シンタローは、屋上で給水塔がつくる影の中に寝転んでいた。その建物はガンマ団内で一番高い建物であったので、仰向けに寝転がると、空の青と雲の白しか視界には入らなかった。
目を閉じて、しばらく寝転がっていたが、不意にドアの方から見知った気配がした。 しかし、シンタローは相変わらず目を閉じたままであった。
コツコツと、靴音が聞こえ、シンタローの数歩手前で立ち止まった。
「シンタローはん、こんなところに1人で寝てはりますと、襲われますえ?」
と、上方から揶揄を含んだ声が降ってきた。
「有り得ねェ。・・・用がねーなら、とっとと帰れヨ」
シンタローが面倒そうにそう言うと、
「なんや、あんさん、また落ち込んでましたんか」
と、声の調子が真面目なものに変わった。
シンタローが返事をしないと、勝手に横に座る気配がした。
しばらく、お互い無言のままであったが、
「あそこにおる豆粒みたいな集団は、士官学校生どすな。まァ、ようもあんなに騒げるもんや思いますわ。わてらの時は、もうちょっとマシやった気がしますえ」
と、少々呆れたような声が少し上のほうから聞こえた。
「たぶん、俺らの時も同じようなもんだったと思うゼ?」
そう言うと、
「いーや、違うはずどす!!まったく、今のガキどもは・・・」
とブツブツ言っていた。
シンタローが黙ったままでいると、しばらく考え込む気配がし、
「シンタローはん、今は全く“夢多かりしあの頃でなく”どすか?」
不意に、真剣な声がした。
「―――そうでもねぇヨ」
そう答えると、
「しんどかったら、しんどいって正直に言うてもええんどすえ?」
諭すようなトーンで、声がそう言った。
しばらく間が空き、
「この俺様が、万が一にもオマエに弱音なんか吐くかよ。ありえねぇ」
シンタローがそう言うと、
「あんさんらしいどすな」
そう言って笑う気配がした。
「ほな、わてはもう行きますわ。これから、任務が入ってますしナ」
立ち上がりかける気配がし、
「あ、そうそう。忘れ物どす」
シンタローの顔の上に一瞬影がさしたかと思うと、唇に何かが触れ、
「行ってきます。あっ、シンタローはーん!これからは他の男の前で無防備に目を閉じてたらあきまへんえ?もう、心配でたまりまへんわ」
と、少し離れた場所から声が聞こえた。
「とっとと行きやがれッツ!!」
思わず、シンタローが目を開け起き上がると、屋上にはシンタロー以外、誰も居なかった。
ただ、ドアがきちんと閉まっていないことだけが、唯一、シンタロー以外の存在がいたことを示していた。
シンタローは思わず、唇に触れ、
「早く帰って来い。アラシヤマ」
そう、言った。
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