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作・斯波



僕には帰るところがある
それでも時には寂しくて
涙が出そうになるんだ



青空の向こうまで



上を見ると負けたくなくて、口惜しいのを我慢して笑わなきゃと思う。
自分の無力さに歯軋りして見上げた空は、その青ささえもが何だか無性に腹立たしかった。


俺はフェンスに凭れたまま、青い空にぽかりぽかりと浮かんだ雲を眺めている。
むしゃくしゃした気持ちは容易には治まりそうになかった。
―――親の七光りで総帥になったひよっ子。
俺の耳にはまだ、澱のようにこびりついた言葉が残っている。

それは些細なことだった。
敵国と停戦して交渉の席に着いたのはつい先刻のこと。
いつもなら停戦交渉には補佐官である従兄弟も同席するのだが、同時刻に賓客が来るとあって
その場には居なかった。まあ第三者の立ち合いもあるし、ほぼ話は決まっていたからその日の奴の不在は別に俺にとってはマイナスでも何でもなかった。
仲介に入ったのは友好国だが、まだ戦うと気炎を上げる敵国を宥めるのに苦労していた。
その友好国とて親父の代には一戦交えたこともある元敵国だ。ガンマ団の方針が変わったことを納得させるのに俺がどれだけ骨を折ったことか。
そんなことを思いながらも交渉はガンマ団に有利に進んだ。どれだけ意地を張ろうともう相手側に戦闘を続ける余力は無いのだから当然だ。
相手国の代表は仲介国への義理もあって一応は俺に対して慇懃無礼な態度を装っていた。
だが交渉が終わって皆が席を立った時、背を向けた俺の耳に届いた言葉があった。
―――親の七光りで総帥になったひよっ子のくせに。
聞こえよがしに吐き捨てられた言葉にきっと一瞬形相が変わったのだろう。振り向いた俺と視線が合ったその代表は可哀想なくらい怯えた顔色になった。
俺は拳を握りしめたまま、その男を睨みつけていた。血が、煮えたぎっていた。
総帥になって四年、必死でガンマ団総帥としての実績を積み重ねてきたのに、いつまで俺は世界最強の覇王だった親父の影扱いされるんだろう。
こんな相手にまで陰口を叩かれねばならないほど、俺は侮られているのか。
「シンタロー総帥・・・!」
震えた声で仲介国の外交官が名前を呼ばなければ、俺はそいつを撃っていたかもしれない。
その声の必死さが、眼魔砲を撃ちかけていた俺の理性を呼び覚ました。
(こんなところでキレてどうすんだ、シンタロー)
「―――では後の事は事務方レベルで詰めて頂きます。本日はご足労でした」
「・・し・・承知致しました・・」
それ以上は口を利かず、俺は背を向けた。

風は無いのに、雲はゆっくりと流れてゆく。
咥えたままの煙草の先からも、紫の煙が静かにたなびいている。
こんな思いを、もう何度繰り返してきただろう。
敵国には憎まれ、味方である筈のベテランの幹部達からも実力を怪しまれて陰口を利かれる。
そんなの何て事はない。俺はここで生きる、というよりは他の生き方なんて出来ないから、このガンマ団を良くするためなら大抵の事は辛抱できる。
それに、伊達衆を筆頭にした若い幹部達は俺を信じてついてきてくれているのだ。
そう決めてはいても、思いがけない時に投げつけられる言葉に少しは心も揺れる。
俺は祖父や親父が歩んできた道を変えたくてその跡を継ぎ、そして今の地位を勝ち取った。
だけどその間にいろんなものを失くしてきたんじゃないのか。
自分がやりたいことと、自分には出来ないこととが、思い通りにいかなくなっている。

―――僕は誰よりも強くなるんだ!

胸を張って言えたガキの頃にもう一度戻りたいと、俺は心から思った。


だから強く、もっと強く。
俺はもっと強くならなければ。
俺が命を預かっている馬鹿共のために、何ものにも揺るがない強さが、俺には要る。

数分の間にも雲は動く。
音もなく、風もないのにゆっくりと形を変えて流れる。
行き先も知らないのに、何も怖れず、何にも逆らわず、雲は流れてゆくのだ。

(もっと真っ直ぐに生きなきゃ)

誰にも後ろ指をさされない男になるため、強く真っ直ぐに俺は生きたいと思う。
口惜しさに涙をこらえてるのは、きっと俺一人じゃない。


「―――こんなところに居たのか」
静かな声が響いて、俺はフェンスから身体を離して振り返った。
眩しそうに眼を細めながら、同い年の従兄弟が歩いてくる。
「交渉は無事に終わったようだな。こっちの客も今帰ったところだ」
「そうか、御苦労さん」
「何をしている。サボりか?」
「いい天気だからさ」
「ああ、本当だな。俺もちょっと息抜きしていくか」
「おまえがそんな事言うとせっかくの天気が崩れそうだな」
俺の言葉にくすっと笑ってキンタローは俺の隣に凭れた。
高い空の上では鳶が輪を描いている。いつもと変わらない秋の空だった。
キンタローは煙草に火をつけた。
「シンタロー」
「ああ?」
「何か、あったのか」
俺も新しい煙草を咥える。
「・・・別に、何にもねェよ?」
「―――そうか」

そうだ、たいしたことねェ。
ただ強くなりたくて、強い男になりたくて走り続けたあの頃からは多くを失ったけれど、それが一体何ほどのことだというのだろう。

離れてゆくもの。
離したくはないもの。
人生なんて、思い通りにいくことばっかりじゃない。
だけどそれが悲しいからってもし自分を偽ったら、きっと余計寂しくて涙も涸れ果てるだろう。

―――それでも俺が一番大切に思うものは、こうしてちゃんと俺の隣に居る―――

「なあ、キンタロー」
「何だ」
「願わくば真っ正直に生きたいもんだなあ。自分の思ったとおりによう」
「何を言っているんだおまえは」
キンタローはにこりと笑って俺を見た。

「おまえは、真っ直ぐだ。おまえと分かたれて、初めてちゃんとおまえ自身を凝視めた時からそう思っていた。俺は確かにまだ長くは生きていないが、それでも確かに言えることがある。おまえみたいに真っ正直な男を、俺は他に知らない」

四年前には敵として対峙した俺の半身だが、やっぱり。
キンタローがいねえと俺は駄目なんだなあ。
こいつの澄んだ青い瞳を見ていると、俺はどんなときも俺でいられると思うのだ。
「シンタロー、俺はな」
黄金色の髪を振り払いながらキンタローは風のように微笑う。
「自分がどれだけ凄い男なのかも知らないで迷いながら生きているおまえが好きだ。だから」

―――いつまでも今のままのおまえでいてくれ。

小さな囁きは青空をゆく白い雲のように流れて、消えた。

(さっきまでは青空が鬱陶しく思えたのに)
青い瞳を凝視めていると、自分にはちゃんと帰る場所が在るような気がする。
キンタローが隣に居てくれれば、きっと俺は何処までも強く真っ直ぐ歩いていける。

「・・・そろそろ行くか、キンタロー」
「ああ」

空の上では、白い雲が俺たちに笑いかけていた。


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紳士も天然も好きですが、
1番格好良いのはやっぱり補佐官としてのキンちゃんだと思います。


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