「こんなもんでいいだろ」
そう言うと、シンタローはリキッドの右腕に巻いた包帯を結んだ。
「どうも」
シンタローは顔をしかめる。
「…何、人の顔見てニヤニヤしてんだよ」
「だって」
そしてますますリキッドは笑顔となった、一方シンタローとは対称的に。
「シンタローさんが無事だったから」
「…」
ひょいと手をのばすと、まるで小さな子供を褒める時の様にシンタローはリキッドの頭を撫でた。
「…こぶはできてねぇみたいだな」
「違うっす!頭うった訳じゃないっす!!」
「…そーみたいだな。ま、何でも良いんだけどな、別に」
シンタローはベッドに腰掛けたまま辺りを見渡す。
この部屋はシンタロー達が今宵泊まるためにあてられたものの一部屋である。
「パプワ達はもう寝ちまったし」
と、シンタローは隣の部屋の方向を見遣る、欠伸を一つしながら。
「俺達も寝るか」
立ち上がって隣のベッドに行こうとした途端に、腕を強くシンタローは掴まれた。
「何すんだよ」
「…シンタローさん」
見上げてくる碧の瞳があんまりに真っ直ぐで、思わずシンタローは横を向いた。
「座ってくれませんか?」
「…話なら明日にしろよ」
「今したいんです」
ため息を一つつくと、渋々シンタローは再びリキッドの隣に座った。それと同時に腕も自由となる。
「で?」
「シンタローさん」
大きく、まるで足先まで詰め込むかのようにリキッドは深く息を吸い込んだ後、漸く次の言葉を発音した。
「…好きです」
二つばかしシンタローは瞬きをした。
対してリキッドは機械人形の様に睫毛すらもちらとも動かす事はない。ただ僅かに頬が朱に染まっただけだった。
「な…に冗談」
「冗談なんかじゃないです」
リキッドの表情はこの上なく真剣そのものだった。シンタローはたじろぎ、その塲から離れようとした。
しかし一瞬早く、リキッドはシンタローをベッドの上に押し倒す。
「っ!」
「シンタローさん…愛してます」
耳元で囁かれる低くて甘い台詞にシンタローの身体はぞくりとした。
「やめろっ!リキッドっ!!」
先刻の試合でかなり傷ついていたはずなのに、シンタローはリキッドを押し退ける事が出来ず…ただもがいた。
「大丈夫ですよ…何もしませんから」
と言うものの、リキッドが力を緩める様子は見られない。
「…早くどけ!」
「俺ね、シンタローさん。凄く怖かったんす」
「何が」
「凄く…凄く…怖かったんです」
「貴方を失う事が」
リキッドはシンタローの胸に頭を押し付けていた。そして…震えていた。
「…怖かった…ん…です…」
シンタローは抵抗をやめた。
「だから…言っておかなきゃって…思って…」
力の緩んだ拘束を抜け出して、シンタローの右手はリキッドに向けられた。
そしてちゃんと整えられたその髪をぐしゃぐしゃに乱す。
「!何すんすか……」
「ばーか!」
いきなりこけにされて、リキッドは顔をあげた。その瞳は微かに充血している。
「俺がそんな簡単に死ぬ訳ねぇだろ。お前は自分の心配だけしてればいーんだよ!!」
「…そんな言い方ないじゃないすかー」
唇をリキッドは尖らせる。けれどその口調はどこか嬉しそうな響きが混じっていた。
「あーうっせえなあ」
ぐいとリキッドを押し退けると、シンタローはやっともう一つのベッドに移った。
「早く寝るぞ」
「はい。…でも、あの…」
返事が、と呟いた声はとても小さかったにも関わらずシンタローの耳にはきちんと届けられていた。
「何、ききたいの」
「あ、いや、えと…その」
「さっきの毅然とした態度はどーしたんだよ」
そうシンタローに言われても、一度緩んだ糸は戻らず…。
「う…ごめんなさい…」
「まったく」
ごろりとリキッドに背を向けて、シンタローは横たわった。しょうがなくリキッドも横になる、愛しき人を眺めたまま。
「明かり消すぞ」
ふぅ、と蝋燭の火が消されて暗闇が部屋に充満する。ただ物影だけがぼんやりと見分けられる程度だった。
「…」
柔らかなシィツに包まれたベッドは大変に寝心地が良くて、いつもの煎餅布団とは比べものにならなかった。
そして程なくして、リキッドは睡魔に襲われていく。
「リキッド…?」
「…は…い…?」
「…眠いのか?」
「……そ…なこと…な…い……で…」
瞼が重く…リキッドには感じられた。
「……きの事だけどな」
声が遠くなっていく…。
「……?」
何と言ったか尋ねる言葉も意味を為さずに闇に溶ける。
「……ッド、俺は……」
薄れゆく意識の中で、リキッドは微笑んだ。
その伝えられた想いがただの夢なのか現実なのかわからないまま。
終
そう言うと、シンタローはリキッドの右腕に巻いた包帯を結んだ。
「どうも」
シンタローは顔をしかめる。
「…何、人の顔見てニヤニヤしてんだよ」
「だって」
そしてますますリキッドは笑顔となった、一方シンタローとは対称的に。
「シンタローさんが無事だったから」
「…」
ひょいと手をのばすと、まるで小さな子供を褒める時の様にシンタローはリキッドの頭を撫でた。
「…こぶはできてねぇみたいだな」
「違うっす!頭うった訳じゃないっす!!」
「…そーみたいだな。ま、何でも良いんだけどな、別に」
シンタローはベッドに腰掛けたまま辺りを見渡す。
この部屋はシンタロー達が今宵泊まるためにあてられたものの一部屋である。
「パプワ達はもう寝ちまったし」
と、シンタローは隣の部屋の方向を見遣る、欠伸を一つしながら。
「俺達も寝るか」
立ち上がって隣のベッドに行こうとした途端に、腕を強くシンタローは掴まれた。
「何すんだよ」
「…シンタローさん」
見上げてくる碧の瞳があんまりに真っ直ぐで、思わずシンタローは横を向いた。
「座ってくれませんか?」
「…話なら明日にしろよ」
「今したいんです」
ため息を一つつくと、渋々シンタローは再びリキッドの隣に座った。それと同時に腕も自由となる。
「で?」
「シンタローさん」
大きく、まるで足先まで詰め込むかのようにリキッドは深く息を吸い込んだ後、漸く次の言葉を発音した。
「…好きです」
二つばかしシンタローは瞬きをした。
対してリキッドは機械人形の様に睫毛すらもちらとも動かす事はない。ただ僅かに頬が朱に染まっただけだった。
「な…に冗談」
「冗談なんかじゃないです」
リキッドの表情はこの上なく真剣そのものだった。シンタローはたじろぎ、その塲から離れようとした。
しかし一瞬早く、リキッドはシンタローをベッドの上に押し倒す。
「っ!」
「シンタローさん…愛してます」
耳元で囁かれる低くて甘い台詞にシンタローの身体はぞくりとした。
「やめろっ!リキッドっ!!」
先刻の試合でかなり傷ついていたはずなのに、シンタローはリキッドを押し退ける事が出来ず…ただもがいた。
「大丈夫ですよ…何もしませんから」
と言うものの、リキッドが力を緩める様子は見られない。
「…早くどけ!」
「俺ね、シンタローさん。凄く怖かったんす」
「何が」
「凄く…凄く…怖かったんです」
「貴方を失う事が」
リキッドはシンタローの胸に頭を押し付けていた。そして…震えていた。
「…怖かった…ん…です…」
シンタローは抵抗をやめた。
「だから…言っておかなきゃって…思って…」
力の緩んだ拘束を抜け出して、シンタローの右手はリキッドに向けられた。
そしてちゃんと整えられたその髪をぐしゃぐしゃに乱す。
「!何すんすか……」
「ばーか!」
いきなりこけにされて、リキッドは顔をあげた。その瞳は微かに充血している。
「俺がそんな簡単に死ぬ訳ねぇだろ。お前は自分の心配だけしてればいーんだよ!!」
「…そんな言い方ないじゃないすかー」
唇をリキッドは尖らせる。けれどその口調はどこか嬉しそうな響きが混じっていた。
「あーうっせえなあ」
ぐいとリキッドを押し退けると、シンタローはやっともう一つのベッドに移った。
「早く寝るぞ」
「はい。…でも、あの…」
返事が、と呟いた声はとても小さかったにも関わらずシンタローの耳にはきちんと届けられていた。
「何、ききたいの」
「あ、いや、えと…その」
「さっきの毅然とした態度はどーしたんだよ」
そうシンタローに言われても、一度緩んだ糸は戻らず…。
「う…ごめんなさい…」
「まったく」
ごろりとリキッドに背を向けて、シンタローは横たわった。しょうがなくリキッドも横になる、愛しき人を眺めたまま。
「明かり消すぞ」
ふぅ、と蝋燭の火が消されて暗闇が部屋に充満する。ただ物影だけがぼんやりと見分けられる程度だった。
「…」
柔らかなシィツに包まれたベッドは大変に寝心地が良くて、いつもの煎餅布団とは比べものにならなかった。
そして程なくして、リキッドは睡魔に襲われていく。
「リキッド…?」
「…は…い…?」
「…眠いのか?」
「……そ…なこと…な…い……で…」
瞼が重く…リキッドには感じられた。
「……きの事だけどな」
声が遠くなっていく…。
「……?」
何と言ったか尋ねる言葉も意味を為さずに闇に溶ける。
「……ッド、俺は……」
薄れゆく意識の中で、リキッドは微笑んだ。
その伝えられた想いがただの夢なのか現実なのかわからないまま。
終
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