『あの人は とても可愛い人なんですよ』
いつも親父の傍について雑務をこなしてくれる有能な秘書の一人がオレに言った。
オレンジがかった瞳でオレを見つめるその眼差しは何か、深みのある複雑な感情が込められていて
オレは胸が焼けるように熱くなったのを感じた。
「シンちゃん飛ばしすぎ飛ばしすぎ―――…!」
オープンカーの助手席に親父を座らせて、オレは黙々と車を運転していた。
普段はオレ達二人が車に乗る時は、親父の無理な誘いにオレが仕方なしに付き合うから
必然的に親父がハンドルを握る役なのだが、
今回はオレが親父を誘い出したと言う事もあってオレがハンドルを握っている。
乱暴な操縦に親父が苦情を上げるがオレは構わず運転を続けた。
涙目の親父の顔を横目で一瞥する。
イライラがおさまらない。
この、クソ親父…
『パパはシンちゃんの事しか見てないのに』って
そんな事言って、オレがいない間にオマエは誰と何してんだよ?!
まさか、なんてそんな事
微塵も考えたくないのに。
ティラミスのあの一言がオレの心をどんどん蝕んでいく。
問い詰めて確かめたいのに。
自分の考えてる事が真実だったら、と思うと怖くて聞けない。
『違うよ』と言ってくれたら、オレは『嘘をつくんじゃねぇ!』と怒って
それでも
何だかんだ言ってその、微かな希望に縋ってマジックの言葉を信じてしまうのだろう。
でも、
もし、
『そうだよ』と言われたら、オレは一生聞いた事を後悔してしまう。
疑惑を真実に変えたくなくて問いただす事ができない。
オレはコイツの前だと途端に臆病になる。
昔からこの男が怖くてしょうがなかった。
ほんの些細な事で、オレを支配してしまうこの男が。
車を止める。
シンタローは今日、どうしたのかな。
そう、ゆっくり話しかけられた。
ハンドルに両手をかけて顔を埋める。
つらい。
どうしてなんだとか、いちいち考えることが。
何度この男から逃げようと思った事か。
だけど、何処へ行ってもこの男は必ず追いかけて来るだろうし
何より オレ自身が頭の何処かでそれを期待してしまっている。
その時点で、もうオレはコイツからは逃れられないのだと思う。
オレが幸せになる方法なんてもっと他に、
たくさんあるはずなのに。
なのに、結局はコイツの元へ戻ってしまうのは
やっぱりオレはコイツじゃなきゃダメなんだって
そんな事
こんな形で知りたくなかった…。
「泣いてるの」
聞かれて、
オレは何も答えなかったが
意地でも顔を上げなかった。
--------------------------------------------------------------------------------
嫉妬に苦しむシンタローと、ささやかにシンタローを苛めるティラミス。
マジ←ティラを含むマジシンも萌え。です。
SEO ★最高のビジネス成功マニュアル! 仕事 花 掲示板 レンタルサーバー プロフ SEO
PR
マジック様とシンタロー様のケンカはとても激しい。
果てには部屋の床が落ちるんじゃないかと危惧する程のバトルを延々と繰り返している。
秘書である私は常にマジック様がシンタロー様とのケンカで万が一命を落とす事がないように
同じく秘書のチョコレートロマンスと共に監視カメラのモニターでこっそりと二人の様子を伺っている。
今日も元気良く親子は喧嘩を開始したようだ。
飽きもせず、よくやるもんだとある意味尊敬する。
バリバリと良い音を立てて煎餅を食べるチョコレートロマンスの横で
私は二人分の番茶を注いだ。
彼は毎度画面に釘付けになっているが、見ていておもしろいのだろうか。
私はどうもヒヤヒヤしてしまってまともに様子を見ていられないのだが・・・
あのさ、と珍しくチョコレートロマンスがモニターから目を離して私に尋ねた。
「何でマジック様はほとんど防戦一方なんだろうな。」
・・・こいつは本当に私と同じように秘書として教育されているのだろうか・・・。
教育云々以前に、これ程マジック様の傍に長く仕えていながらそんな疑問を抱く事自体
間違っている気がしてならない。
あの方が、シンタロー様に手を上げない理由なんて一つしか思い浮かばないだろうに。
最も簡単で、単純な答え。
それは‘シンタローを傷つけたくない’。
ただ、それだけだろう。私は極めて簡潔に彼の質問に答えた。
「っへ~~~。マジック様って結構優しいな。」
―――――それもどうか、と
チョコレートロマンスの率直な感想に私は同意できず頭を悩ませる。
ケンカの原因をつくっている大半は決まってマジック様であり、
元々マジック様がシンタロー様を怒らせるような事をしなければ喧嘩にもならないわけで・・・。
ようするにあの人は幼稚で、シンタロー様に構いたくてしょうがないのだろう。
親子喧嘩なのか痴話喧嘩なのか
まったく、仲のおよろしい事で。
果てには部屋の床が落ちるんじゃないかと危惧する程のバトルを延々と繰り返している。
秘書である私は常にマジック様がシンタロー様とのケンカで万が一命を落とす事がないように
同じく秘書のチョコレートロマンスと共に監視カメラのモニターでこっそりと二人の様子を伺っている。
今日も元気良く親子は喧嘩を開始したようだ。
飽きもせず、よくやるもんだとある意味尊敬する。
バリバリと良い音を立てて煎餅を食べるチョコレートロマンスの横で
私は二人分の番茶を注いだ。
彼は毎度画面に釘付けになっているが、見ていておもしろいのだろうか。
私はどうもヒヤヒヤしてしまってまともに様子を見ていられないのだが・・・
あのさ、と珍しくチョコレートロマンスがモニターから目を離して私に尋ねた。
「何でマジック様はほとんど防戦一方なんだろうな。」
・・・こいつは本当に私と同じように秘書として教育されているのだろうか・・・。
教育云々以前に、これ程マジック様の傍に長く仕えていながらそんな疑問を抱く事自体
間違っている気がしてならない。
あの方が、シンタロー様に手を上げない理由なんて一つしか思い浮かばないだろうに。
最も簡単で、単純な答え。
それは‘シンタローを傷つけたくない’。
ただ、それだけだろう。私は極めて簡潔に彼の質問に答えた。
「っへ~~~。マジック様って結構優しいな。」
―――――それもどうか、と
チョコレートロマンスの率直な感想に私は同意できず頭を悩ませる。
ケンカの原因をつくっている大半は決まってマジック様であり、
元々マジック様がシンタロー様を怒らせるような事をしなければ喧嘩にもならないわけで・・・。
ようするにあの人は幼稚で、シンタロー様に構いたくてしょうがないのだろう。
親子喧嘩なのか痴話喧嘩なのか
まったく、仲のおよろしい事で。
夜、久しぶりに二人で飯を食いに行った。
ケンカの真っ最中に遠征に出てしまったもんだから本当にほんの少しだけ
ヤツがどうしてるか気になっていたのに
帰って来るとマジックはいつも通りのあの笑顔で強引にオレを車に乗せてしまった。
こう言う時いつも思う。
オレの事なんて、オレが思ってる程コイツは気にしてねーんだろうな。って。
助手席に座りながらハンドルを握っているマジックの横顔を見る。
気づかれて目が合った。どうしたの?と聞かれて目を逸らしてしまう。
別に、と答えた。
・・・まったく馬鹿らしい。
‘オレ達ケンカしてたんじゃなかったっけ?’なんて言う方が恥ずかしい気がする。
だってコイツにとっちゃ、こうしてオレが帰ってきたら忘れちまうくらい些細な事で。
そりゃ、確かに、ケンカの内容なんて、コイツが食べるのを楽しみにしてた冷蔵庫の中のプリンをオレが
風呂上りに勝手に食っちまって、それを‘悪かった’って一応謝ってやったのに‘気にしてないよ’なんて言いながら
チクチクチクチク‘あーあ楽しみにしてたのに’だの‘どーして自分のものじゃないのに食べるかなぁ’だの
思いっきり気にしてるじゃねーか!!と言いたくなるよーな事をアイツがしつこくしつこく言うからオレがキレて、
でもやっぱり自分のものでもねーのに食べたくなったからって勝手に食べるなんて悪かったなーって
オレは仕事で家を離れている間も頭の隅でずっと考えてて、帰ったら 癪だけどちゃんと埋め合わせしてやろうって
そんな事考えてたのに。
コイツは、オレが2週間前に勝手にコイツのものを食べちまった事とか
それからどうしてお互いが怒鳴り合っちまったのかなんて事、きっともう忘れてんだろーなぁ・・・
それが腹ただしいやら、悲しいやら、寂しいやらで・・・
車から降りて、いかにも金がかかってそうな豪華な飯を食っても、ちっとも美味いと思えなかった。
こんなのより、オレやアンタが作った 家で食う飯の方が美味いって
そう感じてるのもオレの方だけなんだろうか。
わざわざ着飾って、その店のシェフがテーブルにやって来て、
この料理には何が入ってるのかとか何を工夫したのかとか聞かされて
改まった場所だから当たり触りのない会話ばかり交わして。
アンタはそんなのが楽しいのかよ。
飯の途中で席を立ち上がり、外へ出る。
店の前で待っててやると、マジックが‘気に入らなかった?’と尋ねてきた。
まぁな、と返事をする。
「もっと美味い店知ってるから、そっちに行こう。でなきゃこのままオレは一人で帰るよ。」
と言うと、‘帰る’が効いたのかマジックは慌てて首を縦にふる。
車に乗ろうとするので、それを引き止めて狭い路地裏に連れて行く。
建物の壁と壁の間が狭くて体格の良いオレと親父が通るのはちと苦しかった。
だけど進んで、進んだ先にあった寂れたスパゲッティ屋に入る。
こんな所が本当にさっきのお店より美味しいの?!とマジックは驚愕していたが
そんなの、知るか。オレだって入るのは初めてだ。
でもオレは少なくともさっきの店よりはマシだと思った。
席に座って、注文を頼むと、出てきたスパゲッティはやはり美味しいとはお世辞にも言えない味だったが
マジックがそれにぶちぶち文句をつけて‘シンちゃんて変なの おかしいよ、舌’と言うのを見ていたら
やっぱり店を移って良かったとオレはその時思った。
あぁ、こりゃ確かに不味いな。と言うと‘ほらぁ!’とマジックが怒り出す。
「もっと美味い店知ってるからって!シンちゃんやっぱりこの店入るの初めてじゃない!」
「あーあーあーあー。うるせーなー。いいから、頼んだからには最後まで食えって。」
オレが奢ってやるからさ。と付け加えて。二人でクソ不味いスパゲッティをたらふく平らげた。
まったくオマエは変な子だよ、と帰りの車の中でマジックが言う。
あ、そ。と心の中で返事をしてやった。
オレが変ならアンタは何だ。ウルトラスーパー変な親父のくせに。
変って言うか、変態。
「この前だって。」
人のプリン、勝手に食べておいて怒っちゃうんだからさ。
そんな事を言われて。オレは。
思わず相変わらず窓に向けていた顔を勢い良くマジックに向けてしまった。
しまった、と思ったが。そう思うより先にマジックの目がオレの顔を捉えてしまった。
あぁ、くそ。恥ずかしい。
ホント変な子、と目元に軽く口付けられる。
目頭が熱くなったのを感じた。これは。やばい。
耐えろ、オレ。
家に辿り着いてそのまま車庫に入ると、車内で隣の男がまた、オレに近づいて来て。
悔しいことに、オレは。恥ずかしい事に。
キスをされて、唇にヤツの吐息がかかると、口を開けて
マジックの舌を受け入れてしまった。
口と口を合わせて舌を絡ませ合っているだけなのに。
脳の奥の方が、じーんとしている。
なんだよオレ。何で。なんで。何でアンタって
「 おかえり、シンちゃん 」
唇が離れて、耳元で囁かれた言葉は、オレの胸を締め付けてただ苦しかった。
だから!なに人がちょっと目を離した隙に余計なモン籠に入れてんだヨ!
オレが怒るとマジックは不思議そうな顔をしてオレを見る。
奴が勝手にオレの持っている買い物籠に入れたものを元にあった場所に戻して、
睨み付けてやった。
これだから一緒にスーパーに行くのは嫌なんだ。
大体、何で、オレが籠持ってるんだよ!
と言ってやったら一つの籠に二人で選んだものを入れるのが良いんだよ、と笑う。
だったらオマエがこの籠を持てよと思ったが
コイツに持たせるとポイポイいらん物を選んでは籠に入れそうだったので 黙った。
それでも、オレが余所見をしているちょっとした間に後ろからひょいひょい入れて来る。
オレはそれを戻して、また怒る。
良いな、と思っただけですぐ買おうとするんじゃねーよまったく。
レジを出て、買った物を袋に詰めてスーパーを出る。
アンタってホント、オレがいないとダメだよな。と言ったら
何故か喜んでいた。
喜ぶところじゃないだろ。反省するところだ。
わかってんのか クソ親父。
嬉しいって、 馬鹿じゃないの。
シンちゃんって、痛いの好きでしょう?
と言われて、こいつってホント・自分勝手で、自分に都合の良いように解釈するバカなんだなと
オレは思った。
痛いの好きって。
じゃあ、オレはマゾかよと文句をつけたら
オヤ、違うの?なんて。
違うに決まってんだろーがッ!
怒鳴りつけてやったら、じゃあ、優しくされたいんだね、と笑いやがる。
何なんだこの男は。
幾つになってもテンション高すぎて、おかげで、コイツより若いオレの方がどっと疲れる。
かと思いきや、不気味なぐらいテンションが低い時もあるし...
もう、ワケわかんね。
「でもオマエ、優しくされると嫌がるじゃない。」
だから、痛いのが好きなんだと思った。
ムカつく笑顔でそんな事をほざくのでオレはまた怒りで頭に血が昇る。
このクソ親父、と口を開こうとしたら相手の指が静かにオレの唇をなぞった。
その指をきつく噛んでやると「パパはね」と呟いた。
「シンちゃんだったら 苛められるのも良いな、と思う」
咥えていたマジックの指を離すと、奴はまた、目を細めて笑った。
「けど、オマエは本当に可愛いから
やっぱりパパはシンちゃんに苛められるよりもシンちゃんを苛める方が楽しくて好きだな」
オレはぎゅっとシーツを握り締める。
―――今、髪の毛ボサボサなんだろうな。
マジックがじっとオレを見つめる。
こういう時、オレはどうしたら良いか解からなくなって途端に金縛りに合う。
だから、頭の中では抵抗しよう抵抗しようとちゃんと考えているのに体は動かなくて
それが本当に嫌でたまらなくなる。
何でだよ。
何で動かないんだよ。
オレの体。
オレの体は動かないままなのに、マジックはどんどんオレとの距離を縮めていく。
唇がつく頃には、いつも
オレはもう、コイツの胸の中だ。