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作・斯波



俺はシンタローさんの仕事については何も知らない。
知ろうともしないし、知る必要もない。
シンタローさんがそう思っている事を、俺は知っている。



STAND BY ME



玄関が開いたのはいつもよりちょっと早い時間だった。
お帰りなさい、と言う間もなく温かい身体がすとんと俺の背中にぶちあたってくる。
「・・・ガスの火止めろ、ヤンキー」
「えっ?」
「したいんだ。今すぐ」

―――ああ、そういうことか。

作りかけの夕食もそのままで、俺たちは寝室に転がり込んだ。
その日のシンタローさんはいつもとまるで違っていた。
狂ったように俺を求めて、何度も何度も俺の名を呼んで。
それはまるで何かを忘れるための儀式みたいだった。
だけど俺は何も言わずにシンタローさんを抱いた。

今この人が求めているのはただ、何も訊かずに抱きしめてくれる存在だったから。


俺は暗闇の中で眼を開いて、天井を眺めていた。
リビングで物音がするのは、シンタローさんが一人で酒を飲んでいるのだ。
(今日は何があったんだろう)
シンタローさんがこんなふうになるのは今日が初めてのことじゃない。
今は家政夫だが少し前まで俺はガンマ団特戦部隊の一員だった。その記憶がまだ失せてはいないように、俺とガンマ団との繋がりだってまだ完全に無くなった訳じゃない。
きっとシンタローさんが思っている以上に、俺はシンタローさんの仕事について知っている。
今抱えている任務。
遠征の行き先と規模。
そして、それがどんな結果に終わったかということも。
いくら方向転換をしたところでガンマ団はただの仲良し倶楽部じゃない。
戦闘になる事もあるし、そうなれば死者がゼロでは済まない時もある。
だけどシンタローさんが仕事について俺に何か言ったことは一度もなかった。
自分の組織について誇りもしないかわり、泣き言も言わない。
その悲しみも苦しみも、胸の裡ひとつにおさめて黙っている。
(だけど心の中では嵐が吹き荒れてるから)

それを鎮めるために、シンタローさんは俺を求めるんだ。

扉が開いた。
シンタローさんが俺の隣に滑り込む。俺はわざと眠そうな声を出した。
「んー・・・今何時っすか」
「あ、悪い、起こしちまったか。今十二時を過ぎたところ」
「晩飯、食いはぐっちまいましたね」
「そういや今日何だったの?」
「や、トンカツだったんで明日に回します。節約しねーと」
「そーか。今からじゃちょっとな・・・」
「俺はトンカツよりシンタローさんをもっかい食いたいっすv」
「調子に乗んな、バカ!」
拳骨が落ちてくる。俺は大袈裟に痛がりながら内心ほっとしていた。

―――・・・やっと、笑ってくれた。

シンタローさんはきっと、今日何かとても悲しいことがあったんだろう。
そしてそれは自分の中でどうにか決着をつけなければならないことだったんだろう。
気にならないといえば嘘になるけど、シンタローさんが言い出さない限り俺は黙っている。
だって俺は、マジック様でもキンタローさんでも、グンマさんでもアラシヤマでもないから。
(それでも俺のところへ帰ってきてくれた)

寝返りを打った俺の背中をぎゅうっと抱きしめられて心臓が止まりそうになる。
「なあ、リキッド」
「はい?」
「おまえがここにいてくれて、良かった」

(それはどういう意味なのか)

「えっ、それってもっかいしてもい」
「あーん? 殺されてーのオメー」
「ううん・・(涙)」

振り向いちゃいけない。
何も訊いちゃいけない。

だって今、この人はきっと泣いている。

「シンタローさん」
「・・・ん?」
「俺は、いなくなったりしませんから。―――」

(あなたが俺を必要としなくなるまで、ずっとあなたの側にいる)


だから、あなたはいつも笑っていて欲しい。



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前回のシンタローさんの惚気(でしかないだろう、あれは)に対する、
リッちゃんの惚気(でしかないだろう、これは)。


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