【絶望】
コタローが幽閉され、シンタローがマジックの目の前から消えた時、
マジックの精神は極限まで不安定になっていた。
以前から常軌を逸している執着ではあったが
親が、子に向ける愛情の域をとっくに超えている事など目に見えて解かった。
その時、やっと、自分のマジックに向ける感情の正体が何なのかティラミスは知る羽目になった。
もうずっと、肉体的な関係を持って何年になるだろうか。
切り出してきたのは勿論、マジックの方だった。
そして、自分は、それを拒絶する事なく、受け入れた。
そうなる事をずっと前から予感していたのだ。
抱かれる事に抵抗がなかったのは、自分と言う存在はそうされて当然の立場だと認識していたから。
絶対的な権力を誇る上司を常に支え、常に共にいた自分が、望まれて拒否する等
考えもつかなかったのだ。
共に夜を過ごす内に、意外な一面や些細な癖を知る事も嬉しかった。
きっと、こんな事はこの方の愛しい彼でさえ知らないだろう、なんて。
けれど、その頃はまだ、自分は、ただ命令されているから抱かれているのだと思っていた。
しかし、シンタローと言う存在が消え、マジックがどれ程シンタローを愛していたかを知り、
結果、皮肉にも自分がどれ程マジックを愛していたかを知った。
シンタローの事を想い、その名前を呼び、今にも壊れそうなマジックを見ていると
それだけで死んでしまいたくなるほど辛かった。
あぁ、きっと。
自分がこの方の目の前から消えてしまっても、こんな風にはなってくださらないだろう。
そう思うだけで、胸がひどく痛んだ。
命令されて抱かれていたのではない。
自分自身が、身も心も彼のものになりたかったのだ。
心はとっくに彼のものだったから。
深い闇が自分の中でどんどん広がってゆく。
シンタローなんて、一生、見つからなければ良いとさえ願った。
マジックも一生、手に入らないものを想い嘆いて、不幸になれば良いのだ。
そうしたら、不幸のどん底にいる私も、ほんの少し報われる気がする。
だけど
あの、南の島での事が終わった後で、報われないのは自分だけなのだと、思い知らされた気がした。
なのに、それでも、相変わらず自分は彼を好きなままで。
それを知っていながら、尚、弱さを見せるマジックが憎く、たまらなく愛しかった。
シンタローがいない時の彼は寂しさを紛らわせようといつも必死だ。
そして、決まって自分はそれに付き合ってしまう。
どうして此処まで、彼の事を支えようと懸命になってしまうのか、ティラミス自身にも解からなかった。
彼をどれだけ想っても報われる事などなく、想えば想うほど辛くなるだけなのに。
それなのに、好きでいるのをやめる事の方が辛いなんて、そう考えている自分が怖かった。
――もしも、私がどれ程貴方を愛しているかを、伝えきれることができたなら
世界一貴方を愛してるのは他でもないこの私なのだと、貴方は思ってくれたかもしれない。
喉が酷く痛む。
発熱で仕事を休むなんて、自己管理能力の欠落だ。
昼間から寝込んでいたため明かりを消していた部屋も、夕方になりすっかり暗くなっていた。
ごほごほと咳き込む喉を抑えながら、ベッドから体を起こし
サイドテーブルの上の照明をつけて傍に置いてあった水の入ったペットボトルを手に取った。
中のものを口に含む。すうっと、気持ち良くなった。
ティラミスは思い出していた。
既に総帥となったマジックと自分が、初めて出会った日の事を。
あの頃は、まだ、自分はほんの子供で、
当時マジックの父親の代から秘書の任に就いていた父親に連れられて
初めてガンマ団へ行った。
長い長い廊下を歩いて父の背中に隠れながら、辿り着いた部屋の扉を開くと
毛の長い絨毯が敷いてあって、そこに、マジックはいた。
自分よりも何倍も背丈のある彼を見上げて、視線が合い、微笑まれた。
空よりも青い目がとても綺麗で、泣きそうになった。
士官学校へ入り、何故か自分は、父のように彼に仕えるようになるのだと、そう思い
実際に自分が選ばれた時、やはりそう言う運命だったのだと幸せに浸った。
――なんて事だ。
もう、ずっと前から、自分は彼に 恋をしていたのだ...
溢れそうになる涙を堪えたかったが、それも叶わず、暖かいものが頬を伝った。
こんなにも抱きしめて欲しいと、願っているのに
マジックの心を支配しているのは、自分ではないのだ。
それが悲しくて、悔しくて、声が抑えられなかった。
静かに部屋のドアが開いた。
廊下の光が、薄明かりの部屋に差し込む。
逆光で顔はよく見えなかったが、その背丈で、すぐに誰か解かったが、信じられなかった。
都合の良い夢を見ているのだ、と思った。
静かに彼が歩み寄ってくる。いつものコートを腕にかけて。
どうして、と尋ねたらどうして?と彼は言った。
「だって私が風邪の時は、オマエが傍にいてくれたじゃないか」
何も、言葉が出てこなかった。あんまりだと思った。
こんな、こんな事をするなんて。わざわざ、会いに来るなんて。
風邪を引いて無様にベッドに横たわる姿を見られた事を恥じながら、
それでも、自分が、今、一番胸に描いていた人物が目の前に現れた事に感動を隠せないでいた。
今、一番顔を見せたくなくて、一番顔を見たかった相手が、すぐ目の前にいる。
どうせ、自分を選んではくれないくせに。
どうしてこんな酷いことをするのだろう。
中途半端な優しさは、返って毒だ。
それなのに、嬉しくてたまらなくて。
会いに来てくれた事が、たまらなく嬉しくて。
ティラミスはまるで子供のように声を出して泣いた。
あぁ、どうして、私は貴方の一番になれないのだろう。
一番になれたとしたら、きっと私は、心から貴方の幸せを願うことができたのに。
いつもと逆だね、とマジックは泣きじゃくる彼の頭を優しく撫でた。
***
ティラミスの生い立ちは詳しいことは知りません。かなり捏造。
【side:M】 マジ→シンかつ、マジ→ティラです。
ティラミスに傾くパパが苦手な方は避けてください。
コタローが幽閉され、シンタローがマジックの目の前から消えた時、
マジックの精神は極限まで不安定になっていた。
以前から常軌を逸している執着ではあったが
親が、子に向ける愛情の域をとっくに超えている事など目に見えて解かった。
その時、やっと、自分のマジックに向ける感情の正体が何なのかティラミスは知る羽目になった。
もうずっと、肉体的な関係を持って何年になるだろうか。
切り出してきたのは勿論、マジックの方だった。
そして、自分は、それを拒絶する事なく、受け入れた。
そうなる事をずっと前から予感していたのだ。
抱かれる事に抵抗がなかったのは、自分と言う存在はそうされて当然の立場だと認識していたから。
絶対的な権力を誇る上司を常に支え、常に共にいた自分が、望まれて拒否する等
考えもつかなかったのだ。
共に夜を過ごす内に、意外な一面や些細な癖を知る事も嬉しかった。
きっと、こんな事はこの方の愛しい彼でさえ知らないだろう、なんて。
けれど、その頃はまだ、自分は、ただ命令されているから抱かれているのだと思っていた。
しかし、シンタローと言う存在が消え、マジックがどれ程シンタローを愛していたかを知り、
結果、皮肉にも自分がどれ程マジックを愛していたかを知った。
シンタローの事を想い、その名前を呼び、今にも壊れそうなマジックを見ていると
それだけで死んでしまいたくなるほど辛かった。
あぁ、きっと。
自分がこの方の目の前から消えてしまっても、こんな風にはなってくださらないだろう。
そう思うだけで、胸がひどく痛んだ。
命令されて抱かれていたのではない。
自分自身が、身も心も彼のものになりたかったのだ。
心はとっくに彼のものだったから。
深い闇が自分の中でどんどん広がってゆく。
シンタローなんて、一生、見つからなければ良いとさえ願った。
マジックも一生、手に入らないものを想い嘆いて、不幸になれば良いのだ。
そうしたら、不幸のどん底にいる私も、ほんの少し報われる気がする。
だけど
あの、南の島での事が終わった後で、報われないのは自分だけなのだと、思い知らされた気がした。
なのに、それでも、相変わらず自分は彼を好きなままで。
それを知っていながら、尚、弱さを見せるマジックが憎く、たまらなく愛しかった。
シンタローがいない時の彼は寂しさを紛らわせようといつも必死だ。
そして、決まって自分はそれに付き合ってしまう。
どうして此処まで、彼の事を支えようと懸命になってしまうのか、ティラミス自身にも解からなかった。
彼をどれだけ想っても報われる事などなく、想えば想うほど辛くなるだけなのに。
それなのに、好きでいるのをやめる事の方が辛いなんて、そう考えている自分が怖かった。
――もしも、私がどれ程貴方を愛しているかを、伝えきれることができたなら
世界一貴方を愛してるのは他でもないこの私なのだと、貴方は思ってくれたかもしれない。
喉が酷く痛む。
発熱で仕事を休むなんて、自己管理能力の欠落だ。
昼間から寝込んでいたため明かりを消していた部屋も、夕方になりすっかり暗くなっていた。
ごほごほと咳き込む喉を抑えながら、ベッドから体を起こし
サイドテーブルの上の照明をつけて傍に置いてあった水の入ったペットボトルを手に取った。
中のものを口に含む。すうっと、気持ち良くなった。
ティラミスは思い出していた。
既に総帥となったマジックと自分が、初めて出会った日の事を。
あの頃は、まだ、自分はほんの子供で、
当時マジックの父親の代から秘書の任に就いていた父親に連れられて
初めてガンマ団へ行った。
長い長い廊下を歩いて父の背中に隠れながら、辿り着いた部屋の扉を開くと
毛の長い絨毯が敷いてあって、そこに、マジックはいた。
自分よりも何倍も背丈のある彼を見上げて、視線が合い、微笑まれた。
空よりも青い目がとても綺麗で、泣きそうになった。
士官学校へ入り、何故か自分は、父のように彼に仕えるようになるのだと、そう思い
実際に自分が選ばれた時、やはりそう言う運命だったのだと幸せに浸った。
――なんて事だ。
もう、ずっと前から、自分は彼に 恋をしていたのだ...
溢れそうになる涙を堪えたかったが、それも叶わず、暖かいものが頬を伝った。
こんなにも抱きしめて欲しいと、願っているのに
マジックの心を支配しているのは、自分ではないのだ。
それが悲しくて、悔しくて、声が抑えられなかった。
静かに部屋のドアが開いた。
廊下の光が、薄明かりの部屋に差し込む。
逆光で顔はよく見えなかったが、その背丈で、すぐに誰か解かったが、信じられなかった。
都合の良い夢を見ているのだ、と思った。
静かに彼が歩み寄ってくる。いつものコートを腕にかけて。
どうして、と尋ねたらどうして?と彼は言った。
「だって私が風邪の時は、オマエが傍にいてくれたじゃないか」
何も、言葉が出てこなかった。あんまりだと思った。
こんな、こんな事をするなんて。わざわざ、会いに来るなんて。
風邪を引いて無様にベッドに横たわる姿を見られた事を恥じながら、
それでも、自分が、今、一番胸に描いていた人物が目の前に現れた事に感動を隠せないでいた。
今、一番顔を見せたくなくて、一番顔を見たかった相手が、すぐ目の前にいる。
どうせ、自分を選んではくれないくせに。
どうしてこんな酷いことをするのだろう。
中途半端な優しさは、返って毒だ。
それなのに、嬉しくてたまらなくて。
会いに来てくれた事が、たまらなく嬉しくて。
ティラミスはまるで子供のように声を出して泣いた。
あぁ、どうして、私は貴方の一番になれないのだろう。
一番になれたとしたら、きっと私は、心から貴方の幸せを願うことができたのに。
いつもと逆だね、とマジックは泣きじゃくる彼の頭を優しく撫でた。
***
ティラミスの生い立ちは詳しいことは知りません。かなり捏造。
【side:M】 マジ→シンかつ、マジ→ティラです。
ティラミスに傾くパパが苦手な方は避けてください。
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【世間体】
ふと、いつものようにオヤツの食べながら何気なくTVをつけたらアニメの番組がやっていて
丁度、今、クラスでも大人気らしいから‘ガキくさいな’と思いながらもシンタローはそれに見入っていた。
内容は、10歳だと言うアニメの主人公が、母親と毎晩おやすみのキスをしていて
それを知った主人公の恋人の女の子が‘気色悪い!最低!’と、主人公をこっ酷くフる話だった。
咥えていたポテチが彼の口から離れて静かに床に落ちた。
シンタローも今年で10歳になる。
そして、シンタローはこの歳になって未だに・それも母親ではなく父親とおやすみのキスをしていた。
それだけじゃない。
おやすみのキスどころか、おはようのキス、おかえりなさいのキス、ただいまのキス、
何か祝い事があるとその度におめでとう、ありがとうのキス。
今の今まで周りもやっているもんだと思っていたから、そんな事、わざわざクラスメイトに聞いた事もなく
しかし先程のアニメを見て、これまたやはり誰かに聞いて確認できるものではない。と強く思う。
もしも周りがそうじゃなかったら、と思うと怖くてしょうがなくなる。
ひょっとしてひょっとしなくてもオレって異常だったのか、とシンタローは苦悩した。
こんな時は、同じく親ばかな親を持つ従兄弟に意見を求めてみようと、
シンタローはさっそくグンマに電話をかけた。
だらだらとくだらない前置きを喋り、やっと、本題の‘おやすみのキス’について話し始める。
グンマはあっさり‘するよ’と答えた。
ひとまず安心する。だよな~!とシンタローは返事をした。
「シンちゃんはしないの?」
「す、するよ。おやすみどころか、おはようも、おかえりも。」
それを聞いて‘え!’とグンマの口から驚きの声が上がった。
「シンちゃん、それ、すっごく変」
グンマの言葉がシンタローの胸をぐさーっと突き破った。
あぁ、やっぱり、やっぱり可笑しかったんだ。異常だったんだと倒れ付した。
それなのにオレってばオレってば事あるごとに父さんとキスして・・・
シンタローはショックから立ち直れず、‘オマエだってあのドクターとおやすみのキスしてるじゃんか’と
反論する事もできずに、電話を切った後は部屋に篭ってベッドに潜っていた。
夜が更けて、悩みの種が帰宅した。
マジックはシンちゃ~~んと意気揚々と名前を呼ぶ。
その声を聞くなり、シンタローはバタン!と威勢良く部屋のドアを開き、父親のいる玄関へ向かった。
「あぁ、ただいま!シンちゃん!さぁ、おかえりなさいのちゅーは?」
「父さん!」
ぎっと鋭く睨んだ。
「おかえりなさいのキスも、おやみのキスも、もうしない!父さんとキスなんかしない!」
その宣言に、マジックは一瞬顔を強張らせ、すぐに‘何で!?’と息を吹き返した。
「だって、変だ!」
「変じゃないよ!何、何?いきなりどうしちゃったんだい?」
「変だって!普通は父親とそんなにしょっちゅうキスしないもんなの!」
「他所は他所!ウチはウチ!!さぁ、パパとキスしよう、ね?」
しない!とマジックの足を思いっきり踏みつけると、シンタローは一目散に自分の部屋へ戻る。
後に残されたマジックはと言うと石になってその場に固まっていた。
頭の中はそんな馬鹿な!と言う言葉が駆け巡る。
これは、急に‘パパ’と呼ぶのを止められた時と並ぶ程の精神的衝撃であった。
いつものようにただいま~と帰宅したら、シンタローは、‘おかえり父さん’と。言うようになっていて。
その時はその場に崩れ落ちた。
こうやって人は成長していくものだと頭では解かってはいるけれど感情がついていかない。
ひたすらに悲しかった。
せめて、せめておかえりなさいのキスくらいはさせてくれたって良いのに。とさえ思う。
あぁ、そう言えばお風呂もちょっと前までは一緒に入ってたのに突然‘嫌だ’と言い始めたな。
男同士なんだから成人するまで、いや成人してからだって一緒に入っても良いんじゃないの?と考えた、が
直ぐに‘お父さんとお風呂に入るのは恥ずかしいから嫌’なシンタローに激しく興奮を覚えた。ので
それはまぁそれで・・・良いか。と彼は勝手に納得した。しかし何年か後にはすぐにその考えを撤回するようになる。
このままいつかはシンタローは恋人をつくって、結婚して、私の傍から離れてしまうのだろうか。
まだ遠い先の未来を想像してじわ~っと涙でマジックの目が滲んだ。
物凄く辛い未来だ・・・
あぁ、シンちゃん、シンタロー
一生小さいままでいて欲しい。
いつまでも小さいままの、パパの可愛いシンちゃんでいて欲しい。
しかし、成長したシンタローも見たい。
今も充分可愛いけれど、成長したらさぞ可愛さにぐっと色気がプラスされるに違いない。
私はどうしたら良いんだ!と叫ぶと、その声に近くにいた側近がビクリと怯えた。
いつから口に出してたかな?とマジックが尋ねると
側近は、せめておかえりなさいのキスくらいはさせてくれたって良いのにの辺りから
だんだん声が大きくなっていきました・・・と、目を背けながら正直に答えた。
広い家のせいかまだ自分の部屋に辿り着いていなかったシンタローの耳にも勿論届いていて
廊下の奥の方から‘父さんの変態!!!’と、怒鳴り声がした。
未だに玄関で靴もコートも脱いでいない、帰って来た時の姿のままでマジックは
‘だってシンちゃんが悪いんじゃないか!’と勝手な事を言う。
シンちゃんが、可愛いからいけないんだよ!とも言った。
「おかげでパパはオマエの事ばっかり考えてる!どうしてくれるんだい?」
その、‘どうしてくれるんだい?’にシンタローは知らないよ!と叫んだ。
ふと、いつものようにオヤツの食べながら何気なくTVをつけたらアニメの番組がやっていて
丁度、今、クラスでも大人気らしいから‘ガキくさいな’と思いながらもシンタローはそれに見入っていた。
内容は、10歳だと言うアニメの主人公が、母親と毎晩おやすみのキスをしていて
それを知った主人公の恋人の女の子が‘気色悪い!最低!’と、主人公をこっ酷くフる話だった。
咥えていたポテチが彼の口から離れて静かに床に落ちた。
シンタローも今年で10歳になる。
そして、シンタローはこの歳になって未だに・それも母親ではなく父親とおやすみのキスをしていた。
それだけじゃない。
おやすみのキスどころか、おはようのキス、おかえりなさいのキス、ただいまのキス、
何か祝い事があるとその度におめでとう、ありがとうのキス。
今の今まで周りもやっているもんだと思っていたから、そんな事、わざわざクラスメイトに聞いた事もなく
しかし先程のアニメを見て、これまたやはり誰かに聞いて確認できるものではない。と強く思う。
もしも周りがそうじゃなかったら、と思うと怖くてしょうがなくなる。
ひょっとしてひょっとしなくてもオレって異常だったのか、とシンタローは苦悩した。
こんな時は、同じく親ばかな親を持つ従兄弟に意見を求めてみようと、
シンタローはさっそくグンマに電話をかけた。
だらだらとくだらない前置きを喋り、やっと、本題の‘おやすみのキス’について話し始める。
グンマはあっさり‘するよ’と答えた。
ひとまず安心する。だよな~!とシンタローは返事をした。
「シンちゃんはしないの?」
「す、するよ。おやすみどころか、おはようも、おかえりも。」
それを聞いて‘え!’とグンマの口から驚きの声が上がった。
「シンちゃん、それ、すっごく変」
グンマの言葉がシンタローの胸をぐさーっと突き破った。
あぁ、やっぱり、やっぱり可笑しかったんだ。異常だったんだと倒れ付した。
それなのにオレってばオレってば事あるごとに父さんとキスして・・・
シンタローはショックから立ち直れず、‘オマエだってあのドクターとおやすみのキスしてるじゃんか’と
反論する事もできずに、電話を切った後は部屋に篭ってベッドに潜っていた。
夜が更けて、悩みの種が帰宅した。
マジックはシンちゃ~~んと意気揚々と名前を呼ぶ。
その声を聞くなり、シンタローはバタン!と威勢良く部屋のドアを開き、父親のいる玄関へ向かった。
「あぁ、ただいま!シンちゃん!さぁ、おかえりなさいのちゅーは?」
「父さん!」
ぎっと鋭く睨んだ。
「おかえりなさいのキスも、おやみのキスも、もうしない!父さんとキスなんかしない!」
その宣言に、マジックは一瞬顔を強張らせ、すぐに‘何で!?’と息を吹き返した。
「だって、変だ!」
「変じゃないよ!何、何?いきなりどうしちゃったんだい?」
「変だって!普通は父親とそんなにしょっちゅうキスしないもんなの!」
「他所は他所!ウチはウチ!!さぁ、パパとキスしよう、ね?」
しない!とマジックの足を思いっきり踏みつけると、シンタローは一目散に自分の部屋へ戻る。
後に残されたマジックはと言うと石になってその場に固まっていた。
頭の中はそんな馬鹿な!と言う言葉が駆け巡る。
これは、急に‘パパ’と呼ぶのを止められた時と並ぶ程の精神的衝撃であった。
いつものようにただいま~と帰宅したら、シンタローは、‘おかえり父さん’と。言うようになっていて。
その時はその場に崩れ落ちた。
こうやって人は成長していくものだと頭では解かってはいるけれど感情がついていかない。
ひたすらに悲しかった。
せめて、せめておかえりなさいのキスくらいはさせてくれたって良いのに。とさえ思う。
あぁ、そう言えばお風呂もちょっと前までは一緒に入ってたのに突然‘嫌だ’と言い始めたな。
男同士なんだから成人するまで、いや成人してからだって一緒に入っても良いんじゃないの?と考えた、が
直ぐに‘お父さんとお風呂に入るのは恥ずかしいから嫌’なシンタローに激しく興奮を覚えた。ので
それはまぁそれで・・・良いか。と彼は勝手に納得した。しかし何年か後にはすぐにその考えを撤回するようになる。
このままいつかはシンタローは恋人をつくって、結婚して、私の傍から離れてしまうのだろうか。
まだ遠い先の未来を想像してじわ~っと涙でマジックの目が滲んだ。
物凄く辛い未来だ・・・
あぁ、シンちゃん、シンタロー
一生小さいままでいて欲しい。
いつまでも小さいままの、パパの可愛いシンちゃんでいて欲しい。
しかし、成長したシンタローも見たい。
今も充分可愛いけれど、成長したらさぞ可愛さにぐっと色気がプラスされるに違いない。
私はどうしたら良いんだ!と叫ぶと、その声に近くにいた側近がビクリと怯えた。
いつから口に出してたかな?とマジックが尋ねると
側近は、せめておかえりなさいのキスくらいはさせてくれたって良いのにの辺りから
だんだん声が大きくなっていきました・・・と、目を背けながら正直に答えた。
広い家のせいかまだ自分の部屋に辿り着いていなかったシンタローの耳にも勿論届いていて
廊下の奥の方から‘父さんの変態!!!’と、怒鳴り声がした。
未だに玄関で靴もコートも脱いでいない、帰って来た時の姿のままでマジックは
‘だってシンちゃんが悪いんじゃないか!’と勝手な事を言う。
シンちゃんが、可愛いからいけないんだよ!とも言った。
「おかげでパパはオマエの事ばっかり考えてる!どうしてくれるんだい?」
その、‘どうしてくれるんだい?’にシンタローは知らないよ!と叫んだ。
【まなざし】
愛されたいといつも願っているのに憎まれたいと望んでいるのも事実だ。
人間は、否、私って人間は
幸せだった事よりも苦しかった事の方が、より深く覚えていて
そう言った記憶は、一人になって目を瞑ると
まるで昨日の事のように脳裏に甦るんだ。
まず、初めに父のこと。
そして、すぐ下の弟の事。
ルーザーの事を思い出す度、自分も、死にたい。と思うようになる。
後を追いたくなるんだ。
でも、できるはずもがなくて今、こうして此処にいる。
そうしてそれから黒髪の彼を思い出して、
無性にシンタローに会いたくなるんだ。
あの南の島での事があって、もう一度彼に出会うまで、私は
彼の影をシンタローに求めているのではないかと思っていた。
けれど、そんな事は全くなくて
ただ、シンタローが好きだった。
シンタローと顔を合わせると抱きしめたくなる。と同時に
突き放したくなる。
まるで子供みたいな男だ。私は。
笑顔を見たいと思いながら、泣く顔も見たいなんて。
どうかしてる・・・
でも、お前が私の事で滅茶苦茶になって、可哀想になってる様子を見れたら
最高だと 私は思う。ぞくぞくするよ。
ソファに横たわっているところに上から毛布をかけられる。
その、腕を掴んだ。
シンタローだった。
「こんな所で寝るな」
「風邪なんか引いたら、迷惑なんだよ」
「もう良い年なんだから」
決まりの悪そうな、恥ずかしいような、そんな顔をして言うから
困った。
あぁ、
押し倒したい。
がむしゃらに抱いてしまいたくなる。
どうして、お前は、そんなに可愛い事をしちゃうんだよ。
相手が私だって、ちゃんと解かってるの。
私はね。シンタロー。
お前の事しか考えてないような、そんな酷い男なんだよ。
本当は、もっと、ちゃんと自分がしなきゃいけない事解かってるのに
でも一番に来るのはお前のことなんだよ。
頭では解かっているのにお前の事を真っ先に考えて、お前のために、動いちゃうんだ。
やめろって、
何度そう言われても私は、お前に触れたくて
そればかりを求めている。
だけど。
拒絶ばかりするくせに、何をされるか解かっているのに
それでもこんな風に私に近付くお前は、何を考えてるの。
馬鹿なんじゃないの。
それとも、こんな私が好きなの。
本当に可哀想で、そして、たまらなく愛しいと思う。
逃げる腰を両手で引き寄せて、何度目になるか解からない告白をした。
愛されたいといつも願っているのに憎まれたいと望んでいるのも事実だ。
人間は、否、私って人間は
幸せだった事よりも苦しかった事の方が、より深く覚えていて
そう言った記憶は、一人になって目を瞑ると
まるで昨日の事のように脳裏に甦るんだ。
まず、初めに父のこと。
そして、すぐ下の弟の事。
ルーザーの事を思い出す度、自分も、死にたい。と思うようになる。
後を追いたくなるんだ。
でも、できるはずもがなくて今、こうして此処にいる。
そうしてそれから黒髪の彼を思い出して、
無性にシンタローに会いたくなるんだ。
あの南の島での事があって、もう一度彼に出会うまで、私は
彼の影をシンタローに求めているのではないかと思っていた。
けれど、そんな事は全くなくて
ただ、シンタローが好きだった。
シンタローと顔を合わせると抱きしめたくなる。と同時に
突き放したくなる。
まるで子供みたいな男だ。私は。
笑顔を見たいと思いながら、泣く顔も見たいなんて。
どうかしてる・・・
でも、お前が私の事で滅茶苦茶になって、可哀想になってる様子を見れたら
最高だと 私は思う。ぞくぞくするよ。
ソファに横たわっているところに上から毛布をかけられる。
その、腕を掴んだ。
シンタローだった。
「こんな所で寝るな」
「風邪なんか引いたら、迷惑なんだよ」
「もう良い年なんだから」
決まりの悪そうな、恥ずかしいような、そんな顔をして言うから
困った。
あぁ、
押し倒したい。
がむしゃらに抱いてしまいたくなる。
どうして、お前は、そんなに可愛い事をしちゃうんだよ。
相手が私だって、ちゃんと解かってるの。
私はね。シンタロー。
お前の事しか考えてないような、そんな酷い男なんだよ。
本当は、もっと、ちゃんと自分がしなきゃいけない事解かってるのに
でも一番に来るのはお前のことなんだよ。
頭では解かっているのにお前の事を真っ先に考えて、お前のために、動いちゃうんだ。
やめろって、
何度そう言われても私は、お前に触れたくて
そればかりを求めている。
だけど。
拒絶ばかりするくせに、何をされるか解かっているのに
それでもこんな風に私に近付くお前は、何を考えてるの。
馬鹿なんじゃないの。
それとも、こんな私が好きなの。
本当に可哀想で、そして、たまらなく愛しいと思う。
逃げる腰を両手で引き寄せて、何度目になるか解からない告白をした。
【ヤキモチ】
人ってーのは、いつもされている事を急に止められると気になるものだ。
なんで今こんな事を考えているのかと言えば隣にいる男が。
今日は。
2月14日だってーのにオレに何も言ってこないからで。
いつもなら毎年この時期になるとご自慢のお手製チョコレートケーキを用意して
オレに無理やり食わそうとするくせに。
もう夜の11時だってーのに何も言ってこない。
それどころか、椅子に寄りかかってぼうっと天井を眺めている。
此処はリビングで、オレと、グンマと、親父がいて
とっくに部屋に戻っても良い時間なんだが何となく、戻る気も起きなくて
オレは既に読み終えていた本にもう一度最初から目を通していた。
いつもおこぼれを貰っている、と言うかオレが貰ったチョコケーキのほとんどを食っているグンマが
痺れを切らして、‘バレンタインのデザートは?’とマジックに尋ねた。
あぁ、と気のない返事だ。用意するのを忘れた。とも言った。
グンマの驚いた声がリビング中に響き渡り、オレは言うと。
拍子抜けと言うか。別に食いたいとも思っていなかったが。
あぁ、あっそう。と心の中で呟いた。
グンマがしつこく何で何で~?と涙目になって訴えている。
オレも、理由ぐらいは聞いてやろうじゃねぇか。と耳を傾けていた。
「そんなにチョコレートが食べたかったら、後ろにあるの食べて良いよ。」
例のくっだらない活動でついたファンからの贈り物らしい、
確実に一人では食べきれない量のどっさりと山積みになっているチョコレートを
指差して、マジックは言った。そしてため息をうつ。明らかに様子がおかしかった。
グンマは嬉しそうにチョコの山へ。
箱を一つ、二つ物色してまた元の場所に戻る。
「何でそんなに元気ないの?何かあったの~?おとー様」
グンマはいきなり核心をついた質問を親父にぶつけた。
オマエじゃあるまいし、そんなにアッサリ吐くわけねーだろ。この男が。
と言おうとしたら、親父はあぁ、あのさぁ。どう思う?と返事をした。
「いつもはさ。この時期になるとね。ティラミスもチョコレートロマンスもくれるんだよ。
チョコレート。でもさ。
今年は何でか、ティラミスからは貰ってないんだよ。
いや。それならそれで良いんだけどさ。何で突然にそんな事するのかな。
そーゆーのってさぁ・・・なんか、ねぇ?嫌じゃない?」
その答えに、グンマは‘え~とぉ・・・’と言葉を濁し、オレは言葉を失った。
この男。何を言っとるんだ?
「おとー様は・・・欲しかったんだ?その、ティラミスから。」
「いや、欲しかったって言うかね?いつもされている事を急に止められるとなんか、ねぇ?
ちょっと・・・。あぁ、いいや、ごめん。何言ってるんだろうね。忘れて。」
‘ふーん・・・’と。グンマはもそもそとチョコを食う。
オレはと言えばこの目の前の男を殴ってやりたい気持ちでいっぱいだった。
何だ。そりゃ。
欲しかったのか。部下からのチョコが。
それで?いつもはくれるのに?今年はくれなかったから?それが気になって
オレへのチョコレートケーキが作れなかったって?へぇ~~~・・・ふーん・・・・あぁ、そう。
こんな事をこのオレがいる前で話すこの男の神経がまず信じられないっつーかなんっつーか。
どーゆーつもりでそーゆー事言ってるんだ?
それがいつもオレを好きだ好きだとほざいてる男の口にする事かよ。
大体オマエがそんなんだからオレはオマエのこと今いち信用できないって言うか解かっとんのかこの親父。
「へっえ~~・・・それはそれは・・・部下からチョコレート貰えなくて悲しかったんだオマエ?」
マジックは顔をはっとして、
「そう―――・・・なの、か・・・?」
ぶっつん、とオレの中の何かが 切れた。
それを素早く察知したらしいグンマは早々と部屋から脱出した。
オレの無言の圧力に、親父は‘な、なんで怒ってるの?’と焦り始める。
なんで怒ってるの?だと?
オマエって奴はオマエって奴はオマエって奴は・・・
そんな事もわかんねーのかよ!
オレが、オマエを、嫌いだとして。
じゃあ何で毎年食ってやってんのかって、考えたりしないのかよオマエは。
じゃあ何で文句言いながら、何だかんだ言って、オマエと、
オレがしたくなくてオマエがしたい事してると思ってるんだ。
そーゆーのも思いつかない程オマエはその、貰えなかったチョコで頭がいっぱいだったのかよ!!!
一気に捲くし立てた。
「シンちゃん・・・ひょっとして欲しかったの・・・?」
欲しいわけあるか!と威勢良く怒鳴った。
ぐいっと抱き寄せられて目いっぱい抵抗する。吹っ飛ばしてやろうかと思った。
だけど両腕を、物凄い力で握られて抗議しようと顔を上げたら思いの外、近かった。
そんなにパパのチョコが欲しかったのか・・・とうっとり言われる。
だから。
誰もンな事言ってねーだろーよ。
ただ、用意しないならしないで別に?特に食べたかったワケじゃないから構わないのに
その用意しなかった理由が気に入らないっつー話だろ!
思いっきり睨み付けて叫んだ。
「 素敵だね 」
「 つまり妬いてるんだ 」
目を閉じる事もできず口を、塞がれて、それに反論する事もできなかった。
―――このバカは。
ぶはっと、深いキスの息をする合間に口を離して‘何でオレが妬かなくちゃならない’と
怒鳴った。
「じゃあ、何で怒ってるの」
パパが、他の事で頭をいっぱいにして
それでオマエにチョコを用意しなかったのが、ムカつくんでしょう?
だからそんな顔してるんでしょ?妬いてるじゃないか。
ぶるぶると怒りで体が震えるのが解かった。
何で、コイツって、こんなに腹が立つ事ばっか言うんだ??
オレを苛つかせる天才じゃないのか!
「ホントに腹立つ男だなッツ!!」
力いっぱい罵声を浴びせる。
ホントに可愛い子だな、と笑われた。―――あぁ、もう、マジでムカつくったら。
人ってーのは、いつもされている事を急に止められると気になるものだ。
なんで今こんな事を考えているのかと言えば隣にいる男が。
今日は。
2月14日だってーのにオレに何も言ってこないからで。
いつもなら毎年この時期になるとご自慢のお手製チョコレートケーキを用意して
オレに無理やり食わそうとするくせに。
もう夜の11時だってーのに何も言ってこない。
それどころか、椅子に寄りかかってぼうっと天井を眺めている。
此処はリビングで、オレと、グンマと、親父がいて
とっくに部屋に戻っても良い時間なんだが何となく、戻る気も起きなくて
オレは既に読み終えていた本にもう一度最初から目を通していた。
いつもおこぼれを貰っている、と言うかオレが貰ったチョコケーキのほとんどを食っているグンマが
痺れを切らして、‘バレンタインのデザートは?’とマジックに尋ねた。
あぁ、と気のない返事だ。用意するのを忘れた。とも言った。
グンマの驚いた声がリビング中に響き渡り、オレは言うと。
拍子抜けと言うか。別に食いたいとも思っていなかったが。
あぁ、あっそう。と心の中で呟いた。
グンマがしつこく何で何で~?と涙目になって訴えている。
オレも、理由ぐらいは聞いてやろうじゃねぇか。と耳を傾けていた。
「そんなにチョコレートが食べたかったら、後ろにあるの食べて良いよ。」
例のくっだらない活動でついたファンからの贈り物らしい、
確実に一人では食べきれない量のどっさりと山積みになっているチョコレートを
指差して、マジックは言った。そしてため息をうつ。明らかに様子がおかしかった。
グンマは嬉しそうにチョコの山へ。
箱を一つ、二つ物色してまた元の場所に戻る。
「何でそんなに元気ないの?何かあったの~?おとー様」
グンマはいきなり核心をついた質問を親父にぶつけた。
オマエじゃあるまいし、そんなにアッサリ吐くわけねーだろ。この男が。
と言おうとしたら、親父はあぁ、あのさぁ。どう思う?と返事をした。
「いつもはさ。この時期になるとね。ティラミスもチョコレートロマンスもくれるんだよ。
チョコレート。でもさ。
今年は何でか、ティラミスからは貰ってないんだよ。
いや。それならそれで良いんだけどさ。何で突然にそんな事するのかな。
そーゆーのってさぁ・・・なんか、ねぇ?嫌じゃない?」
その答えに、グンマは‘え~とぉ・・・’と言葉を濁し、オレは言葉を失った。
この男。何を言っとるんだ?
「おとー様は・・・欲しかったんだ?その、ティラミスから。」
「いや、欲しかったって言うかね?いつもされている事を急に止められるとなんか、ねぇ?
ちょっと・・・。あぁ、いいや、ごめん。何言ってるんだろうね。忘れて。」
‘ふーん・・・’と。グンマはもそもそとチョコを食う。
オレはと言えばこの目の前の男を殴ってやりたい気持ちでいっぱいだった。
何だ。そりゃ。
欲しかったのか。部下からのチョコが。
それで?いつもはくれるのに?今年はくれなかったから?それが気になって
オレへのチョコレートケーキが作れなかったって?へぇ~~~・・・ふーん・・・・あぁ、そう。
こんな事をこのオレがいる前で話すこの男の神経がまず信じられないっつーかなんっつーか。
どーゆーつもりでそーゆー事言ってるんだ?
それがいつもオレを好きだ好きだとほざいてる男の口にする事かよ。
大体オマエがそんなんだからオレはオマエのこと今いち信用できないって言うか解かっとんのかこの親父。
「へっえ~~・・・それはそれは・・・部下からチョコレート貰えなくて悲しかったんだオマエ?」
マジックは顔をはっとして、
「そう―――・・・なの、か・・・?」
ぶっつん、とオレの中の何かが 切れた。
それを素早く察知したらしいグンマは早々と部屋から脱出した。
オレの無言の圧力に、親父は‘な、なんで怒ってるの?’と焦り始める。
なんで怒ってるの?だと?
オマエって奴はオマエって奴はオマエって奴は・・・
そんな事もわかんねーのかよ!
オレが、オマエを、嫌いだとして。
じゃあ何で毎年食ってやってんのかって、考えたりしないのかよオマエは。
じゃあ何で文句言いながら、何だかんだ言って、オマエと、
オレがしたくなくてオマエがしたい事してると思ってるんだ。
そーゆーのも思いつかない程オマエはその、貰えなかったチョコで頭がいっぱいだったのかよ!!!
一気に捲くし立てた。
「シンちゃん・・・ひょっとして欲しかったの・・・?」
欲しいわけあるか!と威勢良く怒鳴った。
ぐいっと抱き寄せられて目いっぱい抵抗する。吹っ飛ばしてやろうかと思った。
だけど両腕を、物凄い力で握られて抗議しようと顔を上げたら思いの外、近かった。
そんなにパパのチョコが欲しかったのか・・・とうっとり言われる。
だから。
誰もンな事言ってねーだろーよ。
ただ、用意しないならしないで別に?特に食べたかったワケじゃないから構わないのに
その用意しなかった理由が気に入らないっつー話だろ!
思いっきり睨み付けて叫んだ。
「 素敵だね 」
「 つまり妬いてるんだ 」
目を閉じる事もできず口を、塞がれて、それに反論する事もできなかった。
―――このバカは。
ぶはっと、深いキスの息をする合間に口を離して‘何でオレが妬かなくちゃならない’と
怒鳴った。
「じゃあ、何で怒ってるの」
パパが、他の事で頭をいっぱいにして
それでオマエにチョコを用意しなかったのが、ムカつくんでしょう?
だからそんな顔してるんでしょ?妬いてるじゃないか。
ぶるぶると怒りで体が震えるのが解かった。
何で、コイツって、こんなに腹が立つ事ばっか言うんだ??
オレを苛つかせる天才じゃないのか!
「ホントに腹立つ男だなッツ!!」
力いっぱい罵声を浴びせる。
ホントに可愛い子だな、と笑われた。―――あぁ、もう、マジでムカつくったら。
【愚者】
シンタローは
あの子は
私に、理想を抱いてる部分があると思うんだ。
具体的に何て言えば良いのか。
難しいな。
シンタローにとって、私は。
生まれた時から「総帥」で。
きっと私なら何でもできるって
小さい頃からそう思っていて
多分今でも、私だったら‘親父だったらできるはずなのにオレは’とか
そんな事を考えたりする事もあるんじゃないかと思う。
だから、私はあの子の前では何でもできるスーパーマンでいたかった。
でも本当は全然、何もできなくて
壊したり失くしたりするばっかりで
私は本当に何も持ってない男なんだよ。と秘書の膝に頭を置きながら
そう呟いた。
これ以上ない位もう、あの子は私の醜い面を知っていて
それを知っても、尚、私の背中を追おうとする。
だからどんどん私は付け上がって、もっと最低になろうとする。
でもシンタローは、私を追うのをやめないんだ。
それが嬉しいんだ。私は。
だから、もっと、もっとって、これでもかって、ますます自分を穢して
あの子の気持ちを確認しようとする。
私が進むと、あの子も後ろにいて、一緒に歩いてやらないくせに
ちゃんとついて来ているか、目をやっていないと不安で、
あの子が、逆へ行こうとすると、必死で追いかけてしまうんだ。
熱いものがこみ上げて来て、口から声が毀れそうになり
咄嗟に抑えた。
シンタロー、ごめん。
シンタロー
大好きなんだ。
愛してる。
嘘だらけの私の世界で、これだけは真実で
好きで、好きで、たまらない。
触りたい。抱きしめたい。好きなんだよ。大好きなんだ。
でも、ちゃんと、どうしたら良いのか全然解からないんだ。
シンタローをどうしたいのか、
シンタローにどうして欲しいのか、
自分でもちっとも解からないんだよ。
ただ、お前が、私から離れて行こうとすると不安で死んでしまいたくなる。
それなのにこんな弱音すらお前の前で吐けなくて、
でも、自分の中だけに押し込めておける程強くもなくて
こんな、別の誰かに甘えて、吐き出して、
もう、私は、ぐちゃぐちゃだ。
ティラミスの手が頬に触れる。冷たくて心地よい。
そんなに
そんなに壊れそうになる程、
彼が好きですか、と尋ねられて
Yes,と答えた。
シンタローは
あの子は
私に、理想を抱いてる部分があると思うんだ。
具体的に何て言えば良いのか。
難しいな。
シンタローにとって、私は。
生まれた時から「総帥」で。
きっと私なら何でもできるって
小さい頃からそう思っていて
多分今でも、私だったら‘親父だったらできるはずなのにオレは’とか
そんな事を考えたりする事もあるんじゃないかと思う。
だから、私はあの子の前では何でもできるスーパーマンでいたかった。
でも本当は全然、何もできなくて
壊したり失くしたりするばっかりで
私は本当に何も持ってない男なんだよ。と秘書の膝に頭を置きながら
そう呟いた。
これ以上ない位もう、あの子は私の醜い面を知っていて
それを知っても、尚、私の背中を追おうとする。
だからどんどん私は付け上がって、もっと最低になろうとする。
でもシンタローは、私を追うのをやめないんだ。
それが嬉しいんだ。私は。
だから、もっと、もっとって、これでもかって、ますます自分を穢して
あの子の気持ちを確認しようとする。
私が進むと、あの子も後ろにいて、一緒に歩いてやらないくせに
ちゃんとついて来ているか、目をやっていないと不安で、
あの子が、逆へ行こうとすると、必死で追いかけてしまうんだ。
熱いものがこみ上げて来て、口から声が毀れそうになり
咄嗟に抑えた。
シンタロー、ごめん。
シンタロー
大好きなんだ。
愛してる。
嘘だらけの私の世界で、これだけは真実で
好きで、好きで、たまらない。
触りたい。抱きしめたい。好きなんだよ。大好きなんだ。
でも、ちゃんと、どうしたら良いのか全然解からないんだ。
シンタローをどうしたいのか、
シンタローにどうして欲しいのか、
自分でもちっとも解からないんだよ。
ただ、お前が、私から離れて行こうとすると不安で死んでしまいたくなる。
それなのにこんな弱音すらお前の前で吐けなくて、
でも、自分の中だけに押し込めておける程強くもなくて
こんな、別の誰かに甘えて、吐き出して、
もう、私は、ぐちゃぐちゃだ。
ティラミスの手が頬に触れる。冷たくて心地よい。
そんなに
そんなに壊れそうになる程、
彼が好きですか、と尋ねられて
Yes,と答えた。