そうすると見えている口元が際立って、嫌でも記憶がフラッシュバックする。吐息交じりの泣き声で俺の名を呼んだ唇から視線が外せない。


「午後はデスクワークに励んでもらう。チョコレートロマンスが書類に埋もれていたぞ」
少し揶揄するような声色になって、もう勘弁してくれとうっとおしい黒髪を払った。あの声で、俺の耳元でささやき続けたんだ。
どんなに俺を愛しているか。どんなに俺に溺れているか。どんなに俺のすべてを欲しいと願うか。


「あいつなら埋めといても3日は死なねえよ。そのうち掘り起こしてやる」
言い放って長い黒髪を払う。なめらかな髪を乱して体をよじる光景が浮かび、今すぐに抱きしめて叫びたくなって困った。
どんなにお前を愛しているか。どんなにお前に溺れているか。どんなにお前のすべてを欲しいと願うか。


「今日は定時以降は仕事はない」
キンタローが眉一つ動かさずに言う。何だってこいつは、いつもと変わらない顔で立ってやがるんだ。
(俺ばっか意識してるみてーじゃねえかよ)


「じゃあコタローの顔でも見に行くかな」
シンタローがふっと優しい顔になる。何だってこいつは、いつも弟のことばかり口に出すのだろう。
(俺はコタローに嫉妬しているのだろうか)


「もうすぐティラミスとチョコレートロマンスが来るだろう。原稿を頼むなら言っておけ」
「はーいはいはい」
「返事は一度でいいぞ、シンタロー」
「お前が言うな!」


(でももしかしたら)


自然に二人の目が合った。シンタローが上半身を起こし、キンタローがゆっくりと身を屈める。
どちらからともなく短いキスを交わす。


(こいつも焦ったりしてんのかな?)
(こいつも昨日のことを考えているのか?)


「……ティラミスたちが来る時間じゃないのか」
そんなことを言いながらキンタローの腕は嘘をつけなくて、
「もう少し大丈夫だろ」
特ににやりと笑うシンタローの目の前では正直だ。


いつもより早めにやってきた秘書たちが、昨夜の名残を惜しむ新総帥とその従兄弟の姿に、音がしないよう扉を閉め直して、廊下で盛大に自分たちの運命を呪うまで、あと5分。


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作・渡井


タイム・リミット~あと3秒




春になったばかりだというのに、気温は日々、景気よく上がっている。
余裕を取りすぎた時間を持て余し、手近の図書館に寄った。
大きな図書館はひんやりとしていた。

ふと気づくとシンタローがいない。
まあ次の予定先に行くにはまだ時間がある。あまり気にせず科学論文に目を戻した。

ふと気づくとキンタローがいない。
まあ次の予定先に行くにはまだ時間がある。あまり気にせず料理本に目を戻した。

最初は新聞を見ていたのだが、途中で経済学の入門書らしき本が気になった。
(ガンマ団は明らかに経費が嵩み過ぎなんだがな)
いろいろと手に取って移動して、最終的に科学論文に行き着いた。
科学者であることを諦めた訳ではない。今は補佐官の仕事を優先しているが。
ある論文が気になって熟読してしまう。
うちの総帥閣下の役に立ちそうだ。報告しておくべきだろう。

最初は新聞を見ていたのだが、途中で世界的に有名になったベストセラーが気になった。
(会談の前に、世間話のネタくらいは仕入れとかねェとな)
いろいろと手に取って移動して、最終的に料理本に行き着いた。
誰かに料理を作ってやるのは好きだ。今は総帥の仕事に追われているが。
ある料理が気になって熟読してしまう。
うちの補佐官どのが好きそうな味だ。今度作ってみようかな。

俺は俺に出来ることをしたい。
そうすることでシンタローが笑ってくれれば嬉しいと思う。
彼の笑顔が太陽のように輝くのが好きだった。

俺は俺に出来ることをしたい。
そうすることで見守ってくれているキンタローに応えたいと思う。
彼の青空のような眼に見られるのが好きだった。

シンタローの笑顔は外にある太陽よりも、もっと強く、もっと眩しく俺の心を照らす。
時に雨の代わりに涙を降らせるけれど、
(それでも太陽はまた青空に昇る)

キンタローの眼は外にある青空よりも、もっと青く、もっと澄んで俺の心を包む。
時に気難しそうに心配そうに曇るけれど、
(それでも青空はまた太陽を迎える)

読み終えた論文を元に戻し、室内を見渡す。
目の前の棚は背が高く、シンタローを見つけることは出来なかった。
―――はぐれてんじゃねェよ。
シンタローに見つかったら、まるで迷ってしまった小さな子どもを諌めるように笑うだろう。
それは悔しい。
(必ず、俺が先に見つけてみせる)

読み終えた本を元に戻し、室内を見渡す。
目の前の棚は背が高く、キンタローを見つけることは出来なかった。
―――ああ、ここにいたのか。
キンタローに見つかったら、憎らしいくらい余裕のある声で穏やかな眼をするだろう。
それは悔しい。
(ぜってー、俺が先に見つけてやる)

右手を見ると、女性向きの恋愛小説の棚がある。
(これはシンタローは興味ないだろうな)
とりあえず、ここを回って探しに行こう。

左手を見ると、女性向きの恋愛小説の棚がある。
(これはキンタローには理解できねーな)
とりあえず、ここを回って探しに行こう。

恋人を探して一歩を踏み出す。

先に見つけたら何と言ってやろうと悩む暇もなく。
青空と太陽が出会うまで、あと3秒。


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図書館はこんな雑多な本の置き方はしていないでしょうけれども。
大きな図書館が近所に欲しいです。

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