作・渡井
On Your Mark
疲れ果てて、ソファーに2人してどさりと座った。
「あー…もうこれ以上はねえよな…?」
「あると困るな…」
開いた窓から風が吹き込んできて、揃って目を閉じた。
居丈高に力を誇示してくる愚かな奴らならば、そのまま力を返してやれば黙りこむ。それ程の力を、シンタローもキンタローも持っている。
本当に用心しなくてはならないのは、握手する手の中にナイフを隠し持つ連中だ。表面的にはどこまでもにこやかで平和で協力的で、けれど常に隙をうかがっている。一瞬の油断も許されない。
新しいガンマ団が軌道に乗り出してからは、外交も交渉もそんな連中ばかりだ。
それはこちらを対等の話し相手と認めてくれたことの証でもあるから、文句は言っていられないのだが、半日も粘られると閉口する。
腹の内を探り合い、はったりと妥協を積み重ねてようやく交渉がまとまる頃には、戦闘よりも疲れ果ててしまっていた。
ソファーの中で、2人の肩が触れ合う。
互いに何も言わずにいる。
動かしかけた手を、キンタローは結局また元に戻した。
隣にある体を抱き寄せるのは簡単だ。おそらくシンタローも拒まないだろうと、キンタローには分かっている。
けれどもったいない気もするのだ。
従兄弟とも兄弟とも恋人ともつかない、この「相棒」という立場。
この上なくじれったく、この上なく心地良い。
それは多分シンタローも同じことで、だから2人とも肩を寄せ合ったまま動かない。
抱き寄せれば、唇を合わせ体を重ねずにはいられない。
想いのありったけを口にせずにはいられない。
きっと幸せで大切なことなのだろうが、今はまだ。
何も言わなくても分かり合える、この関係を崩すのは少し惜しい。
こうやって2人でいるときだけは、重い沈黙も気にならない。
シンタローは(有り得ないくらい)自分の意見を通さずにいて、キンタローは(有り得ないくらい)納得いくまで問わないでいる。
いつまでもこうしていたいと、そう思っている訳ではない。
望んでいるものは互いに分かりきっている。
(恋と呼べるほどの想いは、既に心の中に育っているけれど)
ただ猶予を乞うように、
もう少しだけ、この温もりを味わってから。
もう少しだけ、2人で心を寄り添わせてから。
―――走り出すのはそれからでも遅くない。
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どうもこの「出来上がる一瞬前」というのが
私の萌えポイントらしいです。
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