【絶望】
コタローが幽閉され、シンタローがマジックの目の前から消えた時、
マジックの精神は極限まで不安定になっていた。
以前から常軌を逸している執着ではあったが
親が、子に向ける愛情の域をとっくに超えている事など目に見えて解かった。
その時、やっと、自分のマジックに向ける感情の正体が何なのかティラミスは知る羽目になった。
もうずっと、肉体的な関係を持って何年になるだろうか。
切り出してきたのは勿論、マジックの方だった。
そして、自分は、それを拒絶する事なく、受け入れた。
そうなる事をずっと前から予感していたのだ。
抱かれる事に抵抗がなかったのは、自分と言う存在はそうされて当然の立場だと認識していたから。
絶対的な権力を誇る上司を常に支え、常に共にいた自分が、望まれて拒否する等
考えもつかなかったのだ。
共に夜を過ごす内に、意外な一面や些細な癖を知る事も嬉しかった。
きっと、こんな事はこの方の愛しい彼でさえ知らないだろう、なんて。
けれど、その頃はまだ、自分は、ただ命令されているから抱かれているのだと思っていた。
しかし、シンタローと言う存在が消え、マジックがどれ程シンタローを愛していたかを知り、
結果、皮肉にも自分がどれ程マジックを愛していたかを知った。
シンタローの事を想い、その名前を呼び、今にも壊れそうなマジックを見ていると
それだけで死んでしまいたくなるほど辛かった。
あぁ、きっと。
自分がこの方の目の前から消えてしまっても、こんな風にはなってくださらないだろう。
そう思うだけで、胸がひどく痛んだ。
命令されて抱かれていたのではない。
自分自身が、身も心も彼のものになりたかったのだ。
心はとっくに彼のものだったから。
深い闇が自分の中でどんどん広がってゆく。
シンタローなんて、一生、見つからなければ良いとさえ願った。
マジックも一生、手に入らないものを想い嘆いて、不幸になれば良いのだ。
そうしたら、不幸のどん底にいる私も、ほんの少し報われる気がする。
だけど
あの、南の島での事が終わった後で、報われないのは自分だけなのだと、思い知らされた気がした。
なのに、それでも、相変わらず自分は彼を好きなままで。
それを知っていながら、尚、弱さを見せるマジックが憎く、たまらなく愛しかった。
シンタローがいない時の彼は寂しさを紛らわせようといつも必死だ。
そして、決まって自分はそれに付き合ってしまう。
どうして此処まで、彼の事を支えようと懸命になってしまうのか、ティラミス自身にも解からなかった。
彼をどれだけ想っても報われる事などなく、想えば想うほど辛くなるだけなのに。
それなのに、好きでいるのをやめる事の方が辛いなんて、そう考えている自分が怖かった。
――もしも、私がどれ程貴方を愛しているかを、伝えきれることができたなら
世界一貴方を愛してるのは他でもないこの私なのだと、貴方は思ってくれたかもしれない。
喉が酷く痛む。
発熱で仕事を休むなんて、自己管理能力の欠落だ。
昼間から寝込んでいたため明かりを消していた部屋も、夕方になりすっかり暗くなっていた。
ごほごほと咳き込む喉を抑えながら、ベッドから体を起こし
サイドテーブルの上の照明をつけて傍に置いてあった水の入ったペットボトルを手に取った。
中のものを口に含む。すうっと、気持ち良くなった。
ティラミスは思い出していた。
既に総帥となったマジックと自分が、初めて出会った日の事を。
あの頃は、まだ、自分はほんの子供で、
当時マジックの父親の代から秘書の任に就いていた父親に連れられて
初めてガンマ団へ行った。
長い長い廊下を歩いて父の背中に隠れながら、辿り着いた部屋の扉を開くと
毛の長い絨毯が敷いてあって、そこに、マジックはいた。
自分よりも何倍も背丈のある彼を見上げて、視線が合い、微笑まれた。
空よりも青い目がとても綺麗で、泣きそうになった。
士官学校へ入り、何故か自分は、父のように彼に仕えるようになるのだと、そう思い
実際に自分が選ばれた時、やはりそう言う運命だったのだと幸せに浸った。
――なんて事だ。
もう、ずっと前から、自分は彼に 恋をしていたのだ...
溢れそうになる涙を堪えたかったが、それも叶わず、暖かいものが頬を伝った。
こんなにも抱きしめて欲しいと、願っているのに
マジックの心を支配しているのは、自分ではないのだ。
それが悲しくて、悔しくて、声が抑えられなかった。
静かに部屋のドアが開いた。
廊下の光が、薄明かりの部屋に差し込む。
逆光で顔はよく見えなかったが、その背丈で、すぐに誰か解かったが、信じられなかった。
都合の良い夢を見ているのだ、と思った。
静かに彼が歩み寄ってくる。いつものコートを腕にかけて。
どうして、と尋ねたらどうして?と彼は言った。
「だって私が風邪の時は、オマエが傍にいてくれたじゃないか」
何も、言葉が出てこなかった。あんまりだと思った。
こんな、こんな事をするなんて。わざわざ、会いに来るなんて。
風邪を引いて無様にベッドに横たわる姿を見られた事を恥じながら、
それでも、自分が、今、一番胸に描いていた人物が目の前に現れた事に感動を隠せないでいた。
今、一番顔を見せたくなくて、一番顔を見たかった相手が、すぐ目の前にいる。
どうせ、自分を選んではくれないくせに。
どうしてこんな酷いことをするのだろう。
中途半端な優しさは、返って毒だ。
それなのに、嬉しくてたまらなくて。
会いに来てくれた事が、たまらなく嬉しくて。
ティラミスはまるで子供のように声を出して泣いた。
あぁ、どうして、私は貴方の一番になれないのだろう。
一番になれたとしたら、きっと私は、心から貴方の幸せを願うことができたのに。
いつもと逆だね、とマジックは泣きじゃくる彼の頭を優しく撫でた。
***
ティラミスの生い立ちは詳しいことは知りません。かなり捏造。
【side:M】 マジ→シンかつ、マジ→ティラです。
ティラミスに傾くパパが苦手な方は避けてください。
コタローが幽閉され、シンタローがマジックの目の前から消えた時、
マジックの精神は極限まで不安定になっていた。
以前から常軌を逸している執着ではあったが
親が、子に向ける愛情の域をとっくに超えている事など目に見えて解かった。
その時、やっと、自分のマジックに向ける感情の正体が何なのかティラミスは知る羽目になった。
もうずっと、肉体的な関係を持って何年になるだろうか。
切り出してきたのは勿論、マジックの方だった。
そして、自分は、それを拒絶する事なく、受け入れた。
そうなる事をずっと前から予感していたのだ。
抱かれる事に抵抗がなかったのは、自分と言う存在はそうされて当然の立場だと認識していたから。
絶対的な権力を誇る上司を常に支え、常に共にいた自分が、望まれて拒否する等
考えもつかなかったのだ。
共に夜を過ごす内に、意外な一面や些細な癖を知る事も嬉しかった。
きっと、こんな事はこの方の愛しい彼でさえ知らないだろう、なんて。
けれど、その頃はまだ、自分は、ただ命令されているから抱かれているのだと思っていた。
しかし、シンタローと言う存在が消え、マジックがどれ程シンタローを愛していたかを知り、
結果、皮肉にも自分がどれ程マジックを愛していたかを知った。
シンタローの事を想い、その名前を呼び、今にも壊れそうなマジックを見ていると
それだけで死んでしまいたくなるほど辛かった。
あぁ、きっと。
自分がこの方の目の前から消えてしまっても、こんな風にはなってくださらないだろう。
そう思うだけで、胸がひどく痛んだ。
命令されて抱かれていたのではない。
自分自身が、身も心も彼のものになりたかったのだ。
心はとっくに彼のものだったから。
深い闇が自分の中でどんどん広がってゆく。
シンタローなんて、一生、見つからなければ良いとさえ願った。
マジックも一生、手に入らないものを想い嘆いて、不幸になれば良いのだ。
そうしたら、不幸のどん底にいる私も、ほんの少し報われる気がする。
だけど
あの、南の島での事が終わった後で、報われないのは自分だけなのだと、思い知らされた気がした。
なのに、それでも、相変わらず自分は彼を好きなままで。
それを知っていながら、尚、弱さを見せるマジックが憎く、たまらなく愛しかった。
シンタローがいない時の彼は寂しさを紛らわせようといつも必死だ。
そして、決まって自分はそれに付き合ってしまう。
どうして此処まで、彼の事を支えようと懸命になってしまうのか、ティラミス自身にも解からなかった。
彼をどれだけ想っても報われる事などなく、想えば想うほど辛くなるだけなのに。
それなのに、好きでいるのをやめる事の方が辛いなんて、そう考えている自分が怖かった。
――もしも、私がどれ程貴方を愛しているかを、伝えきれることができたなら
世界一貴方を愛してるのは他でもないこの私なのだと、貴方は思ってくれたかもしれない。
喉が酷く痛む。
発熱で仕事を休むなんて、自己管理能力の欠落だ。
昼間から寝込んでいたため明かりを消していた部屋も、夕方になりすっかり暗くなっていた。
ごほごほと咳き込む喉を抑えながら、ベッドから体を起こし
サイドテーブルの上の照明をつけて傍に置いてあった水の入ったペットボトルを手に取った。
中のものを口に含む。すうっと、気持ち良くなった。
ティラミスは思い出していた。
既に総帥となったマジックと自分が、初めて出会った日の事を。
あの頃は、まだ、自分はほんの子供で、
当時マジックの父親の代から秘書の任に就いていた父親に連れられて
初めてガンマ団へ行った。
長い長い廊下を歩いて父の背中に隠れながら、辿り着いた部屋の扉を開くと
毛の長い絨毯が敷いてあって、そこに、マジックはいた。
自分よりも何倍も背丈のある彼を見上げて、視線が合い、微笑まれた。
空よりも青い目がとても綺麗で、泣きそうになった。
士官学校へ入り、何故か自分は、父のように彼に仕えるようになるのだと、そう思い
実際に自分が選ばれた時、やはりそう言う運命だったのだと幸せに浸った。
――なんて事だ。
もう、ずっと前から、自分は彼に 恋をしていたのだ...
溢れそうになる涙を堪えたかったが、それも叶わず、暖かいものが頬を伝った。
こんなにも抱きしめて欲しいと、願っているのに
マジックの心を支配しているのは、自分ではないのだ。
それが悲しくて、悔しくて、声が抑えられなかった。
静かに部屋のドアが開いた。
廊下の光が、薄明かりの部屋に差し込む。
逆光で顔はよく見えなかったが、その背丈で、すぐに誰か解かったが、信じられなかった。
都合の良い夢を見ているのだ、と思った。
静かに彼が歩み寄ってくる。いつものコートを腕にかけて。
どうして、と尋ねたらどうして?と彼は言った。
「だって私が風邪の時は、オマエが傍にいてくれたじゃないか」
何も、言葉が出てこなかった。あんまりだと思った。
こんな、こんな事をするなんて。わざわざ、会いに来るなんて。
風邪を引いて無様にベッドに横たわる姿を見られた事を恥じながら、
それでも、自分が、今、一番胸に描いていた人物が目の前に現れた事に感動を隠せないでいた。
今、一番顔を見せたくなくて、一番顔を見たかった相手が、すぐ目の前にいる。
どうせ、自分を選んではくれないくせに。
どうしてこんな酷いことをするのだろう。
中途半端な優しさは、返って毒だ。
それなのに、嬉しくてたまらなくて。
会いに来てくれた事が、たまらなく嬉しくて。
ティラミスはまるで子供のように声を出して泣いた。
あぁ、どうして、私は貴方の一番になれないのだろう。
一番になれたとしたら、きっと私は、心から貴方の幸せを願うことができたのに。
いつもと逆だね、とマジックは泣きじゃくる彼の頭を優しく撫でた。
***
ティラミスの生い立ちは詳しいことは知りません。かなり捏造。
【side:M】 マジ→シンかつ、マジ→ティラです。
ティラミスに傾くパパが苦手な方は避けてください。
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