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作・渡井




  Lovesize Theater


さっきから横でリキッドがティッシュを握り締めている。
時には大粒の涙までこぼしながら、ぼろぼろ泣いている。
はっきり言って、うっとおしいことこのうえない。

多忙を極めるシンタローを心配して、従兄弟でもある補佐官が2日間の休みをくれた。
特に出かける必要もないし、キンタローのお気遣いを無にするのも悪い。ここは思い切りだらけた休日を満喫してやろうとシンタローは決めた。
夕食後、リキッドがソファーをTVの前に動かしていたから理由を訊ねたら、映画を借りてきたという答えが返ってきた。

―――今夜はのんびり出来るんだし、映画鑑賞しましょう!

気になっていたロードショーが行く暇のないまま終わってしまい、シンタローが残念そうな顔をしていたのを覚えていたのだろう。
珍しく気の利く家政夫の明るい笑顔にほだされて、ソファーに座り込んだのが間違いだった。
シンタローが好きなのはド派手なアクションものや緻密に計算されたサスペンス映画であって断じて、―――いま目の前で流れているような純愛ストーリーではないのだ!

「か、かわいそう…」
不治の病にかかったヒロインが切々と想いを告げている。
鼻をぐずぐず言わせる乙女なヤンキーからなるべく遠く離れて、シンタローは痛み始めた頭を押さえた。
なぜこんなありがちなラブロマンスに感情移入できるのか、理解に苦しむ。
(しかも泣くか、フツー)

特戦部隊に在籍していたこともある、20歳を過ぎた立派な成人男子が。
「ああっそいつを信じちゃ駄目!」
今にもバレそうな嘘をつく頭の悪いライバルと、それにころりと騙されるような間抜けな恋人同士の話に。
「早く電話に出ろよー!」
声に出して応援するほどのめりこむというのは、いかがなものだろうか。
ソファーの端に座り直して、シンタローは欠伸をこらえた。

背が低く落ち着いた深い真紅のソファーは、周りのアジアン家具ともしっくり馴染んでいる。
たまたま立ち寄った店で一目ぼれして買ったのだが、シンタローもリキッドも大柄なので並んで座るには少し狭い。
特にこういう、出来るだけ距離を置きたいときは。

「うっ、うっ…」
泣き声につられて画面を見ると、ようやく誤解に気づいた男が女の臨終に間に合ったところだった。さっきまで呼吸もまともに出来なかったはずの女が、長々と愛の言葉を囁いている。

「ずっと入院してるのに何で完璧に化粧してんだよ」
「なに言ってんすか、お、俺だってシンタローさんに何かあったら…っ」
「勝手に殺すな」

もしかしてこのヒロインに自分を重ねて観ているのだろうか。部屋の中は暖かいが、シンタローの心中は永久凍土と化している。
あと10分でも続いたら俺は1人で寝るぞ、と決意をしたときようやくエンドロールが流れ始めた。
「面白かったっすね」
俺は面白くねえ。
「泣けましたよねー」
だから俺は泣いてねえ。
嬉々としてDVDを取り替えているリキッドに、嫌な予感がした。
「おい、まだ観るのか?」
「だってまだこんな時間ですよ。もう1本行けますよ」
「まさかそれもさっきみたいな…」
「や、全然違います。いろんなジャンルの方が楽しめるかなって」
その言葉に安心して立ち上がらなかったのが、今夜2度目の間違いだった。

不気味な音楽。
突然、窓に張り付く手のひら。
シャワーを浴びかけたまま恐怖に凍るヒロイン。鏡に映る影。

「あの、シンタローさん」
「なんだよっ!」
リキッドの視線を避けて、ことさら画面を見つめてしまう。
やべえ、見たくねえ。
「あの…怖いんすか?」
「んな訳ねーだろ!」
こんなの、ただの作りもんじゃねえか。
泣く子も黙るガンマ団総帥がホラー映画が怖いなんて、ありえない。
さっきまで端に座っていたのが、肩が触れ合うほど傍にいるのは偶然だ。ついでにリキッドの服の裾をしっかり掴んでいるのもたまたまである。
画面の中の浴槽では、長い黒髪から落ちる滴が波紋を広げている。
―――先に風呂に入っておけば良かった。
「ねえシンタローさん、俺思ったんすけど」
「ああ!?」
思わず声が裏返ったのは、急に声をかけられて驚いたからだ。
いきなり青白い顔の女がアップで映ったからではない。絶対にない。
「こうやってくっついて座ってると」
きゅっと手を握りこまれて、安心するなんて思わない。
「このソファー、案外狭くないですね」


とりあえず殴りつけた後で、シンタローはどうやって年下の恋人を丸め込んで一緒に風呂に入らせるか、真剣に悩み始めた。


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毎度のことながら、捏造し倒しております。
そうだったら可愛いなあ、と。

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