作・斯波
午後の紅茶
今日のお客様はおとーさま。
ダージリンをストレートで淹れて、それだけ。
おとーさまは紅茶の香りを楽しむのが大好きなんだ。話題といえばシンちゃんのことばかりで、だけど僕はその話を聞くのが楽しくて仕方がない。
伯父様だと思って見ているのと、僕の父親だと思って見ているのとでは全然違う人だった。
僕が今この秘石眼を使わずにいられるのはおとーさまのおかげ。
「ねえグンちゃん、次にシンちゃんにプレゼントするのは何がいいかな?」
「シンちゃんが一番欲しいものはね、―――」
言いかけてやめた。
「えっ、何なのグンちゃん! 教えてよお願いだから」
泣き出すおとーさまを見てるのは楽しい。
僕もたまには意地悪をするんだ。
今日のお客様は高松。
どんな紅茶を淹れても意味がない。
どうせすぐに鼻血を撒き散らして台無しにしちゃうんだから。
今日のお客様はシンちゃんとキンちゃん。
同い年のこの従兄弟二人と居るときが、僕は一番安らいでいる。
シンちゃんはウバ。
キンちゃんはアールグレイ。
もう何年来違う紅茶を淹れたことはない。二人とも好みがはっきりしていて浮気はしないんだ。
キンちゃんはシンちゃんにベタ惚れに惚れていてそれを隠そうとしているみたいだけど、はっきりいってそれが成功した試しはない。
シンちゃんが何か話しかけると、
「何だ」
と間髪入れずに返事するけど、大抵、いつもシンちゃんの顔に見惚れていて、それを自分でも気が付いていない。
シンちゃんの方もキンちゃんに物を言うときは微妙に声の質が変わる。
どことなく甘い声になる。
僕はそれに気づいているけど、別に不快じゃない。
ラブラブなんだなあ、と感無量なだけだ。
僕にもいつか、こんな恋人が出来たらいいな。
今日のお客様はアラシヤマ。
同い年なのだけれど、何だかアラシヤマの方が年上みたいに思える。
暗いとか変わり者とか言われてるけど、僕はアラシヤマが嫌いじゃない。
アラシヤマが来る日は僕は何もしないんだ。お茶にうるさいアラシヤマは自分で淹れるから。
それも紅茶は嫌いだからって自分で持ってきた中国茶を淹れてくれる。
お菓子もアラシヤマが持ってくるから僕はまるでお客様みたいに悠々としてるんだよ。
その日も一日、新しい拷問と暗殺方法の話で盛り上がった。
今日のお客様はベストフレンズ。
シンちゃんとキンちゃんとはまた違ってほのぼのしてる二人が僕は好きだ。
トットリはミヤギに依存しきっているように見えるけど実はそうじゃない。
ミヤギがどうして欲しいのか、自分にどうあって欲しいのかいつもちゃんと考えて動く。
淹れる紅茶は二人ともミルクたっぷりのセイロンで、お茶受けはいつもミヤギが持ってくる「萩の月」。美味しいんだけど、たまには違うものも食べたいよね。
今日のお客様はコージ。
紅茶の味が分からないというコージは宇治の緑茶が好みだ。
だけどお茶会の時くらいは日本刀は部屋に置いて来て欲しかったりする。
でもまだ一度も言い出せない僕です。
今日のお客様はハーレム叔父様と特戦部隊。
何を淹れても一緒なのは高松と同じで、だってすぐにブランデーをドクドク入れちゃうから。
挙げ句の果てにロッドとマーカーが喧嘩を始めてGが泣き出して、ハーレム叔父様はといえば競馬雑誌に悪態を吐いちゃ部下に眼魔砲をぶっ放してる。
見てる僕は十分楽しいんだけど、一体この人たち何しにお茶会にやってくるんだろう?
今日のお客様は眠り続ける僕の弟。
上手に淹れたオレンジ・ペコを枕元にそっと置く。
苺の乗ったショートケーキは僕がシンちゃんに教えて貰って作ったものだ。
あの島から帰ってきて一度も目を覚まさない弟に時々僕がこうやってお茶を持ってくることは、シンちゃんにもおとーさまにも言っていない。
両目に秘石眼を持つこの綺麗な弟は、僕たち青の一族の縺れ絡まった運命をその一身に背負って生まれてきたようなものだ。
眠りながらも少しずつ大きく育っている弟がその力を使う日など来ませんようにと僕は願う。
(もうこれ以上秘石なんかに振り回されるのはごめんだ)
「―――早く帰っておいでね、コタローちゃん」
運命と戦い続ける人々のために。
明日はどんな紅茶を淹れようか。
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グンマは可愛いグンマも純粋なグンマも頭のいいグンマも好きです。
腹黒グンマだって大好きです。
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