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作・斯波


お邪魔します、でもなく。
わあ、素敵、でもなく。
「うーわ見るからに金かかってそー! やったねえリッちゃん、逆玉じゃ~んv!」
「何だこの無駄に広い部屋は。呪われろ」
それが、ロッドとマーカーの第一声だった。



必 需 品



俺は暫く呆然と立ち竦んでいた。
(これは幻デスカ? いや、幻であって欲しい!)
固まったままの俺を無視して、特戦部隊の元同僚達は勝手に部屋の中のチェックを始めている。
「台所は片づいているようだな」
「家事の腕上がったねえvリッちゃん」
「だがグラスが曇ったままだ。ちゃんと磨き粉を使っているのか?」
「あっ俺エスプレッソねv濃いめでお願い」
「私は茶でいい」
やっと呪縛が解ける。

「なっ・・・何でアンタ達がここにいるんだよ――ッ!!」


「おまえが欲しがっていたのはこの布だろう」
マーカーが差し出したのは手織りの藍染めの紬の布。
家具に合う炬燵布団のカバーを探していたところ、アラシヤマが持っていると聞いて譲ってくれるように頼んだ覚えは確かにある。
「―――だからって何でアンタ達が?」
この虐めっ子達を呼んだ覚えは無い。確実に無い。100%無い。
俺の教育係だったクールな中国人は平然として一番上等の茶をすすった。
「あれに急な用事が出来てな、頼まれたのだ。あの馬鹿弟子が、師をパシらせるとは」
「それに隊長から、リキッド坊やの生活振りを探ってこいって命令されてたしね~v」
廊下の向こうからイタリア人の陽気な声が聞こえてくる。
「あっこっちが寝室?」
俺はがばっと立ち上がった。
「いい雰囲気じゃん。へえ~、リッちゃんこのベッドで毎晩シンタロー総帥とヤッ」
「あっロッド、コーヒー! 濃いめのコーヒー入ったから!!」
無遠慮に寝室を覗きこむロッドの肩を力づくで引き戻す。
イタリア人を連れ戻してきてハッと気づくと今度はチャイニーズが居ない。
「坊や、浴室は毎日換気した方がいいぞ。シンタロー総帥の残り香を楽しみたいのは分かるが閉めきっているとすぐに黴が生えてしまう」
「ええっとマーカーさんッ、お茶のお代わりはいかがっすかー!?」
二人を何とかソファに腰を下ろさせた時にはもう俺はぐったり疲れ切っていた。
「しっかしホント広いねえ~」
ロッドが感心したようにリビングを見回した。
「そう? キンタローさんはこんな狭い部屋で暮らせるのかって心配してたけど」
「げっ、ヤダヤダ坊ちゃん育ちは」
「確実に弟子の部屋の三倍はあるな」
「あいつだって借りようと思えば広い部屋借りられるんだろ? 一応高給取りなんだから」
そう訊くとマーカーは溜息をついた。
「あれは空間恐怖症なのだ。広い部屋に一人でいると発狂しそうになるらしい」
「あーちゃんは昔っからそうだったよね~」
俺も何となくリビングを見回す。
―――やっぱ、広いよなあ・・。
シンタローさんにとってはきっとこれでも狭い方なんだろうと思う。
本部でどんな部屋に住んでたのか知らないけど、たぶんスゲー広くて豪華なんだ。
だって一緒に暮らし始める前に初めて俺のワンルームマンションに来た時、玄関から俺の部屋から風呂からトイレまで全部覗いた挙げ句にあの人は、
―――で? 部屋は何処にあるんだ?
って真顔で訊いたもんなあ。
「けど家具のセンスはいいねえ。リッちゃんが選んだの?」
「それは、シンタローさんが」
「食器も良いものを使っているな」
「それも、シンタローさんが」
「電化製品も全部最新式のヤツじゃん」
「それも・・・シンタローさんが」
ぼそりと呟く俺に、ロッドが呆れたように肩をすくめる。
「んだよ、全部シンタロー様のお見立てかよ。おまえのモノっていっこもねーの?」


―――これは、結構こたえた。


うつむいてしまった俺を黙って眺めていた二人は、不意に立ち上がった。
「それではそろそろ失礼する」
「・・・ああ。サンキュ」
「早く帰んなきゃ。実はサボリだしね、俺らv」
(仕事中やったんかい!)
一応玄関まで見送ることにする。
編み上げの靴を履くのにちょっと手間取っているロッドを待っていた中国人が突然振り向いた。
「ああ、忘れるところだった」
「は?」
「Gからの預かりものだ」
懐から取り出したのは、俺のヒーローであるネズミーさんの縫いぐるみだった。
「おまえへのプレゼントだそうだ」
「Gが・・・」
「総帥に文句を言われない場所に飾っておけとのことだ」
「うん。―――Gに、ありがと、って」
「それから」
俺は眼を上げた。
「今度、うちの馬鹿弟子に香をことづけておいてやる」
「えっ?」
「夜、寝室に焚くとなかなか良いものだ」
マーカーはいつもどおりの無表情で何を考えているのかさっぱり読めなかったけど、薄墨色の眼はいつもより少しだけ暖かいような気がした。
「あ・・・あんがと」
ロッドも首をねじって俺を見上げながら笑う。
「俺はAV届けてやるよ。すんごいテクが学べるぜェ、今度シンタロー総帥に試してみな♪」
「試せるかアァ!!」
「他に、要り用なものはあるか?」
瞬きもせずに俺を見下ろしている先輩の目を真っ直ぐ見つめて、俺は笑って首を振った。
「大丈夫」
(そうだ、俺に必要なものはただ一つ)
「一番要るものはもう、ちゃんと持ってるから。―――」


マーカーが初めてふっと微笑った。
ロッドがやっと靴を履いて立ち上がる。
「じゃあね、リッちゃん」
「うん」
「ナマハゲには見たままを報告しとくわ。リッちゃんはシンタロー総帥と二人で、物凄く幸せに暮らしてます、ってねv!!」
頭をぽんぽんと叩いてくれた大きな手は、昔と変わらず乱暴で、昔と変わらず暖かかった。


一人になったリビングで、鼻歌を歌いながら夕食の支度を始める。
(ここには俺のものは何にもないけど)
だけどそれが何だって言うんだろう。
一番必要なもの、一番大事なものはちゃんと持ってる。

あと数時間したらここへ帰ってくる。
俺の作った飯を食って、俺の隣でテレビを見て、俺の胸で毎晩眠る。

(どこの宮殿だって六畳一間のアパートだって同じこと)

何処でだって生きていけるんだ。
俺の人生の必需品は、あの可愛い人だけだから。


それから三日後、特戦部隊から宅配便が届いた。
中身は中国四千年の秘法で作られたという媚薬と、イタリアンポルノのビデオの山。
シンタローさんに眼魔砲を食らった挙げ句一週間お預けを食わされる羽目になった俺は、もう二度とあの虐めっ子達を家には上げまいと決心したのだった―――。


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わらわらと人が増えている「ルルル」です。
文句を言われない場所なんてあるんでしょうか。


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