大好きなあなたへ
シンタローは、必死に積み上がった書類を睨みつけていた。
その周りをウロウロする人物を、無視して。
「シンちゃぁん」
呼び止めても、顔を上げることすらしない。
「今日は私の誕生日だよ?」
書類をめくる音だけが、部屋に響く。
「シンちゃんってばぁ」
何度も呼びかけるのに、さすがに痺れを切らし始めた時。
「あ、お父様!やーっぱりここにいたんだね!」
騒々しく勢いよく扉を開けたのは。
「うるせぇぞ、グンマ」
シンタローは顔も上げずに、肘をつく。
「だって、お父様にプレゼント渡したかったのに。どこ探してもいないんだもん」
「直にねだりに来てたわけか…」
グンマの後からキンタローが現れる。
その姿を見つけ、思わずシンタローは席を立った。
「てめっ!キンタロー!!ここんとこ見かけねぇと思ったらッ何してやがったんだよ!」
「心外だな。俺は仕事はやっている…いいか、俺がやる仕事の分は必ずやってあるはずだろう」
「仕事はタマりにタマってんだよ!」
「…それはお前がやり切れずに残しているだけだろう。いつもは俺が半分は、いや半分以上はやっているからな」
「…何やってたんだよ」
どかっと座ってキンタローを睨む。
「はいッお父様!ハッピーバースデーだよッ!」
グンマは二人の会話を差し置いて、シンタローの横にいたマジックに綺麗に包装された包みを満面の笑顔で手渡した。
「わーグンちゃん、ありがとう!」
嬉しそうに笑顔をほろこばせるマジック。
「俺は、このプレゼントを作るのに全力を注いでいたんだ。これは俺とグンマの、いいか。俺とグンマが結集して作り上げた傑作だ」
キンタローは自身満々にそう言ってのけた。
「開けてみて!お父様ッ」
「うん、なんだろうなぁ」
大きくもなく小さくもない、30センチほどの包み。
出てきたのは、マジックがいつも見慣れている…。
「コレ…私のシンちゃんのぬいぐるみじゃないか」
「へへーッ。一個だけ盗んじゃったんだ!」
グンマは悪びれもせずに、舌を出して笑う。
「それじゃプレゼントにならねぇじゃねぇかよ」
シンタローが呆れてため息をつく。
「道理で一つないなぁと…。でもコレが?」
「ただのぬいぐるみじゃないんだよぉ!」
「そのぬいぐるみに向かって、何か言ってみろ」
「何か?うーん、そうだなぁ」
マジックは少し考えて、口を開いた。
「好きだよ、シンタロー」
それは甘く、低く響くようなヴォイス。
少しだけ反応して、シンタローは顔を赤く染めてしまう。
「好きだよ…父さん」
「えっ!?」
信じられない応答に、瞬時にシンタローに振り返る。
真っ赤になって否定する必死に首を振り、否定するシンタロー。
「おっ俺は言ってねぇぞ!」
「えーでも確かに…」
「父さん…好きだよ。父さん」
よくよく聞けばマジックが抱えていた、そのシンタローのぬいぐるみから発せられた言葉だったことにようやく気が付く。
「うふふ~ッ。やっと気が付いた?」
「それはマジックの声に反応し、応答するように出来ているんだ。ちなみにその声は、本物だ」
「シンちゃん、ついに私に告白を…!」
「い、言ってねぇ言ってねぇ!!キンタローが勝手に編集したんだろうが!」
「編集したのは確かだが、『父さん』というのと『好きだよ』という単語は確かに言っているぞ」
キンタローのその言葉に、ハッと何かに気が付く。
「そういや随分前にグンマに変な質問されたな…。あれがそうだったのか!」
「シンちゃんってば気づくのお・そ・い」
ツン、と鼻をつつく。
「せっかくの誕生日プレゼントだもん。うんと喜ぶもの贈りたかったし」
「てんめぇ~」
怒りに拳を握り締めていると、視線を感じた。
「シンちゃん」
ギクリとした表情になる。
「シンちゃんだけだよ?プレゼントないの」
「えーッ!?まだあげてないの?」
「今まで何をしてたんだ」
呆れ果てるキンタローの声。
「ぐ…ッ」
「ガンマ団の皆だって、みぃんな!プレゼントくれたのに!」
「…その分、給料引かれてんだろうが」
机越しにぐぐっとシンタローに迫る。
「私は、シンちゃんからのプレゼントがなくちゃ誕生日があったって嬉しくないんだよ」
真剣なマジックの表情にグッと息が詰まるシンタロー。
しばしの沈黙の後、シンタローはその雰囲気に耐え切れずに机から離れてマジックの前に立つ。
「シンタロー」
不安そうな声で呼ぶマジック。
シンタローはガッとマジックの抱えていた自分のぬいぐるみを取り上げた。
「あッ、それは…!」
手を伸ばそうとしたマジックに、シンタローはぬいぐるみに軽くキスをして。
「シンちゃ…」
そのままマジックの唇に押し当てた。
「し…」
思わず呆けるマジック。
「誕生日、おめでとう。父さん」
シンタローは微笑み、そう言い残して部屋を後にした。
「今のが、プレゼント?」
「そうみたいだな」
「えーッ!?いいの、あんなんで!凄くお手軽だよ!?」
「…あんなんで、いいみたいだな」
キンタローが見やる方をグンマも視線を向ければ。
そこには幸せの絶頂にでもいるかのように、嬉しそうにボーッと突っ立っていたマジックの姿があった。
「ま、いっか」
グンマは笑顔でマジックを見つめて言った。
その頃、部屋を出てしばらく廊下を歩き角を曲がって誰もいないのを確かめた後に、ずるずるとその場にしゃがみこんで頭を抱えた。
耳まで真っ赤に染めて。
「し、しまったー…ッ」
自分のやったことに今更後悔していた。
本当はちゃんとしたプレゼントを考えていた。
だが、実際何を贈ったらいいか分からず。
毎年あげたものは必ず喜んでくれるのだが、それは自分があげたから喜んでくれるのであって、本当にマジックが喜んでくれているかシンタローは不安だった。
今年はその不安も募り、迷いに迷ってるうちに当日になってしまったのだった。
あれをやって、相当…いや自分が思ってる以上に喜ぶことは確かだったのだが…。
「早まったかなー」
ボーッとしていたマジックは急に夢から醒めたようにガバッとシンタローぬいぐるみを見つめる。
「シ、シンちゃん…ッ」
「あ」
マジックがぬいぐるみに口付け、抱きつこうとした瞬間。
ガパッと首がもげた。
「え」
呆気に取られている間に、その中から銃口が飛び出し、カッと光を放ったかと思ったら目の前のマジックに向かって砲を撃った。
派手な音がして、もうもうと広がる煙の中からマジックが咳き込みながら現れた。
それでもしっかりぬいぐるみを抱えて。
「ぐ、グンちゃん…キンちゃん…何、これ?」
「えへへ~言うの忘れてた!」
「よりシンタローに近づけた方が喜ぶだろうかと、それに口付けて抱きしめようとするとガンマ砲に限りなく近づけた砲を撃つようになってるんだ」
「あ、大丈夫だよ!自動的にまた首は縫ってくれるから!」
言われてふと見ると、機械が自動的に現われ首を縫いつけ、すっかり元の通りに戻っていた。
「嬉しい?お父様」
首を傾げながら不安そうに尋ねるグンマ。
「…忠実で嬉しいよ。ありがとう、二人とも」
ボロボロになりながらもマジックは必死に笑みを作っていた。
その後しばらく、ガンマ団では爆発音が絶えなかったという。
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