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「じゃ、散歩行ってくるな」
 
 そう言って戸を開けたシンタローの方に、リキッドは食器を洗う手を止めて向き直った。
 
「いってらっしゃいッす、シンタローさん」
 
 ぱたんと閉まった音がしてから、リキッドは仕事を再開する。
 けれど、その表情は何処か淋しげであった。
 
 するとその時、再び背後の扉が開いた。
 
「忘れ物でもしたんすか、シンタローさん?」
 くるりと振り返ったリキッドの様子は、まるで飼い主の帰宅を喜ぶ犬を思わせた。
 しかし。
 
「残念やったな、シンタローはんやのうて」
「ア、アラシヤマッ!」
 
 愛しい人と勘違いしてしまい、苛立ちと羞恥で顔を赤く染めたままリキッドは突然の訪問者を睨んだ。
 
「何の用だよ」
「勝負どす、リキッド!」
「勝負ぅ?」
 
 リキッドは首を傾げた。
 
「そうどす」
「何でまた。コタローなら帰っちまったじゃねぇか」
「ちゃいますわ、今回はシンタローはんを賭けてどす!」
 
 そう言って、アラシヤマは手を前に突き出してリキッドの顔面を指差した。
 
「シ、シンタローさんを?」
「そうどす。どちらがよりシンタローはんに似つかわしいかって事ですわ」
 
 アラシヤマは少し口の端を持ち上げた。
 
「まぁ、何処の馬の骨とも知らんようなヤンキーなんかよりはこの気品漂うわてに決まってはるんやけど」
「あぁ?」
 
 リキッドの眉が逆八の字となりつつある。
 
「んな事やってみなきゃわかんねぇだろ!」
「ほな、勝負するって事やな」
「いーぜ、やってやろうじゃねぇか!」
 
 二人の周りを炎と電磁波が見事に包み上げていた。
 
「あぁっ!シンタローさんをめぐって勝負だなんてぇ~!!」
「アタシ達を忘れちゃわないでよね~!」
 
「平等院鳳凰堂極楽鳥の舞っ!!!!」
「電磁波ー!!!!」
「あ~れ~~ぇぇ~~」
 
 いつの間にか乱入していたタンノとイトウは青空へと高く吹っ飛ばされていった。
 
「さて、邪魔者もいなくはったことやしそろそろ始めよか」
「あぁそうだな、じゃあ俺が勝ったらもうシンタローさんのストーカーはやめろよ」
「だったらわてが勝ったらパプワハウスから出てってもらうで」
 
 二人はそうして、しばらく睨み合っていた。漫画的表現を許すのならその目と目の間には火花が飛んでいただろう。
 
 
 
  「てな訳で、シンタローはんっ!」
「俺かアラシヤマか、選んで下さいッす!」
 
 突然目の前にアラシヤマとリキッドが現れ、シンタローは数回瞬いた。
 そして、無言のまま踵を返す。
 
「あーシンタローさんっっ!」
「待っておくんなましっ!」
「ひっついてくんじゃねぇっ!なんなんだよ、一体っ!!」
 
 必死で足にしがみついた二人を払いのけようとシンタローは試みるが、離れる気配は微塵も感じられなかった。
 
「だーかーらー、どっちがよりシンタローさんに相応しいか決めて下さい!」
「何で」
「それが勝負方法だからどす!」
「はぁ?」
 
 少し眉根を寄せたままのシンタローから離れると、目の前に二人は立ち並んだ。
 
「ほないきまっせ!シンタローはん、これ見てくれなはれ!」
「あぁん?」
 
 見ると、アラシヤマの手にはどこから取り出したのか―おそらくアラシヤマの手製であろう―コタローの人形が握られていた。
 
「はあぁっ!コ、コタローッ!!」
「ふ、わての勝ちでんな」
 
 人形に釘付けになっているシンタローに満足したように、アラシヤマはほくそ笑んだ。
 
「……シンタローさんっ!こっち見て下さい、こっちっ!!」
「……?」
 
 リキッドはズボンのポケットから写真の束を取り出す。そこには全部コタローが映っていた。
 
「ああぁっ!そっちにもコタローがあぁっっ!!」
 
 落胆した様子のアラシヤマを、今度はリキッドが笑う番だった。
 
「勝負は最後までわかんねぇんだよっ!」
「ちっ…」
 
 舌打ちするとアラシヤマはシンタローの方を向いた。
 
「さぁ、シンタローはん選んでくれなはれっ!」
「俺ッすか?それともアラシヤマッすか??」
 
 ずいっと詰め寄る二人にシンタローは後ずさってしまい、ついには背中に樹を感じた。
 そして目の前にはコタロー人形とコタローの写真が突き付けられる。
 
「ほらシンタローはん、コタローはんどすえ~」
「あぁ…コタロー…」
「シンタローさん、こっちだってコタローですよ」
「こっちにもコタロー……」
「ほらほらシンタローはんっ!」
「シンタローさんってば!」
「あぁああぁ~~~っっ!俺はどうしたら…!!」
 
 シンタローはそのまま座りこんで、膝に頭を埋めてしまった。その上に覆いかぶさるようにリキッドとアラシヤマは覗き込む。
 
 
 
 
「お兄ちゃんっ!」
「っ!?」
「お兄ちゃんってば!」
「コ、コタローっ!!」
 
 伏せていた顔を上げると、シンタローは即座に立ち上がり二人を押し退けた。そして、一目散に声のした方へと走る。
 
 
 果たして、そこには一人の金髪碧眼の少年が立っていた。
 
「コタローーッッッ!!!!」
「お兄ちゃんっ」
 
 ぎゅうぅっとシンタローはコタローを抱きしめた。
 
「やっぱり生きてるのの方が良いなぁ…」
「苦しいよぉ、お兄ちゃんー」
「あぁごめんなー、コタロー」
 
 置いてかれた二人は漸くシンタローに追い付き、そしてその光景をぽかんとしたまま突っ立って見ている。
 
「ああぁ…シンタローはん…」
「……にしてもなんでコタローがいるんだ?」
 
 
 その時突然、まるで玉子の殻が割れるような―どこか不吉な―音が響いた。
 そして、コタローの姿は崩れていき………。
 
「また同じ手にひっかかるとは、本当にどーしよーもないブラコンだな」
「パ…パプ……ワ…」
 
 哀れ、シンタローは目を白黒させていた。
 
「腹がへったぞ!」
「……は…はぁ…」
 
 衝撃が大きすぎたのか、シンタローは気の抜けたような返事をした。
 
「チャッピー」
「痛ーーっ!許して下さい、御主人様ーーー!!!!」
「なら早くおやつの用意をせんかいっ」
「はいーっ!急いで作らさせていただきますーー!!」
 
 そう言うや否や、シンタローはパプワハウスへと駆けていった。その後に続くように、パプワはチャッピーに乗っていってしまう。
 
 
 
 その場に取り残されたのは大人二人だけ。
 
「…………っ、こうなったら闘ってきめますえー!」
「へ、望むとこだよ!シンタローさんは絶対に渡さ」
 
 ガサリと葉を揺らす音に二人は固まった。
 
「ウ……ウマ子……」
「御法度ーーーーッッッッ!!!!!!」
 
 二つの悲鳴の後には、もはや何の音も存在しなかった。
 
   終
 
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