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「お・に・い・ちゃ~んっ」
「コ・タ・ロー!」
 
 
 お互いに歩み寄り、次第にそれは走りへと変わる。
 
 
 そして、シンタローがしゃがみこむと二人は抱き合った。
 
 
「会いたかったぞー、コタロー…」
「僕もだよ…お兄ちゃん」
 
 
 ぎゅうっと、コタローはシンタローの胸に頭を押し付けた。シンタローはその金の髪を何時か優しく梳いてやる。
 
 
「お兄ちゃん」
「なんだー?」
「呼んでみただけー」
「そっかー」
 
 
 シンタローはずっとにやにや、もといにこにこしっぱなしだ。その様子からは世界を統べるガンマ団総帥の面影は全く感じとることは到底出来そうに無い。
 
 
「コタロー」
「なーにー?」
「呼んだだけー」
「もーお兄ちゃんってばー」
「ごめんごめんー」
 
 
 まだコタローはシンタローにしがみついている。
 
 
「さぁ、コタロー。もっとしっかりお兄ちゃんに顔を見せておくれ」
 
 
 そう言うと、シンタローはそっとコタローを体から離して向かい合わせる。
 
 
 
 
 シンタローの目の前には――息を荒げたリキッドの顔があった。
 
  「あ、起きちゃいましたか」
 
 
 口元のよだれを拭いながらリキッドはそう言った。
 
 
「なっ、何してんだよテメーッ!!??」
「そんなにおっきい声出さないで下さいよー。まだ真夜中なんすよ」
 
 
 勢い良く、上半身をシンタローは起こす。意識はとうに夢から現実に引きずり出されてしまっていた。
 
 
「…だから何してたんだよ」
「別に何にもしてませんよ」
 
 
 一旦、そこでリキッドは言葉をきった。
 
 
「ただ…そのなんか寝付けなくて、そしたらシンタローさんが気持ち良さそうに寝てたから…」
「で?」
「…それでシンタローさんの寝顔を見てたらついむらむらしてきちゃって…」
 
 
 リキッドは照れ笑いを浮かべている。
 
 
「つまりは夜這だろ」
「えぇ、そうですね」
 
 
 即座にシンタローの拳がリキッドに炸裂した。
 
 
「ってぇー! 何すんすかー!!」
「うるせぇっ! 急に盛ってんじゃねぇよ、馬鹿ヤンキーッ!!」
「酷いッす! そんな悪いコトしちゃうシンタローさんには…お仕置きッす!」
 
 
 言い終わるや否や、リキッドはシンタローを押し倒した。必死でもがくものの、シンタローには体勢が悪すぎた。
 
 
「ちょっ、やめろリキッドッ!」
「や、です」
「パプワ達が起きちまうだろっ!」
 
 
 再び島に戻ってきてから、やはりパプワとチャッピーとシンタローは一緒に眠るようになっていた。そして、リキッドだけがぽつねんと一人別の布団で眠る事にもなっている。
 
 
「大丈夫ッすよ、ぐっすり寝てますし」
 
 
 リキッドは口をシンタローの耳元に近付け、囁く。
 
 
「シンタローさんが声をあんまり出さなきゃいいんすよ」
 
 
 そっと耳たぶを噛まれて、シンタローは軽く震えた。
 
 
「…っそういう問題じゃねぇっっ!」
「そうすか?」
 
 
 今度は首筋にリキッドの唇の熱と柔らかさが舞い降りる。
 
 
「っう……やめろっ!」
「嫌です」
 
 
 その時突然、横で眠り込んでいたパプワが立ち上がった。思わぬ出来事に二人は固まってしまい、背中には冷たい汗が滝のごとく流れ落ちる。
 
 
「んばばーっ!」
 
 
 シンタローの上に覆いかぶさっていたリキッドは哀れ、そのまま壁に吹っ飛ばされた。
 
 
 行動をなし終えると、パプワはまた眠りへと落ちる。
 
 
 衝突のために破壊されてしまった壁の破片がぱらぱらとリキッドにかかった。
 
 
 
   さくさくと音を立てて、二人は闇に包まれた森を歩いている。
 
 
「いったぁー……、まさか寝ぼけたパプワに蹴られるなんて……」
「自業自得だろ」
 
 
 不機嫌そうにシンタローは言い捨てた。
 
 
「いい加減手ぇ離しやがれっ! 何のつもりだっ!!」
「何って、うちじゃシンタローさんは嫌なんでしょ」
 
 
 リキッドはにっこりと笑みを浮かべている。
 
 
「……何だそれは、それはつまり……」
「外でヤるって事ですよ」
 
 
 シンタローとは対称的に、リキッドの表情は相変わらずだった。
 
 
「――っ、帰るっっ!!」
「あー駄目ッすよー!」
 
 
 ぐいっと力まかせに引き寄せると、リキッドはシンタローを樹に押しあてた。
 一瞬、シンタローは顔を歪ませる。
 
 
「背中痛いと思うッすけどちょっと我慢してて下さいね」
「なっ……テメ…」
 
 
 ゆっくりと、瞳を閉じたままリキッドはシンタローに顔を寄せていく。抵抗しようとするものの、シンタローの両手は相手のによってどちらも封じられてしまっていた。
 
 
「平等院鳳凰堂極楽鳥の舞っっ!!」
 
 
 何の前触れもなく炎に包まれてしまい、リキッドは叫び声をあげた。
 その隙をついてシンタローは拘束から逃れ出る。
 
 
「わてのシンタローはんに何さらしてはるんやっ! 大丈夫でっかシンタ」
「眼魔砲ッ!」
 
 
 アラシヤマが吹き飛ばされた後には、土埃を払うシンタローと火は消えて煙が立ち上るリキッドが地面に倒れているばかりであった。
 
 
 
  「ほらもう帰んぞ」
「いやッすー! シンタローさんとヤりたいんすーっっ!!」
「駄々こねんじゃねぇよ! 大体しようにも場所がねぇだろ」
 
 
 リキッドはしばし眉を寄せる。
 
 
「…じゃあ場所があればいいんすね」
「は…?」
 
 
 きょとんとした様子のシンタローの手を掴むと、リキッドはどんどんと歩きだす。
 
 
「おい、何だよ。何処行くつもりなんだよ!」
 
 
 シンタローの問い掛けにも答えず、リキッドはただ黙々と突き進んでいく。
 
 
 そして五分程立っただろうか、漸く歩みは止まった。
 
 
「なんだ…ここは」
「隊長達が住んでたとこッす。ここなら声出しても良いし、背中も痛くないんで大丈夫ッすよ」
 
 
 嬉々としてそう言いながら、リキッドは扉を開いた。
 
 
「で、何処が大丈夫だって?」
 
 
 長く使われていなかったせいで中は少し埃っぽかった。だがそれ以前に到る所に酒瓶やらガラクタが散乱していて――文字通り足の踏み場さえもありはしない。
 
 
「――――っ、片付ければ良いんすーッッ!」
 
 
 リキッドは泣きながら、元上司&同僚の家の掃除に取り掛かる事となった…。
 
 
 
 
「ふーっ…終わったー!」
 
   始める前とは打って変わって、すっきりさっぱりと整えられた部屋がリキッドの目の前に広がっていた。
 そして晴れ晴れとした面持ちでリキッドはシンタローの方へと振り返る。
 
 
「…まあまあってとこか」
 
 
 その言葉に思わずリキッドは耳を疑ってしまった。いつもならお姑さん的厭味の一つでも飛び出してくるはずであるのに。…もしかしてこれは結構良い感じかも?
 
 
「かなり贔屓目に見てだけどな」
「……そ…そッすか…」
 
 
 渇いた、力の無い笑いがリキッドの口から漏れた。
 
 
「はー…なんか疲れた…」
 
 
 ごろんとリキッドはソファに横たわった。スプリングが小さく軋んだ音を立てる。
 
 
「眠いのか?」
「いや……そんなこと…」
 
 
 否定してはいるものの、蒼い瞳は虚ろで瞼が重そうに見える。
 
 
「ほらそんな眠そうな面しやがって」
「す…すみません…」
「寝れば良いだろ」
「……じゃあ…お言葉に甘えて……ちょっとしたら…起きるんで…そしたら……」
 
 
 最後の方の言葉は寝言に近く、そのまま意味をとれずに崩れ落ちていった。
 次第に吐息は深く安定したものになっていき、リキッドはただ眠った。
 
 
 眠るリキッドを月明かりのもとで、シンタローはぼんやりと眺めていた。馬鹿な奴だ、なんて考えながら。
 
 
 そして先程彼によってたたまれた毛布をかけてやって、シンタローは出ていった。
 
 
 
   リキッドは今日何時目かの欠伸をした。
 
 
「あーあ、せっかくのチャンスだったのになぁ」
 
 
 あの後、リキッドは眠り続けて気付いたのは朝食の時間であった。もっとも、用意は先に帰ったシンタローがしておいたおかげでその事に関しては助かったのだが。
 
 
「…ま、過ぎたこと言っても仕方ねぇや。とりあえずやれることやっとくか」
 
 
 今日の家事は一通り済ませてきてあった。そして今、リキッドはお掃除道具一式を持ってシシマイハウスへと向かっている。
 その目的は暗かったために見逃してしまったと思われる汚れを除去しきることであった。
 
 
「…ちゃんとやったらシンタローさん褒めてくれるかな」
 
 
 足どりも軽く、リキッドは鼻歌混じりですらある。
 
 
 湧き出る妄想に胸を高鳴らせながら、リキッドはシシマイハウスの中へと入った。
 
 
 途端にリキッドは違和感を覚えた。昨日の夜にはもっと全体的にむさ苦しさを漂わせていたはずなのに、今ではカーテンや壁紙などが可愛らしいものへと取り替えられてしまっているのだ。
 
 
 リキッドが首を傾げていたその時、雄々しい地響きが近付いてきた。
 
 
「も…もしや……」
 
 
 意に反して、リキッドは金縛りにかかったかのように体を動かすことが出来なかった。
 
 
 そして、やはり予想通りに彼女はそこにやってきた。
 
 
「リッちゃーんッ!」
「ウ……ウマ子ぉ……!!??」
 
 
 驚きのあまり、リキッドは開いた口が閉じられない。
 
 
「なななな…!」
「まったくこんな所をこっそりウマ子とのために用意してくれるなんて…わしは猛烈に感動しとるけん!」
「ちょ、な、だ、誰がんなこと…」
「ガンマ団新総帥じゃけんのう」
「え」
 
 
 最大級の衝撃がリキッドを貫いた。
 
 
「そんなぁ…」
 
 
 がっくりとリキッドはうなだれた。はらはらと涙が落ちていく。
 
 
「リッちゃん…」
 
 
 その声に反応して身を震わせたリキッドは哀れな犬以外、何にも見えなかった。
 
 
「幸せにしたるけんのうー!」
「い、いやだあぁあ!」
 
 
 リキッドの声が響いた後、森はまたいつもの様に静かになった。
 
 
         End
 
 














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