作・斯波
好きな季節は夏
君の笑顔が眩しいから
好きな季節は冬
君の温もりが嬉しいから
HOT HOT WINTER
「なあ、そろそろいいだろ」
真紅のラブソファの上で膝を抱えながらテレビを見ているシンタローの言葉に、隣に座ったリキッドが生返事をする。
「そーですねえ・・・」
「だって寒いじゃん。世間様じゃもう立派に冬だぜ」
確かに天気の良い昼間などはまだぽかぽかしているものの夜は冷え込む。
案外寒がりなシンタローが愚痴るのも無理はない。
「なあリキッド、おまえ明日買ってこいよ」
「明日!? アンタ何でそんなせっかちなんすか!」
「俺ァもう一週間前からずっと言ってんじゃねェか! てめーこそ何グズグズしてんだよ!」
「部屋のインテリア崩すなって日頃から煩く言ってんのはシンタローさんでしょ!」
「うるせェ! 冬っていや炬燵だろ、炬燵で蜜柑って決まってんだろ!」
そう、二人が話しているのは冬の必須アイテム―――炬燵のことなのである。
残暑厳しい季節に二人で越してきたこの部屋にも、もう冬が訪れていた。
シンタローの希望により、インテリアはアジアン家具で統一してある。
だがお互いごちゃごちゃしているのが嫌いなので、リビングには必要最低限の家具しか無い。
フローリングの下は床暖房にはなっているが、いつでも床に寝そべっている訳にはいかない。
続きになっているダイニングを入れれば広さは30畳もあるから、テレビの前に炬燵を設置することには何の問題もない筈だ。寧ろ炬燵布団の柄さえちゃんと選べば、この上なく居心地のいいリビングになるに違いない―――というのがシンタローの主張だった。
これに対し、家政夫たるリキッドの反応は否定的だった。
炬燵なんか出したらそこから出られなくなるし、部屋が片づかない。それに疲れている日などシンタローは寝室へ行くのすら面倒がってそこで寝てしまうに決まっているのだから、健康にも悪い。大体今頃から炬燵なんか出して、真冬になった時にはどうするのか。
斯くして二人の意見は一致を見ないまま、一週間が過ぎているのだった。
「うーっ、さむっ」
お気遣いの紳士によっていつでも温度調節が完璧になされている本部ビルで働くシンタローの身体はリキッドより寒暖の差を敏感に感じるのだろう。ぶるっと身震いして膝を抱える。
「このマンション、建て付けが悪いのかな。いつもどっかから隙間風入ってくる気がする」
「気のせいですって。でも夏は涼しくて快適だったでしょ、この部屋」
「まあな。風通しがいいから仕方ねーか・・」
「住居ってのは夏に涼しい方がいいって言いますよ」
「けど何かさあ、こう・・足先が冷えんのがつらいんだよなー・・」
「ナニ年寄りみてえなこと言ってんすか」
「うっせ、てめーだって後数年したら分かんだよ!」
ごん、と殴られ眼から火花が飛び散った。
容赦ない拳骨を食らった頭をさするリキッドの唇にかすかな笑みが浮かぶ。
寒がりの恋人は、いつの間にか無意識のうちにリキッドにぴったり身体を寄せて座っていた。
「もぉ、仕方ないっすねえ・・・んじゃ明日、デパート行ってきますから」
「マジで? ちゃんとした奴選んでこいよ」
「分かってますよ」
「あ~楽しみ~! やっぱ冬は炬燵だよな~」
嬉しそうにはしゃぐシンタローの横顔を眺めて苦笑した。
もしも知ったら激怒するだろうなあ。
寒がりなアンタが俺にくっついてくれるように、わざと細めにキッチンの窓を開けてること。
だって炬燵なんか出したら、シンタローさんこうやって俺に凭れてくれないでしょ。
「・・・ま、炬燵ってのもある意味萌えか」
「は?」
「何でもないっす。でもホントに俺が選んでいいんすか? 柄とか、注文ありますか」
「いや、ネズミ柄じゃなけりゃ別に―――あ、いっこだけ」
「はい?」
「長方形の炬燵がいい」
とん、と肩を揺らしてリキッドにぶつけてくるシンタローの眼は悪戯っぽく輝いている。
「テレビ見る時、おまえの隣に、くっついて座れるようなヤツ。―――」
リキッドはぽかんと口を開けた。その顔がみるみる赤くなる。
シンタローがくすっと笑った。
「心配しなくたって、炬燵出した後もちゃんと湯たんぽ代わりに使ってやるよ」
「え、もしかしてあの」
「おまえは体温高いからな、この季節になると気持ちイイ。夏は側にも寄って欲しくねえけど」
「あっひどい」
「だから、さっさとキッチンの窓閉めてこい」
明日はさっそくデパートの家具売り場へ行こうとリキッドは思った。
そして大きすぎず小さすぎない、二人で並んで座れるようなサイズの炬燵を買おう。
だけどアンタを暖めるのは炬燵じゃなくて、俺の役目なんです。
それくらいは主張してもいいでしょ?
ね、シンタローさん。
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あたたかいというよりあついですふたりとも。
というのが甘々ぶりに漢字も忘れてちみっ子と化した私の感想です。
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